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22章
魔国の学園祭15
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パディオン家の二階にある大奥様こと、ゼリティア・フィオ・ラテン・パディオンの部屋に入ると、執事がゼリティアの言われるままに、宝石の入った箱を広げ、ルーファス達の前へ持ってくる。
「では、失礼して……」
「ルイ、手袋を忘れないように」
「ああ、すまない。緊張していたようだ」
テンがルーファスに白い手袋を渡して、手袋をはめると宝石を手に持ち眼鏡に出る情報を読み取る。
「中心部の宝石は本物だが、鏡の様な物でコーティングして反射率をよくして、それを別の安い宝石で覆いかぶせている。普通の物より輝きは良いが、大金を払ってまで購入するものではない。……と、思います」
ルーファスがいつもの口調で言ったため、テンが小さくルーファスの足を蹴り、慌ててルーファスは語尾を付け足す。
「そう。では、こちらの宝石はどうなのかしら?」
新しく赤いルビーの様な宝石を執事が持ってくる。くすんでいてダイヤの様な小さな宝石やエメラルドにも見える石がところどころに入っているシルバーのネックレスである。
ルーファスが再び手に取り、「ふむ」と宝石の情報を読み取る。
「くすんではいますが、本物ですね……ただ、一番大きなルビーは傷が多すぎて勿体ない。あとはダイヤが幾つかクリスタルのようですね。くすみを落とすなり、新しい物に作り替えるなりした方が宝石は生き返ると思いますよ。勿論、クリスタルのダイヤは本物に取り換えた方がいいとは思いますが」
ルーファスの鑑定にゼリティアが頷き、ニィッと唇の端を上げて目を細める。
「目は確かな宝石商のようですね。胡散臭い匂いはしていましたが、いいでしょう。宝石とわたくしの持っている情報、交換しても宜しくてよ」
ルーファスがテンを見ると、テンは目を細めて宝石の入ったカバンを広げて中からサファイアの指輪とネックレスと耳飾りの三点を出す。
「お話が早くて助かりますぅ~。こちらが出せるのはミシリマーフ国から持ち出したサファイヤ三点です~」
「それではわたくしは何を、お喋りすればいいのかしら?」
「あなたの義息子のシンガー・フィオ・デレク・パディオンについて……」
ゼリティアが片眉を上げてフンッと鼻で笑う。
「アレに価値があるとは思いませんが、良いでしょう。宝石に見合うだけのお喋りをして差し上げます」
「シンガー騎士団長が部下達を統率している方法。あれは昔、軍部で秘密裏に研究されていた『人狼』の血液ではないかとこちらは思っていますが、どうなのでしょう~?」
「あれはね、ロメルス家の当主が手に入れ、ロメルス家が没落する時にアレが持ち出した物ですよ。人狼の血で間違いはありません」
義息子とはいえ、随分とトゲのある物言いだと思いつつ、ルーファスは執事が淹れるお茶に鼻を動かす。
良い茶葉の中に微かに薬品の香りを感じ取り、飲むふりをしながらハンカチにお茶を染み込ませていく。
後で製薬部隊に解析させれば喜ぶだろうという手土産である。
「その血液は残っていたりはしますか~?」
「そこまではわたくしは知りませんが、孫娘のメルデリカは血液内に人狼の血が出てしまったようでね、あの子の血液を採取すれば、同じ物が手に入るのではないかしら? あと、気を付けなさい。あの子は強い雄を求めていますから……貴方達は相当の手練れの様ですし、組み敷かれない様に気を付けなさい」
テンがいつもの笑顔のまま少し固まり、ルーファスも苦虫を噛み潰したような表情を一瞬する。
「それはまた……人狼は人を噛んで人狼を増やしていく物だと思いましたが~……」
「軍部で研究された血液をさらに改良していたのでしょう。シンガーや騎士団の者達は獣化出来ますが、メルデリカは生まれた時から人狼でありながら、獣化は出来ず、アレは完全な狼に戻りたがり、群れをつくりたがっているのです。あの子は人を噛んでも人狼に出来ませんが、交わる事で人狼にしていくのです」
ルーファスは学園祭で会ったメルデリカがティルナールとルーシーを蛇の様なまとわりつく視線と絡んでくる理由はおそらく、この事が関係しているのだろうとは思うが、自分やエルシオンに向けられた目、そしてその後からアカリが狙われ始めたのはこの事が関係していると思い当たる。
アカリは知らぬうちに嫉妬を受けて攻撃対象になっていたのだろう。
素直にアカリが温泉大陸に帰った事は安心できるが、子供とはいえ、自分の番に牙を剥いたことは許せる物では無い。
ただ、一つ気になる事、それはー……
ルーファスが考えていると、ガチャンとティーカップを落としてゼリティアが喉元を両手で押さえて、苦しそうに顔をゆがめ眼を見開いている。
「まさかっ!?」
「大奥様!? 誰か!! 大奥様が毒殺された!!」
執事が大声を上げ、テンがしまった! という顔をした瞬間、部屋にパディオン部隊の騎士が入ろうとしていた。
ルーファスがゼリティアの口に特殊ポーションを飲ませると、担ぎ上げてテンの首根っこを掴むと窓を蹴破り、窓枠を飛び台にして屋根の上に飛び移る。
「参ったな……。ゼリティア夫人、大丈夫か?」
「……ええ、少し、喉が焼けましたが平気ですよ。まさか、メルデリカがオードンまで毒牙にかけていたとはね」
「大旦那様、どうしますか~?」
屋根の上でルーファスはどうするかを思案して、困ったな……と、溜め息を吐く。
「では、失礼して……」
「ルイ、手袋を忘れないように」
「ああ、すまない。緊張していたようだ」
テンがルーファスに白い手袋を渡して、手袋をはめると宝石を手に持ち眼鏡に出る情報を読み取る。
「中心部の宝石は本物だが、鏡の様な物でコーティングして反射率をよくして、それを別の安い宝石で覆いかぶせている。普通の物より輝きは良いが、大金を払ってまで購入するものではない。……と、思います」
ルーファスがいつもの口調で言ったため、テンが小さくルーファスの足を蹴り、慌ててルーファスは語尾を付け足す。
「そう。では、こちらの宝石はどうなのかしら?」
新しく赤いルビーの様な宝石を執事が持ってくる。くすんでいてダイヤの様な小さな宝石やエメラルドにも見える石がところどころに入っているシルバーのネックレスである。
ルーファスが再び手に取り、「ふむ」と宝石の情報を読み取る。
「くすんではいますが、本物ですね……ただ、一番大きなルビーは傷が多すぎて勿体ない。あとはダイヤが幾つかクリスタルのようですね。くすみを落とすなり、新しい物に作り替えるなりした方が宝石は生き返ると思いますよ。勿論、クリスタルのダイヤは本物に取り換えた方がいいとは思いますが」
ルーファスの鑑定にゼリティアが頷き、ニィッと唇の端を上げて目を細める。
「目は確かな宝石商のようですね。胡散臭い匂いはしていましたが、いいでしょう。宝石とわたくしの持っている情報、交換しても宜しくてよ」
ルーファスがテンを見ると、テンは目を細めて宝石の入ったカバンを広げて中からサファイアの指輪とネックレスと耳飾りの三点を出す。
「お話が早くて助かりますぅ~。こちらが出せるのはミシリマーフ国から持ち出したサファイヤ三点です~」
「それではわたくしは何を、お喋りすればいいのかしら?」
「あなたの義息子のシンガー・フィオ・デレク・パディオンについて……」
ゼリティアが片眉を上げてフンッと鼻で笑う。
「アレに価値があるとは思いませんが、良いでしょう。宝石に見合うだけのお喋りをして差し上げます」
「シンガー騎士団長が部下達を統率している方法。あれは昔、軍部で秘密裏に研究されていた『人狼』の血液ではないかとこちらは思っていますが、どうなのでしょう~?」
「あれはね、ロメルス家の当主が手に入れ、ロメルス家が没落する時にアレが持ち出した物ですよ。人狼の血で間違いはありません」
義息子とはいえ、随分とトゲのある物言いだと思いつつ、ルーファスは執事が淹れるお茶に鼻を動かす。
良い茶葉の中に微かに薬品の香りを感じ取り、飲むふりをしながらハンカチにお茶を染み込ませていく。
後で製薬部隊に解析させれば喜ぶだろうという手土産である。
「その血液は残っていたりはしますか~?」
「そこまではわたくしは知りませんが、孫娘のメルデリカは血液内に人狼の血が出てしまったようでね、あの子の血液を採取すれば、同じ物が手に入るのではないかしら? あと、気を付けなさい。あの子は強い雄を求めていますから……貴方達は相当の手練れの様ですし、組み敷かれない様に気を付けなさい」
テンがいつもの笑顔のまま少し固まり、ルーファスも苦虫を噛み潰したような表情を一瞬する。
「それはまた……人狼は人を噛んで人狼を増やしていく物だと思いましたが~……」
「軍部で研究された血液をさらに改良していたのでしょう。シンガーや騎士団の者達は獣化出来ますが、メルデリカは生まれた時から人狼でありながら、獣化は出来ず、アレは完全な狼に戻りたがり、群れをつくりたがっているのです。あの子は人を噛んでも人狼に出来ませんが、交わる事で人狼にしていくのです」
ルーファスは学園祭で会ったメルデリカがティルナールとルーシーを蛇の様なまとわりつく視線と絡んでくる理由はおそらく、この事が関係しているのだろうとは思うが、自分やエルシオンに向けられた目、そしてその後からアカリが狙われ始めたのはこの事が関係していると思い当たる。
アカリは知らぬうちに嫉妬を受けて攻撃対象になっていたのだろう。
素直にアカリが温泉大陸に帰った事は安心できるが、子供とはいえ、自分の番に牙を剥いたことは許せる物では無い。
ただ、一つ気になる事、それはー……
ルーファスが考えていると、ガチャンとティーカップを落としてゼリティアが喉元を両手で押さえて、苦しそうに顔をゆがめ眼を見開いている。
「まさかっ!?」
「大奥様!? 誰か!! 大奥様が毒殺された!!」
執事が大声を上げ、テンがしまった! という顔をした瞬間、部屋にパディオン部隊の騎士が入ろうとしていた。
ルーファスがゼリティアの口に特殊ポーションを飲ませると、担ぎ上げてテンの首根っこを掴むと窓を蹴破り、窓枠を飛び台にして屋根の上に飛び移る。
「参ったな……。ゼリティア夫人、大丈夫か?」
「……ええ、少し、喉が焼けましたが平気ですよ。まさか、メルデリカがオードンまで毒牙にかけていたとはね」
「大旦那様、どうしますか~?」
屋根の上でルーファスはどうするかを思案して、困ったな……と、溜め息を吐く。
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