黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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20章

黒狼亭⑩

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 魔石の【核】が砕けたのか空に赤い星が飛んでいくのをアルビーと二人で女将亭の二階の窓から見た。
ようやく【怨嗟】も無くなるのだろう。心臓が針で刺すような痛みともこれでバイバイ出来るので、私は少しばかりホッとしていた。

「それでも3ヶ月……我慢かぁ……」

 1日半もしたらルーファス達は温泉大陸に帰ってくる。
でも、ルーファスの隣りには私が存在しているわけで……過去の自分に嫉妬する日が来るとは思わなかった。
これがルーファスのいう『番の独占欲』なのだろうか?

「アカリ、治療するよ」
「はーい。お手柔らかにお願いします」

 肩口の傷は何というか、流石、日本刀!切れ味抜群という感じでスッパリ切れてて傷口自体は綺麗なんだけど、治りが少し遅い……そういえば、二年間氷漬けになる事にもなったウォールベアに肩を抉られたのもこっちの左肩だったなぁ……。
私の左肩呪われているのかな?と、思ってしまうくらいに複雑。

 旧女将亭の二階のリビングで、ソファの上に座って着物から肩が見える様に襟を胸の辺りまで下ろして向き合うと、アルビーに肩口を舌で舐められる。

「ひぅ……っ、うぅ……」

 相変わらず、聖属性が強すぎて息が上がりそうになるけど、回復魔法は主君のリューちゃんとシューちゃんの命令が無いと全力で使えないから、結局、舐めて治療してもらうしかない。

「んっ、はぁ……ふぅ……、アルビーまだ終わんない?」
「んーっ、あと少しかな? 綺麗に斬られ過ぎてて逆にくっつきにくいんだよね。もう少し深くやられてたら、アカリの肩の神経もスッパリバイバイ状態だったね」
「はふ……っ、やっぱりシューちゃんに頼るしか無いかなぁ……」
「でも、未来に何か変化があるといけないから、駄目だよ」

 アルビーが肩から口を放して、しばらくオパール色の唾液をそのままにしておく。
うーん。アルビーの唾液でも治りきらないのは、ちょっと【勇者】の刀は特別過ぎるのかも……。

「アルビー、明日にはルーファス達が帰って来るから、お酒一杯用意しないとね」
「そうだね。アカリも手伝ってくれる?」
「うん。手伝うよー」

 旧女将亭のレストランのホールはすっかりお酒の樽と瓶が置いてある。
グリムレインと一緒に行った北の国のお酒も置いてあって、最近少し量が減っていた気もしていた火酒も置いてあるのはドラゴン達がコッソリ持ち出していた様だ。

 チラッとアルビーを見れば、アルビーは舌を出して尻尾を揺らしている。
いつの間にこんなにお酒好きなドラゴンになってしまったのやら?
出会ったばかりの頃は、お酒で酔っぱらってフラフラになっていた可愛い弟分はどこにいってしまったのか……。

 お酒を台車に乗せて明日の準備を終わらせると、二人でそのうち開くドラゴン達の酒場の話をしながらお酒を飲んで、ほろ酔い気分で盛り上がっていた。

「アルビーは可愛いねぇ」
「アカリ酔っ払いすぎーやーめーてー」

 ぐりぐりと可愛い弟分をいじくりまわしていると、アルビーがぷくーっと頬をふくらませる。
うん、すごく可愛い。ドラゴンはとてもキュートで鱗がすべすべ気持ちいい。

「ハァ……アカリは絡み酒なんだよねぇー……」
「絡んでないよ?」
「はいはい。そーいう事言う人はこんなに絡まないよ。まったく、ルーファスが見たら私がボコボコにされちゃう」
「えー、ルーファスは喜ぶよ?ギューってしたら、ギューってしてくれるよ?」
「……それ、ルーファスにやったらね。私にやってたら私がボコボコにされるから」

 首をかしげるとアルビーにガクリと首をうなだれる。
何故にそんな顔をするのか? 

「あー、でもルーファスにギューってして欲しいなぁ……」
「ちょっ、人の首絞めないで!」
「あーん!アルビー寂しいよぅ!ルーファスが居るのに会いに行けない~っ」
「やーめーてー!」

 アルビーの首をガクガク揺さぶると、アルビーに頭をチョップされる。
なんて酷い弟分なのか!しかも眉間にしわを寄せて迷惑そうな顔をするなんて、私はただ、ルーファスに会いたくて寂しいだけなのに!!

「もぉー!アルビー酷いぃ!朱里さんはルーファスの所に帰るぅ―!」
「ちょっ!アカリ!時間移動しちゃ危ないんでしょ⁉」
「帰るのー!ルーファスの所に帰るんだからぁ!」

 腕に付けた時間移動の魔道具を弄ると、カチンと音がして手を伸ばすと、パリンという音がした。

「しまった!」
「失敗した!」

 そんな声がしていたけど、ルーファスが目の前に居たからギュッと抱きついてみる。
ルーファスも抱きしめてくれた時に、心の中が満たされた感じがした。

「アカリ!大丈夫か!良かった……時間移動したのかと……うん?アカリ?酒臭い……?」
「ルーファス!ルーファス!ただいまぁ!寂しかったよぉ~!」

 スリスリとルーファスに擦りつくと、ルーファスにフンフン匂いを嗅がれて抱き上げられると、ルーファスが少し困った様な顔をしていた。
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