黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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21章

異世界聖女⑩

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「わきゃあぁぁぁ!!!」
「退いて下さいましー!」
「邪魔ですのよー!」
 
 廊下を爆走するアリスと双子姉妹の後ろを氷の塊が勢いよく転がって、三人がアカリとアルビーの所へ駆け込んで来る。
再び『華淡の間』に入り、ゴロゴロと氷の塊が通り過ぎるのを聞いてから、ドアを開けるとグリムレインがヒョッコリ顔を出して、アカリの顔を見ると擦り寄って来る。

「嫁~。大事なかったか?」
「大丈夫だけど、どうしたの?」

 アリスと双子がグリムレインを指さして「潰されるかと思った!」と憤慨してみせ、グリムレインは小さく首をかしげて「我は合理的に温泉水を運んだだけだ」と何故怒るのか解らないという顔をしてみせた。

「アリスが温泉に浸かったから、良い特殊聖水が出来たのでな、運んでおったのだ」
「なるほど。【魅了】を一時的に効果打ち消すには特殊聖水がいいものね」
「そうであろう? なのに、こ奴らが怒るのだ」
「運び方考えるっしょ! 危ないって何でわからないっしょ!」

 怒るアリスにグリムレインがアカリの後ろにへばりついて「怖い聖女であろう?」と同意を求めて、アカリに苦笑いされる。

「それは置いておいて、早くルーファスを助けるんでしょ?」

 アルビーの言葉にアカリがハッとして、なごんでいる場合ではないとドアを開けて再び廊下に出る。

「ミルア、ナルア、ルーファスかリューちゃんの匂いは辿れる?」
「それは出来ますけど……」
「母上、無茶しないで下さいましね?」

 二人が獣化して廊下を駆けだすと、アカリ達も後に続いて廊下を歩きだし、グリムレインが廊下に息を吹くと、廊下の端の方からゴロゴロという音と共に悲鳴が上がっていた。

「グリムレイン、あなた何をしたの?」
「この【刻狼亭】の廊下の外面の廊下は四角くグルッと一周できるから、先程の氷を一周か回そうと思ったんだが、何者かが巻き込まれたかの?」
「敵か味方かもわからないのに、もう……」
「え? アカリ、それでいいの!?」
「アカリっち、ドラゴンに甘すぎじゃない!?」

 アカリの反応にアルビーとアリスが抗議すると、アカリは「非常時だから仕方がないって事で許してもらえるよ。きっと……」と、口元に手を当てて笑っている。

「こっちですわよ!」
「早くしてくださいまし!」

 ミルアとナルアに急かされて、【刻狼亭】旅館の一等級の部屋。
王族御用達と言われる内装が全てレア素材で造られている部屋の扉の前まで行く。
白い大理石の様な扉には、黒水晶で出来た狼と、黒い薔薇のモチーフが掘られている。

「やっぱり、ココなのねー……」 
「なんだか、扉が重厚感あるんだけど、ここ何なんっしょ?」
「ココは、王族御用達……まぁ、【刻狼亭】の一番お高い部屋です。1日700万だったかな?」
「ブハッ! なんなんっしょ! 高すぎ!!」
「滅多に使われるお部屋じゃないんだよね。魔法で中も作られてて、別世界な感じだからね……」

 アカリも入った事はそれ程ない。
それに、この扉は入室者が【刻狼亭】の当主やその時借りている客人、料理長のアーネスや限定された従業員しか入れない場所でもある。
アカリはルーファスに登録させられているので、一応、入室できる。

 扉に手を掛けてアカリが開けると、中は薄いピンク色の光が溢れ、花に囲まれた宮殿の様な造りになっている。

「うわっ、乙女チックっしょ!」
「ここはお客さんの希望通りの部屋になる様に反映される魔法がしてあるから、お客さんがこういう趣味って事だと思う」

 広さも魔法で造られている為に、他の部屋の広さとは規模が違う、ある意味、異次元空間の様な物である。
白い柱も全て花の彫刻が施してあり、中央には温泉と花弁の浮かぶ噴水になっている。
扉が幾つもあり、白いレースが幾重にも重なった部屋は、ルーファスの叔父ギルの女の子部屋を思い起こさせる。

 部屋の奥に白い木で造られたソファにレースたっぷりのクッションに横たわった黒髪の少女が居た。
その少女の左右にルーファスとリロノスが黒と白の着物を着て、少女に微笑みかけていた。
少女のソファの後ろにはイルマールと、イルマールの従者のエスタークとダリドアが執事服を着て、三段重ねのティースタンドを用意している。

 一番下のサンドイッチを少女の口元へ差し出して、イルマールが笑い、二段目のスコーンと一段目のフルーツ盛りのケーキをダリドアとエスタークがお互いに食べ合っている。

「……アカリっち、この状況で言いたい事は一つなんっしょ」
「私も、一つしか言葉が浮かびません……」

 自分達に向けられていた笑顔が、奪われている現状にアリスが水魔法で聖水を作り、アカリがその聖水の中に手を入れて【聖域】を発動させる。

「嫁、我の氷も使うか?」
「凍らせない程度の冷え冷えの水にしてくれる?」
「うむ。お安い御用だの」

 アカリとアリスが頷き、グリムレインが水を冷やし終わると、アリスが少女目掛けて水魔法を投げつける。
ルーファスとリロノスが水魔法を弾くと、その場で大量の水が部屋中に分散する。
ザバーッと水を浴びた少女がソファがら飛び起きると、アカリとアリスが声を合わせる。

「「この、泥棒猫!!」」
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