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22章
魔国の学園祭13
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魔国のエグザドル学園の敷地内の森を抜け、街の方へと移動したルーファスとテン、そして小鬼は街中にあるレストランの片隅に座っている。
お互いに着物姿ではないので少し見慣れない感じもするが、この魔国の中では目立たない格好といえる。
ルーファスはエグザドル学園の学園祭とあって一応は正装ではあるものの、上着を脱げばそこいらにいる様な少しいい所で働いている人間と大差ないシャツとズボンという服装でもある。
テンはぶかぶかな麻のシャツに袖を七分丈程で捲っていて、ズボンは若草色のもので、目深にかぶったハンティング帽でどこにでもいる様な平民の若者スタイルである。
「店員さーん! 注文お願いします!」
「はーい。少々お待ちを」
小鬼がテーブルの上で元気にピョンピョン跳ねて店員を呼び、店員が来るとメニュー表の上で「これと、これ、あとこれも」と注文するメニューの文字の上を歩き回って注文する。
「テンさんと大旦那さんはどうしますか?」
「え~? 小鬼アレを全部自分一人で食べる気だったんですかぁ~?」
「どうせテンさんは僕のを横から盗るじゃないですか? 多く頼むに越したことは無いのです」
「酷いですねぇ~」
相変わらずの二人のやり取りにルーファスがフッと笑って「オレはいい」と断り、テンが「なら、適当に~」と幾つか注文しておく。
「お前達は元気そうだな」
「ええ、お陰様でぇ~。軍の方でもなんとか過ごさせてもらってます~」
「僕らは毎日がトレーニングです! 元気がないとへたばっちゃいます!」
「そうか。しかし、軍がこの魔国へ二人を送ってきたのか?」
二人は顔を見合わせると、テンは穏やかな笑顔のまま黙り、小鬼は目を斜め上にあげて唇を尖らせて音の出ない口笛を吹いている。
「……無断で出てきたのか。お前達はそこら辺は変らないな」
「小鬼と一緒に行動すると色々発見もあるものでぇ~」
「情報が動くのを見逃すわけにはいかないですから!」
「ふむ。ならば、お前達の情報はどういったものなのか喋れる範囲で話せ」
小鬼が指で輪っかを作ると、テンがその手に小さなフォークとナイフを持たせる。
「小鬼、後ろ」
「お待たせしましたー。魔牛のハンバーグのポテト添え、魔牛の赤ワインシチュー、魔牛の串野菜焼き、フライクラーケンの盛り合わせ、チーズと三種の包み、ベリーソースのミルクプリンになります」
テンが小鬼を少し抱き上げてテーブルの上に所狭しと料理が並び、小鬼が料理に飛びつくとテンが少し笑ってからルーファスの方を向く。
「大旦那も気付いているとは思うんですが~、人狼族のサンプル対象がこの国にいましてねぇ~我々はそれを追ってきたんですよ~」
「サンプル?」
「ええ。昔、軍で保管していた人狼の血液サンプルがいつの間にか無くなっていましてぇ~、どうも貴族に変な収集家がいたようで~、軍の誰かが売ってしまったみたいなんですよねぇ~。それを調べていたら、ココにたどり着いたんですよぉ~」
「なるほどな……しかし、人狼化しているのはパディオン騎士団の奴等ばかりだが、パディオン家は騎士の家系で貴族では無いはずだが……」
小鬼が食べる手を止めて、口の周りを拭くと手をあげる。
「それに関しては、僕が答えましょう! パディオン家は魔国の五大貴族、ロメルス家に仕えていた騎士なのです。人狼の血をコレクションしていたのはロメルス家。そして、実際に人狼になるのかを実験する為に自分の家に仕えている騎士であるパディオン家の者へ人狼の血を使った……と、いうことです」
「ふむ。しかし、軍は何故、人狼の血を……いや、軍とは使える物は何でも手に入れるからな。考えるだけ頭痛の種が増えるだけだな」
二人が頷いて料理に手を伸ばす。
お皿の上で二人が取り合いをしながら口に運び、その間にルーファスはアカリに連絡を取る。
心配性な自分の番が下手に動かない様に、手間と時間のかかる料理を帰ったら食べたいと言い、調べごとを頼んでおけば、察しの良い長男は確実に事態を掌握しきるだろう。
残る問題は、この魔国に残っている娘のナルアではあるが……シノリアが一緒にいる分、相手も下手に手は出さないだろう。
曲がりなりにも、前魔王の息子に手を出せば、リロノスが魔国へ乗り出さないとも限らない。
リロノスは性格こそ頼りない所はあるものの、【魔王】という称号を持っているだけあって、実力では魔族の王に一番相応しい力を持っているのも彼でしかない。
そして何より、リロノスの弟である、現魔王までもがシノリアに何かあれば先に動くだろう。
兄に動かれるより先に動いた方が被害は少なく終わるだろうからという理由で。
それを考えれば、一番の安全地帯にいるのはナルアともいえる。
父親としては娘が婚約中とはいえ、まだ結婚していないのに四六時中一緒というのは気が気ではないが……。
ナルアの腕輪に連絡を入れるとナルアが小声で反応する。
『なんですの? 今、劇を見ていますので、手短にお願いいたしますわ』
「ああ、すまん。少し厄介なことになってな、宿には戻れない。アカリ達も温泉大陸へ戻った。オレが連絡を入れるまで、シノリアの所に居てくれ。着替えなどは宿に取りに行くな。新しいものを買っていい」
『……わかりましたわ。わたくしも、少し気を付けますわね』
「いい子だ。早めに迎えには行くつもりだが、連絡がどうしてもしたい様ならリューにしてくれ」
『はいですの。父上、お気を付けて』
「ああ。お前も気を付けろ」
通信を切って、とりあえずはナルアは無事だと確認し終わると、丁度料理を食べ終わったテンと小鬼がルーファスに「行きましょうか」と声をかけた。
お互いに着物姿ではないので少し見慣れない感じもするが、この魔国の中では目立たない格好といえる。
ルーファスはエグザドル学園の学園祭とあって一応は正装ではあるものの、上着を脱げばそこいらにいる様な少しいい所で働いている人間と大差ないシャツとズボンという服装でもある。
テンはぶかぶかな麻のシャツに袖を七分丈程で捲っていて、ズボンは若草色のもので、目深にかぶったハンティング帽でどこにでもいる様な平民の若者スタイルである。
「店員さーん! 注文お願いします!」
「はーい。少々お待ちを」
小鬼がテーブルの上で元気にピョンピョン跳ねて店員を呼び、店員が来るとメニュー表の上で「これと、これ、あとこれも」と注文するメニューの文字の上を歩き回って注文する。
「テンさんと大旦那さんはどうしますか?」
「え~? 小鬼アレを全部自分一人で食べる気だったんですかぁ~?」
「どうせテンさんは僕のを横から盗るじゃないですか? 多く頼むに越したことは無いのです」
「酷いですねぇ~」
相変わらずの二人のやり取りにルーファスがフッと笑って「オレはいい」と断り、テンが「なら、適当に~」と幾つか注文しておく。
「お前達は元気そうだな」
「ええ、お陰様でぇ~。軍の方でもなんとか過ごさせてもらってます~」
「僕らは毎日がトレーニングです! 元気がないとへたばっちゃいます!」
「そうか。しかし、軍がこの魔国へ二人を送ってきたのか?」
二人は顔を見合わせると、テンは穏やかな笑顔のまま黙り、小鬼は目を斜め上にあげて唇を尖らせて音の出ない口笛を吹いている。
「……無断で出てきたのか。お前達はそこら辺は変らないな」
「小鬼と一緒に行動すると色々発見もあるものでぇ~」
「情報が動くのを見逃すわけにはいかないですから!」
「ふむ。ならば、お前達の情報はどういったものなのか喋れる範囲で話せ」
小鬼が指で輪っかを作ると、テンがその手に小さなフォークとナイフを持たせる。
「小鬼、後ろ」
「お待たせしましたー。魔牛のハンバーグのポテト添え、魔牛の赤ワインシチュー、魔牛の串野菜焼き、フライクラーケンの盛り合わせ、チーズと三種の包み、ベリーソースのミルクプリンになります」
テンが小鬼を少し抱き上げてテーブルの上に所狭しと料理が並び、小鬼が料理に飛びつくとテンが少し笑ってからルーファスの方を向く。
「大旦那も気付いているとは思うんですが~、人狼族のサンプル対象がこの国にいましてねぇ~我々はそれを追ってきたんですよ~」
「サンプル?」
「ええ。昔、軍で保管していた人狼の血液サンプルがいつの間にか無くなっていましてぇ~、どうも貴族に変な収集家がいたようで~、軍の誰かが売ってしまったみたいなんですよねぇ~。それを調べていたら、ココにたどり着いたんですよぉ~」
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小鬼が食べる手を止めて、口の周りを拭くと手をあげる。
「それに関しては、僕が答えましょう! パディオン家は魔国の五大貴族、ロメルス家に仕えていた騎士なのです。人狼の血をコレクションしていたのはロメルス家。そして、実際に人狼になるのかを実験する為に自分の家に仕えている騎士であるパディオン家の者へ人狼の血を使った……と、いうことです」
「ふむ。しかし、軍は何故、人狼の血を……いや、軍とは使える物は何でも手に入れるからな。考えるだけ頭痛の種が増えるだけだな」
二人が頷いて料理に手を伸ばす。
お皿の上で二人が取り合いをしながら口に運び、その間にルーファスはアカリに連絡を取る。
心配性な自分の番が下手に動かない様に、手間と時間のかかる料理を帰ったら食べたいと言い、調べごとを頼んでおけば、察しの良い長男は確実に事態を掌握しきるだろう。
残る問題は、この魔国に残っている娘のナルアではあるが……シノリアが一緒にいる分、相手も下手に手は出さないだろう。
曲がりなりにも、前魔王の息子に手を出せば、リロノスが魔国へ乗り出さないとも限らない。
リロノスは性格こそ頼りない所はあるものの、【魔王】という称号を持っているだけあって、実力では魔族の王に一番相応しい力を持っているのも彼でしかない。
そして何より、リロノスの弟である、現魔王までもがシノリアに何かあれば先に動くだろう。
兄に動かれるより先に動いた方が被害は少なく終わるだろうからという理由で。
それを考えれば、一番の安全地帯にいるのはナルアともいえる。
父親としては娘が婚約中とはいえ、まだ結婚していないのに四六時中一緒というのは気が気ではないが……。
ナルアの腕輪に連絡を入れるとナルアが小声で反応する。
『なんですの? 今、劇を見ていますので、手短にお願いいたしますわ』
「ああ、すまん。少し厄介なことになってな、宿には戻れない。アカリ達も温泉大陸へ戻った。オレが連絡を入れるまで、シノリアの所に居てくれ。着替えなどは宿に取りに行くな。新しいものを買っていい」
『……わかりましたわ。わたくしも、少し気を付けますわね』
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