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20章
黒狼亭⑥
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温泉大陸を東へ二日船で行った位置に東国があるのだけど、それはあくまで船で行った場合。
この世界の海は海獣の巣なので、操舵士の能力が必要になる。それで二日という所なのだ。
普通に操舵士の力が無ければ1週間は掛かると思って良い。
ならば空はどうかと言うと、空は風の向きもあるけど、基本、船より早い。
海獣も居ないしね。
そんな訳で、ルーディクスさんの腕に抱き上げられて、空から東国の上を通過して、ルーディクスさんの故郷の島へ向かっている。
世界の中心イルブールの街よりも下で、東国寄りの島。
温泉大陸を出たのは昼過ぎだったけど、着いた時は次の日の夕方だった。
夜通し飛んでもらって申し訳なかったけど、帰る時は一瞬なので許してほしいところです。
「疲れていませんか?」
「少しだけ羽が疲れたな」
「ふふっ、なら、これをどうぞ」
疲労回復ポーションをルーディクスさんに差し出して飲んでもらい、これで準備万端! と、いう所かな?
二人で荒れ果てた街中を歩き、此処が【勇者】と魔獣の【王】に蹂躙されてしまったルーディクスさんの故郷。
家の原型は留めていない程の崩れ方をしていて、薄黒い壁の飛沫は、きっと【勇者】に斬り付けられたこの島の住民の血しぶきの後なのだろう。
「この島の人達は……どこに眠っているんですか?」
「この近くの畑に眠らせてある」
「畑ですか?」
「ああ、土を掘る力も残っていなかったのでな……」
「そう、ですか……」
それは切ないだろうな……ルーディクスさんも辛そうな顔で、その畑のある方を向いていた。
全部終わったら、お花を供えにまた来てあげよう。
「ルーディクスさん、それで魔獣の【王】の魔石は何処に?」
「それは、もう少し先に行った聖堂のある場所だ。あそこが一番追い詰めるには丁度良かったからな」
街中に追い詰めて戦う辺り、随分と黒天狼族の人達は、魔獣の【王】を追い込めていたのだろう。
聖堂と呼ばれる場所は、白い大きな柱が並ぶ大きなホールに聖獣の麒麟像が飾ってあった。
確か獣人の人達の神様だったかな?
「ほとんど崩れてますけど、立派な聖堂だったんですね」
「ああ、私達は聖獣様の場所は大事にしているからな」
昔の人が信仰深いというのは、あながち嘘ではない気がする。
ルーディクスさんが聖堂の奥にある赤い石を指さす。
私が少し前に見た魔石と大差ない。むしろ随分と大きい気がする……。
「これを持っていけるのか?」
「ええ……と、言うより……これ……キチンと処理されて無いですね。【核】が残ってる。急いで持ち帰って【核】を破壊しないと【怨嗟】が吹き出しますよ!」
まだ魔石に黒い塊の【核】が残っていて、【怨嗟】が吹き出して居ないのが不思議なくらい。
これでは【勇者】が退治したなんて言われても、納得できない。
仕事が中途半端過ぎる!
「ルーディクスさん、私が移動魔法を唱えて移動する時、私の腰に手を回して、絶対に離れちゃ駄目ですよ。手を離すと何処に落っこちるか分かりませんから」
「ああ、分かった」
魔石に手を付けて魔法の詠唱に入ると、ルーディクスさんが私の腰に手を回す。
ルーファスの着物を着ているせいか、ルーファスの匂いによく似てる。
早く、ルーファスの所に帰りたいな……。
「『海を歩く妖精は森を潜る妖精と道を侍れ回れ道の印は帰路へ至れ』」
移動魔法の穴が広がり、ルーディクスさんが私の腰を持つ手が少し力が籠められるけれど、ちゃんと魔石を温泉大陸へ持ち帰って、ちゃんと温泉大陸をルーファス達子孫へ繋げてみせる。
黒い移動空間に入り込み、魔石を全て包み込んで、あと少しという所で、聖堂へ誰かが姿を現した。
「貴様ら、何をしている!!」
黒髪、黒目……日本人の顔立ち。
この人が【勇者】なのだろう……でも、構っている暇は無い!
魔石が全て移動空間へ入り、景色が変わると、魔石ごと、私とルーディクスさんは空中へ投げ出された。
場所の固定が上手く行っていなかったんだろうか?
「わきゃぁぁぁぁ!!!!」
「おいっ! これは大丈夫なのか!?」
「温泉大陸なので場所的には合ってるけど、どこに落ちるかは判んないですー!!のぁぁぁ!!!」
バサッとルーディクスさんが羽を広げて、魔石は地面へ落ちて行った。
ドーンッと物音が激しく立ち、何処かへ魔石は着地? したみたい。
「どうするんだ? これは」
「えっと、とりあえず、魔石を切って、最後に【核】を壊して、残りの魔石は散らしちゃいます」
「分かった」
「東国の【勇者】に見つかったので急ぎましょう!」
「ああ」
ルーディクスさんに地上に下ろしてもらって、魔石の場所に行くと、そこが何所か判った。
枯れ果てた間欠泉になったハガネの思い出の洞窟の場所。
私が【病魔】対策の時に身を隠していた洞窟だ。
道具の中から、月刀ー山茶花ーの小刀を出すと、魔石に早速切りかかる。
前回の魔獣の【王】で砕けたのを打ち直した小刀だけど、切れ味は抜群だ。
やはり、魔獣の【王】の魔石は柔らかく、ゼリーの様で、大きく切ってはルーディクスさんに渡して、ルーディクスさんは魔石を大陸のあちらこちらへ埋めに行って、魔石が大地へ同化する様に魔法を放って行く。
「ミヤ、随分凄い事になってきているぞ!」
嬉しそうに言うルーディクスさんに私も笑顔で「まだまだやっちゃいますよ!」と言って魔石を切り崩していく。
【核】を崩してしまうと魔石が飛び散ってしまうので、とにかく【核】を残してドンドン削ろう。
早くしないと【怨嗟】も出ちゃうから、その前に勝負を掛けないとね。
この世界の海は海獣の巣なので、操舵士の能力が必要になる。それで二日という所なのだ。
普通に操舵士の力が無ければ1週間は掛かると思って良い。
ならば空はどうかと言うと、空は風の向きもあるけど、基本、船より早い。
海獣も居ないしね。
そんな訳で、ルーディクスさんの腕に抱き上げられて、空から東国の上を通過して、ルーディクスさんの故郷の島へ向かっている。
世界の中心イルブールの街よりも下で、東国寄りの島。
温泉大陸を出たのは昼過ぎだったけど、着いた時は次の日の夕方だった。
夜通し飛んでもらって申し訳なかったけど、帰る時は一瞬なので許してほしいところです。
「疲れていませんか?」
「少しだけ羽が疲れたな」
「ふふっ、なら、これをどうぞ」
疲労回復ポーションをルーディクスさんに差し出して飲んでもらい、これで準備万端! と、いう所かな?
二人で荒れ果てた街中を歩き、此処が【勇者】と魔獣の【王】に蹂躙されてしまったルーディクスさんの故郷。
家の原型は留めていない程の崩れ方をしていて、薄黒い壁の飛沫は、きっと【勇者】に斬り付けられたこの島の住民の血しぶきの後なのだろう。
「この島の人達は……どこに眠っているんですか?」
「この近くの畑に眠らせてある」
「畑ですか?」
「ああ、土を掘る力も残っていなかったのでな……」
「そう、ですか……」
それは切ないだろうな……ルーディクスさんも辛そうな顔で、その畑のある方を向いていた。
全部終わったら、お花を供えにまた来てあげよう。
「ルーディクスさん、それで魔獣の【王】の魔石は何処に?」
「それは、もう少し先に行った聖堂のある場所だ。あそこが一番追い詰めるには丁度良かったからな」
街中に追い詰めて戦う辺り、随分と黒天狼族の人達は、魔獣の【王】を追い込めていたのだろう。
聖堂と呼ばれる場所は、白い大きな柱が並ぶ大きなホールに聖獣の麒麟像が飾ってあった。
確か獣人の人達の神様だったかな?
「ほとんど崩れてますけど、立派な聖堂だったんですね」
「ああ、私達は聖獣様の場所は大事にしているからな」
昔の人が信仰深いというのは、あながち嘘ではない気がする。
ルーディクスさんが聖堂の奥にある赤い石を指さす。
私が少し前に見た魔石と大差ない。むしろ随分と大きい気がする……。
「これを持っていけるのか?」
「ええ……と、言うより……これ……キチンと処理されて無いですね。【核】が残ってる。急いで持ち帰って【核】を破壊しないと【怨嗟】が吹き出しますよ!」
まだ魔石に黒い塊の【核】が残っていて、【怨嗟】が吹き出して居ないのが不思議なくらい。
これでは【勇者】が退治したなんて言われても、納得できない。
仕事が中途半端過ぎる!
「ルーディクスさん、私が移動魔法を唱えて移動する時、私の腰に手を回して、絶対に離れちゃ駄目ですよ。手を離すと何処に落っこちるか分かりませんから」
「ああ、分かった」
魔石に手を付けて魔法の詠唱に入ると、ルーディクスさんが私の腰に手を回す。
ルーファスの着物を着ているせいか、ルーファスの匂いによく似てる。
早く、ルーファスの所に帰りたいな……。
「『海を歩く妖精は森を潜る妖精と道を侍れ回れ道の印は帰路へ至れ』」
移動魔法の穴が広がり、ルーディクスさんが私の腰を持つ手が少し力が籠められるけれど、ちゃんと魔石を温泉大陸へ持ち帰って、ちゃんと温泉大陸をルーファス達子孫へ繋げてみせる。
黒い移動空間に入り込み、魔石を全て包み込んで、あと少しという所で、聖堂へ誰かが姿を現した。
「貴様ら、何をしている!!」
黒髪、黒目……日本人の顔立ち。
この人が【勇者】なのだろう……でも、構っている暇は無い!
魔石が全て移動空間へ入り、景色が変わると、魔石ごと、私とルーディクスさんは空中へ投げ出された。
場所の固定が上手く行っていなかったんだろうか?
「わきゃぁぁぁぁ!!!!」
「おいっ! これは大丈夫なのか!?」
「温泉大陸なので場所的には合ってるけど、どこに落ちるかは判んないですー!!のぁぁぁ!!!」
バサッとルーディクスさんが羽を広げて、魔石は地面へ落ちて行った。
ドーンッと物音が激しく立ち、何処かへ魔石は着地? したみたい。
「どうするんだ? これは」
「えっと、とりあえず、魔石を切って、最後に【核】を壊して、残りの魔石は散らしちゃいます」
「分かった」
「東国の【勇者】に見つかったので急ぎましょう!」
「ああ」
ルーディクスさんに地上に下ろしてもらって、魔石の場所に行くと、そこが何所か判った。
枯れ果てた間欠泉になったハガネの思い出の洞窟の場所。
私が【病魔】対策の時に身を隠していた洞窟だ。
道具の中から、月刀ー山茶花ーの小刀を出すと、魔石に早速切りかかる。
前回の魔獣の【王】で砕けたのを打ち直した小刀だけど、切れ味は抜群だ。
やはり、魔獣の【王】の魔石は柔らかく、ゼリーの様で、大きく切ってはルーディクスさんに渡して、ルーディクスさんは魔石を大陸のあちらこちらへ埋めに行って、魔石が大地へ同化する様に魔法を放って行く。
「ミヤ、随分凄い事になってきているぞ!」
嬉しそうに言うルーディクスさんに私も笑顔で「まだまだやっちゃいますよ!」と言って魔石を切り崩していく。
【核】を崩してしまうと魔石が飛び散ってしまうので、とにかく【核】を残してドンドン削ろう。
早くしないと【怨嗟】も出ちゃうから、その前に勝負を掛けないとね。
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