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21章
トリニア家の次女
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ムスッと頬を膨らませてご機嫌斜めの自分の姉であるミルアを見ると、クリーム饅頭を両手に掴んで、眉間にしわを寄せながら自棄食いしている。
「ミル姉様、胸やけしてしまいますわよ?」
「放っておいて下さいまし!」
旅行カバンの中身をナルアがミルアの箪笥に仕舞い込み、耳を下げて小さく首を左右に振る。
「恋は盲目ですわね……」
「何か言いまして?」
「いいえ。ミル姉様、反省なさいましね」
「父上も、ミールも、ナルアもうるさいのですわ!」
キィっとミルアが手をバタつかせるとテーブルに突っ伏す。
数時間前に家出をしたミルアは、風竜スピナの風でルーファスの下へ匂いを運ばれてしまい、直ぐ様見つかってしまい、連れ戻されたのである。
そして、双子の妹のナルアを監視役に自室で反省する様に促されている。
ローランドも反省する様に言われ、ナルアの主君命令で人型になり飛ぶ事を禁止させられ【刻狼亭】の手伝いをする様に命じられている。
「これ、リュー兄様から自宅でお仕事する様にって」
紙束をテーブルに乗せられ、ミルアがうんざりした顔をする。
【刻狼亭】の冬案内の招待状書きである。
「多すぎじゃありません事? リュー兄様も意地悪ですわ……」
「仕方ありませんの。家出したミル姉様が悪いのですわ」
「一人になって色々考えたかったのですわ……」
「一人で考えるのも良いですけど、折角、家族が居るのですから家族に相談するのですわ。お義姉様達に相談してリュー兄様やシュー兄様を味方につけて、徐々に陥落させればよろしいのに」
ナルアの言葉にミルアが「ぐぬぬ……」と声を出す。
「シノリアとの関係を前進させられてないくせに……」
「何ですの? ミル姉様」
ボソリと呟いた言葉にナルアが片眉を上げて、ミルアの手に持っているクリーム饅頭を奪って口の中に入れて、フンッと横を向く。
恋愛関係に関してはお互いに難問山積みの二人は、恋愛に関しては双子と言えどお互いに干渉しあう事はあまりしない。
敵に塩を送るわけにもいかない難しいライバル関係でもある。
「それじゃ、わたくしは母上のお手伝いをしてきますわ。ミル姉様は招待状を書き上げて下さいまし」
ナルアが部屋を出て行くとミルアはリュエールによって山積みにされた紙束にウンザリした顔をして、大人しく冬の案内の招待状を書き始める。
恐らくは、リュエールからの仕事と言うより、父親のルーファスから出された物だろうとミルアは半目になる。
「父上、おっかなかったですわね……」
ローランドと一緒に温泉大陸を出て、隣りの大陸で獣化したルーファスとミールに鬼のような形相で叱られた。
子供の時の様に首をガッチリ噛みつかれて怒られたのは、今思い出しても羞恥で死ねるのである。
連れ戻された時に母親のアカリにもガッツリ怒られ、その声で宿舎の従業員にも揶揄われたし、散々だった。
当分、自室で反省を促されたが、むしろ自室から出たくないという方が正しい。
ミルアを部屋に残し、ナルアが一階へ向かうと、階段の下でアカリとルーファスが少し眉を下げてナルアを待っていた。
「ミルアはどんな感じだ?」
「落ち込み過ぎてないかしら?」
「父上も母上もミル姉様に甘いのですわ」
ルーファスとアカリが目線を合わせて肩をすくめてみせる。
反省しろとは言うが、叱り過ぎたかもしれないという思いもある。
「それで、どうなんだ?」
「ミル姉様なら、リュー兄様に言われたお仕事をしつつ自棄食いしてますわ」
「自棄食い出来る食欲があるなら大丈夫ね」
「お腹を壊しても知らないのですわ」
両親の間を通ってナルアが廊下を歩き、台所まで行く。台所ではミルアの好物の餅巾着の大根煮と煮卵と角煮が並んでいる。
「母上はさっき、あんなにミル姉様をお叱りになったのに……やれやれですわね」
ほにゃほにゃと泣くスクルードの声に、バタバタとルーファスとアカリが大広間の方へ走る音がし、三つ子の弟と妹が二人減った屋敷なのに賑やかな我が家だと、片眉を上げて笑う。
「ナル姉上、今日のお夕飯は煮物が多い系ですね」
「あら、エル、お帰りなさいですの。今日はミル姉様のお好きな煮物系が多いのですよ」
「ナル姉上も煮物お好きでしょう?」
「ええ。大好きですわよ。でも、一番好きなのは、煮卵と角煮をラーメンの上に乗せた物が一番ですわ」
「なら、ミル姉上にも持って行きましょう。ナル姉上」
「そうですわねー」
何だかんだで、ナルアもミルアに甘い。
夜遅くに屋敷の屋根の上にナルアが座って居ると、ミルアも屋根に上って来る。
「ナルちゃん何していますの?」
「シノに腕輪で連絡をとっていましたの」
「あら、お熱い事ですのね」
「普通に毎日の出来事とかしか喋ってませんわ」
妹と幼馴染の奥手な進展の無さにミルアが、チロリと横目で見つめて肘でつつくと、ナルアも肘でつつき返す。
「ミールと仲直りしたんですの?」
「元々、喧嘩していませんわ」
「家出したのは?」
「少しだけ、わたしくの本気を見せたかっただけなのですわ……」
「困ったミル姉様なのですわ。結婚はもう少し考えて、どうせなら素敵なウェディングドレスを考えたり、お式を考えたり、いっぱいすると良いのですわ」
「そうですわねー。少し焦り過ぎましたわ……」
うふふとナルアとミルアが笑って、それをルーファスが耳をピコピコ動かしながら聞き、スクルードをあやしつつ横で眠るアカリのおでこにキスをする。
「娘達は、もう少しオレ達のところに居てくれるようだな」
「ミル姉様、胸やけしてしまいますわよ?」
「放っておいて下さいまし!」
旅行カバンの中身をナルアがミルアの箪笥に仕舞い込み、耳を下げて小さく首を左右に振る。
「恋は盲目ですわね……」
「何か言いまして?」
「いいえ。ミル姉様、反省なさいましね」
「父上も、ミールも、ナルアもうるさいのですわ!」
キィっとミルアが手をバタつかせるとテーブルに突っ伏す。
数時間前に家出をしたミルアは、風竜スピナの風でルーファスの下へ匂いを運ばれてしまい、直ぐ様見つかってしまい、連れ戻されたのである。
そして、双子の妹のナルアを監視役に自室で反省する様に促されている。
ローランドも反省する様に言われ、ナルアの主君命令で人型になり飛ぶ事を禁止させられ【刻狼亭】の手伝いをする様に命じられている。
「これ、リュー兄様から自宅でお仕事する様にって」
紙束をテーブルに乗せられ、ミルアがうんざりした顔をする。
【刻狼亭】の冬案内の招待状書きである。
「多すぎじゃありません事? リュー兄様も意地悪ですわ……」
「仕方ありませんの。家出したミル姉様が悪いのですわ」
「一人になって色々考えたかったのですわ……」
「一人で考えるのも良いですけど、折角、家族が居るのですから家族に相談するのですわ。お義姉様達に相談してリュー兄様やシュー兄様を味方につけて、徐々に陥落させればよろしいのに」
ナルアの言葉にミルアが「ぐぬぬ……」と声を出す。
「シノリアとの関係を前進させられてないくせに……」
「何ですの? ミル姉様」
ボソリと呟いた言葉にナルアが片眉を上げて、ミルアの手に持っているクリーム饅頭を奪って口の中に入れて、フンッと横を向く。
恋愛関係に関してはお互いに難問山積みの二人は、恋愛に関しては双子と言えどお互いに干渉しあう事はあまりしない。
敵に塩を送るわけにもいかない難しいライバル関係でもある。
「それじゃ、わたくしは母上のお手伝いをしてきますわ。ミル姉様は招待状を書き上げて下さいまし」
ナルアが部屋を出て行くとミルアはリュエールによって山積みにされた紙束にウンザリした顔をして、大人しく冬の案内の招待状を書き始める。
恐らくは、リュエールからの仕事と言うより、父親のルーファスから出された物だろうとミルアは半目になる。
「父上、おっかなかったですわね……」
ローランドと一緒に温泉大陸を出て、隣りの大陸で獣化したルーファスとミールに鬼のような形相で叱られた。
子供の時の様に首をガッチリ噛みつかれて怒られたのは、今思い出しても羞恥で死ねるのである。
連れ戻された時に母親のアカリにもガッツリ怒られ、その声で宿舎の従業員にも揶揄われたし、散々だった。
当分、自室で反省を促されたが、むしろ自室から出たくないという方が正しい。
ミルアを部屋に残し、ナルアが一階へ向かうと、階段の下でアカリとルーファスが少し眉を下げてナルアを待っていた。
「ミルアはどんな感じだ?」
「落ち込み過ぎてないかしら?」
「父上も母上もミル姉様に甘いのですわ」
ルーファスとアカリが目線を合わせて肩をすくめてみせる。
反省しろとは言うが、叱り過ぎたかもしれないという思いもある。
「それで、どうなんだ?」
「ミル姉様なら、リュー兄様に言われたお仕事をしつつ自棄食いしてますわ」
「自棄食い出来る食欲があるなら大丈夫ね」
「お腹を壊しても知らないのですわ」
両親の間を通ってナルアが廊下を歩き、台所まで行く。台所ではミルアの好物の餅巾着の大根煮と煮卵と角煮が並んでいる。
「母上はさっき、あんなにミル姉様をお叱りになったのに……やれやれですわね」
ほにゃほにゃと泣くスクルードの声に、バタバタとルーファスとアカリが大広間の方へ走る音がし、三つ子の弟と妹が二人減った屋敷なのに賑やかな我が家だと、片眉を上げて笑う。
「ナル姉上、今日のお夕飯は煮物が多い系ですね」
「あら、エル、お帰りなさいですの。今日はミル姉様のお好きな煮物系が多いのですよ」
「ナル姉上も煮物お好きでしょう?」
「ええ。大好きですわよ。でも、一番好きなのは、煮卵と角煮をラーメンの上に乗せた物が一番ですわ」
「なら、ミル姉上にも持って行きましょう。ナル姉上」
「そうですわねー」
何だかんだで、ナルアもミルアに甘い。
夜遅くに屋敷の屋根の上にナルアが座って居ると、ミルアも屋根に上って来る。
「ナルちゃん何していますの?」
「シノに腕輪で連絡をとっていましたの」
「あら、お熱い事ですのね」
「普通に毎日の出来事とかしか喋ってませんわ」
妹と幼馴染の奥手な進展の無さにミルアが、チロリと横目で見つめて肘でつつくと、ナルアも肘でつつき返す。
「ミールと仲直りしたんですの?」
「元々、喧嘩していませんわ」
「家出したのは?」
「少しだけ、わたしくの本気を見せたかっただけなのですわ……」
「困ったミル姉様なのですわ。結婚はもう少し考えて、どうせなら素敵なウェディングドレスを考えたり、お式を考えたり、いっぱいすると良いのですわ」
「そうですわねー。少し焦り過ぎましたわ……」
うふふとナルアとミルアが笑って、それをルーファスが耳をピコピコ動かしながら聞き、スクルードをあやしつつ横で眠るアカリのおでこにキスをする。
「娘達は、もう少しオレ達のところに居てくれるようだな」
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