黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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21章

刻狼亭の女将と義両親

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 冒険者試験10日間何度でもチャレンジが終了し、【刻狼亭】も、お祝い騒ぎが静まり、いつもの高級料亭の顔を見せ始める。
この10日間は、冒険者試験に合格した客層で賑わいを見せていた為に、いつもより派手に騒いでいた感じだった。
【刻狼亭】の女将キリン・トリニアも料亭で忙しく働いていた。

 アカリの時は何十年も不在だった『女将』が現れたとあって、物珍しさから声をかけられる事が多かったが、キリンの場合はエルフという事で声をかけられる事が多い。

 エルフは肌を人に見せることを嫌う種族なので、そのエルフが温泉大陸に居ることも、温泉大陸の当主の息子の妻で【刻狼亭】の女将だという事でも物珍しがられて、話し掛けられる事が多い。

 アカリは背が低く小柄な為に、未だに年相応に見られることは無いが、雰囲気だけは大人なので、それ程絡まれたりはしない。キリンは長寿のエルフ族で見た目は十代半ばのまま外見が変わることは無い為に、客に揶揄われることが多い。

「エルフのお姉ちゃんがお酌してくれるのかー?」
「……うちのお店は、低俗なお客様はお客として認めていませんよ?」

 ピキピキと額に青筋を立ててキリンは酔っ払いの客を叩き出そうかと考えてしまう。
この白い着物が目に入らないのか!! と、問い詰めたい。
【刻狼亭】の女将だけが着ることを許されている白色の着物は今現在、キリン以外は着ていない。
アカリは今は白色に近い薄い色の着物を着ていて、完全にキリンに【刻狼亭】の女将業を譲っているので、滅多に表にも出てこない。
まぁ、子供を産んだばかりなのもあって、早々【刻狼亭】に出てこれないというのもある。

 カランコロンという下駄の音と共にシャリンと小さな音が耳に入って来る。
ホールを見れば、アカリがルーファスと一緒にスクルードと、キリンとリュエールの息子レーネルを連れて料亭に入ってきたところだった。

「お客さん、飲み過ぎの様だ。今日はもう帰るといい」

 酔って絡んでいた客をルーファスが掴んで放り投げ、従業員が引きずって店の外へ追い出す。
アカリが小さく手を叩くと、レーネルもパチパチと手を叩いて喜んでいる。その姿にキリンも自分の子供可愛さに目を細めてしまう。

「お義父さん、ありがとうございます」
「いや、気にすることは無い。ああいう酒癖の悪い輩はいつになっても居るものだからな」
「ところで、お義父さんもお義母さんもどうしたんですか?」
「夕飯をたまには料亭でとろうかと思って、ここ料理長のアーネスさんが離乳食も作ってくれるから、レーネルちゃんに食べさせてみようと思ってね」

 1歳になるレーネルは離乳食にうるさい子なので、キリンとしても離乳食に手を焼いている……もしかしたら、アカリとルーファスもレーネルの食べず嫌いに手を焼いて、料理長を頼ってきたのかもしれないと思うと、キリンは少しいたたまれなくなる。

「うちのミルアやナルアも料理長の離乳食が好きでね、レーネルちゃんも気に入ればレシピを聞いておくね」
「ありがとうございます。色々ご迷惑をおかけしてしまって……」
「いいの、いいの。お嫁さんにうちの家業を手伝ってもらっているんだもの。親が手伝えることは何でもしてあげたいの」

 キリンが頭を下げると、アカリとルーファスは「気にするな。家族だろう」と言って、にこやかに料亭の個室に姿を消していく。
しかし、気にするなと言われても、嫁の立場からしたら、そうもいかない訳で……キリンは料亭の奥にある執務室へ行き、夫であるリュエールに話を持っていく。

「リュエール! お義父さんとお義母さんがレーネルを連れて料亭に来ているんだけど、どうしたらいい?」
「ん? 二人に任せておけばいいんじゃない?」
「でも、申し訳ないというか……」

 眉を下げるキリンにリュエールは小さく首を傾げて、手に持っていた書類をテーブルに置くと立ち上がり、キリンの手を握って自分の口元へ持って行く。
軽く唇を落としてキリンに笑いかける。

「大丈夫だよ。父上も母上もレーネルの事は大事にしているんだから、迷惑だとか思ってないよ」
「でも……わたし、そんなに女将業キチンと出来てないのに、子育てまで手伝ってもらって……色々反省しちゃうんだよ」
「んーっ、僕のお嫁さんが可愛すぎるっ!」

 リュエールがキリンを抱きしめながら、頬に擦り寄って可愛い連呼で尻尾を左右に振り、キリンが小さく悲鳴を上げた時には抱き上げられて、奥の仮眠室へ連れていかれていた。

「リュエール! わたし、まだ仕事残ってるし、リュエールも仕事残ってるでしょ!」
「そこら辺、含めて大丈夫。今は蜜籠り時期なんだし、父上達も判ってて来てるよ」

 そんな都合のいい考えで大丈夫なのかな? とキリンが思っている間に、リュエールに布団の上に押し倒されて、帯紐に手を掛けられていた。

 キリンが布団の上で顔を赤くしている頃、料亭の個室ではルーファスとアカリが我が子と孫を相手にしながら食事をゆっくりとっていた。

「レーネル、美味いか?」
「あい!」

 ルーファスがレーネルに木匙で離乳食を与え、アカリはスクルードを片腕に乗せて器用に食事をとっている。
今まで双子や三つ子などで、食事をする時に子供を抱いたままという事はなかったが、スクルードは一人なのもあって、いつの間にか出来る様になった食事方法である。

「それにしても、リューちゃんとキリンちゃん挨拶に来るかと思ったけど、忙しいみたいだね」
「ん……そうだな。まぁ、忙しい分、オレ達が少しでもレーネルの世話をして手伝ってやらないとな」
「そうだね。我が子も可愛いけど、孫も可愛いからね。お世話するのは任せて下さいな」

 胸を張るアカリにルーファスが小さく笑うと、アカリが箸で料理を摘まみ上げてルーファスに「あーん」と言って口に入れる。

「ふふふっ、こうして親子水入らず、孫付きでお食事も楽しいね」
「そうだな。今度はルビスも連れてきてやるかな」
「そうだねー。ルビスちゃんにもここの離乳食、食べて欲しいね」

 ニコニコしているアカリにルーファスも頷いて、こうした隠居生活も悪くないと思うのだった。
忙しい時期は過ぎたが、また少しすれば忙しい時期に入るので、孫の面倒を見ることがまた増えるだろう。
子供の成長は早いので、ルーファスもアカリもこうした時間は大事にしていきたいと思っている。
自分達が育てた子供達は手を離れるのが早かった分、隠居して時間が出来た今は、ゆっくりと子供の成長を眺めていきたいところである。
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