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21章
女医さん②
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温泉大陸の桜が咲いた頃、面接に訪れた女性を見て私の記憶も少しだけハッキリする。
確かにシュトラールが十四歳頃に病気の妹さんの為にミッカジュースが欲しいと言ってきた女性によく似ている。
さすが姉妹というところだろうか?
薄い色素の茶色の髪は綺麗に一纏めにされて、優しそうな眼はオリーブ色をしている。
「大丈夫?」
私に差し伸べる女性の手を取って、立ち上がると、女性は私の膝を手で少し払って汚れが無いかを見てくれる。
なんだか、子供扱いされている気がしないでもないけど、親切な人ではあるようだ。
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「気を付けて遊んだ方が良いよ」
あ、これは完ぺきに子供と間違えられている……まぁ、ダイエットをしようと縄跳びをしていたら、温泉鳥達とクロも混じってしまい、ものの見事にこけたのは私だけど……。
汚してもいい様に木綿のワンピースに、汗をかいて良い様に化粧もしてないけどね。
「それよりも、あなたは面接に来たのでしょう? どうして庭園に居るの?」
「あ……それが、変な「アパー」って鳴く温泉鳥を追い駆けていたら、ここに入り込んじゃったの」
「ああ、ササマキちゃんかぁ。何か取られたりしませんでした?」
「取り返したんだけど、道に迷っちゃって、情けないわ」
おお、ササマキちゃんから取り返すとは、なかなかやりますねぇ……。
有能なお医者様かもしれない。
「ふふっ、案内してあげるから、ついてきて」
「いいの? 凄く助かっちゃう」
「私はアカリです。あなたはシルビアさんで良いのかな?」
「ええそうよ。ワタシの名前を知ってるなんて、【刻狼亭】は情報統制がとれてるのかしら?」
履歴書もどきを見たからバッチリですよ! とは、流石に言わないけど……でも、履歴書もどきに写真を付けるようにしたのは良い判断だったかも。
ありすさんと【風雷商】のカメラは良い仕事をしてくれる。
シルビアさんを連れて面接を行う製薬室の新しい部屋へ行くと、リュエールと製薬部隊のマグノリアにルーファスが椅子に座って居た。
「アカリ、ありがとう。助かったわ」
「いえいえ、面接頑張って下さいね。応援してますからね」
三人が私を見て察したのか、少し困った顔をしているけど、そこは無視しておこう。私は手を小さく振って製薬室から出て行く。
「面接にお茶を持っていきたいから、お茶くださーい」
調理場に声をかけて、アーネスさんにお茶を淹れて貰ってお盆に乗せて、再び製薬室へ入るといつの間にか小鬼も入って医学知識の話をしていた。
「お茶です。どうぞ」
「ありがとう」
シルビアさんはお礼も言える良い子の様ですよ? と、リュエールとルーファスをチラッと見つつお茶を三人にも出していく。小鬼が居たのは気付かなかったから、後で追加で持ってきてあげよう。
「では、私は再び、失礼しますね」
「待て、アカリ」
ルーファスに呼び止められて首を傾げると、手招きで呼び寄せられて膝の上にちょこんと乗るとルーファスにおでこを指でグリグリと突かれる。
「痛い。ルーファス酷い」
「酷いじゃない。また何をしたんだ?」
「なにも? 私が何かするわけないじゃない?」
「なら、なんでシルビアと一緒にここへ来たんだ? ん?」
ヒソヒソと言い合いをして、そんな事でおでこをグリグリされるなんて酷い以外の何物でもないと思う。
ルーファスは妻を信用すべきだと思う。私が何かしたという発想がいけない。心外である。
「コケたところをシルビアさんに助けてもらったの。ついでにササマキちゃんがシルビアさんから何か盗んで追い駆けてたら道に迷ったのを道案内しただけだよ」
ルーファスが顔に手を当てて溜め息を吐いて、リュエールも話が聞こえたのか同じ様なポーズで溜め息を吐いている。親子そろって失礼な……。
「医学知識は問題は無いと思います。あとは実戦でしょうね」
「製薬部隊の方でそこはサポートしましょう」
小鬼とマグノリアがリュエールに意見を求めるように目線を送ると、リュエールは「わかりました」と一言答える。
「シルビアさん良かったね。【刻狼亭】へようこそ」
「え? ワタシ、雇ってもらえるんですか?」
「リューちゃんの「わかった」は了承の意味があるから。ねっ、リューちゃん」
片眉を上げてリュエールが頷くと、シルビアさんが緊張した顔を緩める。
「【刻狼亭】の勤務医として雇いますが、とりあえずは製薬部隊が今までは勤務医の様なものでしたから、そこら辺を製薬部隊と話をしつつ勤務してください。宿舎や勤務時間に関してはフリウーラから説明を受けてください」
「はい。よろしくお願いします!」
「とりあえず、私が宿舎に案内してお部屋を決めておくからフリウーラに宿舎の方に来てもらって」
ルーファスの膝から降りるとシルビアさんの手を取って歩き出す。
リュエールの顔とルーファスの顔は呆れているけど、温泉大陸に悪い物を持ってくる人の気配はリュエールが判らない訳はないから、それがないなら大丈夫って事だから人材確保は大事。
「シルビアさんはいつから働けるんですか?」
「雇ってもらえるならいつからでも大丈夫。それなりにお金も貯めて来たから、一ヶ月くらいなら平気よ」
「うんうん。なら、早めに手続きをして温泉大陸の住所登録に宿舎への引っ越しもしないとね」
「アカリは不思議な子ね」
「そうですか?」
「面接の時のピリピリした緊張感の中でアカリが顔を出したら、一気に緩んだし、先代の膝の上に乗ったりしてたでしょ? 【刻狼亭】って色々噂があるからハラハラしてたんだけどね」
あはははは~……家族だからこその緊張感の無さでもある。ルーファスの膝に乗るのも子供達が巣立ち始めてからは毎日の事だから自然と乗っちゃうし、気を付けないといけない。
【刻狼亭】の噂とは一体全体どんなものなのやら? まぁ、ろくでもないだろうなぁとは思うから聞かないでおくけど。うん、聞いたら駄目なヤツだ。
シルビアさんを連れて屋敷を抜けて宿舎へ着くと、フリウーラが直ぐに駆け付けてきた。
確かにシュトラールが十四歳頃に病気の妹さんの為にミッカジュースが欲しいと言ってきた女性によく似ている。
さすが姉妹というところだろうか?
薄い色素の茶色の髪は綺麗に一纏めにされて、優しそうな眼はオリーブ色をしている。
「大丈夫?」
私に差し伸べる女性の手を取って、立ち上がると、女性は私の膝を手で少し払って汚れが無いかを見てくれる。
なんだか、子供扱いされている気がしないでもないけど、親切な人ではあるようだ。
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「気を付けて遊んだ方が良いよ」
あ、これは完ぺきに子供と間違えられている……まぁ、ダイエットをしようと縄跳びをしていたら、温泉鳥達とクロも混じってしまい、ものの見事にこけたのは私だけど……。
汚してもいい様に木綿のワンピースに、汗をかいて良い様に化粧もしてないけどね。
「それよりも、あなたは面接に来たのでしょう? どうして庭園に居るの?」
「あ……それが、変な「アパー」って鳴く温泉鳥を追い駆けていたら、ここに入り込んじゃったの」
「ああ、ササマキちゃんかぁ。何か取られたりしませんでした?」
「取り返したんだけど、道に迷っちゃって、情けないわ」
おお、ササマキちゃんから取り返すとは、なかなかやりますねぇ……。
有能なお医者様かもしれない。
「ふふっ、案内してあげるから、ついてきて」
「いいの? 凄く助かっちゃう」
「私はアカリです。あなたはシルビアさんで良いのかな?」
「ええそうよ。ワタシの名前を知ってるなんて、【刻狼亭】は情報統制がとれてるのかしら?」
履歴書もどきを見たからバッチリですよ! とは、流石に言わないけど……でも、履歴書もどきに写真を付けるようにしたのは良い判断だったかも。
ありすさんと【風雷商】のカメラは良い仕事をしてくれる。
シルビアさんを連れて面接を行う製薬室の新しい部屋へ行くと、リュエールと製薬部隊のマグノリアにルーファスが椅子に座って居た。
「アカリ、ありがとう。助かったわ」
「いえいえ、面接頑張って下さいね。応援してますからね」
三人が私を見て察したのか、少し困った顔をしているけど、そこは無視しておこう。私は手を小さく振って製薬室から出て行く。
「面接にお茶を持っていきたいから、お茶くださーい」
調理場に声をかけて、アーネスさんにお茶を淹れて貰ってお盆に乗せて、再び製薬室へ入るといつの間にか小鬼も入って医学知識の話をしていた。
「お茶です。どうぞ」
「ありがとう」
シルビアさんはお礼も言える良い子の様ですよ? と、リュエールとルーファスをチラッと見つつお茶を三人にも出していく。小鬼が居たのは気付かなかったから、後で追加で持ってきてあげよう。
「では、私は再び、失礼しますね」
「待て、アカリ」
ルーファスに呼び止められて首を傾げると、手招きで呼び寄せられて膝の上にちょこんと乗るとルーファスにおでこを指でグリグリと突かれる。
「痛い。ルーファス酷い」
「酷いじゃない。また何をしたんだ?」
「なにも? 私が何かするわけないじゃない?」
「なら、なんでシルビアと一緒にここへ来たんだ? ん?」
ヒソヒソと言い合いをして、そんな事でおでこをグリグリされるなんて酷い以外の何物でもないと思う。
ルーファスは妻を信用すべきだと思う。私が何かしたという発想がいけない。心外である。
「コケたところをシルビアさんに助けてもらったの。ついでにササマキちゃんがシルビアさんから何か盗んで追い駆けてたら道に迷ったのを道案内しただけだよ」
ルーファスが顔に手を当てて溜め息を吐いて、リュエールも話が聞こえたのか同じ様なポーズで溜め息を吐いている。親子そろって失礼な……。
「医学知識は問題は無いと思います。あとは実戦でしょうね」
「製薬部隊の方でそこはサポートしましょう」
小鬼とマグノリアがリュエールに意見を求めるように目線を送ると、リュエールは「わかりました」と一言答える。
「シルビアさん良かったね。【刻狼亭】へようこそ」
「え? ワタシ、雇ってもらえるんですか?」
「リューちゃんの「わかった」は了承の意味があるから。ねっ、リューちゃん」
片眉を上げてリュエールが頷くと、シルビアさんが緊張した顔を緩める。
「【刻狼亭】の勤務医として雇いますが、とりあえずは製薬部隊が今までは勤務医の様なものでしたから、そこら辺を製薬部隊と話をしつつ勤務してください。宿舎や勤務時間に関してはフリウーラから説明を受けてください」
「はい。よろしくお願いします!」
「とりあえず、私が宿舎に案内してお部屋を決めておくからフリウーラに宿舎の方に来てもらって」
ルーファスの膝から降りるとシルビアさんの手を取って歩き出す。
リュエールの顔とルーファスの顔は呆れているけど、温泉大陸に悪い物を持ってくる人の気配はリュエールが判らない訳はないから、それがないなら大丈夫って事だから人材確保は大事。
「シルビアさんはいつから働けるんですか?」
「雇ってもらえるならいつからでも大丈夫。それなりにお金も貯めて来たから、一ヶ月くらいなら平気よ」
「うんうん。なら、早めに手続きをして温泉大陸の住所登録に宿舎への引っ越しもしないとね」
「アカリは不思議な子ね」
「そうですか?」
「面接の時のピリピリした緊張感の中でアカリが顔を出したら、一気に緩んだし、先代の膝の上に乗ったりしてたでしょ? 【刻狼亭】って色々噂があるからハラハラしてたんだけどね」
あはははは~……家族だからこその緊張感の無さでもある。ルーファスの膝に乗るのも子供達が巣立ち始めてからは毎日の事だから自然と乗っちゃうし、気を付けないといけない。
【刻狼亭】の噂とは一体全体どんなものなのやら? まぁ、ろくでもないだろうなぁとは思うから聞かないでおくけど。うん、聞いたら駄目なヤツだ。
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