黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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20章

黒狼亭④

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 ルーディクスさんに地上に下ろしてもらって、どうしたものかと頭を捻る。
私が来たからこの世界に影響が出て、魔獣の【王】の魔石がこの大陸に落ちなかった……と、いう事は無いと思う。
既に起きた後に私は来た訳なのだし……。
だとしたら、考えられるのは一つ。
過去の出来事は改ざんされて、未来へと語り継がれてしまった……と、いう事。

「ねぇ、ルーディクスさん。魔獣の【王】が倒されてどのくらいになるんですか?」
「一週間は経ったと思う……、私が斬りつけられて気を失っている時間が、そう長くなければの話だが……」
「なら、倒されたばかり……東国の近くで魔獣の【王】は出たんですよね?なのに、東国に近いこの大陸に魔石が落ちてこないのはおかしくないですか?」

 やっぱりルーディクスさんは斬られていた様ですが、まぁ、それは一先ず置いておいて、この温泉大陸をちゃんと温泉大陸にしないと未来のルーファス達に影響が出そうな気がする。
だって、【刻狼亭】の初代から【刻狼亭】は温泉宿として、この大陸を統治していたのだから、温泉が無いのは駄目だし、魔石は間欠泉の枯れた洞穴に落ちたという話だったから、そこに無ければいけない……。

「色々考えている様だが、あいつはわざと、この大陸に魔石を落とさなかった」
「ええ!?それ、酷くないですか?」
「あいつは私に、この大陸を詫びとして、他の国にも手を出せない様に不可侵協定の魔法まで掛けて渡したくせに、魔石をこの大陸には落とさない様に切っていた。文句を言った私を最後には斬り付けて行ったぐらいだ」
「なんでそんな事を!?」
「あいつは魔獣の【王】を討ち取ったのは自分だと誇示しなければ、この世界では用無しの異世界人だからな。不可侵協定の魔法も『トリニア家の者が許可・または死んだ場合、この大陸の不可侵協定は破棄される』というものだ。あいつが【勇者】ではないのは私が知っている為に邪魔なのだろう」

 なんていう身勝手さ……勇者の風上にも置けない最低の人間ではないか!
これは未来の温泉大陸の為にも絶対なんとかしないと……でも、どうすれば良いんだろう?

「魔石は、魔石はもう何所にも無いんですか?」
「魔石は元々私達、黒天狼族が暮していた島に大きな物が残っていたが……アレは普通の剣や魔法では砕けない。勇者が他国との取引に使うつもりで、徐々に削り取っていくつもりらしい」
「それです!それ!それをこの大陸に貰っちゃいましょう!」

 私のはしゃいだ声にルーディクスさんは、なんだか呆れた顔をして、ハァ……と溜め息を吐く。
何故「こいつ解ってないな?」という目で私を見るのか?

「だから、あれは大きすぎて移動させることは出来ない。普通の剣でも魔法でも砕けない。ちゃんと人の話は聞いていたか?」
「ふふふ~っ、ルーディクスさんは甘いですね。私、実は弱ちいですけど、素敵な魔法を使えるんですよ?しかもその魔石が切れる武器も持っているという、まさに、ルーディクスさんに必要な人物!」

 そこまで自分で言って「あれ?もしかして本当に私が必要な案件だったかも?時間移動で弾き飛ばされたのはこのせいかもしれない」と、思ってしまった。
だって、よくある小説や漫画のお話にもこういう展開あるし……。
きっと、私がこの時代にきた意味があるハズ。

「お前は、よくわからん奴だな……しかし、出来るのか?そんな事が……」
「出来ます!私を魔石の所へ案内してくれたら、この大陸に魔石を持ってこれます。この大陸で魔石を切って色んな場所に埋めて、この大陸を世界で一番の魔力の溢れる土地にしちゃいましょう!」
「方法は?」
「簡単です。場所を移動する魔法で魔石を手に持って一緒に移動しちゃえばいいですから」
「ハァ?」

 眉間にしわを寄せて、ルーディクスさんは私をうさんくさそうな目で見る。
まぁ、私もネリリスさんの魔法を貰ったからこそ、使える魔法だから、チートみたいなモノだけど、ありすさんいわく、異世界といえばチートっしょ!って言う事なので、遅ればせながらのチート能力だと割り切るしかない。
【聖域】はチートといえばチートだけど、自分の体が病気とかで直ぐに死にそうになるから、無茶出来ないし、迷惑かけまくりだし……本当に、なんで【聖域】なんて物が自分の体に特殊能力で付いてしまったやら?という感じ。
ありすさんに至っては、【聖女】の力は今も駄々洩れで私よりも魔力不足で魔力ポーションを常に飲んでいなきゃいけないし……。

 そういえば……東国の【勇者】の特殊能力は死んでも生き返るだったっけ?

「ルーディクスさん、東国の【勇者】の特殊能力は何だか知っていますか?」
「あいつの能力は【再生】だな。まぁ、かなりの痛みを伴う様で腕を食いちぎったら、喚き散らして泣き叫んでいたが……」

 わぁお……流石ルーファスのご先祖様……やる事がえげつない……。

「ルーディクスさん、詫びでこの大陸を貰ったと言ってましたが、どういう意味での詫びなんですか?」
「……あいつは、魔獣の【王】を追い詰めていた我々、黒天狼族を魔獣だと思っていてな……村に居た女子供老人達まで皆殺しにして、魔獣の【王】と戦っていた私達にもいきなり斬り付けてきた。【王】との戦いで傷ついていた私達は成すすべもなく倒れ、結局生き残ったのは私一人だ……詫びで貰ったこの大陸も、一人どうしろというのだ?黒天狼族をこの大陸で繁栄させればいいと言っていたが、一人で……」

 悔しそうに言うルーディクスさんに、あなたはちゃんと子孫を残して17代目まで繋げられたと教えてあげたいけど、教えてあげることは出来ないのが、私も少し悔しい。

「ルーディクスさん、とにかく私を信じてください!この大陸をルーディクスさんが自慢できるくらい、誰にも渡さないぞって、言えるくらいになる様にする為のお手伝い、させてください!」

 ドンッと胸を張ると、ルーディクスさんはルーファスに似た少し困った顔で笑って、私も任せてください!とルーディクスさんが不安になることは無いと、笑ってみせる。
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