680 / 960
22章
夏休みの子狼
しおりを挟む
温泉大陸と魔国には二十年前から両大陸を定期船が渡っていて、今日の定期船で魔国へ留学しているティルナールとルーシーが一時帰国で帰ってくる。
ちなみに、ありすさんのところのシノリアくんも護衛という事で一緒に夏休暇で帰ってくる。
ナルアと一緒に船着き場の手前、魚介類を提供してくれるレストランのオープンカフェになっている方で海老がフライになって挟まっているサンドイッチとミッカジュースを注文してのんびりと待っているところである。
この海老……といっていいのか微妙な海老。
大きさが私のサイズはあって、肉厚が凄い。四角く切ってパン粉を付けて海老カツにして食べるのが支流でプリプリして美味しくて、生でも食べれるけど、湯通しして酢醤油で食べる方が、サッパリした中に甘みが広がって美味しいのでお勧め。
「母上、よくガッツリ食べれますわね」
「だって、ここの海老カツサンド凄く美味しいんだもの。お土産も頼んじゃってるし、ナルアもどう?」
「わたくしはジュースだけで良いですわ」
「ふふっ、口紅くらい食べた後で塗り直せば良いのに」
「もぅ! もぅ! 母上ったら!」
母は何でもお見通しなのですよ。口紅がサンドイッチで消えちゃうのも嫌なら、食べている最中に好きな人に見られちゃったら恥ずかしいって思うのも、分かっていますとも。
でも、昔からの付き合いなのだし、今更隠したりする事はないと思うんだけどね。
まぁ、そこら辺が乙女心なのかな? とは思うけど。
「母上ったら、分かってるくせに、ひどいのですわ!」
「ふふっ、赤くなって可愛いんだから」
私がもぐもぐと食べ進めている間に、テーブルにはお土産用の海老カツサンドがバスケットに入れられて届く。それを店回りをウロウロしている子供にお金を渡して屋敷の方へ届けてもらう。
まだ十二歳にならない働けない子供達のお小遣い稼ぎの一つがこの荷物届けなので、子供達のお小遣い稼ぎの為にも活用させてもらっている。
持ち逃げなどの心配もないのは、温泉大陸の子供は数が少ない為に大人に把握されているのと、そんな馬鹿な事をしたら、この土地では住んではいけないので今のところ問題は起きたことは無い。
「遅いですわねぇ……」
「まだ入港には早い時間よ。落ち着きなさい」
「だって、たまにこのぐらいの時間にも帰ってきますもの」
船着き場と海を下がり眉で見つめるナルアに苦笑いで、可愛いとも思うし、若いなぁとも思う。
私はルーファスと1ヶ月以上離れた事は無いし、離れていた一ヶ月も竜人の国に攫われていただけで、私達の意思で離れたわけでは無いので、それに比べたら、ちゃんと相手が帰って来るのが分る時点で可愛いモノだと思う。
それにしても、あれ以来、竜人族はこの温泉大陸で見なくなった。
まぁ、ドラゴンがこの温泉大陸に住んでいる時点で、竜人族は近寄れないのだけどね。
ドラゴンは竜人族を嫌っているし、私の事があってルーファスが温泉大陸に竜人族が入る事を許可していないのもある。
それでもこの二十年竜人族は見ていない。他の国に行くことは多少あったけど、やはり見ていない。
ううーん……ルーファスや従業員さんに、うちのドラゴン達が何かしら裏でやらかして居なければ良いのだけどね。
「母上、難しいお顔をしていますが、辛子でも入っていましたの?」
「ううん。何でもないよ。ほら、船が見えて来たみたいだよ」
「母上、わたくし、先に船着き場に行っていますわ!」
「はーい。なら私はここで食べているから、連れて来てね」
船から入港の合図の花火が上がり、入港準備で船着き場は少し騒がしくなる。
航海のあとの船は海獣に結構攻撃を受けていたりするので、修理が必要かどうかを調べる必要がある。その為に船着き場の近くの修理倉庫から職人達が船の入港時は忙しく動く。
まぁ、これも操舵士の腕次第で海獣を近寄らせずに船を操作できるかによるから、キリヒリさんの時は安心が出来る。
我が【刻狼亭】の自慢の操舵士、キリヒリさんが今回の魔国との定期船の操舵士をかって出てくれているので、私としては安心安全という感じである。
娘のシレーヌちゃんは操舵士の特殊能力を持っているけど、キリヒリさんが操舵士になる事を反対した為に、【刻狼亭】で配膳係りとして働いている。ミルアとナルアの同僚でもあるので三人は仲良し三人組の【刻狼亭】の華といえる。
「はーはーうーえー!」
船が港に着いて、ティルナールとルーシーがピョンピョン跳ねながら両手を振って、こちらに向かって駆け出している。
学園の制服姿で、少しティルナールは背が伸びただろうか? ルーシーは少し大人っぽくなったかな?
オープンカフェの柵を片手で飛び越えて、ティルナールが私に抱きつくと思ったよりも身長が高い。
「もう! ティル! 柵を飛び越えるなんてお行儀が悪いわ!」
「仕方ないじゃん。母上に先に飛びつきたかったし、ルーも柵超えればいいじゃん」
「ほらほら、喧嘩しないの。母上によく顔を見せて」
柵を飛び越えてルーシーもオープンカフェに入って来ると、私に抱きついてくる。
ああ、これは人懐っこい大型犬にも似ている感じかも? ルーファスというより、シュトラールに似ているかな?
「おかえりなさい。二人共元気にしていたみたいね」
「うん。学園生活も楽しいよ!」
「ティルのせいでわたしは振り回されっぱなしなの。それなのにティルったら生徒会に入るんだもの!」
「あら、ティル。生徒会に入ったの? 凄いわね」
「あっ、ルーのお喋り」
二人が騒いでいる後ろで、二人の荷物を持ってシノリアくんがナルアと一緒に来て、私に頭を下げる。あのヤンチャな男の子だったシノリアくんも随分大人になってきた。
「ほらほら、あなた達、自分の荷物を人に持たせていないで自分で持って。屋敷に帰ってからゆっくりお話をしましょうね」
「はぁーい」
「ルーに持たせてあげるよ」
「ティル! もう!」
ルーシーが自分のカバンをシノリアくんから受け取り、ティルナールのカバンをティルナールに投げつけて追いかけっこをしながら走っていく。
何だか、少し見ない間にパワフル差が増した様な気がする……魔国の学園って紳士淑女を育成する学園では無かっただろうか? と少々疑問というか、うちの子ちゃんとやれているのかしら? と不安もよぎるが、屋敷へ私達もティルナール達の後を追って帰っていった。
ちなみに、ありすさんのところのシノリアくんも護衛という事で一緒に夏休暇で帰ってくる。
ナルアと一緒に船着き場の手前、魚介類を提供してくれるレストランのオープンカフェになっている方で海老がフライになって挟まっているサンドイッチとミッカジュースを注文してのんびりと待っているところである。
この海老……といっていいのか微妙な海老。
大きさが私のサイズはあって、肉厚が凄い。四角く切ってパン粉を付けて海老カツにして食べるのが支流でプリプリして美味しくて、生でも食べれるけど、湯通しして酢醤油で食べる方が、サッパリした中に甘みが広がって美味しいのでお勧め。
「母上、よくガッツリ食べれますわね」
「だって、ここの海老カツサンド凄く美味しいんだもの。お土産も頼んじゃってるし、ナルアもどう?」
「わたくしはジュースだけで良いですわ」
「ふふっ、口紅くらい食べた後で塗り直せば良いのに」
「もぅ! もぅ! 母上ったら!」
母は何でもお見通しなのですよ。口紅がサンドイッチで消えちゃうのも嫌なら、食べている最中に好きな人に見られちゃったら恥ずかしいって思うのも、分かっていますとも。
でも、昔からの付き合いなのだし、今更隠したりする事はないと思うんだけどね。
まぁ、そこら辺が乙女心なのかな? とは思うけど。
「母上ったら、分かってるくせに、ひどいのですわ!」
「ふふっ、赤くなって可愛いんだから」
私がもぐもぐと食べ進めている間に、テーブルにはお土産用の海老カツサンドがバスケットに入れられて届く。それを店回りをウロウロしている子供にお金を渡して屋敷の方へ届けてもらう。
まだ十二歳にならない働けない子供達のお小遣い稼ぎの一つがこの荷物届けなので、子供達のお小遣い稼ぎの為にも活用させてもらっている。
持ち逃げなどの心配もないのは、温泉大陸の子供は数が少ない為に大人に把握されているのと、そんな馬鹿な事をしたら、この土地では住んではいけないので今のところ問題は起きたことは無い。
「遅いですわねぇ……」
「まだ入港には早い時間よ。落ち着きなさい」
「だって、たまにこのぐらいの時間にも帰ってきますもの」
船着き場と海を下がり眉で見つめるナルアに苦笑いで、可愛いとも思うし、若いなぁとも思う。
私はルーファスと1ヶ月以上離れた事は無いし、離れていた一ヶ月も竜人の国に攫われていただけで、私達の意思で離れたわけでは無いので、それに比べたら、ちゃんと相手が帰って来るのが分る時点で可愛いモノだと思う。
それにしても、あれ以来、竜人族はこの温泉大陸で見なくなった。
まぁ、ドラゴンがこの温泉大陸に住んでいる時点で、竜人族は近寄れないのだけどね。
ドラゴンは竜人族を嫌っているし、私の事があってルーファスが温泉大陸に竜人族が入る事を許可していないのもある。
それでもこの二十年竜人族は見ていない。他の国に行くことは多少あったけど、やはり見ていない。
ううーん……ルーファスや従業員さんに、うちのドラゴン達が何かしら裏でやらかして居なければ良いのだけどね。
「母上、難しいお顔をしていますが、辛子でも入っていましたの?」
「ううん。何でもないよ。ほら、船が見えて来たみたいだよ」
「母上、わたくし、先に船着き場に行っていますわ!」
「はーい。なら私はここで食べているから、連れて来てね」
船から入港の合図の花火が上がり、入港準備で船着き場は少し騒がしくなる。
航海のあとの船は海獣に結構攻撃を受けていたりするので、修理が必要かどうかを調べる必要がある。その為に船着き場の近くの修理倉庫から職人達が船の入港時は忙しく動く。
まぁ、これも操舵士の腕次第で海獣を近寄らせずに船を操作できるかによるから、キリヒリさんの時は安心が出来る。
我が【刻狼亭】の自慢の操舵士、キリヒリさんが今回の魔国との定期船の操舵士をかって出てくれているので、私としては安心安全という感じである。
娘のシレーヌちゃんは操舵士の特殊能力を持っているけど、キリヒリさんが操舵士になる事を反対した為に、【刻狼亭】で配膳係りとして働いている。ミルアとナルアの同僚でもあるので三人は仲良し三人組の【刻狼亭】の華といえる。
「はーはーうーえー!」
船が港に着いて、ティルナールとルーシーがピョンピョン跳ねながら両手を振って、こちらに向かって駆け出している。
学園の制服姿で、少しティルナールは背が伸びただろうか? ルーシーは少し大人っぽくなったかな?
オープンカフェの柵を片手で飛び越えて、ティルナールが私に抱きつくと思ったよりも身長が高い。
「もう! ティル! 柵を飛び越えるなんてお行儀が悪いわ!」
「仕方ないじゃん。母上に先に飛びつきたかったし、ルーも柵超えればいいじゃん」
「ほらほら、喧嘩しないの。母上によく顔を見せて」
柵を飛び越えてルーシーもオープンカフェに入って来ると、私に抱きついてくる。
ああ、これは人懐っこい大型犬にも似ている感じかも? ルーファスというより、シュトラールに似ているかな?
「おかえりなさい。二人共元気にしていたみたいね」
「うん。学園生活も楽しいよ!」
「ティルのせいでわたしは振り回されっぱなしなの。それなのにティルったら生徒会に入るんだもの!」
「あら、ティル。生徒会に入ったの? 凄いわね」
「あっ、ルーのお喋り」
二人が騒いでいる後ろで、二人の荷物を持ってシノリアくんがナルアと一緒に来て、私に頭を下げる。あのヤンチャな男の子だったシノリアくんも随分大人になってきた。
「ほらほら、あなた達、自分の荷物を人に持たせていないで自分で持って。屋敷に帰ってからゆっくりお話をしましょうね」
「はぁーい」
「ルーに持たせてあげるよ」
「ティル! もう!」
ルーシーが自分のカバンをシノリアくんから受け取り、ティルナールのカバンをティルナールに投げつけて追いかけっこをしながら走っていく。
何だか、少し見ない間にパワフル差が増した様な気がする……魔国の学園って紳士淑女を育成する学園では無かっただろうか? と少々疑問というか、うちの子ちゃんとやれているのかしら? と不安もよぎるが、屋敷へ私達もティルナール達の後を追って帰っていった。
40
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。