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22章
氷の刻狼亭6
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治療院にグリムレインを運び込んで回復魔法を使い、傷の治療が終わった後でグリムレインを腕に抱いてホッとしたところで、グリムレインの体重も前のように見た目のサイズのままの軽さになっていた。
「グリムレイン、もうどこも痛くない?」
「うむ。多少ひきつれた感覚はあるが、大丈夫だ。奴等、噛みついてねじってきおった」
「掘削機みたいな感じでゴリゴリ氷の壁壊してたからねぇ」
グリムレインの頭をよしよしと撫でて、アルビーを肩に乗せ治療院を出ると、先程見た巨大な鳥の魔獣に乗って犬獣人達が氷の壁の外を飛び、空中から砂漠の地中へと滑空していく。
大きな鳥達の口にはサンドワームがぶらんと咥えられ、再び飛ぶと背中に乗っていた犬獣人が縦にズバッと切り裂き、地面に落ちた小さなミミズ……と、言っても私サイズは易々とあるわけだけど、口に咥えていたサンドワームを足に持ち替え、地面に落ちた方を鳥が口に運び__ゴクンッと飲み込んだのだった。
「うぎゃー! あの鳥の魔獣、サンドワーム食べてるよ!」
「ひぃぃっ! 食べてるぅ!」
「あれは食えるようなものではないだろ……」
アルビーと私とグリムレインがその状況を見て言った感想は「気持ち悪い!」だった。
足に捕まえているサンドワームを犬獣人と、ミシリマーフ王国の兵士達が火魔法で炙りあげると、まるで鉄のような筒になり、それを犬獣人達は戦利品とばかりに氷の街へ置いては再び戻っていく。
「あっ、ルーファスとシュテンだ」
犬獣人達に混じって、ルーファスとシュテンもサンドワームと戦っている姿を見付ける。
ルーファスがサンドワームを切り裂き、シュテンが狐火で炙っているようだ。しかし……サンドワームが切り裂かれる度に粘液が飛び散って、犬獣人の人達もルーファス達も遠目に見てもテカテカに粘液光りしている。
「本当だ。うわぁー……粘液飛び散ってるぅー……」
「婿達用に風呂でも用意しておくか?」
「それなら、氷の刻狼亭らしく氷で温泉でも作る?」
「それいいね。でもグリムレインまだ魔力残ってるの?」
「それくらいなら造作はない。我は氷竜だぞ」
私達は「温泉作ろう」と、はしゃいだ声を上げて、旅館の方の【刻狼亭】を氷で作り上げていく。
毎日見ていた場所なので完璧に模造できるわけだけど、建物としては温泉部分だけでいいので、一階部分だけである。
氷で造ったものの、グリムレインの微調整でお湯玉で入れたお湯は温かいままで、グリムレインはやればできる子! と私とアルビーが応援しつつ、お宿にあった甘い香りの石けんを購入しに行き、温泉へ設置。
そして何かもう少し手を加えたいと、三人で頭をひねったところ……アルビーの得意な花の香りをギュッと閉じ込める魔法を氷に閉じ込めて温泉に浮かべるというもので、氷が溶けながら香りが溢れる物を作っていった。
「これであの生臭くなった人達も良い香りがするに違いないね!」
「ねー! 温泉の案内でもしに行こうかー」
グリムレインは温泉の微調整の為に離れるわけにはいかないので、アルビーと私の二人で温泉案内の為に旅館の刻狼亭を出ると、出入口には人だかりが出来ていて、人垣を掻き分けてティルナールとエルシオンとルーシーが「母上!」と声を上げていた。
「母上! なにを建てたんですか!」
「見て分からない?」
「見ればわかるから、言ってるんです!」
「だって、みんな粘液で生臭くなりそうだから……ね?」
「もぅー! いきなりこんなのを建てるからお客さんが集まり始めているんです!」
「あらあら。でも戦っている人達に汗を流してほしいのだけど……」
三つ子に怒られてはいるけど、私としては怒られる意味がよく分からない。それに、怒りたいのは私の方でもある。ティルナールとエルシオンの二人は朝から出て行って心配をかけたわけだし、ちゃんと怒っておかなきゃいけない。
「それよりも、ティル、エル。私に言うことは無いの?」
「無いよ!」
「ボク等は朝からずっと会場の見回りしてただけだし」
「あら? サンドワームを探しに行ったんじゃないの?」
「するわけない」
「父上にも言われたけど、そんな暇ないよ。お客さんの安全一番だし」
これはどうやら、私の早とちりでルーファスを朝から動かしてしまったみたいだ。
なら、ルーファスは何ですぐに戻ってこなかったんだろう? サンドワームを一人追っていたんだろうか? 一言くらいあってもいいのに。
「とりあえず、母上。温泉はこれだけ?」
「ええ。これだけよ」
「うーん。どうしよう? ルーいい案はある?」
「そうねぇ。グリムレインにもう一つ同じ物を作ってもらうとか?」
三つ子は顔を突き合わせて、客を分散しようとか、金額はどうする? と、色々言っていて私の善意の温泉で何か商売のようなものをやろうとしている。
「待ちなさい。この温泉は外で戦っている人達に無償で入ってもらうものよ?」
「母上、それなら【刻狼亭】の外観にしちゃ駄目だよ」
「温泉大陸の温泉が味わえると思って、人が集まってるの」
「ここで商売根性出さなきゃリュー兄様に怒られちゃうわ」
リュエールとシュテン辺りならそういう事は言いそうだと、私も諦めてこの温泉はお客さん用にして、氷の壁の外側に同じ物をひっそりとグリムレインに建ててもらって、私とアルビーは外の兵士さん達に作業が終わったら温泉に入って下さいと言い、宿へ戻っていった。
「グリムレイン、もうどこも痛くない?」
「うむ。多少ひきつれた感覚はあるが、大丈夫だ。奴等、噛みついてねじってきおった」
「掘削機みたいな感じでゴリゴリ氷の壁壊してたからねぇ」
グリムレインの頭をよしよしと撫でて、アルビーを肩に乗せ治療院を出ると、先程見た巨大な鳥の魔獣に乗って犬獣人達が氷の壁の外を飛び、空中から砂漠の地中へと滑空していく。
大きな鳥達の口にはサンドワームがぶらんと咥えられ、再び飛ぶと背中に乗っていた犬獣人が縦にズバッと切り裂き、地面に落ちた小さなミミズ……と、言っても私サイズは易々とあるわけだけど、口に咥えていたサンドワームを足に持ち替え、地面に落ちた方を鳥が口に運び__ゴクンッと飲み込んだのだった。
「うぎゃー! あの鳥の魔獣、サンドワーム食べてるよ!」
「ひぃぃっ! 食べてるぅ!」
「あれは食えるようなものではないだろ……」
アルビーと私とグリムレインがその状況を見て言った感想は「気持ち悪い!」だった。
足に捕まえているサンドワームを犬獣人と、ミシリマーフ王国の兵士達が火魔法で炙りあげると、まるで鉄のような筒になり、それを犬獣人達は戦利品とばかりに氷の街へ置いては再び戻っていく。
「あっ、ルーファスとシュテンだ」
犬獣人達に混じって、ルーファスとシュテンもサンドワームと戦っている姿を見付ける。
ルーファスがサンドワームを切り裂き、シュテンが狐火で炙っているようだ。しかし……サンドワームが切り裂かれる度に粘液が飛び散って、犬獣人の人達もルーファス達も遠目に見てもテカテカに粘液光りしている。
「本当だ。うわぁー……粘液飛び散ってるぅー……」
「婿達用に風呂でも用意しておくか?」
「それなら、氷の刻狼亭らしく氷で温泉でも作る?」
「それいいね。でもグリムレインまだ魔力残ってるの?」
「それくらいなら造作はない。我は氷竜だぞ」
私達は「温泉作ろう」と、はしゃいだ声を上げて、旅館の方の【刻狼亭】を氷で作り上げていく。
毎日見ていた場所なので完璧に模造できるわけだけど、建物としては温泉部分だけでいいので、一階部分だけである。
氷で造ったものの、グリムレインの微調整でお湯玉で入れたお湯は温かいままで、グリムレインはやればできる子! と私とアルビーが応援しつつ、お宿にあった甘い香りの石けんを購入しに行き、温泉へ設置。
そして何かもう少し手を加えたいと、三人で頭をひねったところ……アルビーの得意な花の香りをギュッと閉じ込める魔法を氷に閉じ込めて温泉に浮かべるというもので、氷が溶けながら香りが溢れる物を作っていった。
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「見て分からない?」
「見ればわかるから、言ってるんです!」
「だって、みんな粘液で生臭くなりそうだから……ね?」
「もぅー! いきなりこんなのを建てるからお客さんが集まり始めているんです!」
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三つ子に怒られてはいるけど、私としては怒られる意味がよく分からない。それに、怒りたいのは私の方でもある。ティルナールとエルシオンの二人は朝から出て行って心配をかけたわけだし、ちゃんと怒っておかなきゃいけない。
「それよりも、ティル、エル。私に言うことは無いの?」
「無いよ!」
「ボク等は朝からずっと会場の見回りしてただけだし」
「あら? サンドワームを探しに行ったんじゃないの?」
「するわけない」
「父上にも言われたけど、そんな暇ないよ。お客さんの安全一番だし」
これはどうやら、私の早とちりでルーファスを朝から動かしてしまったみたいだ。
なら、ルーファスは何ですぐに戻ってこなかったんだろう? サンドワームを一人追っていたんだろうか? 一言くらいあってもいいのに。
「とりあえず、母上。温泉はこれだけ?」
「ええ。これだけよ」
「うーん。どうしよう? ルーいい案はある?」
「そうねぇ。グリムレインにもう一つ同じ物を作ってもらうとか?」
三つ子は顔を突き合わせて、客を分散しようとか、金額はどうする? と、色々言っていて私の善意の温泉で何か商売のようなものをやろうとしている。
「待ちなさい。この温泉は外で戦っている人達に無償で入ってもらうものよ?」
「母上、それなら【刻狼亭】の外観にしちゃ駄目だよ」
「温泉大陸の温泉が味わえると思って、人が集まってるの」
「ここで商売根性出さなきゃリュー兄様に怒られちゃうわ」
リュエールとシュテン辺りならそういう事は言いそうだと、私も諦めてこの温泉はお客さん用にして、氷の壁の外側に同じ物をひっそりとグリムレインに建ててもらって、私とアルビーは外の兵士さん達に作業が終わったら温泉に入って下さいと言い、宿へ戻っていった。
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