黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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22章

成長

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 温泉街の中で少し他と違う建物といえば、診療所と産院。
白い建物はさながら明治時代のサナトリウムを思わせる。と、いっても私は明治時代のサナトリウムはよく知らないから、図書館で見た本に載っていた曖昧な記憶の中にある木造見物の白い病院ってだけなんだけどね。
結核で隔離された薄幸の美少年と看護助手の女の子の話だっただろうか……?

 まぁ、それはさておき、私は生後五ヶ月のスクルードを連れて産院に来ている。
病気とかではなく、乳児検診なのでスクルードが待合室で泣かない様にお気に入りのタオルケットを握らせて、あやしているところである。

「スーちゃん、こちょこちょこちょー」
「あふー、あー」

 タオルケットで足をくすぐり、スクルードがご機嫌な声を出した辺りで順番が呼ばれて診察室へ入る。
産医さんは女性で、うちのシュトラールがフィリアちゃんとの子作りの時に色々ご迷惑をおかけした事もある。
人柄的にも頼れる姉御! って感じの人で、サバサバした感じの人。

「大女将、変わったことは無いですか?」
「特には無いんですが、ちょっとだけ、スーちゃんタオルケットが好き過ぎて、お口にいつも入れてて、お口の周りが少し赤くなっちゃってるんです」
「どれ、診てみようか。ほら、スクルードくん良い子にして」

 産医さんがスクルードの顔を見ると同時にスクルードが顔を動かしての攻防がしばし続き、私がスクルードの顔を固定して診てもらう事に何とか成功した。
とても不服そうな顔ではあったけど、泣かないのは偉い。

「そうだねぇ、それ程気にするものでもないけど、まだ早い時期だけどスクルードくんは狼族の血が強いのかもね。噛んで歯を強くする練習が始まってるんでしょうね。歯が生えたら早めに母乳は止めた方が良いですよ」
「あ……それは怖いので哺乳瓶で飲むように切り替えていこうかな」

 上の子達の時はほぼ、三人分を授乳させてたから、乳首痛かった記憶もあるけど、スクルードは一人でも歯が生えてるの? っていうくらい痛い時あるから、早めに哺乳瓶だけで育てる方へ移行しないと、歯が生えたら確実に噛みつかれて血を見る羽目になる……。

「と、いうか、スクルードくん……ああ、歯がそろそろ出ますね。これは」
「ぶーっ」

 産医さんに指を口に入れられてスクルードが「ぶーっ」と唸って怒っているけど、もう歯が生えちゃうのかー! と驚きもある。
まだ産んだばかりだと思っていたのに、成長が早い。
 でも、リュエール達の時は6ヶ月くらいで歯がちょこんと見えた気もする。
ルーファスの狼の血が強い子なのかも?

 スクルードの体重と身長を図ってもらって、健診を終えて診察室を出ると先程まで混み合っていなかった待合室には女性が多く座って居た。
これも蜜籠り後のこの時期には多い風景なので、来年は子供の声が多い事だろう。
【魔獣の王】の魔石で魔力が豊富になった分、生活にも余裕が出て子供を育てやすい環境でもあるしね。

「アカリさん、こんにちは」
「あら、リリスちゃん。今から診察?」
「はい。スクルードちゃん、こんにちはー」

 ありすさんの娘リリスちゃんは妊娠中で少し悪阻で大変だと聞いていたけど、顔色も良いし、順調なのかな?
うちのスクルードをニコニコと撫でて目を細めている姿はもうお母さんという感じ。

「今日はイルマールくんはお仕事?」
「ええ。子供の為にも今のうちに稼いでくるって、冒険者ギルドでクエストを受けて出て行っちゃいました」
「あのイルマールくんがお父さんになるのねぇ……出会った頃は元気なお子様だったのに」

 俺様みたいなヤンチャで生意気そうな子ではあったけど、素直で元気が良かったと言い換えておこう。

「アカリさん、なんだかオバサンくさいですよ」
「あらあら、私はオバサンなのよ。なんて言ってもリリスちゃんを母乳で育てたのは私ですからね」
「確かに。アカリさんにはお世話になっていました。アカリさん若いからつい忘れちゃう」
「ふふっ、おだてても何も出ないわよ?」
「ふふふ。アカリさん、それではまた」
「ええ。子供の事ならベテランだから何でも相談に来てね」
「はい。よろしくお願いします」

 リリスちゃんと別れて産院を出て、春の日射しの温かさを感じながらベビーカーにスクルードを入れて歩き出す。
それにしても、私が赤ん坊の頃に育てたリリスちゃんがお母さんになるんだから、時の流れは速い。
リュエールやシュトラールが結婚して、孫が生まれているのだから、リリスちゃんだって親になる事は分かってはいるけど、男の子と女の子では何となく実感が違うとも言える。

「あっ、そうだ。スーちゃんが噛み噛みしても良い様に歯を強くできる様な、口に入れてもいい玩具みたいなのを買っておこうかな」

 そういえば、上の子達は獣化して噛み合いながら、噛む手加減を覚えていったけど……スクルードにはそういった環境は無いから、これは課題かもしれない。
屋敷に帰る道すがら、そんな事を考えて帰り、屋敷に着いてルーファスにその事を相談すると、少し困った顔をされた。
ルーファスの手加減下手なところは一人っ子だったのもあるかもしれないらしく、獣人にはそういう事は多々あるらしい。
今まで我が家は双子や三つ子という環境の子育てだったから良かったけど、スクルードの育て方に関しては少し手加減などを教える事に熱心でなくてはいけないらしい。

 ルーファスが「隠居の身だしな。オレが責任を持って教えていく」と言っているけど、手加減下手なルーファスで大丈夫かな? と心配も少々あるが、そこは子育ての熟練度で補っていってもらおう。
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