黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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21章

エルの考察④ 

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 アォォーン……
小さいが緊急を伝える遠吠えに、【刻狼亭】内の獣人と宿舎の獣人が耳を動かして飛び出すと黒い狼が5匹、温泉大陸の当主の屋敷の前に集まっていた。

「旦那、今の遠吠えは!?」

 獣人の従業員の声に「エルシオンの声だ」とリュエールが言い、屋敷の玄関をミールが開けてリュエール達トリニア家の兄妹達が入ると、血の匂いに嗅ぎなれない人物達の匂い、長い廊下の先に血だらけのエルシオンと倒れたままのアカリを目にして、目を見開くと屋敷の中へ上がっていく。

「シュー、エルと母上の治療を! ミール、屋敷の中に不審者が居ないかを調べろ! ミルア、ナルア、スクルードの捜索を! 従業員は屋敷の周りを警戒しろ!」
「解った!」
「了解」
「はいですの!」
「行きますわよ!」
「「「はっ!」」」

 それぞれが動き出し、大広間にリュエールが飛び込むとベビーベッドが目に飛び込んで来る。駆け寄ると、小さな毛布の盛り上がりに恐る恐る毛布をめくると、タオルケットを口いっぱいに頬張っているスクルードと目が合う。
獣化を解いてスクルードの口からタオルケットを出すと、不満そうに顔をくしゃっとしわを寄せて、スクルードが泣き始め、ミルアとナルアが大広間に駆け込んでくる。

「スーちゃん!」
「大丈夫ですの!?」
「大丈夫みたいだよ。タオルケットを取り上げたのが気に入らないみたいだけど」
「スーちゃんのお気に入りですもの」
「無事なら良かったですわ」

 二人が胸をなでおろしてリュエールからスクルードを受け取っていると、二階から物音がして窓ガラスの割れる音と共に庭へ何かが落ちてきた。

 ドサッドサッと音がし、庭を取り囲んでいた従業員達が上から落ちてきた物を見て竹笛を鳴らし、他の従業員達に不審者が出た事を知らせる。
ピィーと甲高い竹笛に宿舎で休みを取っていた休暇の従業員も宿舎の窓から顔を出す。

「どうしたー!」
「大旦那様の屋敷に不審者だ!」
「命知らずかよ! すぐ行くー!」

 庭にもう一人不審者が二階から落とされ、二階の窓からミールが顔を出す。

「ミール! 状況報告!」
「二階の大旦那様と大女将様の部屋で金品を漁っていた。犯人は三名、そこの奴等です」

 相変わらず、必要最小限の言葉ではあるが、充分な内容だった為、従業員が三人の犯人を取り囲むと最後に落ちてきた犯人の中の女が契約書の様な紙を出す。

「なんなのよ! この契約魔法の紙が目に入らないの! アタシはこの屋敷の正当な持ち主よ!」
「ハァ?」

 従業員がいぶかしげな顔をして、リュエールが庭に出てくると従業員は説明をしようとするが、リュエールにも話は聞こえていた為、手で制して女の掲げる契約魔法の紙に目を通す。

「確かに、正真正銘、本物の契約魔法の紙みたいだね……」
「でしょう!」

 嬉しそうに女がフフンッと従業員を見下した様な笑いで見ると、リュエールが「ただね……」と、言葉を繋げる。

「この契約魔法の紙には『アーバント家の所有する屋敷』と記載されていて、ココはアーバント家ではなく、トリニア家の所有する屋敷なので、明らかに間違えている。それについての弁解はある?」
「そんなわけないでしょ! アタシ達はちゃんと地図と通行証を貰って、確認したうえで来たのよ!」
「じゃあ、それを見せてもらえる?」

 女が自分のカバンから地図と通行証を出すとリュエールがひったくる様に目を通し、眉間にしわを寄せる。

「どう? キチンとあのアーバント家の当主に発行された物なんだから!」
「確かに、アーバント家が所有する温泉大陸の特別通行証明書にギル大叔父上のサインの付いた物だね。でも、これは三日以内に温泉大陸の当主の許可印が押されなければ、無効になる物だよ。地図に関しては場所はココで間違いはないけど、アーバント家の屋敷では無いから、温泉大陸の代理当主として当主が戻るまで、あなた方の身柄は確保させてもらう。捕縛して牢へ叩きこんでおいて、事情聴取もする様に!」
「ちょっと! どういう事よ!」
「話は牢で聞く」

 喚き散らす女を引きずり従業員達が庭から出て行き、ナルアがリュエールを呼びに庭へと出て来る。

「リュー兄様、シュー兄様が治療を終えましたわ。エルはまだ動かせませんが、母上は直ぐに目を覚ますそうですわ」
「わかった。父上に連絡をしてから、直ぐに行く」

 ナルアが屋敷の中に戻り、リュエールが残った従業員に他にもギルから発行された通行証で入国した者が居ないかを調べるように言い、しばらく温泉街と周辺を警戒する様に指示してから、ルーファスに腕輪で連絡を取る。 

『ギル叔父上が何かやらかしている様だな……どんな意図があるかは判らんが、まったく厄介な身内だ』
「こっちは何とかするから、早めに戻って来て。母上とエルも安心するだろうから」
『そのつもりだ。警備はしっかりする様に』
「わかってるよ」

 通信を終わらせるとリュエールも屋敷の中に入り、大広間に集まっている弟妹達の元へ行く。
ソファにはアカリが座り、スクルードを腕に抱いている。

「母上、大丈夫ですか?」
「平気だよ。私よりエルの方が痛かったと思うし……」
「シュー、エルは?」
「ミルアに子供部屋で面倒見てもらってる。エルは一応、傷口は塞いでおいたけど、血が結構出てるから様子を見て輸血するかどうかをボギー先生に判断してもらうつもり。ボギー先生を呼んでおいたから直ぐ来ると思う」

 ナルアがお茶を淹れて戻ってそれぞれに出し、新年早々不穏な感じだとそれぞれが小さく息を吐いた。
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