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22章
氷の刻狼亭4
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ものの見事に外側の尖った氷が無くなっていた、氷の壁は無事で、尖った氷だけ持ち去られていた感じだった。
「ふぇー……、綺麗に無くなってるね」
「食われたんだろうなぁ……見てた奴等に聞いたら魔獣が張り付いてたらしいからな」
私達が一瞬だけ見たものは魔獣らしく、それがなんの魔獣かは少し判らない……というか、おそらく魔獣の王の魔石の欠片の影響で、魔獣がランクアップをしているものなのだろう。
報告が世界中から寄せられているので、あの魔獣もキチンと調べれば何がランクアップしたか判るとはおもうけど、一瞬過ぎて姿もよく分からない。
ハガネとティルナールとエルシオンと一緒に氷の壁周りを調べて、ウロウロしていると昼間にお店に来たミシリマーフの国王様が兵士を引き連れてやってきた。
国王様は兵士に命令し、氷の壁を魔法で調べ始め、兵士達を壁を囲む様に二人ずつ一定距離を保って配置していく。
少し神経質そうな顔の王様はジャガール・ジス・ミシリマーフという名前らしい。
ルーファスやシュテンと一緒に話をしていて、ハガネはまぁ、あれです。
私達が余計なことに首を突っ込まない様にとりあえず、子供達が興味津々な顔をしているから、氷の壁を調べて調査している振りなのか本気なのか、一緒にしていてくれて、監視をしてくれている感じかな?
「ほれ、アカリ。これなんか見てみろ。ベッタベタで粘液ついてるから相当ヨダレが凄い魔獣みたいだぞ」
「うわぁー……本当だー……って、臭ッ! なにそれ!? 凄く臭いーッ!」
「うわっ! ハガネ、あっち向けて!」
「なんだか……雨が降る前の匂いみたい、土煙みたいな?」
氷が透明の液体でべちょべちょに糸を引いているものをハガネが木の棒でつつき、私達の前に持ってきたけど、生臭い! 何だろう……どこかで嗅いだことがあるけど、そんなに好きじゃない匂い。
土っぽくて生臭い!?
「ハガネ! ポイしなさい! メッ!」
「ニシシツ、しっかしよぉー、これ、なんか馴染みの匂いがしねぇ?」
「あーうん、それは思うけど……どこで嗅いだかとかわかんないよ」
「なぁなぁ、大旦那かシュテン。これ何の匂いかわかるか?」
棒の先に付いた粘液をハガネがルーファスとシュテンに向けると、二人は眉間にしわを寄せて口をそろえて言った。
「「お前の方が地中なら鼻は利くだろ!」」
ほほう? 地中なら鼻がいいのかとハガネを見上げると、ハガネも鼻の上にしわを寄せて「うへぇー」と言って、嗅ぐのを拒否している。
だよねぇ……臭いもんねぇ。
「でもよぉ……記憶にある匂いはしてるんだよ」
「それは私も同じです。土いじりの時に嗅ぐ様な匂いだよね」
「あーっ! それだよ! 最近、畑仕事でよく嗅ぐ!」
「「ああっ!! ミミズ!!」」
私とハガネの意見がピタッと合わさる。
そう、この土の匂いの粘液の匂いは、ハーブを弄ったりしている時にミミズが出す粘液の匂いに似ている。
これで私としてはスッキリしたが、今度はルーファス達が怪訝な顔をして、ジャガール国王と話し始めてしまった。
「ねぇねぇ、ハガネ。なに話してるんだろう?」
「あー、何か魔獣の正体がわかったっぽいな」
ハガネの髪の中で耳が小さく動いて聞き耳を立てている。
ギロッとルーファスに睨まれて、ハガネと私達はサッと顔を背ける。
「ハガネ、そろそろアカリ達を連れて戻っていろ」
「へーい。ほれ、アカリ帰んぞ」
「うん。ティル、エル、帰りますよ」
「えーっ、母上もう少し!」
「父上、魔獣の正体ってなーに?」
ハァ―……と、ルーファスが眉間にしわを寄せて溜め息をはいて私達を睨む。
「アカリ、子供達を連れて戻っていろ」
「ほら、二人共帰りますよ。大人にあとは任せておきましょうね?」
「だって、ボク等は実行委員だし」
「明日の開催の為にも、ちゃんと把握してないと」
「こらっ! お前等、余計な事言ってねぇで帰るぞ! ったく、アカリに似て変に首を突っ込みたがる奴等だな」
「酷いハガネ! 私は自分から首を突っ込んでないもの!」
「どーだかな」
ハガネにも首根っこを掴まれて、私達は退散することになった。
「あと少し魔獣の正体がわかるところだったのになぁ」と子供達は不満を口にするけど、正体が分かったところで、私達に何かできる事はないと思うんだけどね。
「んな口尖らせても、大旦那がああいうんだからしゃーねぇだろ?」
「だって、グリムレインに教えてあげたいし」
「そうだよ! 父上達だけズルい!」
「二人共、ルーファスは遊びでやっているんじゃないの! もう!」
魔獣ごときに自分の作った氷の壁を食べられてしまった、と嘆くグリムレインは今現在血眼になって空から魔獣探しをしていて、私も情報があれば教えてはあげたいけど、あの生臭い粘液の匂いの魔獣に自分から近付きたくはないなぁ……。
「ねぇ? ハガネは地中なら鼻が利くんだよね?」
「そりゃ、アナグマ族だからな。あっ! でも駄目だぜ? 大旦那に俺が皮剥ぎ取られて太鼓にでもされかねねぇからな! やめろよ? 危ねぇ事に首はツッコむなよ!」
「それはわかってるよ。だからね、明日、明るくなったた時に、探しに来よ?」
「こらぁ! 二人共ハガネを巻き込まないの! それと、魔獣探しをするなんて駄目ですからね!」
私が怒るとティルナールとエルシオンは「わかってるー」と声を出すけど、怪しい。
それに、獣人のこの子達ならハガネが手を貸さなくても、自分達の鼻で探してしまいそうな感じもする。
二人を宿屋の部屋に連れて行き、ハガネに二人が抜け出さない様にお願いしてから、ルーシーの部屋に行きスクルードを受け取ると私も部屋に戻った。
私とスクルードがお風呂から上がる頃にルーファスも部屋に戻ってきた。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「魔獣の正体がわかったところだ。明日は氷の壁を二重に巡らせて、祭りが終わったら討伐という話になった」
「正体は何だったんですか?」
ルーファスが私の顔に鼻を近づけて匂いを嗅ぎながら、こめかみや頬にキスして「ただいま」と言い、スクルードの額にもキスをする。
「二人共甘い香りがするな」
「あ、うん。南国のフルーツを使った石けんがこのお宿のお風呂場に付いてて、使わせてもらったの」
「チョコレートに似た様な匂いだな」
「うん。甘いお菓子みたいな匂いだよね。で、魔獣の正体は?」
「アカリは知りたがり屋だな」
ニコッと笑って見上げると、仕方ないという顔でルーファスが教えてくれる。
「ハガネとアカリが言っていただろう? ミミズの匂いだと」
「うん。そんな感じだなって」
「それでサンドワームという魔獣のランクアップしたものではないかという事になり、明日、実際に捕らえて調べることになったが、サンドワームとあたりを付けておけば、対策は取れる」
「サンドワーム?」
「デカいミミズだと思えばいい。まぁ、口が無数の牙だらけで噛みつかれたら、肉がミンチ状態になるが」
「ひぇぇ……」
想像するとちょっと怖い。
でもミミズという事は土を耕す良い魔獣なのでは無いだろうか?
畑やハーブ園のミミズは良いモノだと言われているし、ミミズが居るうちは土が良くない状態で、ミミズが居なくなったら畑の土は良い状態と言える。
なぜならミミズは腐葉土を食べて土を綺麗に浄化していくから、そういう餌が無くなった土はつまり、腐葉土の無い良い状態の土になったという事。
だから、最初のうちはミミズは土の状態を知るのにいい生き物といえる。
「悪い魔獣なの?」
「んーっ、サンドワームは何でも食うからな。砂漠地帯でも作物を育てる事が出来る理由の一つがサンドワームが土を浄化しているという事もあるから、全部が全部悪いわけではない。ただ、こう人が多い場所に現れると、被害が出る前に退治する必要がある」
「なんでサンドワームはこの氷の街に来て壁を食べたんだろう?」
「ああ、グリムレインの魔力が入った氷はご馳走になんだろう。魔獣は魔力の豊富な物が好きだからな」
「なるほど」
腕に抱いていたスクルードが小さく欠伸をしてうにうにし始めたので、お喋りは止めてスクルードが眠れるように静かにキスを交わして、ルーファスはお風呂へ行き、その間にスクルード用に部屋に備え付けて貰ったベビーベッドへ寝かせる。
それにしても、ミミズの魔獣をも魅了してしまう程グリムレインの氷は美味しいのか……明日はかき氷でも作ってもらおうかな? と小さく笑って思っていると、ベッドに横になっているうちに睡魔に誘われていつの間にか眠っていた。
鼻をくすぐるような甘い香りにムニムニと口を動かすと、口の中で肉質な物を感じて目を開ける。口の中にはルーファスの腕。噛んで眠っていたらしく、ルーファスが目を開けて私を見ていた。
「ふあっ! ごめんなさい! 痛くなかった? 大丈夫?」
「んっ、アカリに噛まれたぐらいじゃ痛くない、まぁ少し、くすぐったかったが」
「ひぇぇ、ごめんね。どうして噛んじゃったんだろう?」
「この宿の石けんの匂いが甘かったからだろう?」
スンスンとルーファスの匂いを嗅ぐと、たしかにこの宿の石けんの甘い香りがする。
私はお腹でも空いていたんだろうか? まぁ、少し減ったかもしれないけど、まだ朝日がでたばかりの夜の残り空が残っている。
ルーファスの腕を拭こうと手を伸ばすと、腕を取られて引き寄せられて抱き枕の様に腕の中に収められてしまう。
「やっぱり甘くていい香りだな」
「ふふっ、ルーファスも同じ匂いだよ?」
「アカリの番の匂いと混じって良い香りだ」
「気に入ったのなら、お土産に買っていきましょうか?」
「それもいいな」
肌と布団の中の温かさの中でほんのりと甘く香る石けんの香りに、朝からこうしているのも甘いなぁと思っていると、トタトタと廊下を掛ける足音が小さくして、ルーファスが少し身じろいで「ティルとエルか」と足音の主を特定する。
あの子達はこんな朝早くに何をしているのかしら? と思って、少しウトウトしてつつ……ハッとする。
「ルーファス! あの子達、魔獣を探し出す気かも!」
「魔獣をか? サンドワームは夜から朝にかけては出ないが……まぁ、見て来るか」
着替えるとルーファスと一緒に部屋を出ようとしたら、ルーファスに私は駄目だと言われ、スクルードも私とルーファスがバタバタ着替えを慌ただしくしている物音に目を覚まして泣きだしたので、私は大人しく残る事になった。
「ふぇー……、綺麗に無くなってるね」
「食われたんだろうなぁ……見てた奴等に聞いたら魔獣が張り付いてたらしいからな」
私達が一瞬だけ見たものは魔獣らしく、それがなんの魔獣かは少し判らない……というか、おそらく魔獣の王の魔石の欠片の影響で、魔獣がランクアップをしているものなのだろう。
報告が世界中から寄せられているので、あの魔獣もキチンと調べれば何がランクアップしたか判るとはおもうけど、一瞬過ぎて姿もよく分からない。
ハガネとティルナールとエルシオンと一緒に氷の壁周りを調べて、ウロウロしていると昼間にお店に来たミシリマーフの国王様が兵士を引き連れてやってきた。
国王様は兵士に命令し、氷の壁を魔法で調べ始め、兵士達を壁を囲む様に二人ずつ一定距離を保って配置していく。
少し神経質そうな顔の王様はジャガール・ジス・ミシリマーフという名前らしい。
ルーファスやシュテンと一緒に話をしていて、ハガネはまぁ、あれです。
私達が余計なことに首を突っ込まない様にとりあえず、子供達が興味津々な顔をしているから、氷の壁を調べて調査している振りなのか本気なのか、一緒にしていてくれて、監視をしてくれている感じかな?
「ほれ、アカリ。これなんか見てみろ。ベッタベタで粘液ついてるから相当ヨダレが凄い魔獣みたいだぞ」
「うわぁー……本当だー……って、臭ッ! なにそれ!? 凄く臭いーッ!」
「うわっ! ハガネ、あっち向けて!」
「なんだか……雨が降る前の匂いみたい、土煙みたいな?」
氷が透明の液体でべちょべちょに糸を引いているものをハガネが木の棒でつつき、私達の前に持ってきたけど、生臭い! 何だろう……どこかで嗅いだことがあるけど、そんなに好きじゃない匂い。
土っぽくて生臭い!?
「ハガネ! ポイしなさい! メッ!」
「ニシシツ、しっかしよぉー、これ、なんか馴染みの匂いがしねぇ?」
「あーうん、それは思うけど……どこで嗅いだかとかわかんないよ」
「なぁなぁ、大旦那かシュテン。これ何の匂いかわかるか?」
棒の先に付いた粘液をハガネがルーファスとシュテンに向けると、二人は眉間にしわを寄せて口をそろえて言った。
「「お前の方が地中なら鼻は利くだろ!」」
ほほう? 地中なら鼻がいいのかとハガネを見上げると、ハガネも鼻の上にしわを寄せて「うへぇー」と言って、嗅ぐのを拒否している。
だよねぇ……臭いもんねぇ。
「でもよぉ……記憶にある匂いはしてるんだよ」
「それは私も同じです。土いじりの時に嗅ぐ様な匂いだよね」
「あーっ! それだよ! 最近、畑仕事でよく嗅ぐ!」
「「ああっ!! ミミズ!!」」
私とハガネの意見がピタッと合わさる。
そう、この土の匂いの粘液の匂いは、ハーブを弄ったりしている時にミミズが出す粘液の匂いに似ている。
これで私としてはスッキリしたが、今度はルーファス達が怪訝な顔をして、ジャガール国王と話し始めてしまった。
「ねぇねぇ、ハガネ。なに話してるんだろう?」
「あー、何か魔獣の正体がわかったっぽいな」
ハガネの髪の中で耳が小さく動いて聞き耳を立てている。
ギロッとルーファスに睨まれて、ハガネと私達はサッと顔を背ける。
「ハガネ、そろそろアカリ達を連れて戻っていろ」
「へーい。ほれ、アカリ帰んぞ」
「うん。ティル、エル、帰りますよ」
「えーっ、母上もう少し!」
「父上、魔獣の正体ってなーに?」
ハァ―……と、ルーファスが眉間にしわを寄せて溜め息をはいて私達を睨む。
「アカリ、子供達を連れて戻っていろ」
「ほら、二人共帰りますよ。大人にあとは任せておきましょうね?」
「だって、ボク等は実行委員だし」
「明日の開催の為にも、ちゃんと把握してないと」
「こらっ! お前等、余計な事言ってねぇで帰るぞ! ったく、アカリに似て変に首を突っ込みたがる奴等だな」
「酷いハガネ! 私は自分から首を突っ込んでないもの!」
「どーだかな」
ハガネにも首根っこを掴まれて、私達は退散することになった。
「あと少し魔獣の正体がわかるところだったのになぁ」と子供達は不満を口にするけど、正体が分かったところで、私達に何かできる事はないと思うんだけどね。
「んな口尖らせても、大旦那がああいうんだからしゃーねぇだろ?」
「だって、グリムレインに教えてあげたいし」
「そうだよ! 父上達だけズルい!」
「二人共、ルーファスは遊びでやっているんじゃないの! もう!」
魔獣ごときに自分の作った氷の壁を食べられてしまった、と嘆くグリムレインは今現在血眼になって空から魔獣探しをしていて、私も情報があれば教えてはあげたいけど、あの生臭い粘液の匂いの魔獣に自分から近付きたくはないなぁ……。
「ねぇ? ハガネは地中なら鼻が利くんだよね?」
「そりゃ、アナグマ族だからな。あっ! でも駄目だぜ? 大旦那に俺が皮剥ぎ取られて太鼓にでもされかねねぇからな! やめろよ? 危ねぇ事に首はツッコむなよ!」
「それはわかってるよ。だからね、明日、明るくなったた時に、探しに来よ?」
「こらぁ! 二人共ハガネを巻き込まないの! それと、魔獣探しをするなんて駄目ですからね!」
私が怒るとティルナールとエルシオンは「わかってるー」と声を出すけど、怪しい。
それに、獣人のこの子達ならハガネが手を貸さなくても、自分達の鼻で探してしまいそうな感じもする。
二人を宿屋の部屋に連れて行き、ハガネに二人が抜け出さない様にお願いしてから、ルーシーの部屋に行きスクルードを受け取ると私も部屋に戻った。
私とスクルードがお風呂から上がる頃にルーファスも部屋に戻ってきた。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「魔獣の正体がわかったところだ。明日は氷の壁を二重に巡らせて、祭りが終わったら討伐という話になった」
「正体は何だったんですか?」
ルーファスが私の顔に鼻を近づけて匂いを嗅ぎながら、こめかみや頬にキスして「ただいま」と言い、スクルードの額にもキスをする。
「二人共甘い香りがするな」
「あ、うん。南国のフルーツを使った石けんがこのお宿のお風呂場に付いてて、使わせてもらったの」
「チョコレートに似た様な匂いだな」
「うん。甘いお菓子みたいな匂いだよね。で、魔獣の正体は?」
「アカリは知りたがり屋だな」
ニコッと笑って見上げると、仕方ないという顔でルーファスが教えてくれる。
「ハガネとアカリが言っていただろう? ミミズの匂いだと」
「うん。そんな感じだなって」
「それでサンドワームという魔獣のランクアップしたものではないかという事になり、明日、実際に捕らえて調べることになったが、サンドワームとあたりを付けておけば、対策は取れる」
「サンドワーム?」
「デカいミミズだと思えばいい。まぁ、口が無数の牙だらけで噛みつかれたら、肉がミンチ状態になるが」
「ひぇぇ……」
想像するとちょっと怖い。
でもミミズという事は土を耕す良い魔獣なのでは無いだろうか?
畑やハーブ園のミミズは良いモノだと言われているし、ミミズが居るうちは土が良くない状態で、ミミズが居なくなったら畑の土は良い状態と言える。
なぜならミミズは腐葉土を食べて土を綺麗に浄化していくから、そういう餌が無くなった土はつまり、腐葉土の無い良い状態の土になったという事。
だから、最初のうちはミミズは土の状態を知るのにいい生き物といえる。
「悪い魔獣なの?」
「んーっ、サンドワームは何でも食うからな。砂漠地帯でも作物を育てる事が出来る理由の一つがサンドワームが土を浄化しているという事もあるから、全部が全部悪いわけではない。ただ、こう人が多い場所に現れると、被害が出る前に退治する必要がある」
「なんでサンドワームはこの氷の街に来て壁を食べたんだろう?」
「ああ、グリムレインの魔力が入った氷はご馳走になんだろう。魔獣は魔力の豊富な物が好きだからな」
「なるほど」
腕に抱いていたスクルードが小さく欠伸をしてうにうにし始めたので、お喋りは止めてスクルードが眠れるように静かにキスを交わして、ルーファスはお風呂へ行き、その間にスクルード用に部屋に備え付けて貰ったベビーベッドへ寝かせる。
それにしても、ミミズの魔獣をも魅了してしまう程グリムレインの氷は美味しいのか……明日はかき氷でも作ってもらおうかな? と小さく笑って思っていると、ベッドに横になっているうちに睡魔に誘われていつの間にか眠っていた。
鼻をくすぐるような甘い香りにムニムニと口を動かすと、口の中で肉質な物を感じて目を開ける。口の中にはルーファスの腕。噛んで眠っていたらしく、ルーファスが目を開けて私を見ていた。
「ふあっ! ごめんなさい! 痛くなかった? 大丈夫?」
「んっ、アカリに噛まれたぐらいじゃ痛くない、まぁ少し、くすぐったかったが」
「ひぇぇ、ごめんね。どうして噛んじゃったんだろう?」
「この宿の石けんの匂いが甘かったからだろう?」
スンスンとルーファスの匂いを嗅ぐと、たしかにこの宿の石けんの甘い香りがする。
私はお腹でも空いていたんだろうか? まぁ、少し減ったかもしれないけど、まだ朝日がでたばかりの夜の残り空が残っている。
ルーファスの腕を拭こうと手を伸ばすと、腕を取られて引き寄せられて抱き枕の様に腕の中に収められてしまう。
「やっぱり甘くていい香りだな」
「ふふっ、ルーファスも同じ匂いだよ?」
「アカリの番の匂いと混じって良い香りだ」
「気に入ったのなら、お土産に買っていきましょうか?」
「それもいいな」
肌と布団の中の温かさの中でほんのりと甘く香る石けんの香りに、朝からこうしているのも甘いなぁと思っていると、トタトタと廊下を掛ける足音が小さくして、ルーファスが少し身じろいで「ティルとエルか」と足音の主を特定する。
あの子達はこんな朝早くに何をしているのかしら? と思って、少しウトウトしてつつ……ハッとする。
「ルーファス! あの子達、魔獣を探し出す気かも!」
「魔獣をか? サンドワームは夜から朝にかけては出ないが……まぁ、見て来るか」
着替えるとルーファスと一緒に部屋を出ようとしたら、ルーファスに私は駄目だと言われ、スクルードも私とルーファスがバタバタ着替えを慌ただしくしている物音に目を覚まして泣きだしたので、私は大人しく残る事になった。
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