黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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21章

秋とドラゴンと夕餉

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 夏が終わり、秋になると山々の色は紅色に変わり、夕飯のメニューの色も暖色系が目立つようになる。
あと少しで臨月になるアカリの負担が無い様に、トリニア家の嫁達が夕飯を作りに来たりするが、割りとアカリが元気が良いので、逆に料理を持たされて嫁達は帰っていったりもする。

「嫁、山でキノコを採ってきたぞ」
「アタシからは柿よ~」
「私達からは栗だよ」
「はいなの!」

 ドラゴン達が山の様に山の幸を台所のテーブルに置き、アカリが小さなナイフを持って「おお」と声をあげる。

「皆、ありがとう。そうねぇ、じゃあ今日は栗とキノコと鶏肉の炊き込みご飯に、柿の胡麻和え大根サラダにしましょうか。魚も届けに来てくれるって言うし、今日はご馳走だね」
「アカリ、手伝う事はあるか?」
「ケイトも手伝うよ!」
「我は味見係りだからな!」

 ルーファスに首を横に振り、ドラゴン達にも大丈夫だと告げてアカリが鼻歌を歌いながら、料理をし始めると、ケイトを残して皆、居間の方へ戻っていく。
ケイトは幼竜なので幼い子供と変わらない為に、お手伝いをしたがる傾向にある為、小さなお手伝いをお願いする為に残している。
あとはアカリのお目付け役の様な所でもある。

 トントントンと、小気味よいナイフとまな板の音が屋敷に静かに響き、しばらくすると漁業組合から魚が届くと、煮つけと塩焼きと酒蒸しのどれにするかでドラゴン達のじゃんけん大会が始まる。

「せーの!」
「相子でー……しょっ! しょっ!」
「ぐぬぬ……」

 そんな声が台所まで聞こえ、決まるとアカリの所へ勝者が報告に来る。
本日はスピナご希望の塩焼きとなったらしい。ケイトが魚に塩を撒きながら、グリルに魚を放り込み火をかける。

「お味噌汁~里芋ころころ~」
「ころころなの~」

 アカリとケイトの台所のやり取りに、居間でオセロをしていたドラゴンとルーファス達も和みながら、夕飯の良い香りが漂い始めると、そわそわと尻尾が左右に揺れ始める。
そろそろかと、ドラゴン達が腰を上げると玄関から元気の良い足音がしてくる。

「ただいまー。母上~、お肉屋さんから唐揚げどうぞって貰ったよー」
「あら、エルありがとー。今度、お肉屋さんにお礼しないとね」

 台所にそのままエルシオンが唐揚げの入った袋を持って行き、アカリが水魔法でエルシオンの両手を洗うと頭を撫でる。

「母上、ギル大叔父が年始に貴族へのお披露目にティルとルーシーを連れて行くから伝えといてって言ってたよ」
「んーっ、それは父上に伝えておいて。ケイト、唐揚げをお皿に盛っておいてね」
「はーいなの~」

 台所からエルシオンが居間の方へ行き、ルーファスにそのまま伝えると、ルーファスが台所の方へやって来る。

「アカリ、ティルとルーシーの事なんだが」
「ええ、聞きましたよ。ドレスとか用意した方が良いかしら?」
「おそらくギル叔父上が用意すると思うが、やはりうちでも作らせておいた方が良いと思うか?」
「ええ。ありすさんに聞いたけど、貴族ってドレスにワインとかワザと引っ掛けてくるって聞いたし、替えのドレスは必要でしょ」
「……流石にそんな事は無いと思うが……」
「ふふっ、でも親から何も用意されていないのは子供としても寂しいから用意してあげましょ」
「わかった。手配させておく」

 何かとティルナールとルーシーを貴族として躾けようとしている節がギルにあるのだが、アーバント家には跡継ぎが居ないので、誰かしらルーファスの子供のうちの一人がアーバント家へ養子入りするかもしれないとは、思っている。
子供達の意見次第ではあるが、アーバント家も一応、貴族に名を連ねているのでそのまま没落させてしまうのは、惜しいのもある。
 ギルがあの性格なので令嬢たちも苦労してギルに近寄っても、途中で我慢の限界でブチ切れてご破算……が今までのセオリーなのである。
ネルフィームに求愛はしても、本気かどうかもわからない。
ギルももういい年なので、いい加減、冒険者稼業から退いて大人しくすれば良いのにとは思っているルーファスでもある。

 夕飯の支度が終わると、ドラゴン達をアカリが呼んで、大広間に夕飯が次々に運び込まれていく。
夕飯の支度が終わる頃に、【刻狼亭】からハガネとミルア、ナルアが帰宅し、着替えが終わると食卓へ着く。

「召し上がれ」

 アカリの声に「いただきます」の声が上がり、エルシオンとミルアとナルアの今日の報告が始まる。
エルシオンは学校の事やティルナール達の事を中心に話して、ミルアとナルアは従業員側の視点でルーファスに、リュエールに職場の活動の改善案を頼んでもらえないかを話す。

「あっ、そうそう。わたくし家を出ようと思いますの」
「え?」
「は?」

 ミルアの一言にルーファスとアカリが目を丸くすると、ミルアは左手に光る指輪をルーファスとアカリに見せる。

「あらあら。ミールったら、気が早いわね」
「待て。ミルア、番どうこうに口を挟む気は毛頭ないが、お前はまだ15歳だぞ?」
「ええ。ですから15歳ですので、16歳でお嫁に行きたいのですわ」

 ゴンッとテーブルにルーファスが頭を打ち付けて、ギギギギと壊れた機械の様に顔を上げてアカリを見る。
アカリは眉を下げて笑って「あらあら」と言っている。

「このままですと、わたくし、家事一切できませんのよ。ですから一人暮らししたいのですわ」
「家事を覚えようというのは、いい心がけだと思うが……それは家を出なくても出来るだろう?」
「ええ、でも家に居ますと、こうしてお料理が出来ていますでしょ? このままでは駄目なのですわ」

 ギギギギとルーファスがアカリを見ると、「んーっ」と、アカリも考えこんでいる。

「そうねぇ、でも一人暮らしは心配だし、ミールを家に上げたりはしてはいけません。それは約束できるのかしら?」
「え? 家に上げてはいけないんですの?」
「当たり前ですよ。泊まりも厳禁です。それは判っていますよね?」
「それは……破廉恥ですの!」

 顔を真っ赤にして悶えるミルアに、アカリは溜め息を吐く。

「ミールのご両親にも了承を得て、結婚だなんだと言っているの? 二人だけで決めているのなら、駄目よ」
「それは……聞いていませんの。でも番ですのよ?」
「番だからです。ちゃんとあちらのご両親に話を通してからにしなさい」
「……うーっ、母上が厳しいのですわ。賛成してくれると、思いましたのに……」
「私はあなたの母親だから厳しいの」

 ビシッと珍しくアカリが、恋愛関係で厳しくするのでミルアも算段の甘さに耳をしゅんと下げる。
アカリさえ言いくるめられれば、何とかなると思ったものの、ルーファスよりアカリの方が手強くなりそうな予感に、項垂れるしか無かった。
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