黒狼の可愛いおヨメさま

22章

魔国の学園祭１０

　手繰たぐり寄せる記憶の中で、とても古いもの。
それは魔国へルーファスと一緒に行き、身重のありすさんを温泉大陸へ船で連れ帰る時に海賊に襲われ、ルーファスがレストランにいた海賊をやっつけた時に、魔導銃を奪った時ー……

　「魔国の五大貴族のロメルス家だぞ」と、小太りの男がいた気がする。
偉そうに威張り倒していて、魔導銃を欲しがったりしたから、海賊の一味の可能性ありとして、ルーファスと乗客が縄で縛り上げて、床に転がしていた男の人だったはずだ。
　結局、途中で冒険者ギルドの船と合流して、魔国の乗船客は事情聴取の為に魔国へと引き換えされて、その男がどうなったのかは私は知らない。

「そのロメルス家の人がどうして、今更……私達に関わってくるの？」
「反魔国運動というものは、昔の魔国、強い者だけが生き残るって力だけの支配を望んでいる人々の考えで、それを崩したリロノスさんや現魔王のテンペス王を酷く恨んでいる。そして、リロノスさんの味方をして亡命させた温泉大陸の父上や母上、僕等全員恨まれているんだよ」

　リュエールが「逆恨みというか、とばっちりみたいなものかな？」と何でもないというように笑ってみせる。

「まぁ、でもー……僕等の家族に直接手を出してきたんだから、潰される覚悟があるってことだろうね」
「えーと、リューちゃん……物騒なことになっちゃったり、する？」
「ここは【刻狼亭】だよ？　ナメられたら示しがつかないでしょ？」

　にっこり笑顔のリュエールに、これは悪い笑顔かもしれないと思いつつも、ルーファスがここに居れば間違いなく言いそうな事なので、リュエールの言葉には【刻狼亭】の意志がある。

「それで、小鬼ほかに分かった事は？」
「メルデリカ・フィオ・レシャン・パディオン。シンガー・フィオ・デレク・パディオンの騎士団長の娘で十一歳。特に可もなく不可もなくですね。彼女自体には……ただ、シンガー騎士団長に関して言えば、妙な話が幾つかあります」

　小鬼が書いた紙を手で持ち、一つ一つ読み上げていく。
シンガー騎士団長は魔国の騎士団の４つの騎士団の一つ『奇襲』のパディオン部隊と呼ばれている。
統率の取れた騎士部隊で、奇襲や夜襲が得意な部隊。
シンガー騎士団長の命令に逆らう部下はおらず、全員が崇拝するようにシンガーに付き従い、無駄口一つ無い部隊だという。
実際、シンガー騎士団長の部隊に入団した騎士は性格が変わってしまうという噂がある。
しかも、騎士を辞めると何故か家族の元へ戻らず、姿を消してしまうのだとか。

「魔法で操られている……という噂が出まして、内部調査をしたのですが、なにも出なかったそうです」
「そう……だとしたら、幾つか考えられるけど、おそらく「人狼族」「吸血族」のどちらかが考えられるけど、獣の遠吠えがしたのなら、人狼族で間違いないだろうね」

　そういえば、ルーファスがリュエール達を妊娠した時に動物に噛まれなかったか？　とか色々聞いてて「人狼族」の話をしてた。確か、狼族と人狼族は相容れないと言っていた。
魔族で普段は狼の姿をしていて、満月の日だけ人になり、他種族に噛みついて、自分と同じ人狼族にしてしまう……とかなんとか聞いた気がする。

　ただ、人狼族に噛まれて同じ人狼族になってしまうのは『呪い』らしく、それは他の呪いに比べると強力なものらしい。まぁ、私やありすさんの【聖域】や【聖女】の能力の前ではそんな物は関係は無い。

「人狼族ですか……少し、他の小鬼にも情報を聞いてみます」
「うん。よろしくね」

　小鬼が目をくるくると動かしてリュエールが、小鬼が書いた紙を読みながら情報が集まるまでの間の時間を潰している。
テンと小鬼のコンビも仲良くやっていたが、こちらはこちらで上手くやっているようだ。

「先に同じ情報を共有で聞いてきた小鬼が居ますね……まったく、前任者の小鬼可愛げがありません」
「あら？　小鬼さん元気にしているみたい？」
「ええ。前任の小鬼は今は魔国で動き回っている様ですよ」
「あら、凄くタイミングが良い……って、事はもしかしてテンとルーファスも一緒なのかしら？」
「そのようですよ。前任の小鬼は軍の情報を取り扱っているはずなので、今回のケースも軍関係なのかもしれないですね」

　思わぬところで、思わぬ人達が動いているらしい。
でも、テンと小鬼がルーファスの側にいるのなら、安心はできる。