黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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22章

氷の刻狼亭5

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 3日目の氷の刻狼亭が開催し、お客さん達が氷の街へ列をなして入ってきた時間帯になってもルーファスもティルナールエルシオンも戻ってこなかった。

 開催前に氷の壁は二重で造られ、グリムレインも大分スッキリし始めた体の形になってきた。
多少ごっつい感じのドラゴンという感じにはなっているけれど、まん丸ドラゴンよりかはマシかな?
ルーファスが戻らない為にお酒の店はシュテンが開店させて対応している。

「ふぅー……あの子達もルーファスも無茶して無きゃいいんだけど」
「早めに売り切って様子を見に行こうか?」
「そうだねー。アルビーの回復魔法があれば何かあれば助かるかもね」

 私とアルビーが話をしていたら、ハガネに「余計な考えすんなよ!」とツッコミを入れられて怒られ、リロノスさんからも「駄目ですよ」と軽くたしなめられた。
 
 お客さんの出入りが激しくなると、無駄口を叩いている暇なく店内のお客さんをさばく事に必死で、ルーファスや子供達が戻っていない事を考える暇が無くなっていた。

「完売ですー! ミッカジュース・ワッフル完売です! ご来店ありがとうございましたー!」

 アルビーと一緒に完売の札を店前に出し、少し不満げなお客さん達にアルビーとエデンとケイトも一緒に顔を出すとドラゴンに会えたことで歓声を上げて喜び、店の周りにはお客さんの人だかりが出来ていたが、次第に収まっていき、三日目最終日とあって私達は帰りの準備も含めて、店の片付けもしていた。

「にしても、何事もなくこちらは終わりましたね」
「あとは大旦那の店と刻狼亭の方だな」

 リロノスさんとハガネがワッフル機を綺麗に拭きあげて宅配用のワゴンに乗せると、私とアルビーも使った大きなフラスコ容器をワゴンに積んでいく。

「シュテン一人で大丈夫だったかな?」
「見に行こうか」

 ワゴンに荷物を積み終わると、ハガネとリロノスさんに【参風】へ荷物を温泉大陸へ届けてもらう様にお願いして、ルーファスのお店の方へ足を向けるとお店の周りは長蛇の列が出来ていた。
相変わらずの女性客の多さに「うーん」となってしまうけれど、シュテン一人でこれなのかと思うと凄いものもある。

 店内ではシュテンとルーファスがお客さんの相手をしていて、いつの間にルーファスが戻ってきたのかと目を丸くすると、シュテンが私とアルビーに気付き、小さく手招きしてカウンターの裏へ行くと、ルーファスもカウンターの裏へくる。
なんとなく気持ちの悪いルーファスに違和感を覚えていると、シュテンがルーファスに息を吹きかけると姿が歪んで消えてしまう。

「えっ!? 今の何!?」
「幻術のようなものです。流石に大旦那様の店に大旦那様が居ないのはどうかと思ったので」
「なるほど……じゃあ、ルーファスはまだ戻ってないのね?」
「ええ。一応、大女将が来たら「心配するな。探しに来るな」と伝言を預かっています」

 私の事をトラブルメーカーと思っていないだろうか? むむぅっと思いはするのものの、私はどうも変な事に首を突っ込んで怪我したりということが多いから、私になにかあると怒ったり困ったりする家族がいるのだから、大人しくはしているつもりではある。

 パキパキと音がして、地鳴りがすると「サンドワームだ!」と声がして、お店の外へ慌てて出て行く。
氷の壁の外では巨大なミミズのような魔獣が外側の二重壁に張り付いていた。
吸盤のように氷の壁に張り付いた口は丸くて中にいっぱい尖った歯が付いていた。
氷を砕くのに歯が回転して削り取って、氷の壁にヒビが広がっていく。

 人々が悲鳴を上げて潮が引くように、一斉に逃げ出す。一瞬空が陰り、上を見上げるとグリムレインが空に飛び立ち、サンドワームめがけて尖らせた氷を投げつけていた。

 ズシーンと振動が激しくなると、氷の壁の外はさながら怪獣映画のような戦闘となっていた。
砂煙を激しく上げながら、グリムレインがサンドワームを逃がさない様に掴みかかって、鋭い爪で体を引き裂くと、粘液が飛び散り、生臭さがこちらの方まで匂ってきていた。

「グリムレイン! 臭いんだけど!」
「仕方が無かろう! アルビーは嫁を連れて離れておれ!」
「私なら大丈夫! それよりグリムレイン無茶しちゃだめだよ!」

 グリムレインが「わかっておる!」と声を出した時、引き裂いて二つになったサンドワームの体が両方とも激しく動き、グリムレインの体に巻きついて地面へ転がると、地中からまたサンドワームが這い出してグリムレインに襲い掛かった。

「グリムレイン!?」
「アルビー! 回復魔法を!」
「回復魔法はいいけど、私はリューとシューの許可が無きゃ最大限の回復は出来ないから、アカリもいざとなったら回復魔法使ってね!」
「はい! 魔力ポーションは持ってるから大丈夫!」

 私は聖属性の回復魔法は加減が利かずに使うと魔力が全部持っていかれてしまうけど、魔力ポーションはちゃんと持ち歩いているから、二、三回なら大丈夫なはず。
 アルビーが私を抱き上げて氷の壁の外側へ飛んでいくと、サンドワームはグリムレインの体の至る場所に噛みついては引き千切られてを繰り返していた。
まるでヒルに吸い付かれたような感じで、グリムレインの体からは引き千切られて頭だけ食いついたまま残っている状態だ。

「アカリ、私達は空中で回復魔法をやろう」
「うん。それにしても数が凄いね……」

 うねうねと20匹ではきかない数のサンドワームの群れに背筋がゾワゾワしてしまう。

「【回復】……んっ? うわっ! なんかあいつ等こっちに頭上げてない?」
「そうだね……ミミズって目が無いはずだよねぇ?」

 サンドワームが何故かこちらの方へ頭を向けて首を伸ばしている気がする……のは私とアルビーの勘違いでも何でもなかったらしい。空中に粘液を吐きつけてきて、アルビーと私は大騒ぎしながら射程範囲外へ飛んで逃げるしかなかった。

「何アレ! 滅茶苦茶怖いっ!」
「以下同文! 何アレ!」

 ひぃぃっとアルビーと私が抱き合ってギャーギャー大騒ぎしていると、青白い炎がサンドワームの群れに飛んで行き、サンドワームがバタンバタンとのたうち回りながら「キィィィ」と声を上げて苦しんでいる。

 銀色のスラッとした狐が空を駆けながら、炎を吐いてはサンドワームに襲い掛かっていく。

「大女将! 私の話を聞いていなかったのか!?」
「えーと、この声はシュテン……かな?」
「かな? ではない! 私が大旦那様に叱られる! 早く戻って頂こう!」
「ひぃっ! シュテン怖い!」

 シュテンの炎にサンドワーム達は地中に潜り始め、グリムレインの体に張り付いていたサンドワームも地中へ潜っていく。
私達は体のサイズを小さくしてもらったグリムレインを回収して氷の街中へ戻ると、街中には犬族と思われる獣人達が巨大な鳥の魔獣を連れて、ジャガール国王と話し合いをしていて、そこへルーファスも居た。

「ルーファス!」

 私とアルビーがルーファスに手を振ると、耳をピクッと動かしたルーファスがこちらをチラッと見ると、少し呆れた目で見て、ジャガール国王と何かを話してからこちらへやってきた。

「アカリ、アルビー……お前達は、まったく何を考えているんだ。大人しく出来ないのか?」
「だって、グリムレインが襲われてたから、回復魔法掛けてあげなきゃいけなかったし」
「うんうん。今から、治療しようと思ってるの」
「まぁ、説教は治療が終わったらするから、覚悟しておけ」
「「えええ~っ!!」」

 そんなひどい! と私とアルビーの叫びをあとにルーファスは再び、ジャガール国王のところに行き、私達はグリムレインを連れて治療院へ行き、回復魔法と回復ポーションを使ってグリムレインの治療を始めたのだった。
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