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21章
温泉大陸の冒険ギルド・リンディの天敵
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海に囲まれ、隣りの大陸と大きな橋で繋がっている温泉大陸。
正月から10日間の間、冒険者ギルドはどのギルドも冒険者試験が何回でも受けられる、ボーナス会場というものになる。
ギルド職員は特別手当が出る以外は、正月休みを潰される日と思っていい。
温泉大陸の冒険者ギルドの受付け職員リンディ・チアはベテラン職員である。
この温泉大陸に配属されて13年は経つだろうか? 出世街道から外れてしまったリンディは温泉大陸支部でうつうつとした日々を過ごしている。
「リンディさーん、こんにちは」
リンディの天敵……リンディが温泉大陸に飛ばされる事になった原因、温泉大陸の当主の妻アカリ・トリニアが数ヶ月前に産んだ赤ん坊を抱っこ紐で前に抱きかかえて、手には風呂敷を持ってカウンターにやってくる。
「温泉大陸支部へようこそー。今日はどうなさいましたかー?」
「ふふっ。この子を産む前に手に入れてあった魔獣の素材があって、ようやく落ち着いたから、買い取ってもらおうと思って持ってきました」
「はーい。見ますのでカウンターに置いて下さいね」
「お願いします」
ニコニコとカウンターの上に風呂敷を置き、アカリはギルド内にある木の椅子に座るとスクルードをあやしながら素材の鑑定を待つ。
リンディとしてはこの冒険者試験の忙しい時期に素材鑑定をしに来たアカリは、やはり天敵である。
周りを見れば、冒険者試験に来た12歳以上からの受験者がギルド内に居るが、アカリはその中でも少し異質に映っているのだろう、遠巻きにアカリを見ている。
「ギルド員さん、あの人も冒険者なんですか?」
「ああ、彼女は冒険者ランクBですよ。まぁ、この温泉大陸では知らない人は居ない有名な人なので、関わっちゃ駄目ですよ」
この温泉大陸で冒険者試験を受ける人の大半は『有名な温泉大陸で冒険者になった』と自慢したい貴族や『親が冒険者で12歳になったからお祝いに温泉大陸にきたついでに冒険者になりにきた』という、まぁ、観光客の様な人物が多い。
あとは温泉大陸の冒険者試験は他の支部より少しばかり難易度が高いので腕試しにくる人などが多いが、腕試しの人物は、アカリが何者かを知っているのでリンディに聞いてきたりはしない。
「Bランクなのに強いとか?」
「ランクに関係なく、彼女に関わる事はおススメしませんよ」
リンディは一応、注意はした。
注意を無視して声をかけたければかければ良いのだ。そして、温泉大陸からポイッと放り出されて試験を受けられないまま出て行って、この忙しい冒険者試験期間をのんびり過ごさせてほしい。
残り二日間ではあるが、リンディ達ギルド職員の疲れも今がピークといったところなのだ。
注意は聞いてはいるが、好奇心からなのか受験にきた何人かがアカリに話し掛けにいっている。
「まぁ、冒険者にとって好奇心も大事な要素ですからね……」
リンディは素材鑑定を紙に書き写しながら、勇気ある受験者を見つめた。
話し掛けている受験者にアカリはコロコロと表情を変えて笑っている。
「私は冒険者になったら、あの【刻狼亭】でお祝いをしてもらう事が決まっていまして」
「まぁ、頑張って下さいね」
「オレも冒険者になったら【刻狼亭】の料亭で一席設けてもらえるんですよ」
「今でしたら、冬鳥のコース料理がおススメですよ」
必死に自分達の財力アピールの様な物をしている受験者に、リンディは思う。「あなた達、その人の腕に抱いている赤ん坊をよく見ろと……そして人妻でもいいのか?」かつて自分も固定概念から、黒狼族と見破れずに、出世街道から外れたわけではあるが……。
まぁ、貴族連中は子供が居ようと人妻だろうと、愛妾にしてしまう事が多いから、そういった意味では関係ないのだろうけど、アカリと出会って13年、外見がほぼ変わっていないアカリはある意味化け物にも思える。
「受験生の皆さん、試験の時間ですよー!」
そろそろ面倒くさいことになる前に、引き離しておくか……仕事は面倒くさいが、アカリ関係の温泉大陸関係者に関わる方が面倒くさい事になると、今までの経験からリンディは知っている。
アカリに声をかけながら受験者達は会場の方へ移動し、カウンター前に人がいなくなるとアカリの素材の買取を紙に書き写した物をカウンターに置いて、アカリを呼ぶ。
「アカリさんの素材買い取りですが、状態の良い物が多かったので、金貨32枚になります。あと白銀貨16枚に銅貨7枚です」
「はーい。ふふっ、リンディさんありがとうございます」
頭を下げながらアカリがギルドから出て行き、三十分ほどして筆記試験を終えた受験者がカウンターの前に戻って来る。
「さっきの女性は?」
「もう帰られましたよ」
「彼女はこの大陸の住民だろうか?」
「ええ。この大陸の人ですよ」
「何処に行けば出会えますか?」
「あなた達が無事、冒険者に合格したら会えますよ」
受験者たちは不思議そうな顔をするが、【刻狼亭】で合格祝いをするならば、アカリに合える確率は上がるわけで、ついでに言えば、厄介で嫉妬深い黒狼に温泉大陸から叩き出される確率も上がるわけだが……それも冒険者としての冒険の一つだと思って、楽しむ余裕があれば冒険者になる素質は十分あると言えるだろう。
「はぁー……」
溜め息をついてリンディは思う。
リンディ27歳……どうして40代のアカリがモテて二十代の自分がモテないのか……。
やはり、アカリは自分にとって天敵かもしれない。
正月から10日間の間、冒険者ギルドはどのギルドも冒険者試験が何回でも受けられる、ボーナス会場というものになる。
ギルド職員は特別手当が出る以外は、正月休みを潰される日と思っていい。
温泉大陸の冒険者ギルドの受付け職員リンディ・チアはベテラン職員である。
この温泉大陸に配属されて13年は経つだろうか? 出世街道から外れてしまったリンディは温泉大陸支部でうつうつとした日々を過ごしている。
「リンディさーん、こんにちは」
リンディの天敵……リンディが温泉大陸に飛ばされる事になった原因、温泉大陸の当主の妻アカリ・トリニアが数ヶ月前に産んだ赤ん坊を抱っこ紐で前に抱きかかえて、手には風呂敷を持ってカウンターにやってくる。
「温泉大陸支部へようこそー。今日はどうなさいましたかー?」
「ふふっ。この子を産む前に手に入れてあった魔獣の素材があって、ようやく落ち着いたから、買い取ってもらおうと思って持ってきました」
「はーい。見ますのでカウンターに置いて下さいね」
「お願いします」
ニコニコとカウンターの上に風呂敷を置き、アカリはギルド内にある木の椅子に座るとスクルードをあやしながら素材の鑑定を待つ。
リンディとしてはこの冒険者試験の忙しい時期に素材鑑定をしに来たアカリは、やはり天敵である。
周りを見れば、冒険者試験に来た12歳以上からの受験者がギルド内に居るが、アカリはその中でも少し異質に映っているのだろう、遠巻きにアカリを見ている。
「ギルド員さん、あの人も冒険者なんですか?」
「ああ、彼女は冒険者ランクBですよ。まぁ、この温泉大陸では知らない人は居ない有名な人なので、関わっちゃ駄目ですよ」
この温泉大陸で冒険者試験を受ける人の大半は『有名な温泉大陸で冒険者になった』と自慢したい貴族や『親が冒険者で12歳になったからお祝いに温泉大陸にきたついでに冒険者になりにきた』という、まぁ、観光客の様な人物が多い。
あとは温泉大陸の冒険者試験は他の支部より少しばかり難易度が高いので腕試しにくる人などが多いが、腕試しの人物は、アカリが何者かを知っているのでリンディに聞いてきたりはしない。
「Bランクなのに強いとか?」
「ランクに関係なく、彼女に関わる事はおススメしませんよ」
リンディは一応、注意はした。
注意を無視して声をかけたければかければ良いのだ。そして、温泉大陸からポイッと放り出されて試験を受けられないまま出て行って、この忙しい冒険者試験期間をのんびり過ごさせてほしい。
残り二日間ではあるが、リンディ達ギルド職員の疲れも今がピークといったところなのだ。
注意は聞いてはいるが、好奇心からなのか受験にきた何人かがアカリに話し掛けにいっている。
「まぁ、冒険者にとって好奇心も大事な要素ですからね……」
リンディは素材鑑定を紙に書き写しながら、勇気ある受験者を見つめた。
話し掛けている受験者にアカリはコロコロと表情を変えて笑っている。
「私は冒険者になったら、あの【刻狼亭】でお祝いをしてもらう事が決まっていまして」
「まぁ、頑張って下さいね」
「オレも冒険者になったら【刻狼亭】の料亭で一席設けてもらえるんですよ」
「今でしたら、冬鳥のコース料理がおススメですよ」
必死に自分達の財力アピールの様な物をしている受験者に、リンディは思う。「あなた達、その人の腕に抱いている赤ん坊をよく見ろと……そして人妻でもいいのか?」かつて自分も固定概念から、黒狼族と見破れずに、出世街道から外れたわけではあるが……。
まぁ、貴族連中は子供が居ようと人妻だろうと、愛妾にしてしまう事が多いから、そういった意味では関係ないのだろうけど、アカリと出会って13年、外見がほぼ変わっていないアカリはある意味化け物にも思える。
「受験生の皆さん、試験の時間ですよー!」
そろそろ面倒くさいことになる前に、引き離しておくか……仕事は面倒くさいが、アカリ関係の温泉大陸関係者に関わる方が面倒くさい事になると、今までの経験からリンディは知っている。
アカリに声をかけながら受験者達は会場の方へ移動し、カウンター前に人がいなくなるとアカリの素材の買取を紙に書き写した物をカウンターに置いて、アカリを呼ぶ。
「アカリさんの素材買い取りですが、状態の良い物が多かったので、金貨32枚になります。あと白銀貨16枚に銅貨7枚です」
「はーい。ふふっ、リンディさんありがとうございます」
頭を下げながらアカリがギルドから出て行き、三十分ほどして筆記試験を終えた受験者がカウンターの前に戻って来る。
「さっきの女性は?」
「もう帰られましたよ」
「彼女はこの大陸の住民だろうか?」
「ええ。この大陸の人ですよ」
「何処に行けば出会えますか?」
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受験者たちは不思議そうな顔をするが、【刻狼亭】で合格祝いをするならば、アカリに合える確率は上がるわけで、ついでに言えば、厄介で嫉妬深い黒狼に温泉大陸から叩き出される確率も上がるわけだが……それも冒険者としての冒険の一つだと思って、楽しむ余裕があれば冒険者になる素質は十分あると言えるだろう。
「はぁー……」
溜め息をついてリンディは思う。
リンディ27歳……どうして40代のアカリがモテて二十代の自分がモテないのか……。
やはり、アカリは自分にとって天敵かもしれない。
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