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22章
魔国の学園祭14
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反魔国運動家が広場で声を大にして「昔の魔国の姿こそが我々、魔国民の本来あるべき姿なのだ!」そう宣言し、前を過ぎる人々は興味無さげにチラッと見ては通り過ぎていく。
たまに酔っ払いが「いいぞー! ガキは多いに越したことはねぇーなー」と騒いで笑いながら手を叩いていく。
子供同士の殺し合いで強い子供だけが生き残る。それが魔国の昔の姿。
そんなものに今更戻りたいなどとは、誰も思ったりはしないので、無視の状態に近い。
今、こうして魔国の広場を行きかう大人でいる男達は、他の兄弟を手にかけて必死に生き抜いた者達で、女達もまた、自分の母親が泣きながら死んでいく我が子の姿や、自分の母親すら知らずに多くの女性が自分の父親に囲われている姿を見てきていたのだ。
大きくなれば自分もそうなるのだと恐怖しない日は無く過ごした者達だ。
ようやく【魔王】がそのありようを変え、【聖女】と共に国を良くしようと動き出したところで、【聖女】が亡くなり、【魔王】は次期【魔王】へと引き継がれ、内乱の様なものがあり、粛清もあった。
多くの者が命を落としたが、こうして魔国は、新しく生まれ変わり、今になった。
男達にとって、体を鍛え命のやり取りをする為に生きる事の無くなった今は平和と言える。
女達にとって、子供を産み、失うという悲劇を目の当たりする日々が消えた事は幸せと言える。
子供達にとって、昔がどうあれ、今の魔国が全てで、過去がどうあれ関係ないのである。
反魔国運動をする者は侮蔑の目で見られても仕方がない。
第一、そんな事を叫んでいては、魔国の騎士団が出てきて捕まってしまう。
広場で大声で叫んでいた者も、誰かが呼んだ騎士が早速、広場に来て大声で叫んでいた者を捉えて連れて行く。
「なんともはや……馬鹿なんですかねぇ~?」
「さぁな……しかし、この格好にオレは意義ありだ……」
「大旦那、似合ってますよ~」
テンにニコニコと笑われいるルーファスの姿は褐色の肌に頭にはターバン、服はダボッとしたシャツの上に赤いベスト、そしてダボっとしたズボン。
これはミシリマーフ国の民族衣装で、商人が着ているものである。
ルーファスの耳と尻尾を隠すのに、丁度いい服がこの民族衣装で、商人として紛れ込む予定であったために着せられたのである。
肌はドーランではあるものの……ルーファスとしては出会ったばかりの頃のアリスを思い出して、なんとなく嫌だったりするのだ。
テンは噂の元であるパディオン家の屋敷へ、商人として潜り込むつもりで、その算段を小鬼がパディオン家の書類に紛れ込ませて、じっくり計画を進めていたのである。
そこへルーファスがたまたま魔国へ学園祭にきた為に、使えるものは上司でも使おう! というテンと小鬼はルーファスを巻き込んだのである。
「まぁまぁ、大旦那さん、一網打尽にして早く大女将さんが待っている家に帰りたいですよね? ここは大女将さんの為にも我慢しましょう。あの人は放っておくと首を突っ込んできかねませんから」
「う……っ、そうだな……」
ルーファスの番アカリは、小鬼が言うように放っておくとチョロチョロと動き回り、それで周りも巻き込んで事件を起こす事がよくある。
本人に悪気はないのだが、心配性な彼女が魔法が使える事になった為に、いつこの国へ再び舞い戻り「助けにきたよ!」と、言いそうなのである。
今は小さなスクルードの為に屋敷にいるだろうが、時間が経てば経つほど、こちらへ来る可能性は高くなる。
「急いで片付けるぞ!」
「はーい。そうしましょう~」
「僕等は今から『ニオコンテ』という宝石商です!」
「なんだ? その変な名前は語呂が悪いな」
「逆文字ですよ~」
「……テンと小鬼ということか」
二人は頷いて、宝石の入ったケースを大事そうに持って借りた馬車に乗り込む。
この宝石はミシリマーフ国から融通してもらった物で、ちゃんとした価値のある宝石である。
入手経路については、ニコニコ顔でテンが「優しい人に融通してもらったんです」と言い、小鬼は目を逸らしているので、正規のルートで融通してもらったということは無いようだ。
騎士団長の屋敷にしては豪華な屋敷の前に馬車を停めて、門番に商人として今日訪れる事を約束していたと言い、証明証を見せて、正門より少し離れた場所にある出入り業者用の門の方へ回って入る許可を得た。
「こちらへどうぞ」
屋敷の執事の案内で三人は暖炉のある客室へ通され、屋敷の「大奥様を呼んできます」と言われ、しばし待たされることになる。
「それでは、僕は行ってきますねー」
「はい。気を付けて行くんですよ~」
小鬼はテンの持っていたカバンの中から出ると、暖炉の中へもぐりこんでいく。
小鬼の調べでは暖炉から屋根へと登り、雨樋を伝って他の部屋へ行けるらしく、他にもこの屋敷には幾つか小さな小鬼ならば入り込める場所があるという。
「大奥様、宝石商の『ニオコンテ』の者達です」
「うふふ、楽しみにしていたのよ。さぁ、わたくしに似合う宝石を見せてちょうだい」
客間に入ってきたのは酒焼けで声が潰れてしまった様な声色の老女だった。
目つきが鋭く、老人であるというのに武人の様なピシッとした背筋に、闘気のようなものがある。
これがパディオン家の騎士家系と言われる所以かとルーファスは納得する。
「お初にお目にかかります~『ニオコンテ』のジオスと申します~。こちらは宝石鑑定のルイです~以後お見知りおきください~」
ニコニコとテンが自己紹介をして、ルーファスは小さく頭を下げる。
よくまぁ、心臓の音一つ乱さずに嘘をペラペラと言えるものだと、ルーファスはテンの心音の乱れの無さに驚き半分、呆れ半分でチラッと横目で見る。
「宝石鑑定ができるのなら、わたくしの宝石の幾つかを鑑定していただけるかしら? 買い付けたものの、価値がよくわからない物があるのよ」
「ええ、いいですよ」
ルーファスは変装用の黒い眼鏡を偽造看破の鑑定グラスの入った眼鏡と交換して掛け直し、自分の部屋へついてくるように言われて、テンと一緒についていく。
たまに酔っ払いが「いいぞー! ガキは多いに越したことはねぇーなー」と騒いで笑いながら手を叩いていく。
子供同士の殺し合いで強い子供だけが生き残る。それが魔国の昔の姿。
そんなものに今更戻りたいなどとは、誰も思ったりはしないので、無視の状態に近い。
今、こうして魔国の広場を行きかう大人でいる男達は、他の兄弟を手にかけて必死に生き抜いた者達で、女達もまた、自分の母親が泣きながら死んでいく我が子の姿や、自分の母親すら知らずに多くの女性が自分の父親に囲われている姿を見てきていたのだ。
大きくなれば自分もそうなるのだと恐怖しない日は無く過ごした者達だ。
ようやく【魔王】がそのありようを変え、【聖女】と共に国を良くしようと動き出したところで、【聖女】が亡くなり、【魔王】は次期【魔王】へと引き継がれ、内乱の様なものがあり、粛清もあった。
多くの者が命を落としたが、こうして魔国は、新しく生まれ変わり、今になった。
男達にとって、体を鍛え命のやり取りをする為に生きる事の無くなった今は平和と言える。
女達にとって、子供を産み、失うという悲劇を目の当たりする日々が消えた事は幸せと言える。
子供達にとって、昔がどうあれ、今の魔国が全てで、過去がどうあれ関係ないのである。
反魔国運動をする者は侮蔑の目で見られても仕方がない。
第一、そんな事を叫んでいては、魔国の騎士団が出てきて捕まってしまう。
広場で大声で叫んでいた者も、誰かが呼んだ騎士が早速、広場に来て大声で叫んでいた者を捉えて連れて行く。
「なんともはや……馬鹿なんですかねぇ~?」
「さぁな……しかし、この格好にオレは意義ありだ……」
「大旦那、似合ってますよ~」
テンにニコニコと笑われいるルーファスの姿は褐色の肌に頭にはターバン、服はダボッとしたシャツの上に赤いベスト、そしてダボっとしたズボン。
これはミシリマーフ国の民族衣装で、商人が着ているものである。
ルーファスの耳と尻尾を隠すのに、丁度いい服がこの民族衣装で、商人として紛れ込む予定であったために着せられたのである。
肌はドーランではあるものの……ルーファスとしては出会ったばかりの頃のアリスを思い出して、なんとなく嫌だったりするのだ。
テンは噂の元であるパディオン家の屋敷へ、商人として潜り込むつもりで、その算段を小鬼がパディオン家の書類に紛れ込ませて、じっくり計画を進めていたのである。
そこへルーファスがたまたま魔国へ学園祭にきた為に、使えるものは上司でも使おう! というテンと小鬼はルーファスを巻き込んだのである。
「まぁまぁ、大旦那さん、一網打尽にして早く大女将さんが待っている家に帰りたいですよね? ここは大女将さんの為にも我慢しましょう。あの人は放っておくと首を突っ込んできかねませんから」
「う……っ、そうだな……」
ルーファスの番アカリは、小鬼が言うように放っておくとチョロチョロと動き回り、それで周りも巻き込んで事件を起こす事がよくある。
本人に悪気はないのだが、心配性な彼女が魔法が使える事になった為に、いつこの国へ再び舞い戻り「助けにきたよ!」と、言いそうなのである。
今は小さなスクルードの為に屋敷にいるだろうが、時間が経てば経つほど、こちらへ来る可能性は高くなる。
「急いで片付けるぞ!」
「はーい。そうしましょう~」
「僕等は今から『ニオコンテ』という宝石商です!」
「なんだ? その変な名前は語呂が悪いな」
「逆文字ですよ~」
「……テンと小鬼ということか」
二人は頷いて、宝石の入ったケースを大事そうに持って借りた馬車に乗り込む。
この宝石はミシリマーフ国から融通してもらった物で、ちゃんとした価値のある宝石である。
入手経路については、ニコニコ顔でテンが「優しい人に融通してもらったんです」と言い、小鬼は目を逸らしているので、正規のルートで融通してもらったということは無いようだ。
騎士団長の屋敷にしては豪華な屋敷の前に馬車を停めて、門番に商人として今日訪れる事を約束していたと言い、証明証を見せて、正門より少し離れた場所にある出入り業者用の門の方へ回って入る許可を得た。
「こちらへどうぞ」
屋敷の執事の案内で三人は暖炉のある客室へ通され、屋敷の「大奥様を呼んできます」と言われ、しばし待たされることになる。
「それでは、僕は行ってきますねー」
「はい。気を付けて行くんですよ~」
小鬼はテンの持っていたカバンの中から出ると、暖炉の中へもぐりこんでいく。
小鬼の調べでは暖炉から屋根へと登り、雨樋を伝って他の部屋へ行けるらしく、他にもこの屋敷には幾つか小さな小鬼ならば入り込める場所があるという。
「大奥様、宝石商の『ニオコンテ』の者達です」
「うふふ、楽しみにしていたのよ。さぁ、わたくしに似合う宝石を見せてちょうだい」
客間に入ってきたのは酒焼けで声が潰れてしまった様な声色の老女だった。
目つきが鋭く、老人であるというのに武人の様なピシッとした背筋に、闘気のようなものがある。
これがパディオン家の騎士家系と言われる所以かとルーファスは納得する。
「お初にお目にかかります~『ニオコンテ』のジオスと申します~。こちらは宝石鑑定のルイです~以後お見知りおきください~」
ニコニコとテンが自己紹介をして、ルーファスは小さく頭を下げる。
よくまぁ、心臓の音一つ乱さずに嘘をペラペラと言えるものだと、ルーファスはテンの心音の乱れの無さに驚き半分、呆れ半分でチラッと横目で見る。
「宝石鑑定ができるのなら、わたくしの宝石の幾つかを鑑定していただけるかしら? 買い付けたものの、価値がよくわからない物があるのよ」
「ええ、いいですよ」
ルーファスは変装用の黒い眼鏡を偽造看破の鑑定グラスの入った眼鏡と交換して掛け直し、自分の部屋へついてくるように言われて、テンと一緒についていく。
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