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21章
エルの考察①
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トリニア家八人兄弟の六番目にして四男、それがボク、エルシオン・トリニア。
今日はボクの冬休みの話をしようと思う。
ボクと、三つ子の兄、妹のティルナールとルーシーが大叔父さんのギルに貴族のパーティーに連れていかれて、ボクは一人で温泉大陸に残る事になった。
一人と言っても、一番上の姉上や二番目の姉上に、もう家を出た長兄次兄も温泉大陸には居るし、何より、二ヶ月前に生まれたスクルードという弟も一緒にいるから、正確には一人じゃない。
三つ子の中でボクだけが一人残された……と、言う事。
「エルー、味見してくれる?」
ゆりかごでご機嫌で人形を握りしめているスクルードの相手をしていたら、母上が大広間に顔を出した。
母上は少し不思議な人で、姉上達より大人っぽくはあるけど、基本子供の様な人。
子供をそのまま大人にした様な、ふわふわで少し無鉄砲、だから周りが母上を守らなきゃと、いつもベッタリとガードしている。
けれど、冬場は守り手は少なく、父上に氷竜のグリムレインくらいしか居ない。
「なんの味見?」
「ふふっ、新作のオヤツですよー。レアチーズタルトだよ。無塩バターとクリームチーズが手に入ったから作ってみたの」
「ボク、あんまりスッパいの好きじゃないよ?」
「ふふっ、そう言うと思って、母上はちゃんと考えました! レアチーズ部分にホワイトチョコを混ぜたから酸っぱさだけじゃなくて甘さもあるよ」
母上は楽しそうに笑ってレアチーズタルトを切り分けてお皿に盛ると、ほうじ茶と一緒に出してくる。
なんでほうじ茶なの? と、前に聞いたところ、母上が子供の頃オヤツの時はほうじ茶と一緒に出されていたから、何となくなのだそうだ。
「どう? 美味しい?」
「んーっ、普通に美味しいよ?」
「普通かー……エルは舌が肥えてるから、満点貰うのは難しいねぇ」
母上の作る物は誰と比べて良いかも判らない目新しい物だったり、食べた事が無い物だったりというのが多いから、答えようが無いというのもあるし、料理人という訳でもないから、【刻狼亭】の料理人の人と比べると舌ざわりとか、処理の仕方は料理長達の方が上手だしね。
仕方がないと思う。
ドタタタタと、足音がしてグリムレインが大広間に顔を出すとレアチーズタルトを見て、ボクの横に座ると、母上がチーズタルトを切り分けて、グリムレインにもチーズタルトを用意する。
「何故、我を一番に呼ばないのだ! 嫁は」
「だって、グリムレインは呼んでも直ぐに来ないじゃない」
「それはオヤツかどうかで反応が違う」
母上も子供っぽいけど、ドラゴン達も基本、子供みたいな感じがする。
「むっ、甘い! 嫌ではないが、我的には小ざっぱりとした味の方が好みだ」
「グリムレインはフロマージュ系が好きなのは知ってるよ。これは子供達用にだもの」
「嫁は子供贔屓だの」
「それは当たり前だよ~。でもグリムレイン達の事もちゃんと贔屓してるよ」
父上が見たら嫉妬しそうな仲の良さで、ニコニコと母上がグリムレインが食べるのを見ている。
ボクの方に母上が目線を向けて、ニッコリ笑うとおかわりがいるか聞いてきて、首を振ると母上はレアチーズケーキをグリムレインに息を吹きかけるように言って凍らせると台所へ持って行く。
「年末はすることが無いと暇だのう」
「そうだねー。兄上達が大抵のことはしてるし、父上も挨拶だけしに料亭に顔出してるだけだしね」
「エルはティルとルーシーが居なくて寂しくはないか?」
「寂しくはないよ。スーも居るし、どちらかと言えば、二人が寂しがってそう」
「ふむ。そうだのう。あの二人は初めて年末年始を余所で過ごすようなものだからの」
世界中に魔力が溢れている間は、グリムレイン達ドラゴンは魔力を地上に撒く仕事が無いので百年以上は年末年始は暇をするらしい。
ドラゴンが世界に必要とされたり、崇められているのは魔力の足りない土地に雪や風や大地や草木に魔力を与えているからで、魔力の溢れている時期は体にひたすら魔力を溜めている期間なのだそうだ。
数百年して、また地上に魔力が足りなくなったら撒くために存在するドラゴン。
今は母上や父上に兄上や姉上がドラゴンと契約して、温泉大陸にドラゴンが居るけど、いつかドラゴンはこの大陸から出て行くのだろうか?
「グリムレイン、温泉大陸以外のドラゴンって他にも居るの?」
「確認されているのは何匹かいるな、ただ、あいつ等は滅多には姿を現さんからなぁ……、金銀財宝が好きなネルフィームの兄竜ファルヒュームはロックヘルに居る。死者の都にクロムハンツが居るが、クロムハンツに会う為には死者の都を探さねばいかん。これが大変だからのう……会う事もあるまいて。あとは我の弟竜アクエレインと霧竜のミイがどこかにおるはずだが、ここ数百年会ってはいないな」
「グリムレインは弟がいたんだね」
「ああ。我より少し大人しい弟だ」
グリムレインが少し遠くを見るような目をして、スクルードがあげる言葉にならない声に目を細める。
弟さんの事を思い出しているのだろうか? ボクには妹のルーシーしか今まで居なかったから、こうしてスクルードという弟が出来て、初めて『兄』という物になった気がする。
ルーシーは三つ子で同じ時に生まれたから、妹って感じじゃないしね。
弟はまだ生まれて2ヶ月で何も知らない真っ白な状態。
スクルードがもう少し大きくなったら、色々連れて行って、色々教えてあげるのが兄としての僕の役目だと思う。
「あー、あひー」
スクルードはやっぱり、まだ言葉にならない声を出すだけだけど、言葉もいっぱい教えてあげよう。
とりあえず、今は母上がスクルードから目を離している間は、ちゃんと見ていてあげるのが僕の役目かな?
今日はボクの冬休みの話をしようと思う。
ボクと、三つ子の兄、妹のティルナールとルーシーが大叔父さんのギルに貴族のパーティーに連れていかれて、ボクは一人で温泉大陸に残る事になった。
一人と言っても、一番上の姉上や二番目の姉上に、もう家を出た長兄次兄も温泉大陸には居るし、何より、二ヶ月前に生まれたスクルードという弟も一緒にいるから、正確には一人じゃない。
三つ子の中でボクだけが一人残された……と、言う事。
「エルー、味見してくれる?」
ゆりかごでご機嫌で人形を握りしめているスクルードの相手をしていたら、母上が大広間に顔を出した。
母上は少し不思議な人で、姉上達より大人っぽくはあるけど、基本子供の様な人。
子供をそのまま大人にした様な、ふわふわで少し無鉄砲、だから周りが母上を守らなきゃと、いつもベッタリとガードしている。
けれど、冬場は守り手は少なく、父上に氷竜のグリムレインくらいしか居ない。
「なんの味見?」
「ふふっ、新作のオヤツですよー。レアチーズタルトだよ。無塩バターとクリームチーズが手に入ったから作ってみたの」
「ボク、あんまりスッパいの好きじゃないよ?」
「ふふっ、そう言うと思って、母上はちゃんと考えました! レアチーズ部分にホワイトチョコを混ぜたから酸っぱさだけじゃなくて甘さもあるよ」
母上は楽しそうに笑ってレアチーズタルトを切り分けてお皿に盛ると、ほうじ茶と一緒に出してくる。
なんでほうじ茶なの? と、前に聞いたところ、母上が子供の頃オヤツの時はほうじ茶と一緒に出されていたから、何となくなのだそうだ。
「どう? 美味しい?」
「んーっ、普通に美味しいよ?」
「普通かー……エルは舌が肥えてるから、満点貰うのは難しいねぇ」
母上の作る物は誰と比べて良いかも判らない目新しい物だったり、食べた事が無い物だったりというのが多いから、答えようが無いというのもあるし、料理人という訳でもないから、【刻狼亭】の料理人の人と比べると舌ざわりとか、処理の仕方は料理長達の方が上手だしね。
仕方がないと思う。
ドタタタタと、足音がしてグリムレインが大広間に顔を出すとレアチーズタルトを見て、ボクの横に座ると、母上がチーズタルトを切り分けて、グリムレインにもチーズタルトを用意する。
「何故、我を一番に呼ばないのだ! 嫁は」
「だって、グリムレインは呼んでも直ぐに来ないじゃない」
「それはオヤツかどうかで反応が違う」
母上も子供っぽいけど、ドラゴン達も基本、子供みたいな感じがする。
「むっ、甘い! 嫌ではないが、我的には小ざっぱりとした味の方が好みだ」
「グリムレインはフロマージュ系が好きなのは知ってるよ。これは子供達用にだもの」
「嫁は子供贔屓だの」
「それは当たり前だよ~。でもグリムレイン達の事もちゃんと贔屓してるよ」
父上が見たら嫉妬しそうな仲の良さで、ニコニコと母上がグリムレインが食べるのを見ている。
ボクの方に母上が目線を向けて、ニッコリ笑うとおかわりがいるか聞いてきて、首を振ると母上はレアチーズケーキをグリムレインに息を吹きかけるように言って凍らせると台所へ持って行く。
「年末はすることが無いと暇だのう」
「そうだねー。兄上達が大抵のことはしてるし、父上も挨拶だけしに料亭に顔出してるだけだしね」
「エルはティルとルーシーが居なくて寂しくはないか?」
「寂しくはないよ。スーも居るし、どちらかと言えば、二人が寂しがってそう」
「ふむ。そうだのう。あの二人は初めて年末年始を余所で過ごすようなものだからの」
世界中に魔力が溢れている間は、グリムレイン達ドラゴンは魔力を地上に撒く仕事が無いので百年以上は年末年始は暇をするらしい。
ドラゴンが世界に必要とされたり、崇められているのは魔力の足りない土地に雪や風や大地や草木に魔力を与えているからで、魔力の溢れている時期は体にひたすら魔力を溜めている期間なのだそうだ。
数百年して、また地上に魔力が足りなくなったら撒くために存在するドラゴン。
今は母上や父上に兄上や姉上がドラゴンと契約して、温泉大陸にドラゴンが居るけど、いつかドラゴンはこの大陸から出て行くのだろうか?
「グリムレイン、温泉大陸以外のドラゴンって他にも居るの?」
「確認されているのは何匹かいるな、ただ、あいつ等は滅多には姿を現さんからなぁ……、金銀財宝が好きなネルフィームの兄竜ファルヒュームはロックヘルに居る。死者の都にクロムハンツが居るが、クロムハンツに会う為には死者の都を探さねばいかん。これが大変だからのう……会う事もあるまいて。あとは我の弟竜アクエレインと霧竜のミイがどこかにおるはずだが、ここ数百年会ってはいないな」
「グリムレインは弟がいたんだね」
「ああ。我より少し大人しい弟だ」
グリムレインが少し遠くを見るような目をして、スクルードがあげる言葉にならない声に目を細める。
弟さんの事を思い出しているのだろうか? ボクには妹のルーシーしか今まで居なかったから、こうしてスクルードという弟が出来て、初めて『兄』という物になった気がする。
ルーシーは三つ子で同じ時に生まれたから、妹って感じじゃないしね。
弟はまだ生まれて2ヶ月で何も知らない真っ白な状態。
スクルードがもう少し大きくなったら、色々連れて行って、色々教えてあげるのが兄としての僕の役目だと思う。
「あー、あひー」
スクルードはやっぱり、まだ言葉にならない声を出すだけだけど、言葉もいっぱい教えてあげよう。
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