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21章
露店街
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八月の終わり、温泉大陸では夏の観光シーズンも終わりとあって、客よりも商人が多く出入りする様になり、観光客よりも、静養の為の冒険者が多くなる時期でもある。
夏の狩りから戻って来る冒険者達の休息という感じで、商人達は冒険者に売り込みに来ている。
この時期は商人から住民たちも色々品物が流通して買えるので、ちょっとしたレアな物も手に入りやすい。
「退いて退いて―!」
「邪魔よ邪魔よー!」
山吹色の子狐の双子達が温泉街を抜け、大橋の両脇に並んだ露店街の屋根を飛びながら駆け抜けていく。
20年前から姿そのままの七歳程の容姿のままタマホメとメビナは変わらず温泉街の警備に走り回っている。
珍しく武器は大きな木槌を持っている。
「うぉりゃあああ!!」
「てぇりゃあああ!!」
ドーンと大きな音を立てて、露店を破壊すると、タマホメとメビナが木槌を露店の店主に振りかざす。
なんだ? なんだ? と、周りに人が集まると、タマホメが懐から黒い紙を取り出す。
「【刻狼亭】詐欺露店摘発と撤去のお知らせ!」
「観念して、あこぎな商売は止めるといい!」
詐欺露店と判れば、周りの商人達も同じにされてたまるかとばかりに、物を投げて糾弾する。この時期は物が流通する分、こうした詐欺まがいの露店も増える為に、温泉大陸の入国が商人達に厳しくなるので、商人達の書類審査も年々項目が増え、うっぷん晴らしとばかりに、投げつけているのもある。
タマホメとメビナが露店の店主を引きずって持ち帰り、冒険者ギルドへと店主は引き渡されて詐欺の商品の名目をギルドで審査されて、小鬼により詐欺被害の詳しい事を注意喚起の為に世界中のギルドへ書類が送られる。
「随分派手にやりましたねぇ」
「あれくらい派手な方が、他に詐欺露店がいた場合でもヤバいと思うだろう」
露店巡りをしていたアカリとルーファスが、そんな事を言いながら壊された露店を見つめる。
売られていた物はアンゴラータ族の織物によく似た偽物で、アカリのデザインしたケープによく似た物を売っていた様だ。
【風雷商】と【女将亭】で取り扱っている為に、本家本元の温泉街で売りに出す、ある意味勇気のある露店商と言えるだろう。
「最近よくアンゴラータ織物の類似品が出回っているんですよねぇ……」
「タグを付けても、直ぐに真似されるしな。イタチごっこだな」
タグを用いた物は【狼将】とロゴも入れてある物で、タグの生地も東国織物で作った貴重な布なのだが、真似した感じの生地で同じ様にされてしまうので、なかなかに頭の痛い問題でもある。
まぁ、品質の良い物はキチンとしたお店で買う人は騙されたりはしないので、あくまで上流階級の真似をしたい背伸びした中流階級が購入をこうした所で買い求めてしまうのだ。
たまに、「貴女の為にご用意しました」と、プレゼントされた物が偽物で【女将亭】に苦情がきたりしている。
ガシャーンと派手な音を立てて、別の場所でも騒ぎが起き、アカリとルーファスが顔を覗かせると冒険者同士のいざこざで喧嘩が起きていた。
これも、この時期の風物詩の様な物で、【刻狼亭】の従業員が現れて喧嘩両成敗とばかりに襲い掛かり、静かにさせると引きずって持ち帰る。
こちらは厳重注意か、反省が無いと温泉街から叩き出される。
たまに、上位ランクの冒険者同士の喧嘩になると【刻狼亭】の従業員も手こずり、結局大乱闘になって大きな騒ぎに発展する事もあるが、これに関しては従業員も数を増やすので、今の所大事にもなっていない。
「今年も賑やかだね」
「毎年の事ながら、元気の良い事だ……」
「ふふっ、さぁ、ルーファスも元気よく、お買い物ですよ!」
アカリが手を引いて露店街をズンズン歩き、相変わらず妊娠中は動きが良いので人にぶつからずにスルスルと人混みを歩いていく。
「ルーファス、美味しい匂いがしました!」
「ん? どれが良いんだ?」
「こっちの方です! ソースの良い香りがしましたよ!」
鼻も良くなるので妊婦のアカリは元気そのもので、食べ物を売っている露店へ行き、キャベツにソーセージに目玉焼きを薄いガレット生地で包んだソース焼きを3つ買い、他にも果物をそのまま水飴に漬け込んだ物を3つ買っていく。
「ティル達のオヤツに持って行きましょう」
「ああ、食べ盛りだから喜ぶだろう」
ティルナールとルーシーは相変わらず、ギルの屋敷でギルに振り回されながらも元気でやっている。
エルシオンは毎朝毎夜、ルーファスと体術の訓練をしているので、最近はヘタレな四男はキリッとしてきた。
「アカリ、今回は赤ん坊の冬用の物を買いに来たのではなかったか?」
「ハッ! つい食べ物の匂いに釣られちゃった。でも食べ物とかプリプリで美味しそうになってて、ついね」
「まぁ、魔力が世界規模で上がったから、野菜も肉も魚もどれも前より美味くなってはいるな」
「でしょ? 美味しい物は子供に食べさせたくなっちゃうんだよね」
「アカリは食わないのか?」
「……最近、油断すると食べ過ぎちゃうから……産医さんに、怒られる……」
お腹をさすさすと触りながらアカリが、産医に「体重増やし過ぎたら駄目ですよ」と小言を貰った事に小さくブルッと震える。
食べ物がおいし過ぎるのが悪い! と、少し思いながらも、自分の食べたい物を三人の食べ盛りの子供達に買っていくことで抑えている。
そんなアカリにルーファスが「なら、オレと半分こするか」と、食べ物を買って渡し、次の健診で産医に「体重注意」と、叱られルーファスもアカリに怒られたのは言うまでもない。
夏の狩りから戻って来る冒険者達の休息という感じで、商人達は冒険者に売り込みに来ている。
この時期は商人から住民たちも色々品物が流通して買えるので、ちょっとしたレアな物も手に入りやすい。
「退いて退いて―!」
「邪魔よ邪魔よー!」
山吹色の子狐の双子達が温泉街を抜け、大橋の両脇に並んだ露店街の屋根を飛びながら駆け抜けていく。
20年前から姿そのままの七歳程の容姿のままタマホメとメビナは変わらず温泉街の警備に走り回っている。
珍しく武器は大きな木槌を持っている。
「うぉりゃあああ!!」
「てぇりゃあああ!!」
ドーンと大きな音を立てて、露店を破壊すると、タマホメとメビナが木槌を露店の店主に振りかざす。
なんだ? なんだ? と、周りに人が集まると、タマホメが懐から黒い紙を取り出す。
「【刻狼亭】詐欺露店摘発と撤去のお知らせ!」
「観念して、あこぎな商売は止めるといい!」
詐欺露店と判れば、周りの商人達も同じにされてたまるかとばかりに、物を投げて糾弾する。この時期は物が流通する分、こうした詐欺まがいの露店も増える為に、温泉大陸の入国が商人達に厳しくなるので、商人達の書類審査も年々項目が増え、うっぷん晴らしとばかりに、投げつけているのもある。
タマホメとメビナが露店の店主を引きずって持ち帰り、冒険者ギルドへと店主は引き渡されて詐欺の商品の名目をギルドで審査されて、小鬼により詐欺被害の詳しい事を注意喚起の為に世界中のギルドへ書類が送られる。
「随分派手にやりましたねぇ」
「あれくらい派手な方が、他に詐欺露店がいた場合でもヤバいと思うだろう」
露店巡りをしていたアカリとルーファスが、そんな事を言いながら壊された露店を見つめる。
売られていた物はアンゴラータ族の織物によく似た偽物で、アカリのデザインしたケープによく似た物を売っていた様だ。
【風雷商】と【女将亭】で取り扱っている為に、本家本元の温泉街で売りに出す、ある意味勇気のある露店商と言えるだろう。
「最近よくアンゴラータ織物の類似品が出回っているんですよねぇ……」
「タグを付けても、直ぐに真似されるしな。イタチごっこだな」
タグを用いた物は【狼将】とロゴも入れてある物で、タグの生地も東国織物で作った貴重な布なのだが、真似した感じの生地で同じ様にされてしまうので、なかなかに頭の痛い問題でもある。
まぁ、品質の良い物はキチンとしたお店で買う人は騙されたりはしないので、あくまで上流階級の真似をしたい背伸びした中流階級が購入をこうした所で買い求めてしまうのだ。
たまに、「貴女の為にご用意しました」と、プレゼントされた物が偽物で【女将亭】に苦情がきたりしている。
ガシャーンと派手な音を立てて、別の場所でも騒ぎが起き、アカリとルーファスが顔を覗かせると冒険者同士のいざこざで喧嘩が起きていた。
これも、この時期の風物詩の様な物で、【刻狼亭】の従業員が現れて喧嘩両成敗とばかりに襲い掛かり、静かにさせると引きずって持ち帰る。
こちらは厳重注意か、反省が無いと温泉街から叩き出される。
たまに、上位ランクの冒険者同士の喧嘩になると【刻狼亭】の従業員も手こずり、結局大乱闘になって大きな騒ぎに発展する事もあるが、これに関しては従業員も数を増やすので、今の所大事にもなっていない。
「今年も賑やかだね」
「毎年の事ながら、元気の良い事だ……」
「ふふっ、さぁ、ルーファスも元気よく、お買い物ですよ!」
アカリが手を引いて露店街をズンズン歩き、相変わらず妊娠中は動きが良いので人にぶつからずにスルスルと人混みを歩いていく。
「ルーファス、美味しい匂いがしました!」
「ん? どれが良いんだ?」
「こっちの方です! ソースの良い香りがしましたよ!」
鼻も良くなるので妊婦のアカリは元気そのもので、食べ物を売っている露店へ行き、キャベツにソーセージに目玉焼きを薄いガレット生地で包んだソース焼きを3つ買い、他にも果物をそのまま水飴に漬け込んだ物を3つ買っていく。
「ティル達のオヤツに持って行きましょう」
「ああ、食べ盛りだから喜ぶだろう」
ティルナールとルーシーは相変わらず、ギルの屋敷でギルに振り回されながらも元気でやっている。
エルシオンは毎朝毎夜、ルーファスと体術の訓練をしているので、最近はヘタレな四男はキリッとしてきた。
「アカリ、今回は赤ん坊の冬用の物を買いに来たのではなかったか?」
「ハッ! つい食べ物の匂いに釣られちゃった。でも食べ物とかプリプリで美味しそうになってて、ついね」
「まぁ、魔力が世界規模で上がったから、野菜も肉も魚もどれも前より美味くなってはいるな」
「でしょ? 美味しい物は子供に食べさせたくなっちゃうんだよね」
「アカリは食わないのか?」
「……最近、油断すると食べ過ぎちゃうから……産医さんに、怒られる……」
お腹をさすさすと触りながらアカリが、産医に「体重増やし過ぎたら駄目ですよ」と小言を貰った事に小さくブルッと震える。
食べ物がおいし過ぎるのが悪い! と、少し思いながらも、自分の食べたい物を三人の食べ盛りの子供達に買っていくことで抑えている。
そんなアカリにルーファスが「なら、オレと半分こするか」と、食べ物を買って渡し、次の健診で産医に「体重注意」と、叱られルーファスもアカリに怒られたのは言うまでもない。
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