黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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22章

魔国の学園祭11

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 人狼に関しての事はルーファスに前きいた通りの事しか情報は無く、ルーファスが何十年と会った事がないように、小鬼達の情報でも、人狼達は普段が狼の姿なので森の奥深くに棲み、滅多に街中には姿を現さないらしく、目撃証言などもほぼないという。

「パディオン騎士団長は人狼……か、もしくは、人狼の子孫で血が薄まっていて、普段も人型のまま居られるのかもしれない」
「人狼に噛まれちゃうと、人狼と同じになっちゃうって事だよね? 人狼の状態と同じままになるのかな?」
「さぁ? 僕も人狼については父上から関わるなってしか教わってないからね。でも、パディオン騎士団長の部下の騎士達を聞く限り、そうなのかもね」

 リュエールが肩をすくめると小鬼も頷いていて、エルシオンは私の顔を見て首を傾げる。

「リュー兄上、人狼に噛まれた人は人狼の命令だけ聞くの?」
「そうなるみたいだよ。だから、噛まれた人は逃げられずに人狼族になって暮らしていくしかないって話だし」
「うへぇ……じゃあ、居なくなった部下の人は人狼として森の奥とかに居るのかな?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。そこら辺は調べるしかないね」
「父上が噛まれたら……どうなるんだろう?」

 私が考えない様にしていた事をエルシオンは口にしてリュエールが、少しだけ考えて「どうかな?」と私を見る。

「父上はいつも母上に触れてるから、母上の【聖域】が染みついてるようなものだしね。もし噛まれても直ぐにはどうこうしないでしょ。第一、狼族を狼にしたところで意味は無いしね」
「じゃあ、大丈夫かな?」
「それよりも、エルは母上の買い物袋とかを屋敷に置いてきたらどう?」
「あっ、そうだね。ボク、一旦荷物を屋敷に置いてくるね!」

 ピョンとソファから勢いよく飛び上がると、エルシオンは手芸の入った紙袋とスクルードのお世話バッグを持って出て行く。

「エルも大きくなったけど、まだまだ子供だね」

 リュエールが立ち上がると執務室の窓を開ける。開けた途端に、グリムレインとケルチャとエデンとケイトが顔を覗かせて、ジタバタしながら「我が先だ」「アタシよ」と騒ぎながら部屋に入ってきて、私に飛び込む様に抱きついてくる。
 ドラゴン達に熱烈にギュウギュウと抱きつかれて、目をパチパチさせていると執務室の奥にある縁側からハガネとシルビアさんも入ってきた。

「どうしたの? あなた達」
「どうしたもなにも、アカリの心が騒いでるから心配してんだよ」
「どうしたんです? アカリさん何かあったんですか?」
「嫁、婿はどうした? 喧嘩でもしたか?」
「アタシがルーに一言いってやるわよ」
「エデンも主様のために頑張るの!」
「ケイトも! 主様お花いる?」

 ああ、主君の私の心が騒ぎ過ぎて、従者のハガネ達にまで伝わってしまったみたい。
ただでさえ心配性な彼等に心配をさせては、将来頭が禿げてしまうかもしれない……ドラゴンって禿げるのかわからないけど。

「ごめんね。大丈夫だよ。魔国で色々あって、今、ルーファスが解決している最中みたいなの」
「アカリがまた何かやったのか? 仕方ねぇなぁ」

 失礼な言い分ではあるけれど、ハガネが私の頭をわしゃわしゃと撫でながら笑って、ドラゴン達もおでこをコツコツぶつけて慰めてくれる。優しい従者達に「ありがとう」と言って、笑うと笑顔が返ってくる。

「さてと、そろそろ連絡がくるかな……っと、きた」

 リュエールが自分の腕輪が振動したのを確認して、私達に人差し指で騒がない様にジェスチャーしてから、腕輪の通信に出る。

「そっちの動きはどうなってる?」
『こちらは異常なく、弟さんも妹さん達も何事もなく過ごしています』
「ご苦労様。何かあれば教えて、引き続き頼んだよ」
『了解です。では』

 腕輪から手を放し、リュエールが小さく息を吐く。私と目が合うとリュエールは「ティル達とナルアは大丈夫みたいだよ」と笑ってみせる。

「えっと、その連絡は誰からなの?」
「僕の従者。二、三人魔国に人を置いて、ティル達の安全を見てもらってる。あの子達はトリニア家の子供だからね。何かあったら困るから、まぁ、父上が今は動き回っているから、悟られないように動いてもらってるけど」
「だったら、最初から言ってくれれば、ルーファスが今動き回る事態にならなかったんじゃないの?」
「何が起こるかはわからないじゃない? それに、監視されてるって気分の良い物じゃないだろうから、隠密行動させてるんだよ」
「ううん……私にもついて回ったりしてる?」
「母上には父上がいるから付けてないし、外に居るあの二人にだけだよ。それに学園内の貴族図も掌握しておきたいしね」

 うちの長男がどこかでなにかしてそうな誰かに似ている気がする。その人は今現在ルーファスの近くに居るみたいだけど……ああ、そういえば、子供の頃はテンに色々教えてもらっていた時期がリュエールにはあったかも。

「さて、僕は僕で色々やるから、母上は安心して僕に任せて、スクルードを屋敷に寝かせに行ってあげなよ。疲れ切った顔で寝てるよ」
「あ……っ、うん。そうだね。スーちゃんの着替えもさせてあげないと、涙でベタベタだものね」
「母上が屋敷にいれば、父上も安心して動けるから、屋敷で父上の帰りを待っててよ」
「はぁーい。じゃあ、帰るね。みんな、帰りましょう」

 私が居ても何もできないし、屋敷でルーファスに頼まれた焼きおこわを作って、帰ってきてすぐに日常に戻れるようにしてあげるのが、私の役目だものね。
私が立ち上がると、ドラゴン達も縁側の方から外へ出て私に「帰ろう」と手を伸ばす。

 そして私は私の持ち場へ帰っていった。
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