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22章
流行と狼
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プチ旅行から戻って、普段通りの温泉街の日常は夏真っ盛り、最近流行の薄手のミニスカートの下にシースルーの透けている布で出来た長いスカートを穿いているお嬢さん達の姿が多い。
女性が足を見せるのはハレンチ呼ばわりのこの世界で、誤魔化すようなこのミニスカートブームは数年前から地味に浸透してきている。
我が家の双子の姉妹も屋敷の中で穿いているけど、ルーファスとしては落ち着かない……そんな感じの毎日。
「母上~、父上のお小言がうるさいのですわ!」
「母上~、父上がお洒落を解っていませんわ!」
珍しく、タマホメとメビナの様に出だしの揃った声を上げるミルアとナルアに「またか」という感じで、私も困ったなぁと眉尻を下げながら、二人の後ろで眉間にしわを寄せてスクルードに耳を叩かれているルーファスを見る。
「アカリ、オレはただ足をそこまで見せる必要があるのかと言っているだけだ」
「んーっ、若い子は流行を追い駆けちゃうものだし、それに夏は暑いから服装で涼しくしておきたいじゃない?」
「それは判るが、しかし、浴衣でも十分涼しいだろ?」
ここ数日何度かやり取りした会話内容でもある。
娘達が心配なのも判るんだけどね……でも、かつて私も流行物に弱かった女子中学生でもある。
友達や雑誌に載っていた服装を真似したいと親にねだった事だってあるから、ミルアやナルアの気持ちもわかる。
それに、本当ならば高校生という一番お洒落のしたい時期に、お洒落も出来ずにバイトだけを繰り返していた毎日を思うと、ミルアやナルアがこうして流行り物を着ているというのは、私がかつてしたかった事、娘達は私の様に我慢しなくてもいい環境がある事に、ホッとさえしてしまう。
「父上はオジサンくさいのですわ!」
「父上は考え方が古いのですわ!」
「そういう問題ではない! ここには観光に来ている若い男達もいるんだぞ!」
「そういう考えがオジサンくさいのですわ!」
「父上はハレンチなのですわ!」
「もう! あなた達、やめなさい! 父上は心配しているだけなの。あと、ルーファス、この子達がこうした服装をしているのはお仕事の無い日だけだし、ほとんど屋敷の中に居るんだから、屋敷の中くらいは好きな格好をしていてもいいと思うの」
私にできるのはせいぜいこの程度の仲裁だ。三人はお互いの主張は曲げないので似た者親子でもある。
両方の意見が半々にわかる分、私はとにかく中立の立場を守っている。
「流行もいいけど、姉上達はそういう服より、いつもの浴衣の方がボクは可愛いと思うけどな」
「あら、エルおだてても何も出ませんわよ?」
「エル、そういうのは意中の女の子に言ってあげなさいな」
「ボクは姉上達に言ってるの。浴衣にレース付けたりしてる姉上達の方が流行だ何だより、お洒落だよ」
「まぁ、エルったら」
「おませさんですわ」
ミルアとナルアが顔を見合わせて「そうですわねぇ」と、いつもの浴衣姿に戻り日傘を差してエルを連れて「アイスを奢ってあげますわ」と、連れ立って出かけて行った。
「あらあら、エルはミルア達の操縦方法が上手になりましたね」
「末恐ろしいな」
「誰に似ちゃったのかしら?」
「……オレじゃないぞ?」
ティルナールとルーシーが魔国へ留学してから、エルシオンは怖がりで引っ込み思案なところが薄れてきて、いい意味で成長してきていると思う。
もうすぐ、魔国から夏休みという事でティルナール達も一時帰国するので、二人がどのような成長を見せてくれるのか楽しみでもあるが、プチ旅行から戻ってからのエルシオンはとりあえず、こんな感じだ。
「私も足の見える服にしようかな?」
「あんな透けた服にする気か? やめておけ」
「あら? 似合わないですか?」
「似合う似合わないじゃなくて、オレが誘惑される」
「……ルーファス」
「そんな目で見ないでくれ」
「いえ、本当にルーファスは太腿とか好きだなぁって……」
クスッと笑って、ルーファスの耳をパンチングマシーンと化しているスクルードを引き取る。すっかりヤンチャなところが出て来た八ヶ月の息子は十キロ近いのでそろそろ私の腕も筋肉がつきそうだ。
スクルードの成長はとりあえず、良くしゃべる様になったのと動きが活発化してきている感じで、一人しか生んでいない為に競争相手も居ないとあって必死さはあまり見られない。
「あだ、うーな、はへ、にゃにゃーはー」
「スーちゃんはお喋り上手だねぇ。うんうん」
「それにしてもスーは大きくなったなぁ。こないだまでこんなに小さかったのにな」
ルーファスが手でスクルードの大きさを形どるけど、実際はルーファスの形どった大きさよりも大きくはあったはずだ。なんせお腹に居たのは一人なので栄養も一人で摂っていたから、他の子と違って大きさの面では一番大きな子だと思う。
「きっとスーちゃんはルーファスに似て大きな子になると思うよ?」
「顔はアカリに似ているから……リュエールがシュトラール並みに身長が出るというところか」
少し想像して、うーんっとなってしまう。
我が家は一番背が高いのがシュトラール、次がルーファス、リュエール、ミルア、ナルア、ティルナール、エルシオン、ルーシー、私、そしてスクルードという感じだ。
あと少しでエルシオンとルーシーは十歳。十歳になる前に私の身長が抜かされてしまったのはこの世界の魔力の影響か何かなんだと……思いたい。
悩ましいのはやはり、この身長の低さだろうか……まぁ、子供達が私みたいに身長で悩むことが無いのは良い事なんだけどね。うん……。
「それで、アカリは足の見える様な服は着ないんだろ?」
「んーっ、二人っきりの時にスリットの入ったスカートでも穿きますね?」
「……まぁ、二人っきりの時ならな……」
少し渋い顔はしているけど、尻尾が左右に揺れて喜んでいるから、気持ちは隠せていない。まぁ、たまにはサービスしてあげよう。すでにルーファスの手が腰元を触ってきているのは気が早すぎる気はするけどね。
娘達よ、こういう男性もいるから、気をつけるのですよと、母心から言っておきましょう。
まぁ、恋人の前なら多少は良いとは思います。 ええ、多少はね。
女性が足を見せるのはハレンチ呼ばわりのこの世界で、誤魔化すようなこのミニスカートブームは数年前から地味に浸透してきている。
我が家の双子の姉妹も屋敷の中で穿いているけど、ルーファスとしては落ち着かない……そんな感じの毎日。
「母上~、父上のお小言がうるさいのですわ!」
「母上~、父上がお洒落を解っていませんわ!」
珍しく、タマホメとメビナの様に出だしの揃った声を上げるミルアとナルアに「またか」という感じで、私も困ったなぁと眉尻を下げながら、二人の後ろで眉間にしわを寄せてスクルードに耳を叩かれているルーファスを見る。
「アカリ、オレはただ足をそこまで見せる必要があるのかと言っているだけだ」
「んーっ、若い子は流行を追い駆けちゃうものだし、それに夏は暑いから服装で涼しくしておきたいじゃない?」
「それは判るが、しかし、浴衣でも十分涼しいだろ?」
ここ数日何度かやり取りした会話内容でもある。
娘達が心配なのも判るんだけどね……でも、かつて私も流行物に弱かった女子中学生でもある。
友達や雑誌に載っていた服装を真似したいと親にねだった事だってあるから、ミルアやナルアの気持ちもわかる。
それに、本当ならば高校生という一番お洒落のしたい時期に、お洒落も出来ずにバイトだけを繰り返していた毎日を思うと、ミルアやナルアがこうして流行り物を着ているというのは、私がかつてしたかった事、娘達は私の様に我慢しなくてもいい環境がある事に、ホッとさえしてしまう。
「父上はオジサンくさいのですわ!」
「父上は考え方が古いのですわ!」
「そういう問題ではない! ここには観光に来ている若い男達もいるんだぞ!」
「そういう考えがオジサンくさいのですわ!」
「父上はハレンチなのですわ!」
「もう! あなた達、やめなさい! 父上は心配しているだけなの。あと、ルーファス、この子達がこうした服装をしているのはお仕事の無い日だけだし、ほとんど屋敷の中に居るんだから、屋敷の中くらいは好きな格好をしていてもいいと思うの」
私にできるのはせいぜいこの程度の仲裁だ。三人はお互いの主張は曲げないので似た者親子でもある。
両方の意見が半々にわかる分、私はとにかく中立の立場を守っている。
「流行もいいけど、姉上達はそういう服より、いつもの浴衣の方がボクは可愛いと思うけどな」
「あら、エルおだてても何も出ませんわよ?」
「エル、そういうのは意中の女の子に言ってあげなさいな」
「ボクは姉上達に言ってるの。浴衣にレース付けたりしてる姉上達の方が流行だ何だより、お洒落だよ」
「まぁ、エルったら」
「おませさんですわ」
ミルアとナルアが顔を見合わせて「そうですわねぇ」と、いつもの浴衣姿に戻り日傘を差してエルを連れて「アイスを奢ってあげますわ」と、連れ立って出かけて行った。
「あらあら、エルはミルア達の操縦方法が上手になりましたね」
「末恐ろしいな」
「誰に似ちゃったのかしら?」
「……オレじゃないぞ?」
ティルナールとルーシーが魔国へ留学してから、エルシオンは怖がりで引っ込み思案なところが薄れてきて、いい意味で成長してきていると思う。
もうすぐ、魔国から夏休みという事でティルナール達も一時帰国するので、二人がどのような成長を見せてくれるのか楽しみでもあるが、プチ旅行から戻ってからのエルシオンはとりあえず、こんな感じだ。
「私も足の見える服にしようかな?」
「あんな透けた服にする気か? やめておけ」
「あら? 似合わないですか?」
「似合う似合わないじゃなくて、オレが誘惑される」
「……ルーファス」
「そんな目で見ないでくれ」
「いえ、本当にルーファスは太腿とか好きだなぁって……」
クスッと笑って、ルーファスの耳をパンチングマシーンと化しているスクルードを引き取る。すっかりヤンチャなところが出て来た八ヶ月の息子は十キロ近いのでそろそろ私の腕も筋肉がつきそうだ。
スクルードの成長はとりあえず、良くしゃべる様になったのと動きが活発化してきている感じで、一人しか生んでいない為に競争相手も居ないとあって必死さはあまり見られない。
「あだ、うーな、はへ、にゃにゃーはー」
「スーちゃんはお喋り上手だねぇ。うんうん」
「それにしてもスーは大きくなったなぁ。こないだまでこんなに小さかったのにな」
ルーファスが手でスクルードの大きさを形どるけど、実際はルーファスの形どった大きさよりも大きくはあったはずだ。なんせお腹に居たのは一人なので栄養も一人で摂っていたから、他の子と違って大きさの面では一番大きな子だと思う。
「きっとスーちゃんはルーファスに似て大きな子になると思うよ?」
「顔はアカリに似ているから……リュエールがシュトラール並みに身長が出るというところか」
少し想像して、うーんっとなってしまう。
我が家は一番背が高いのがシュトラール、次がルーファス、リュエール、ミルア、ナルア、ティルナール、エルシオン、ルーシー、私、そしてスクルードという感じだ。
あと少しでエルシオンとルーシーは十歳。十歳になる前に私の身長が抜かされてしまったのはこの世界の魔力の影響か何かなんだと……思いたい。
悩ましいのはやはり、この身長の低さだろうか……まぁ、子供達が私みたいに身長で悩むことが無いのは良い事なんだけどね。うん……。
「それで、アカリは足の見える様な服は着ないんだろ?」
「んーっ、二人っきりの時にスリットの入ったスカートでも穿きますね?」
「……まぁ、二人っきりの時ならな……」
少し渋い顔はしているけど、尻尾が左右に揺れて喜んでいるから、気持ちは隠せていない。まぁ、たまにはサービスしてあげよう。すでにルーファスの手が腰元を触ってきているのは気が早すぎる気はするけどね。
娘達よ、こういう男性もいるから、気をつけるのですよと、母心から言っておきましょう。
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