黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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22章

氷の刻狼亭7

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 宿に戻って、私とアルビーはスクルードの相手をしながら、この氷のお祭りが終わるのを大人しく待っていた。
グリムレインは温泉の温度を一定にする為に離れられなくて、そのまま温泉二つを交互に見にいっている。
 エデンとケイトはお祭りを見て回って来ると言い、元気に出掛けて行った。
ケルチャとローランドは相変わらず、空中遊覧船と化している。
子供達は温泉施設の案内をしたり、街の見回りに行ったり、参加者の露店の人達へ【参風】で荷物を運ぶと安く済むという話をしたりで、働きまわっている。

「アカリー……私、凄く暇になってきたよ」
「奇遇ですね。私も出掛けちゃおうかなーとか思ってるよ」
「行っちゃうー?」
「ルーファス帰って来ないもんねぇー……」

 私とアルビーはルーファスに「お説教」すると言われているので、大人しく宿に戻っていたのだけど、ルーファスは戻ってこないし、宿の窓から街を見渡せば、サンドワーム退治は終わったようで外の温泉も盛況のようだし。賑わっているのに、自分達だけ部屋の中でぼーっとしているのも勿体ない気がする。

「それにしても、あのサンドワームの殻みたいになったのどうするんだろうね?」
「火で炙るとあんな風になるなんて凄いよねぇ」

 サンドワームを火炙りにした時に殻のようになったものを犬獣人の人達は鳥の魔獣を使って輸送を始めてしまったぐらいだし、何かの素材になっているのだろうか?
アルビーと首を傾げて、嬉しそうにサンドワームの殻を運ぶ犬獣人を見つめつつ、ますます首を傾げてしまう。

「アレは犬族にとっては一番素材の良い品だからな。同族の雌からモテモテになるんだそうだ」
「へぇー……あんなのが……って、ルーファス! おかえりなさい」
「おかえり。ルーファス」
 
 部屋に入ってきたルーファスに私とアルビーはぎこちなく笑顔をみせる。怒られるのは既に分かっているのでせめてお説教はすぐにおわると良いなー……というところだ。
ふわっとルーファスから甘い香りがして、温泉に入ってきたのだとわかる。

「さて、アルビー、アカリ。わかっているよな?」
「反省はしているんだよ? でもね、グリムレインが齧られてたから危なかったし」
「うん。そうなの。私達は回復魔法が使えるし、少しでもグリムレインを助けてあげたくて」
「それはわかるが、二人は昔から変に首を突っ込みすぎる。それを反省しろと言っている」

 二人して首を上下にブンブンと勢いよく振り、「それより……」と話を逸らせようと「温泉はどうだった?」と務めて明るい調子で聞いてみる。

「温泉に関しては、三人共よくやった……と、褒めておくべきだな」
「やったね。アカリ!」
「よかった。アルビー、後でグリムレインにもお酒買って労わないとね」
「喜ぶのは少し早いがな」
「えー、なんでさ?」
「場所に関しても大丈夫だったと思うんだけど?」

 なにが問題だったのやら? アルビーと一緒にルーファスに頭をくしゃくしゃと撫でられ、「ルーファスは相変わらず撫でるのが下手!」とアルビーが笑いながら言い、私は力強いルーファスのよしよしに笑う。

「来年も氷祭りと温泉をやって欲しいと依頼された。オレは別に構わんが、グリムレインにリュエールが何というかだな。グリムレインはともかく、リュエールはこの稼ぎ時に、こうした祭りに人を割くのは何というか……」
「まぁ、ここの国の人も露店してくれるんだし、いいんじゃない?」
「そうそう。お祭り楽しいじゃない?」
「【刻狼亭】として温泉で店を構えるとなると、適当な事は出来ないからな。今回のは即興にしてはよく出来てはいるが、【刻狼亭】としては少しランクが下がるサービスだ。来年はもっとしっかりした温泉を用意しなければ、温泉大陸の名折れだ」

 無料で温泉って考えだったから、そこまでのクオリティーは私達も考えてなかった思い付きなのだから仕方がない。でも、リュエールは来年も開催となると大変かな?
ちゃんとリュエールにお土産を用意して謝っておかなきゃいけない。

「あっ、それはそうと……ルーファス、ティルもエルもサンドワームは追ってなかったようなんだけど、どうして直ぐに戻ってこなかったの?」
「ああ、少し外壁周りを調べていたら、サンドワームの穴を見付けてな。それをジャガール王に伝えていたら、犬族の奴等に要請をしたとかで、話し合いに混じっていた」
「ルーファスが一番危ない事しようとしてたのでは?」
「オレは自分の力量はわかって行動している。アカリやアルビーの様に無謀に魔力を駄々洩れで攻撃しに行ったりしない」

 少し頬を膨らませると、ルーファスに私とアルビーは頬を引っ張られる。

「サンドワームは目が見えない分、魔力反応のあるところに向かってくる。アルビーとアカリはわかっていなかっただろ?」
「う……っ」
「教えてくれてたら、グリムレインを止めたりしてたよ?」

 コツンとルーファスの拳に頭を軽く叩かれてアルビーと私はサンドワームが一斉に首を上にあげた理由を理解して、反省をした。

「でもさ、私の知っているサンドワームは地面の上で魔力を使ったりした場合に魔力感知をしていたと記憶しているよ?」
「ああ、サンドワームが魔石でランクアップしたからな。空中でも感知可能になったようだぞ」
「私の知識も詰め直しが必要みたい」

 アルビーは博識なドラゴンだからこれからランクアップしていく魔獣達の情報を詰め込むのに忙しくなるのだろうなと思う。

「それにしても、サンドワームの何が犬族の人達には魅力なんだろ?」
「なんでもサンドワームの素材の匂いは犬族にとっては興奮する匂いらしいぞ?」
「ああ、よく干からびたミミズが地面に落ちているのを犬が体に擦り付けてゴロゴロしている、アレかなぁ……」

 ルーファスも分類的には犬族だけど、するんだろうか? とチラッと見たら、片眉を上げて「オレを犬族と一緒にするな」とガルルと小さく唸られた。
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