黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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22章

魔国の学園祭7

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 ルーシー達のクラスへ戻り、ルーファスに先程のことを報告すると、ルーファスも半目でティルナールの赤く紅葉型に腫れている頬を見る。

「ティルは強烈な女性が好きみたいだな」
「モアネリィ・パメラ先輩にティルは叱られるために悪さをしているところもあるから」

 ルーシーの言葉に家族全員でティルナールを見て小さく首を振る。
これでは小さな男の子が好きな子に振り向いて欲しくてイタズラするのと変わらない。
当の本人はそこら辺は理解している様でニコニコ顔で救いようがないけど……。

「とにかく、ティルはこれ以上、パメラ先輩を怒らせるのやめなさいよね?」
「えーっ、モリィの怒った顔、ボク好きだし」
「そういうところ、直さないと本当に嫌われるからね? ただでさえ生徒会と生活指導部は仲が悪いんだから」
「えへへ。良いよねぇ、モリィ」
「……駄目だね。これは……」

 ガクリと項垂れたルーシーに、エルシオンが同情する様に肩に手を置いて微妙な顔をしている。
何というか……ティルナールは温泉大陸にいた時は、どんなマッドサイエンティストに育つのかと危惧していたけど、別の方向に進化していってしまったようだ。

「それにしても、生徒会執行部と生活指導部って、普通は協力し合うものじゃないの?」
「ううん。うちの生徒会は生徒の自主性を重んじているんだけど、生活指導は生徒には規律を重んじるように言ってて、その規律が少し行き過ぎなんだよね」
「そうなのです。悪い人達では無いし、言っている事は正しい事もあるのですが、先程のエルがティルに間違えられて突っかかられた様な事でも、喧嘩両成敗で『お互いが悪い』って両方ともに処罰対象なのです」

 うーん。さっきのエルシオンがトイレで喧嘩を売られたのも、エルシオンに詳しく聞けば、エルシオンは道を避けたのに相手はぶつかって来て殴りかかる様な真似をしてきたらしいし……まぁ、出てきた時に足蹴りしてしまったのは少しこちらも悪い気もしないでもないけど。
 ちなみに、ここでは生徒が学園内で暴力沙汰を起こせば宿舎に謹慎と罰掃除などがあり、最悪、家に戻されるらしい。
 だからこその殴りかかる振りでおちょくってきたのだろうけど……エルシオンは学園の生徒ではないので、これは適応されない。

「あっちが悪くても喧嘩両成敗なら、少し納得はいかないな。やられて黙っている様では名がすたる」
「流石、父上。やられっぱなしは性に合わないよね」
「だから、ティルは広報として情報を集めたり、証拠を押さえたりする活動をしているのです」
「じゃあ、ティルは暴力で片づけたりはしていないのね?」
「母上、温泉大陸じゃないんだから……そんな事してたら、学園の貴族連中がうるさいだけだよ」

 まるで温泉大陸のみんなが野蛮な言い方を……いや、まぁ、少し拳で語り合いなところがあるから、ティルナールの意見はもっともではあるけどね。

「証拠に証人、被害者と加害者。先生方を含めた話し合い。これが全て揃えられて初めて解決になるんだよ。学園でも貴族と平民や種族間での差別はしない様に言っているから、生活指導部もここまですれば、ギリギリ引き下がってくれるんだよ」
「でも、生徒の為の生活指導なら被害者を守るのが普通だよね?」

 守られるべきは被害者だと私は思うし、泣き寝入りや理不尽な扱いは間違っていると声を大にして言いたい。

「この魔国という国の悪い風習なんだよ。『強い者こそが正義』っていう主張とかさ、昔に比べればマシになったらしいんだけどね。だからモリィ達は強者にも弱者にも平等に罰を与えてしまうんだよ。親からの教えみたいなのが残っている子達なんだよね」

 そういえば、魔族の【魔王】という王族を決めるのも生き残った強い子供を王にするという物騒な物だったはず。リロノスさんがそれを禁止し、弟に王を継がせて、マデリーヌさんと共に魔族の意識改革を行い、大きな粛清があったと聞いたし……でも二十年以上経っても根付いてしまったものを全て正す事はまだ時間が掛かるのだろう。

「なんていうか、学園は面倒くさいんだね」
「エルはそう思うかもしれないけど、ボクは楽しいよ。学園でこうしてこの国の悪い場所を体験して、それをより良い方向へみんなで頭を突き合わせて考えて、それが将来この国を変える一石を投じる何かになれば、面白いと思わない?」
「ボクは悪いものは悪いって、子供でも分かる事が分かんないこの国にビックリだよ」
「そういうところも世界にはあるって勉強だよ」

 なにやら二人が少し大人のような感じもしてしまうけど、これはこれで成長というものなのかも?

「ルーシーはどっちの意見に重きを置いているんだ?」
「わたしは、どちらの良いところもまとめて、良いとこ取りな意見かな? ティルみたいに小さな学園という社会で改革を進めつつも、エルの言う、自分の良心と道徳倫理には従う。そんなところかな?」
「なるほど、オレもルーシーに一票だな」

 ルーファスとルーシーが頷いて、これで良しと言わんばかりに腕を組む。
父娘で仲が良いのはいいけど、他の保護者の方からの視線もあるので、そろそろ移動すべきかな? 流石にもう温泉大陸のトリニア家だとバレて囁かれているから、変なお近づきになる前に逃げ出したいところです。

「お話し中、ごめんあそばせ」

 ああ、やっぱり声をかけられてしまったかと、私が振り向くと、私を過ぎ去ってマダムなドレス服の女性がルーファスに話し掛けていく。
どうやら、私は無視のようだ……ぐぬぬ……っと、思っていると、ルーファスが私をスクルードごと抱き上げてきた。

「失礼。うちの番と子供達の学園を回りたいので、またの機会に」

 営業スマイルでルーファスが目線がチクチクと痛い中さっさと出て行き、ルーシーやエルシオン達も続いて出てきたけど、今度は廊下の保護者と学生の目線がチクチクと痛い!

「ルーファス、下ろして欲しいんだけど……」
「うん? しかしなぁ……こう人が多いとアカリを見失いそうだからな」
「……それは私が、学生より小さくて見付けにくいということ?」
「いや、そうじゃない。ほら、アカリ。あそこに手芸の出し物があるようだぞ」
「あっ、それは見たいです」

 誤魔化された様な気がしないでもないけど、手芸を扱っている教室に着くと下ろしてもらえたから、よしとしよう。
 この教室、毛糸や刺繍糸に布が結構売っていて、手作りのカバンも可愛いし、赤ん坊用の涎掛よだれかけも売っていて、これは何枚あっても足りない物だから、ついつい購入しまわってしまった。
気付くとルーファスが教室に居なくて、ルーシーがスクルードにムスッとした顔をされつつ、あやしてくれていた。
ティルナールとエルシオンも居ないし……男の人達には興味が無い場所すぎたのかな?

「ルーシー、ルーファス達を知らない?」
「ああ、喉が渇いたそうなので、ジュースを買って飲んでくるような事を言っていましたわ。直ぐに戻ると思いますから、ここから動かずに待っていましょう」
「そう? じゃあ、ルーシーも何か欲しいものはある?」
「そうですわねー……あっ、ミルア姉様とナルア姉様とお揃いのヘッドドレスが欲しいですわ」
「なら可愛いのを探してみようか」

 うちの娘達はフリルとかレース物って着物に付けていたりするから、ヘッドドレスも着物と一緒に付けられるのが少し羨ましい。
私が十代の頃は着物にフリルは考えつかなくて……少し残念でもある。

 白いヘッドドレスと薄桃色のヘッドドレスをミルアとナルアに選び、ルーシーには黒色に赤いレースとリボンの付いたヘッドドレスを買った。
可愛い娘達にいい物が買えたと満足していると、ルーファス達が教室に戻ってきた。

「おかえりなさい。ジュースは何を飲んできたの?」
「ん……ああ、茶を飲んだだけだ」
「そうなんだ。私も喉乾いたから、飲み物を買いに行くならついて行きたかったよ」
「では、買い物も終わったようだし、飲み物を買いに行くか」
「付き合ってくれるの?」
「当たり前だろう? アカリを一人にすると危ないからな」
「むぅ、失礼な」

 またルーファスに抱き上げられると、少し早い速度で移動していて、どうしたんだろう? と不思議に思い、ルーファスの顔を見れば、どことなく緊張したような顔をしている……かな?

「ルーファス?」
「どうした?」
「んー……なにかあったの?」
「いや、なにもない。気にするな」

 ルーファスに髪を撫でられて、違和感もあったけれど、いつも通りの手の温かさに、まぁいいかとコテンとルーファスの肩に頭を乗せる。

 模擬店でティルナールおススメのジュースを買ってきてもらい、ジュースを飲もうとしたら先にルーファスに飲まれてしまった。

「喉が渇いていたから、一口もらった」
「そうなの?」

 ジュースを返してもらい、飲みながらルーファスはお茶を飲んだんじゃなかったっけ、足りなかったのかな? と、よく分からない違和感を抱きつつ飲んだ。
私が飲み終わると、ルーファスがジュースの空コップをティルナールとエルシオンに片付けに行くように言って、二人は「行ってくるねー」と言いながらジャンケンをしつつ歩いて行ってしまった。

「そういえば、保護者はお昼の3時頃にお茶会が催されるようですが、父上と母上はどうしますの?」
「そうだな……」
「私はパスしたいかな? だって、貴族の人達もいるようなお茶会マナーわからないもの」
「それもそうだな。オレも面倒くさいのは遠慮したい。マデリーヌには後で詫びる事にして、そろそろ帰るか」
「マデリーヌさんが居るなら、先に挨拶しておいた方がいいのかな? 後で大丈夫?」
「大丈夫だろう。強制参加でもないのだしな」
「なら、いっか」

 女王様のお茶会っていうのも、実は遠慮したい……気心がなんとなく知れているから、そこまでの遠慮も無いんだけど、それは他の人達が居ない場所でのみだからね。
同じ食卓のご飯を食べた仲でも、親しき中にも礼儀ありという。
まぁ、要は私がマナーが出来ていないから逃げたいだけなんだけどね。一般人にはお茶会なんてハードルが高すぎる。

 ティルナールとエルシオンが戻ってくると、ルーシーからエルシオンがスクルードを受け取り、顔に張り付かれながら帰る事を伝えて、馬車乗り場までティルナールとルーシーに送ってもらって別れた。
次に魔国にくるのはいつの事やらという感じではあるけれど、二人共周りと上手くやっているようだし、まぁ、ティルナールは少し心配はではあるけど、楽しくやっているならいいかな。

「エル、アカリとスーを頼む」
「はい!」
「んっ?」

 走行中の馬車のドアをルーファスがいきなり開けると、エルシオンが私とスクルードが揺れない様に座席に押し付けるように覆い被さり、エルシオンの体の隙間からルーファスが馬車から飛び降り、ドアを閉めたのが見えた。

「ルーファス!?」
「母上! 父上に任せて、大人しくしてて!」
「なにが!? ねぇ、なんなの? エル、どうしてルーファス、外に?」

 馬車が大きく揺れて、スクルードに衝撃がいかないように抱きしめて振動が治まるのを待ち、エルシオンが御者台が覗ける内窓のカーテンを開くと、すぐにカーテンを閉めて、ドアを開くとエルシオンまで外に出てしまう。
馬車がまた揺れて、地面に何か落ちる様な音がして、しばらく走ると馬車は停まった。
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