黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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21章

エルの考察⑦

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 料亭の個室の一つを貸し切って、テーブルに大量の料理を並べて食べていくギル大叔父上に少しばかりボクは目を丸くする。
肉料理を山盛りにして、ギル大叔父上は綺麗な食べ方なのに料理はドンドン大叔父上の口の中に消えていく。

「血も肉も健康は食べることにあり、ですね」
「はぁ……まぁ、いっぱい食べるのは良い事だと思いますが……」
「ギル叔父上、食べるのはそのくらいにして説明を」

 母上と父上が眉を下げてギル大叔父上を見つめて、ペロッと口元舐めてギル大叔父上は頭の上のネルフィームを膝の上に乗せる。
母上の頭の上にはグリムレインがネルフィームの通訳の為にいるけど、興味無さそうに欠伸をしている。

「言っておくけど、私も今回は被害者なんだよ? 今回はね」

 「今回は」と、強調するギル大叔父上に膝の上に座って居るネルフィームもコクコクと首を縦に振る。
指をくるくると回しながら、ギル大叔父上は今回の事を話し始めた。

「私は貴族の集まりにアーバント家として出席したわけだけどさ、ティルナールとルーシーも参加させただろ? そこでちょっとした貴族のゲームに巻き込まれたのさ。言っとくけど、私は参加したわけじゃない。勝手にゲーム内容に組み込まれていたのさ」
「ゲーム? その内容は?」
「ゲームは貴族の跡目争い争奪戦。商品は我がアーバント家の家名と跡継ぎだよ。私抜きで勝手に決めて始めたのさ」

 初めのうちはパーティー会場で貴族たちに自分の大甥と大姪を紹介して優雅なひと時を過ごして、ネルフィームと一緒にワインを飲んだり、踊ったりと楽しくしていたのだ。
ティルナールとルーシーも貴族の子供に混じって挨拶をしつつ、気付いた時にはティルナールとルーシーが会場から居なくなっていた。

 ティルナールとルーシーの証言では『ギル大叔父上達は後でホテルに戻るから先に子供達は戻るように』と言われ、ギル達に一応話をする為に探していたところ、ギル達が失踪していたのだという。

「私としては由緒あるアーバント家に喧嘩を売ってくる貴族がいる事に驚いたよ。まぁ、私が最後のアーバント家ではあるが、安く見られたというか、軽く見られたというかね……」
「ギル叔父上が冒険者稼業をしているのも、軽く見られている原因だろうな。オレもアカリと出会う前まではギル叔父上と大差ない最後の末裔というところだったからな」

 父上が「分からなくもない」と、母上の頬に手を当てると微笑み合っていつもの様に二人の世界に行くところを『ゴホン』と、ギル大叔父上が咳で止めて父上と母上は二人の世界から戻ってくる。

「まぁ、ちょっとだけ私も油断しててね。あのワインは美味しかったんだよ。ね? ネルフィーム」
「ギャウゥ……」

 首をすくめてギル大叔父上とネルフィームが首を振る。
どうやら、二人はワインに酔いしれている間に巻き込まれてしまったらしい。

「いつもならもう少し注意するんですけどねぇ、私も年末年始のパーティーということで気が抜けていたのかもしれないです……気付いたら、変な部屋にネルフィームと引き離されて閉じ込められていてね。媚薬っぽい香が焚かれていて……」
「ギルさんっ! エル、聞いちゃ駄目よ!」

 母上がボクの耳を両手で塞ぎ、ボクが察するに、大人な事があったのかもしれない……が、すぐに母上の手が耳から離れて話はそんな色っぽい話ではなかったようだ。

「ネルフィームも心配だったし、ティルナールとルーシーも心配でしたからね。それに部屋に居た女性が趣味じゃなかった……って、ネルフィーム、痛いです。どうどう」
「ギャウウウ!」

 ネルフィームに齧りつかれながら、ギル大叔父上は言葉を続ける。

「まぁ、その後は大乱闘になってしまったんですけどね。私が捕まったという事は、ティルナールやルーシーにも危険が迫っていると思いましたから、私の権限の及ぶところで温泉大陸の入国証明書を発行して、人を雇って子供を二人温泉大陸へ運ぶように頼んだんですよ。持ち物がその時は無かったので温泉大陸にある屋敷を担保にしたんですが……どうも、その話がうまく伝わっていなかったようですね」

 やれやれとギル大叔父上が首を振り、父上と母上が「ギル叔父上」「ギルさん」と地の底を這うような声を出すとギル大叔父上は「私だって慌てていたんですよ」と言いながら、口を尖らせる。

「何がどうなったら、オレの屋敷に依頼も果たしていない、手ぶらの人間が居座ろうとしていたんだ!」
「だから、私は地図に書いた場所に子供を送ってくれと説明したハズなんですよ!」

 バンバンとテーブルを叩き合って睨み合う父上とギル大叔父上を、被害者の母上とボクは「困った人」という目でギル大叔父上を見る。

 しかし、あの三人の侵入者がうちの屋敷に来た理由は判った。
色々と手違いと勘違いが今回の騒動を巻き起こしたというところなのだろう。

「それで、貴族のゲームというのは収まったのか?」
「どうだろうねぇ? 私は瀕死になるまで追い詰められて、ネルフィームが兄竜の所へ通じている袋に私を無理やり突っ込んで……私は、ロックヘルに送られたからね」
「ギュルル」

 ネルフィームが首を小さく傾けてギル大叔父上を見上げ、グリムレインが「我の出番か」と、母上の頭から降りてテーブルの上に座り、ネルフィームがその横に座った。
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