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22章
狼と朝練
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パンパンッと、洗濯物を手で伸ばしてベランダに干していく。
私の後ろには洗濯籠を持ったルーシーがお手伝いをしてくれている。そして背中にはスクルードをおんぶしていて、とても良いお姉ちゃんぶりを発揮している。
眼下では、庭で朝の訓練をしているルーファスとエルシオンとティルナールが元気に動き回っている。
こうして見てみると、エルシオンは昔の様なおっかなびっくりの動きは無いし、ティルナールも自分がドンドン前にいく戦法ではなく、エルシオンの動きに合わせて動くようになっている。
「エルもティルも父上の左から攻撃するなんて馬鹿ね」
ルーシーは自分の三つ子の兄達を呆れた顔をしてみた後で、私に新しい洗濯物を手渡してくる。確かに左側から回り込んでティルナールとエルシオンがルーファスを攻撃しようとして、軽くいなされている。
「左側からじゃ駄目なの?」
「だって、父上の左は母上を抱き上げるから、左側の攻撃だけは父上は許さないもの」
そういえば、抱き上げられる時はいつも左側な気がする。
ルーファスはちょっと、かなり? 私をか弱い者として、過保護なくらいに扱うから、出会った時から抱き上げるのはデフォだものね……。
うちの息子達はお嫁さん達に人前でそういうスキンシップをする子はいない気もするけど……反面教師かな?
「あっ、兄上達も参加するみたい」
「本当だ。起きたみたいね」
昨日、我が家に泊まったリュエールとシュトラールも縁側から出てきて、軽く伸びをすると、ルーファスが片手で「来い」と促し、二人が訓練に参戦した。
獣人族の狼族は血気盛んなのか、どうもこういった体術訓練が好きみたいで、ルーファスも楽しそうに相手をしている。
「ティル! エル! 伏せて!」
ルーシーの声に二人がしゃがみ、ルーファスの蹴りが二人の頭スレスレに横切る。
「しっかりしなさい! 二人共、兄上達にいいとこ持っていかれちゃうわよ!」
「わっ! ルーもおいでよ!」
「わっ! ルーシー手伝ってよ!」
「嫌よ! わたしは女の子だもーん!」
「「あはは、それ、何かの間違いじゃない?」」
「なんですって!!」
ティルナールとエルシオンの軽口にルーシーが憤慨して、ベランダから飛び降りようと柵に足を掛けると、私は慌ててルーシーを止めにかかる。
「ルーシー! スーちゃんをおんぶしてるの忘れないで!」
「あっ、母上、スーちゃんの事お願い。あいつ等殴ってくる」
言うやいなや、ルーシーはおんぶ紐を外して、スクルードを私に預けるとベランダから飛び降りていく。普通に二階のベランダなのだけど、獣人の身体能力では造作もないようだ。
早速、ルーシーがティルナールとエルシオンを殴りに拳を回している。
「それじゃ、父上。僕達の相手、頼むね!」
「腕が鈍ってないといいね。父上」
ルーシー達三人が追いかけっこを始めると、リュエールとシュトラールが本気参戦という感じで、ルーファスに左右から回し蹴りを入れると、ルーファスがシュトラールの頭に手を置いて空を飛んで、シュトラールに回し蹴りをして、リュエールの回し蹴りがシュトラールに入る。
「ギャイン! 痛ーい!」
「わっ、シュー。邪魔!」
「甘い。お前達こそ鈍ったんじゃないか?」
首をコキコキと鳴らしてルーファスが二人を見て、片眉を上げて意地の悪そうな笑顔を向ける。
あらあら、シュトラールがルーファスを煽る様な事を言うのが悪いわね……これは。
「シュー、頑張ってー!」
「がんがえー!」
フィリアちゃんとルビスちゃんが縁側から、シュトラールに声援を送ると尻尾をブンブン振って笑顔を見せると、リュエールとルーファスが「隙あり!」と片方ずつの足に足払いをして、シュトラールが地面に倒れる。
「シュー、油断禁物」
「シュー、お前は緊張感が無さ過ぎだ」
「二人共、さっきからオレに酷くない!?」
騒ぐシュトラールにフィリアちゃんが眉尻を下げて笑い、スゴスゴとシュトラールは縁側に座ってルビスちゃんに「いたいいたい?」と言われて、首を振って笑顔を見せている。良いお父さんっぷりになっている様で、安心である。
洗濯物も全部干し終わった私はスクルードを抱っこして下の階へおりて、台所で冷たい飲み物を用意していると、ミルアとナルアが色違いの浴衣を着て出かけるところだった。
「母上、ミールとデートしてきますわ」
「母上、シノとデートしてきますわ」
「ふふっ、楽しんできて。ちゃんと父上の言う通りお互いから目を離さないようにね?」
「「わかってますわー」」
少しだけ頬を膨らませて二人は庭に居るルーファス達に声をかけて出掛けて行く。
デートに関してはルーファスは文句を言わなかったが、四人で行動する事を約束させていた。二人っきりは禁止の方向の様だ。
「Wデートみたいで楽しそうね!」と言う私の言葉で二人は渋々ルーファスの約束を呑んだ感じかな?
いやはや、ルーファスは相変わらずの心配性っぷりである。
縁側に飲み物を持っていくと、いつの間にか従業員宿舎から従業員達が庭に来ていた。
「大旦那が勝つに、一銀貨(一万円)!」
「旦那が勝つ方に、二銀貨(二万円)!」
何だか妙な事で盛り上がりをみせている気がする。
「おっ、だったら、俺は引き分けに一金貨(十万円)な」
「ハガネから金を奪う為にも、大旦那頑張れー!」
「旦那の方が若いんだから、やっちまえー!」
自分達の雇い主で博打をする従業員達に、ルーファスとリュエールが片眉を上げて「やれやれ」という顔をするものの、お互いに負ける気は無いようで、足だけではなく手も使って攻防を繰り返している。
ハガネが私の横に来てニッと笑うとルーファスとリュエールに声を出す。
「大旦那、アカリが飲み物持ってきたぞー! リュー、嫁さんが戻ったみたいだぞ!」
二人の動きが止まると、ハガネが「ほい。引き分けな」とニシシと笑い。
お金を掛けて騒いでいた従業員達が「ハガネー!!」と叫んだのだった。
私の後ろには洗濯籠を持ったルーシーがお手伝いをしてくれている。そして背中にはスクルードをおんぶしていて、とても良いお姉ちゃんぶりを発揮している。
眼下では、庭で朝の訓練をしているルーファスとエルシオンとティルナールが元気に動き回っている。
こうして見てみると、エルシオンは昔の様なおっかなびっくりの動きは無いし、ティルナールも自分がドンドン前にいく戦法ではなく、エルシオンの動きに合わせて動くようになっている。
「エルもティルも父上の左から攻撃するなんて馬鹿ね」
ルーシーは自分の三つ子の兄達を呆れた顔をしてみた後で、私に新しい洗濯物を手渡してくる。確かに左側から回り込んでティルナールとエルシオンがルーファスを攻撃しようとして、軽くいなされている。
「左側からじゃ駄目なの?」
「だって、父上の左は母上を抱き上げるから、左側の攻撃だけは父上は許さないもの」
そういえば、抱き上げられる時はいつも左側な気がする。
ルーファスはちょっと、かなり? 私をか弱い者として、過保護なくらいに扱うから、出会った時から抱き上げるのはデフォだものね……。
うちの息子達はお嫁さん達に人前でそういうスキンシップをする子はいない気もするけど……反面教師かな?
「あっ、兄上達も参加するみたい」
「本当だ。起きたみたいね」
昨日、我が家に泊まったリュエールとシュトラールも縁側から出てきて、軽く伸びをすると、ルーファスが片手で「来い」と促し、二人が訓練に参戦した。
獣人族の狼族は血気盛んなのか、どうもこういった体術訓練が好きみたいで、ルーファスも楽しそうに相手をしている。
「ティル! エル! 伏せて!」
ルーシーの声に二人がしゃがみ、ルーファスの蹴りが二人の頭スレスレに横切る。
「しっかりしなさい! 二人共、兄上達にいいとこ持っていかれちゃうわよ!」
「わっ! ルーもおいでよ!」
「わっ! ルーシー手伝ってよ!」
「嫌よ! わたしは女の子だもーん!」
「「あはは、それ、何かの間違いじゃない?」」
「なんですって!!」
ティルナールとエルシオンの軽口にルーシーが憤慨して、ベランダから飛び降りようと柵に足を掛けると、私は慌ててルーシーを止めにかかる。
「ルーシー! スーちゃんをおんぶしてるの忘れないで!」
「あっ、母上、スーちゃんの事お願い。あいつ等殴ってくる」
言うやいなや、ルーシーはおんぶ紐を外して、スクルードを私に預けるとベランダから飛び降りていく。普通に二階のベランダなのだけど、獣人の身体能力では造作もないようだ。
早速、ルーシーがティルナールとエルシオンを殴りに拳を回している。
「それじゃ、父上。僕達の相手、頼むね!」
「腕が鈍ってないといいね。父上」
ルーシー達三人が追いかけっこを始めると、リュエールとシュトラールが本気参戦という感じで、ルーファスに左右から回し蹴りを入れると、ルーファスがシュトラールの頭に手を置いて空を飛んで、シュトラールに回し蹴りをして、リュエールの回し蹴りがシュトラールに入る。
「ギャイン! 痛ーい!」
「わっ、シュー。邪魔!」
「甘い。お前達こそ鈍ったんじゃないか?」
首をコキコキと鳴らしてルーファスが二人を見て、片眉を上げて意地の悪そうな笑顔を向ける。
あらあら、シュトラールがルーファスを煽る様な事を言うのが悪いわね……これは。
「シュー、頑張ってー!」
「がんがえー!」
フィリアちゃんとルビスちゃんが縁側から、シュトラールに声援を送ると尻尾をブンブン振って笑顔を見せると、リュエールとルーファスが「隙あり!」と片方ずつの足に足払いをして、シュトラールが地面に倒れる。
「シュー、油断禁物」
「シュー、お前は緊張感が無さ過ぎだ」
「二人共、さっきからオレに酷くない!?」
騒ぐシュトラールにフィリアちゃんが眉尻を下げて笑い、スゴスゴとシュトラールは縁側に座ってルビスちゃんに「いたいいたい?」と言われて、首を振って笑顔を見せている。良いお父さんっぷりになっている様で、安心である。
洗濯物も全部干し終わった私はスクルードを抱っこして下の階へおりて、台所で冷たい飲み物を用意していると、ミルアとナルアが色違いの浴衣を着て出かけるところだった。
「母上、ミールとデートしてきますわ」
「母上、シノとデートしてきますわ」
「ふふっ、楽しんできて。ちゃんと父上の言う通りお互いから目を離さないようにね?」
「「わかってますわー」」
少しだけ頬を膨らませて二人は庭に居るルーファス達に声をかけて出掛けて行く。
デートに関してはルーファスは文句を言わなかったが、四人で行動する事を約束させていた。二人っきりは禁止の方向の様だ。
「Wデートみたいで楽しそうね!」と言う私の言葉で二人は渋々ルーファスの約束を呑んだ感じかな?
いやはや、ルーファスは相変わらずの心配性っぷりである。
縁側に飲み物を持っていくと、いつの間にか従業員宿舎から従業員達が庭に来ていた。
「大旦那が勝つに、一銀貨(一万円)!」
「旦那が勝つ方に、二銀貨(二万円)!」
何だか妙な事で盛り上がりをみせている気がする。
「おっ、だったら、俺は引き分けに一金貨(十万円)な」
「ハガネから金を奪う為にも、大旦那頑張れー!」
「旦那の方が若いんだから、やっちまえー!」
自分達の雇い主で博打をする従業員達に、ルーファスとリュエールが片眉を上げて「やれやれ」という顔をするものの、お互いに負ける気は無いようで、足だけではなく手も使って攻防を繰り返している。
ハガネが私の横に来てニッと笑うとルーファスとリュエールに声を出す。
「大旦那、アカリが飲み物持ってきたぞー! リュー、嫁さんが戻ったみたいだぞ!」
二人の動きが止まると、ハガネが「ほい。引き分けな」とニシシと笑い。
お金を掛けて騒いでいた従業員達が「ハガネー!!」と叫んだのだった。
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