黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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22章

魔国の学園祭19

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 カッカッカッとブーツの音が響き、魔王城の医務室へパディオン部隊の黒い騎士服の男達が荒々しく扉を開いて立ち入る。

「ゼリティア・フィオ・ラテン・パディオン殺害並びに遺体略奪犯がこちらにいると通報があった!」

 医務室には医者と王城騎士団の者が居るだけだった。
パディオン騎士団の騎士達が「何処へ隠した!」と騒ぎ立て、家探しの様に強引に簡易ベッドを持ち上げ荒らしていくので、医者も負傷手当を受けていた王城騎士も非常事態を知らせる笛を鳴り響かせた。

 ピィィィィィ____

 鳴り響いた笛の音に王城騎士が医務室へ集まり、お互いに緊迫したにらみ合いと同時に腰の剣に手をかける。

「此処が王城内だと理解しての騒ぎなんだろうな!」
「パディオン騎士団長直々の命令だ! 犯人を匿うならば、王城騎士団とはいえ、敵とみなす!」
「王城内での務めは我々、王城騎士団の管轄だ! 騎士団長直属と言えど、これは反逆行為だ!」

 ダンッと剣の鞘で床を叩き、騎士達の視線が一人の赤い服の女性に集まる。

「お黙りなさい! それでもエグザドル国の騎士ですか? わたくしはゼリティア・フィオ・ラテン・パディオン。元・騎士である、わたくしを殺害? 遺体? なんのことです」
「ゼリティア様……」
「わたくしを勝手に殺すでないわ。片腹痛い。さっさと立ち去り、自分の成すべき職務を遂行なさい」
「……っ。失礼する」

 フンッとゼリティアが鼻で失笑し、パディオン騎士団が医務室から出て行くのを見送る。
赤い騎士服を着たテンとルーファスがゼリティアの後ろで、「意外とバレないもんですねぇ~」とへらっと笑い、ルーファスは黒い眼鏡を指で上げながら小さく息を付く。

「ルーファス小父さん、陛下から移動用許可証を預かってきました」
「ああ、すまないな。シノリア達は引き続き城内にパディオン騎士団が騒動を起こしたら対処してくれ」
「はい。あと、荷物の方ですが、宿屋から『刻狼丸』の方へ移動させておきましたので、安心して下さい」
「ありがとう。……まぁ、その胸ポケットの物に関しては何も言わんでおく」
「あっ……えっと、その、すいません……ナルアが持っていろというので、でもハンカチだけですから!」

 ルーファスが小さく溜め息を吐いて、ナルアがシノリアに「荷物の中から下着の一枚を持っていて」等と、破廉恥はれんちな事をコソコソと耳打ちしたのをルーファスの耳は聞き取っており、少々、自分の娘ながら困った子だと思う。
シノリアに見せる為に可愛い下着を用意していたのだとも言っていたので、なにをする気だったのだとガクリとくるが、そういう年頃でもあるので、仕方がないとも思っている。

 とりあえず、シノリアが紳士で良かったと言うべきだろう。シノリアの胸ポケットからナルアの匂いがしていたことに少々、嫌味を言ってしまったが、大人げないのは自分の方かと反省する。

「この許可証でこちらも動けるようになるな」

 移動許可証は魔王直々の許可印も入っている為に、この証明証があれば城内であれ、貴族の屋敷であれ、何処にでも入れる物で、これは魔国を再興する為に粛清を行った際、魔王がつくった最初の物だ。
ただし、悪用する事は固く禁じられており、今現在は魔王が許可した騎士団などしか持つことは許されず、使用後は報告と共に返却する事が条件となっている。

「ゼリティア夫人は現役の騎士みたいですねぇ~」
「わたくしは生涯騎士なのですよ。今は引退して情報屋ではありますが」
「では、女騎士殿、許可証もあることだ。王城の地下施設へ行こうか」
「ええ、参りましょう」

 王城の地下施設とは、リロノスより前の王族が実験を行っていた施設の一つで、閉鎖されて何十年と経っているのだが、ゼリティアの情報では反魔国運動の活動拠点だという。
王達も乗り込むと言うが、先にルーファス達が動くことになり、それを邪魔するであろうパディオン騎士団を王城騎士団であるシノリア達がそれを阻止し、王が準備が出来るまでの足止めをすることになっている。
派手に動くのは全ての準備が整うまでは禁止とあり、ルーファスとテンは女王であるマデリーヌの騎士団の騎士服で女王騎士として動いている。
ゼリティアはマデリーヌの前女騎士として付いてくると言う。

「それにしても、学園祭に来ただけだったのだがなぁ……」
「大旦那も大女将も何かしら厄介ごとに飛び込んでいきますからねぇ~」
「それを言ってくれるな……それより、小鬼の動きはどうだ?」
「小鬼は万事うまくやりますよ」

 小鬼は今現在、エグザドル学園の方へ一人で向かっている。
ゼリティアの孫であり、パディオン騎士団長の娘であるメルデリカを直接調べる為である。

 メルデリカの能力は交わる事で発揮すると言うのならば、パディオン騎士団やゼリティアの執事も交わったという事になるとすれば、それは既に少女の域を脱している。
ゼリティアの忠実な執事は決して孫娘に手を出すような男ではないという、それでも主人であるゼリティアに毒を盛り裏切ったとすれば、メルデリカが何か執事にしたという事になる。
 小鬼に任された情報収集活動とあって、小鬼としては鼻歌交じりに今頃は学園内をうろついている事だろう。
テンとしては一緒に動きたかったものの、元騎士とはいえ、ゼリティアに手を貸すべきだとの判断でルーファスの方へついてきている。
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