黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
683 / 960
22章

狼と朝練

しおりを挟む
 パンパンッと、洗濯物を手で伸ばしてベランダに干していく。
私の後ろには洗濯籠を持ったルーシーがお手伝いをしてくれている。そして背中にはスクルードをおんぶしていて、とても良いお姉ちゃんぶりを発揮している。

 眼下では、庭で朝の訓練をしているルーファスとエルシオンとティルナールが元気に動き回っている。
こうして見てみると、エルシオンは昔の様なおっかなびっくりの動きは無いし、ティルナールも自分がドンドン前にいく戦法ではなく、エルシオンの動きに合わせて動くようになっている。

「エルもティルも父上の左から攻撃するなんて馬鹿ね」

 ルーシーは自分の三つ子の兄達を呆れた顔をしてみた後で、私に新しい洗濯物を手渡してくる。確かに左側から回り込んでティルナールとエルシオンがルーファスを攻撃しようとして、軽くいなされている。

「左側からじゃ駄目なの?」
「だって、父上の左は母上を抱き上げるから、左側の攻撃だけは父上は許さないもの」

 そういえば、抱き上げられる時はいつも左側な気がする。
ルーファスはちょっと、かなり? 私をか弱い者として、過保護なくらいに扱うから、出会った時から抱き上げるのはデフォだものね……。
うちの息子達はお嫁さん達に人前でそういうスキンシップをする子はいない気もするけど……反面教師かな?

「あっ、兄上達も参加するみたい」
「本当だ。起きたみたいね」

 昨日、我が家に泊まったリュエールとシュトラールも縁側から出てきて、軽く伸びをすると、ルーファスが片手で「来い」と促し、二人が訓練に参戦した。
獣人族の狼族は血気盛んなのか、どうもこういった体術訓練が好きみたいで、ルーファスも楽しそうに相手をしている。

「ティル! エル! 伏せて!」

 ルーシーの声に二人がしゃがみ、ルーファスの蹴りが二人の頭スレスレに横切る。

「しっかりしなさい! 二人共、兄上達にいいとこ持っていかれちゃうわよ!」
「わっ! ルーもおいでよ!」
「わっ! ルーシー手伝ってよ!」
「嫌よ! わたしは女の子だもーん!」
「「あはは、それ、何かの間違いじゃない?」」
「なんですって!!」

 ティルナールとエルシオンの軽口にルーシーが憤慨して、ベランダから飛び降りようと柵に足を掛けると、私は慌ててルーシーを止めにかかる。

「ルーシー! スーちゃんをおんぶしてるの忘れないで!」
「あっ、母上、スーちゃんの事お願い。あいつ等殴ってくる」

 言うやいなや、ルーシーはおんぶ紐を外して、スクルードを私に預けるとベランダから飛び降りていく。普通に二階のベランダなのだけど、獣人の身体能力では造作もないようだ。
早速、ルーシーがティルナールとエルシオンを殴りに拳を回している。

「それじゃ、父上。僕達の相手、頼むね!」
「腕が鈍ってないといいね。父上」

 ルーシー達三人が追いかけっこを始めると、リュエールとシュトラールが本気参戦という感じで、ルーファスに左右から回し蹴りを入れると、ルーファスがシュトラールの頭に手を置いて空を飛んで、シュトラールに回し蹴りをして、リュエールの回し蹴りがシュトラールに入る。

「ギャイン! 痛ーい!」
「わっ、シュー。邪魔!」
「甘い。お前達こそ鈍ったんじゃないか?」

 首をコキコキと鳴らしてルーファスが二人を見て、片眉を上げて意地の悪そうな笑顔を向ける。
あらあら、シュトラールがルーファスを煽る様な事を言うのが悪いわね……これは。

「シュー、頑張ってー!」
「がんがえー!」

 フィリアちゃんとルビスちゃんが縁側から、シュトラールに声援を送ると尻尾をブンブン振って笑顔を見せると、リュエールとルーファスが「隙あり!」と片方ずつの足に足払いをして、シュトラールが地面に倒れる。

「シュー、油断禁物」
「シュー、お前は緊張感が無さ過ぎだ」
「二人共、さっきからオレに酷くない!?」

 騒ぐシュトラールにフィリアちゃんが眉尻を下げて笑い、スゴスゴとシュトラールは縁側に座ってルビスちゃんに「いたいいたい?」と言われて、首を振って笑顔を見せている。良いお父さんっぷりになっている様で、安心である。

 洗濯物も全部干し終わった私はスクルードを抱っこして下の階へおりて、台所で冷たい飲み物を用意していると、ミルアとナルアが色違いの浴衣を着て出かけるところだった。

「母上、ミールとデートしてきますわ」
「母上、シノとデートしてきますわ」
「ふふっ、楽しんできて。ちゃんと父上の言う通りお互いから目を離さないようにね?」
「「わかってますわー」」

 少しだけ頬を膨らませて二人は庭に居るルーファス達に声をかけて出掛けて行く。
デートに関してはルーファスは文句を言わなかったが、四人で行動する事を約束させていた。二人っきりは禁止の方向の様だ。
「Wデートみたいで楽しそうね!」と言う私の言葉で二人は渋々ルーファスの約束を呑んだ感じかな?
いやはや、ルーファスは相変わらずの心配性っぷりである。

 縁側に飲み物を持っていくと、いつの間にか従業員宿舎から従業員達が庭に来ていた。

「大旦那が勝つに、一銀貨(一万円)!」
「旦那が勝つ方に、二銀貨(二万円)!」

 何だか妙な事で盛り上がりをみせている気がする。

「おっ、だったら、俺は引き分けに一金貨(十万円)な」
「ハガネから金を奪う為にも、大旦那頑張れー!」
「旦那の方が若いんだから、やっちまえー!」

 自分達の雇い主で博打をする従業員達に、ルーファスとリュエールが片眉を上げて「やれやれ」という顔をするものの、お互いに負ける気は無いようで、足だけではなく手も使って攻防を繰り返している。

 ハガネが私の横に来てニッと笑うとルーファスとリュエールに声を出す。

「大旦那、アカリが飲み物持ってきたぞー! リュー、嫁さんが戻ったみたいだぞ!」

 二人の動きが止まると、ハガネが「ほい。引き分けな」とニシシと笑い。
お金を掛けて騒いでいた従業員達が「ハガネー!!」と叫んだのだった。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。