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21章
エルの考察⑧ 終
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ネルフィームの語った出来事は、ギル大叔父上の補足のようなものだった。
ギル大叔父上をゲームの賞品のような扱いにした貴族は、アーバント家とかつては同格だった貴族のはみ出し者達で、自分の家名を継げる事のない人達が、アーバント家のような跡継ぎの居ない貴族を賞品の様にして、自分達の雇った冒険者や、自分達で手に入れた高い薬などで、既成事実のようなものを作り、跡目に入ってしまうという……少し前から貴族の薄暗い所で流行っているゲームなのだそうだ。
今回、ティルナールとルーシーをギル大叔父上が連れて行ったことで、アーバント家の跡継ぎは二人だと思われたらしい。
そこで二人は冒険者に追われることになった。
それが、今回のティルナールとルーシーのヘルプコールに繋がる。
ティルナールとルーシーはトリニア家の子供でもあるから、貴族としては二人を殺すのではなく、トリニア家の繋ぎとして捕えたかったらしい。まぁ、要は人質のような形で父上達に繋ぎを取るのに二人を使いたかった……ともいえる。
ギル大叔父上が大暴れしている最中に、ネルフィームも貴族に雇われた冒険者に深手を負わされて、ギル大叔父上を見付けて、自分の兄竜の所へギル大叔父上を向かわせた後は、ティルナールとルーシーの居るホテルで二人の帰りを待ち、二人が帰ってきたら直ぐに背中に乗せて逃げる筈が、力尽きそうだったので、急遽、卵孵りしてしまったらしい。
あとは、ティルナールとルーシーの証言のままで……卵の中でネルフィームは、二人が自分の父親に助けを求めた事で安全な温泉大陸に付くまでは孵る事をやめていたそうだ。
「……と、ネルフィームが話している」
グリムレインがネルフィームの言葉を通訳し終えると、母上が差し出したお茶に氷を入れながら飲み干す。
「その貴族の名前は判るか?」
「ああ、それなら私が分かりますよ。ネルフィームと一緒に『復讐』するのにしっかり覚えて来たよ」
「ギャウウウ」
「我らに任せておけと……言っているから、婿は大人しくギルとネルフィームに任せておけばいい」
父上が腕を組みながら、ギル大叔父上とネルフィームを見てため息を一つ吐くと「ならオレは関わらんが、キチンと始末はつけておいてくれ」と言い、ボクと母上を襲った三人の侵入者についても、ギル大叔父上が責任をもって対応する事になった。
「あと、ティルナールとルーシーは反省を込めてのギル叔父上に預ける事にしていたが、今回の事で貴族社会が安定するまでは、魔国の学園に預けようと思う。エルシオンはどうしたい?」
「え? ボク……?」
いきなりの父上の言葉に母上の顔を見れば、母上は少し寂しそうな顔で口元だけを笑って見せて「エルの好きにしていいんだよ」と言って指をもじもじと動かしている。
「三つ子だから一緒の方が良い気もするが、三つ子だからこそ、個々に自由に学ぶことも良いと思う」
「ボクは……父上に朝と夕方に稽古をつけてもらって、スーにも色々教えるお兄さん居なかったら寂しいだろうから、ボクはここに居るよ」
ボクとしてはティルナールやルーシーと離れて過ごすのは、寂しいのもあるけど、あの二人と一緒に居るとボク自身の成長にはならないと思う。
ボクは二人に甘えて二人の背中に隠れてしまうから、それはスクルードの兄としては少し情けないものがあるからね。
「そうか。それなら今まで通りという事だな」
「ティルとルーシーも手元に置きたいけれど、二人が学ぶことを選んでしまったから、エルはどうするのかと思ったんだけど、母上としては少し寂しかったから、エルが残ってくれるなら嬉しいな」
「二人共もう温泉大陸から出て行く事決めてたの?」
「ああ。二人はギル叔父上の所で貴族の事を学んだのもあるが、色々学びたいことが増えたらしい」
「そっか……まぁ、二人なら大丈夫だよ」
ボクが決めた様に二人も決めていたのか……三つ子といっても、ティルナールが先頭を歩き、色々決めて引っ張って歩く……それが今までのボク等三つ子の在り方だった。
でも、離れて暮らして、ティルナールを頼らずに決める事は、ボクにとって初めてボクというモノが出てきた気がする。
だから、これはいい機会なんだと思う。
「寂しくなっても、腕輪があるから声はいつでも聞けるからね」
母上が自分の腕輪をボクに見せるけど、寂しいのは母上なのだろうなと思う。
何だかんだで、我が家は家族が出て行っているから、姉上達もあと2年くらいで出て行ってしまうだろうし、ティルナールやルーシーがギル大叔父上の屋敷に行ってしまった事も、母上にとってはショックだったろうし……。
今は温泉大陸内で離れて暮らすだけだったけど、魔国の学園だと離れすぎているから年に2回会えるくらいだろう。
母上がテーブルの上のグリムレインを頭の上に乗せると、ギル大叔父上との話し合いはお開きになった。
ギル大叔父上はもうしばらく体を治したら、報復しにいくといつも通りの飄々とした笑顔で言い、父上はリュエール兄上に侵入者の三人をギル大叔父上に引き渡すように手配した。
久々に屋敷にティルナールとルーシーが帰って来て、学園が始まる数日間を屋敷で過ごして、魔国から正月休みで温泉大陸に帰っていたシノリア兄さんが二人を連れて魔国の学園に帰っていった。二人は3年間行くことになる。
ナルア姉上が「たまにシノリアに会いに行くのにエルを魔国に連れて行ってさしあげますわ」と約束してくれて、ボクはナルア姉上のお供で魔国へたまに行くことになる。
こうして新年早々起きた事件はギル大叔父上の手に渡り、ボクら家族はまたいつもの日常に戻っていくことになる。
侵入者の三人はギル大叔父上が「使い切る」と言って、無茶な事をさせたらしく、再び見掛けた時は高飛車な感じの三人はギル大叔父上の忠実な部下として従事していた。
少ししたら、ギル大叔父上が新聞の一面を飾った事で父上が頭痛を起こしていたけど、ギル大叔父上が冒険者を引退して、貴族の中で【帝王】と呼ばれるのは少し先の話になる。
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今回、ティルナールとルーシーをギル大叔父上が連れて行ったことで、アーバント家の跡継ぎは二人だと思われたらしい。
そこで二人は冒険者に追われることになった。
それが、今回のティルナールとルーシーのヘルプコールに繋がる。
ティルナールとルーシーはトリニア家の子供でもあるから、貴族としては二人を殺すのではなく、トリニア家の繋ぎとして捕えたかったらしい。まぁ、要は人質のような形で父上達に繋ぎを取るのに二人を使いたかった……ともいえる。
ギル大叔父上が大暴れしている最中に、ネルフィームも貴族に雇われた冒険者に深手を負わされて、ギル大叔父上を見付けて、自分の兄竜の所へギル大叔父上を向かわせた後は、ティルナールとルーシーの居るホテルで二人の帰りを待ち、二人が帰ってきたら直ぐに背中に乗せて逃げる筈が、力尽きそうだったので、急遽、卵孵りしてしまったらしい。
あとは、ティルナールとルーシーの証言のままで……卵の中でネルフィームは、二人が自分の父親に助けを求めた事で安全な温泉大陸に付くまでは孵る事をやめていたそうだ。
「……と、ネルフィームが話している」
グリムレインがネルフィームの言葉を通訳し終えると、母上が差し出したお茶に氷を入れながら飲み干す。
「その貴族の名前は判るか?」
「ああ、それなら私が分かりますよ。ネルフィームと一緒に『復讐』するのにしっかり覚えて来たよ」
「ギャウウウ」
「我らに任せておけと……言っているから、婿は大人しくギルとネルフィームに任せておけばいい」
父上が腕を組みながら、ギル大叔父上とネルフィームを見てため息を一つ吐くと「ならオレは関わらんが、キチンと始末はつけておいてくれ」と言い、ボクと母上を襲った三人の侵入者についても、ギル大叔父上が責任をもって対応する事になった。
「あと、ティルナールとルーシーは反省を込めてのギル叔父上に預ける事にしていたが、今回の事で貴族社会が安定するまでは、魔国の学園に預けようと思う。エルシオンはどうしたい?」
「え? ボク……?」
いきなりの父上の言葉に母上の顔を見れば、母上は少し寂しそうな顔で口元だけを笑って見せて「エルの好きにしていいんだよ」と言って指をもじもじと動かしている。
「三つ子だから一緒の方が良い気もするが、三つ子だからこそ、個々に自由に学ぶことも良いと思う」
「ボクは……父上に朝と夕方に稽古をつけてもらって、スーにも色々教えるお兄さん居なかったら寂しいだろうから、ボクはここに居るよ」
ボクとしてはティルナールやルーシーと離れて過ごすのは、寂しいのもあるけど、あの二人と一緒に居るとボク自身の成長にはならないと思う。
ボクは二人に甘えて二人の背中に隠れてしまうから、それはスクルードの兄としては少し情けないものがあるからね。
「そうか。それなら今まで通りという事だな」
「ティルとルーシーも手元に置きたいけれど、二人が学ぶことを選んでしまったから、エルはどうするのかと思ったんだけど、母上としては少し寂しかったから、エルが残ってくれるなら嬉しいな」
「二人共もう温泉大陸から出て行く事決めてたの?」
「ああ。二人はギル叔父上の所で貴族の事を学んだのもあるが、色々学びたいことが増えたらしい」
「そっか……まぁ、二人なら大丈夫だよ」
ボクが決めた様に二人も決めていたのか……三つ子といっても、ティルナールが先頭を歩き、色々決めて引っ張って歩く……それが今までのボク等三つ子の在り方だった。
でも、離れて暮らして、ティルナールを頼らずに決める事は、ボクにとって初めてボクというモノが出てきた気がする。
だから、これはいい機会なんだと思う。
「寂しくなっても、腕輪があるから声はいつでも聞けるからね」
母上が自分の腕輪をボクに見せるけど、寂しいのは母上なのだろうなと思う。
何だかんだで、我が家は家族が出て行っているから、姉上達もあと2年くらいで出て行ってしまうだろうし、ティルナールやルーシーがギル大叔父上の屋敷に行ってしまった事も、母上にとってはショックだったろうし……。
今は温泉大陸内で離れて暮らすだけだったけど、魔国の学園だと離れすぎているから年に2回会えるくらいだろう。
母上がテーブルの上のグリムレインを頭の上に乗せると、ギル大叔父上との話し合いはお開きになった。
ギル大叔父上はもうしばらく体を治したら、報復しにいくといつも通りの飄々とした笑顔で言い、父上はリュエール兄上に侵入者の三人をギル大叔父上に引き渡すように手配した。
久々に屋敷にティルナールとルーシーが帰って来て、学園が始まる数日間を屋敷で過ごして、魔国から正月休みで温泉大陸に帰っていたシノリア兄さんが二人を連れて魔国の学園に帰っていった。二人は3年間行くことになる。
ナルア姉上が「たまにシノリアに会いに行くのにエルを魔国に連れて行ってさしあげますわ」と約束してくれて、ボクはナルア姉上のお供で魔国へたまに行くことになる。
こうして新年早々起きた事件はギル大叔父上の手に渡り、ボクら家族はまたいつもの日常に戻っていくことになる。
侵入者の三人はギル大叔父上が「使い切る」と言って、無茶な事をさせたらしく、再び見掛けた時は高飛車な感じの三人はギル大叔父上の忠実な部下として従事していた。
少ししたら、ギル大叔父上が新聞の一面を飾った事で父上が頭痛を起こしていたけど、ギル大叔父上が冒険者を引退して、貴族の中で【帝王】と呼ばれるのは少し先の話になる。
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