黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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21章

エルの考察②

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 年末最後の日、父上は【刻狼亭】の年末の宴と年始の宴に参加しに出掛けて行った。
母上はスクルードを連れては参加できないので、今回はボクとスクルードと一緒に屋敷で年末年始を迎える為に、朝からお節料理を作っていた。
 そして夜、全ての支度を終えた母上は機嫌よく飾り付けをした部屋の中に入ってきた。
飾りつけは邪気払いと春の温かさが屋敷に来るように、と言う事で黄色の水晶が混じった長い布を部屋の欄間に飾ってあるだけなんだけどね。

「ふんふんふーん♪」

 母上の鼻歌と共にテーブルの上に蕎麦とうどんが並ぶ。
天ぷらは大きな海老で、他のトッピングはカマボコと柚子の細切りとネギの輪切り。

「年越しのお蕎麦を食べたら、私と一緒に温泉でも入る?」
「母上、ボクもう1人で温泉は入れるし、子供扱いしないで」
「えー、まだエルは子供だよー?」
「12歳で働ける歳になるんだから、ボクもう9歳! 親離れ時期だよ!」
「むぅ……エルが可愛くなーい。私にはスーちゃんだけだわ」

 ヨヨヨ……と、泣くふりをしながら、母上はベビーベッドのスクルードを抱き上げるとお乳をあげて、スクルードがお腹いっぱいになると、母上はうどんを食べ始める。

「母上は何で蕎麦じゃないの?」
「スーちゃんが、蕎麦アレルギーだとお乳から口に入ると困るから、母上はおうどんなのよ」

 一応、アレルギーはうちの家族は火アレルギー以外はないから、大丈夫な気もするけど、注意する事に越したことは無いのだろう。
姉上達が居たら「ラーメン!」って騒ぎそうな気もする。
母上は笑って海老天をボクの蕎麦の中に入れて、カマボコを代わりに取っていく。

「今頃、ティル達もパーティーで楽しんでいるかしら?」
「楽しんでるんじゃないかな?」
「帰ってきたら、どんな風だったか聞かないとね」
「そうだね。でもギル大叔父が一緒だから、ギル大叔父に振り回されてそう」
「あー、ありえそう。ふふっ」

 三つ子の兄と妹は今頃どうしているだろう?
ギル大叔父上の事だから、二人は振り回されている事だろう……ネルフィームも一緒だから、少しは大丈夫だとは思うけど、心配の種は尽きない。

「母上、父上達も騒いでるかな?」
「二日酔いにならないと良いのだけど、まぁお味噌汁を作っておきましょうね」

 うどんを食べ終わると母上は、器を片付けて台所で洗い物をした後、しじみの味噌汁を作ってから戻ってくると、スクルードを連れて屋敷の中にある大きい温泉のあるお風呂へ入りに行く。
母上がお風呂に入っている間に、父上が一度戻って来て母上はお風呂だと言うと、尻尾を振りながらお風呂場に消えた。
困った父上だと思う……仲が良いのはいいけど、ちゃんと宴に参加してお客さんの相手をすべきだと思う。
こうした所はギル大叔父上に似ているかもしれない。

 ミッカの実の皮をむいて食べていると、父上がスクルードを連れて大広間に戻ってきた。

「母上は?」
「あー……のぼせた様でな、休ませている」
「……そうですか。父上は宴に戻るんですか?」
「いや、リュエールとシュトラールに任せてきた。このままスクルードの世話をしつつ年越しだ」

 父上はクネクネするスクルードに手を焼きながら、服を着せてから湯冷ましを飲ませると、時間はあっという間という感じで、日付は変わっていた。

「エルシオン、今年もよろしく頼むぞ」
「はい。父上、今年もよろしくお願いします」

 お互いに頭を下げて挨拶をすると、座布団の上に寝かせたスクルードが足と手を動かしながら逆時計回りにくるくる回っている。

「あうー、あー」
「スクルードも今年も宜しくな。大きく育て」
「スー、今年も元気でいこうね」
「あーあー」

 スクルードを父上が膝の上に乗せて自分の指を掴ませると、スクルードは小さい手で父上の指を引っ張って喜んで、父上もフッと笑ってスクルードは愛されているなぁと、ボクもつられて笑う。
 今年は父上とスクルードと三人で始まり、年明けの朝は麒麟像のある神社へ父上と母上とスクルードと一緒にお参りに行った。
いつもはハガネが連れて来てくれるけど、父上と母上と一緒なのは初めてかもしれない。

「エル、露店で何か欲しい物ある?」
「ソーセージのポテト巻きが食べたいです」
「うん。買って食べようね」

 母上が露店で食べ物を買って、父上はスクルードを抱っこ紐とコートで温めて、というより、スクルードで温まっている様な気もする。

「ルーファスも何かいる?」
「いや、オレはいい。二人が好きに食べるといい」
「あっ、リューちゃんとキリンちゃんとレーネルちゃんがいるよ」

 母上がリュエール兄上達を見付けて手を振ると、兄上達がやって来て年始の挨拶をすると、兄上達はお参りをしてから屋敷の方にくるらしい。
シュトラール兄上は、リュエール兄上の代わりにお酒を飲む係りを変わったみたいで、二日酔いで寝込んでいるらしいから、屋敷に来るのは明日になるかもしれないらしい。
大人は大変そうだ。

 午後にリュエール兄上が挨拶に来て、母上の作ったお節を食べていると、父上の腕輪が振動してティルナールから連絡が来た。

『父上、ギル大叔父上が居なくなっちゃった!』

 今年初めての事件はこうして幕を開けた。
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