黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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21章

異世界聖女①

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 白い地下室の拷問部屋……もとい、事情聴取の為の取調室。
薄い黄色の髪に薄い水色の目のニコニコ顔の男、テン・サマードは報告書をまとめながら、肩で目をくるくると回しながら、仲間の小鬼と情報交換をしている温泉大陸の小鬼の頭をくりくりと指で撫でる。

「小鬼、情報の裏はとれそうですか?」
「んー、仲間の小鬼も『聖女』に関しては古い方の『聖女』ばかりですね。最新情報に『聖女』は更新されていません」
「おやおや、困りましたねぇ……地味に調査が必要ですかねぇー……」

 テンがふぅと息を吐いて、取調室から出て料亭内にある奥へと続く広い廊下を歩き、ノックすると黒いドアが開き、黒い着物を身にまとった【刻狼亭】の16代目、黒狼族のリュエール・トリニアが、難しい顔をして金と黒のオッドアイの目を動かして書類に目を通していた。

「旦那様、事情調書を報告にきましたよー。ついでに、冒険者ギルドへの引き渡しも手配しておきましたぁー」
「ありがとう、テン。うちの弟達を騙した小悪党は結局何か喋った?」
「そうですねぇ、報告書に書いた通りなんですけどー、『聖女』様がドラゴンの卵を所望した。としか言わないんでよねぇー」
「聖女? ……アリスさん……って、事はないですよね?」
「おそらく違うと思いますー」

 テンが一礼してから出て行くと、リュエールは「聖女ねぇ……」と、手元の報告書を読みながら、新聞に目を落とす。
新聞では、魔力の活性化した大地によって、今まで魔力の少ない土地にも魔力が溢れ、古代遺跡の魔道具が幾つか動き出したという話や、魔力が今まで無かった人々が魔力を得た事により、自分の魔力量が分らずに魔力暴走を起こして腕が吹き飛ばされたり、家屋を吹き飛ばしたりと、少し頭の痛い状況に陥っている所もあるようだと伝えていた。

 温泉大陸は初代から魔力が満ち溢れた大陸なので、魔力で暴走する様な人間は居ないが、枯れ果てていた間欠泉が再び蘇ったりはしている。
ただ、隣りの大陸のタンシム国方面では魔力の無い土地に魔力が溢れているので、少々混乱しているとは小耳に挟んでいる。

「余計な力を持って、調子に乗らなきゃ良いんだけどね……」

 誰に言うでもなく、リュエールがそう呟いて夏の日射しに輝く庭園の飛び石を見つめ、斜め後ろの屋敷から遊びに来たクロが牛蝉を咥えて、尻尾をピーンと立てて庭園を横切って歩いていくのを見て、母上が騒がなきゃいいけどと、見送ると「「いーやー!」」と、休憩中だったのか双子の妹達の悲鳴が上がっていた。
夏の風物詩の一つかな? と、リュエールが笑う。

「酷いっしょ! ごめんなさいを言うがいいっしょ!」

 テンの着物の襟をガクガクと揺すりながら、アリスが吠えている。
アカリが眉を下げて苦笑いしながら、テンに渡されたカバンを手に持った小鬼を両手に持って「あらあら」と言っている。

 産院の帰りにアリスの家に寄ったところ、テンと小鬼がやってきて「土竜の卵盗難事件について、犯人が「聖女の願いを叶えるためだ」と言っているのですがー」と、言いアリスはアカリに土竜の卵事件を聞いたばかりだったので、この状況に陥った。

「うちがドラゴンの卵欲しがってる風に見える? むしろそんな卵より、普通の卵でオムレツ作った方がマシっしょ!」
「ですよねぇー。一応、『聖女』という名前が出たので聞きに来ただけなんですー」

 ニコニコとありすに揺さぶられながら、テンがなすがままにされている。
テンもありすが関わっているとは元から思っていないので、とりあえず話を持ってきただけなのである。

「でも、聖女って能力なのかしら? 称号みたいなものかしら?」
「それを今から、小鬼と探りに出張なんですよぉー」
「だったら、うちの所より、先にそっちに行くといいっしょー!」

 アカリが手の中に居る小鬼を見て、通りで小鬼が小さなカバンを持ってきているわけだと、うんうんと頷く。
ようやくアリスに手を放してもらい、テンが小鬼をアカリから受け取ると「行ってきますねぇ~」とのんびりとした口調で笑顔のまま出て行った。

「まぁ、うちが『聖女』って言われたのは20年も前だし、死んでる事になってるから、関係ないっしょ」
「ですよねぇ。でも『聖女』って言うからには、何か人を癒したりする能力持ちの人なのか気になりますね」
「あれっしょ、魔力が満ちたから、今まで聖属性があっても魔力が足りなかった人が回復魔法を使えるようになったとか……そんな感じっしょ!」
「ああ、成程。それならわかるかもー」

 うふふーと、笑いながら二人がまったりとしたお茶を過ごして、少ししたら、そんな出来事など忘れてしまい、二週間程過ぎた時、【刻狼亭】の荷物の一つに小さな箱が届いた。 

 通行門で一次検査の為に魔法で透視されたところ、ボロボロになった小鬼が丸まって送られてきた。
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