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20章
黒狼亭③
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長い黒髪が揺れて、髪の間から覗く金色の目にルーファスに似た面差しを見付ける。
ルーファスが威嚇する時の目と声に何処となく、このケモ耳堕天使(仮)さんは似ている。
「えーと、手当しただけです。そこは、分かって下さいね? 」
手をホールドアップ状態で上げつつも一応弁解はしておこう。
回復ポーションが痛かったのはうちの製薬部隊のせいだけど、効能は信用できる物だから、恨まれても治ればいいではないかと思う。私ならシューちゃんの回復魔法を掛けて欲しいと喚き散らすけど。うん。
「……お前は、何者だ……?」
おお、ちょっと掠れた声だけどシューちゃんの声に少し近い。うーん。この人もしかして、【刻狼亭】の初代さんだったりするのかな?
「私はただの旅人です。ここへはちょっとした手違いでたどり着いたのですが、決して怪しい物ではありません!ついでに、もう一度言いますが、ちゃんと手当てしたので攻撃はしないで下さいね!」
棒で突いたりとか結構しちゃったけど、断じて攻撃はしていない。
ケモ耳堕天使(仮)さんは、不審者を見るような目で私を見ているけど、私よりケモ耳堕天使(仮)さんの方がかなり怪しいと100人居たら80人は私の味方をすると思う。
だって、ケモ耳堕天使(仮)さんの服装は黒いローブだし、ぼろぼろだしね?
お腹切られてるから余計にローブはバッサリだし……。
「お前の、名前は?」
「人に名前を聞く時は、自分から名乗るものですよ?」
こちらは時間移動をしているから、名乗るにしても……まぁ偽名だけどね。
もし、あちらが【刻狼亭】初代なら尚更、私は関わるとルーファス達にも影響があるから言えない。
「私の名は、ルーディクス・トリニア。黒天狼族だ」
はい。トリニア家!私は完全に名乗れない!
ううん……でも黒天狼族とは一体全体?黒狼族じゃないのかな?
「……早くしろ」
「何がですか?」
首を傾げるとルーディクスさんはイラッとした表情で眉を顰めている。
「だから、こっちが名乗ったのだから、お前も名乗れ!」
「ああ、はい。すいません!ミヤです!」
冒険者カードのミヤの物をじゃーんっと手に持って、ルーディクスさんに見えるようにする。
これは偽造が出来ない物だから持ってて良かったミヤカード!
色々と試験官とかさせられたけど、こうした時に役に立つので全部が全部悪かったわけではないミヤカードだったりする。
「嘘では無いようだな」
「嘘をつく理由が無いですから」
「冒険者にしては……弱そうだが……」
「うぐっ……パートナーが強いんです。私はそのおこぼれに預かっていたので、実力的にはCより下の一般市民以下だと思ってください。だから、攻撃されると死んじゃうので、攻撃は止めてくださいね?」
的確なご指摘ありがとうございます……なんだけど、私はとても弱い事は自覚しているので、ルーファスに頼れない今は虚勢だろうと何だろうと張らなきゃいけない。
キャンキャン吠える犬ほど弱いですが、弱いのだから声を大にして攻撃しないでほしいとアピールするしかないのだ。
バサッと羽を動かしてルーディクスさんは、私に近寄ると私を見下ろしてジロジロと見て来る。
うーん……流石ルーファスのご先祖様なだけあって背が高いし、圧迫感と言うか迫力が違う。
私はルーファスの事は怖くないけど、他の人はルーファスに睨まれると怖いって言ってたけど、こういう感じなんだろうか?
「ミヤ、お前は手違いで来たなら、此処には何もない早く帰れ」
「何もないんですか?」
「見ればわかるだろう?ただのデカいだけの大陸だ。こんな所、どうする事も出来やしない」
「ええ?温泉は?温泉があるじゃないですか?」
ルーディクスさんは片眉を上げて私を掴み上げると、羽を広げて空へ飛ぶ。
「うにゃぁあああああ!!!!」
「暴れるな。落とすぞ?」
「腕、痛い!片腕もげるぅうう!!」
この人、私の右手首だけ持って飛び立ったんだけど、私の扱いが酷い。
ルーファスのご先祖様じゃなかったら、お説教を懇々としてやりたい所ですよ!
しかも、「この女うるさいなぁ」みたいな顔で嫌そうに私の腕を持ち上げて抱き上げる形にしてくれたけど、ありがとうとは思えない……。
「あの、なんで上空なんですか?」
「下を見ればわかるだろう?この大陸の何も無さが。温泉なんてあると思うか?」
下を見れば、森だらけで私の知っている温泉のあった場所も、薄気味悪い森にモヤが掛かっているだけだし、間欠泉の森も岩肌だらけで森ではない。
でも、ここは確かに温泉大陸だとは確認できた。
「絶対、ここに温泉はあります!」
「随分な自信だな……魔獣の【王】の魔石すら、この大陸には飛んでこなかったのに」
「え……?」
そんなハズはないと思う。
だって、温泉大陸には魔獣の【王】の魔石が落ちて、恩恵が得られた土地じゃなかったっけ?
毎年、『星降り祭り』をするぐらいには魔石の恩恵を有難がっていたいたと思うけど‥‥…もしかして、魔獣の【王】は【刻狼亭】の初代からルーファスの代までに何回か出現したんだろうか?
「あの、ルーディクスさん。魔獣の【王】は、東国の【勇者】が倒したんですか?」
「ああ、あの忌々しい異世界人の手柄……という事にはなっているな」
「……違うん、ですか?」
「魔獣の【王】は我々、黒天狼族が追い詰めた。奴はそれを横から奪っていった……同朋の叫び声が未だに耳から離れない……っ!」
ギリッと歯が軋む様な音がして、ルーディクスさんは東国の方向を向いて低く唸り声をあげていた。
ルーファスが威嚇する時の目と声に何処となく、このケモ耳堕天使(仮)さんは似ている。
「えーと、手当しただけです。そこは、分かって下さいね? 」
手をホールドアップ状態で上げつつも一応弁解はしておこう。
回復ポーションが痛かったのはうちの製薬部隊のせいだけど、効能は信用できる物だから、恨まれても治ればいいではないかと思う。私ならシューちゃんの回復魔法を掛けて欲しいと喚き散らすけど。うん。
「……お前は、何者だ……?」
おお、ちょっと掠れた声だけどシューちゃんの声に少し近い。うーん。この人もしかして、【刻狼亭】の初代さんだったりするのかな?
「私はただの旅人です。ここへはちょっとした手違いでたどり着いたのですが、決して怪しい物ではありません!ついでに、もう一度言いますが、ちゃんと手当てしたので攻撃はしないで下さいね!」
棒で突いたりとか結構しちゃったけど、断じて攻撃はしていない。
ケモ耳堕天使(仮)さんは、不審者を見るような目で私を見ているけど、私よりケモ耳堕天使(仮)さんの方がかなり怪しいと100人居たら80人は私の味方をすると思う。
だって、ケモ耳堕天使(仮)さんの服装は黒いローブだし、ぼろぼろだしね?
お腹切られてるから余計にローブはバッサリだし……。
「お前の、名前は?」
「人に名前を聞く時は、自分から名乗るものですよ?」
こちらは時間移動をしているから、名乗るにしても……まぁ偽名だけどね。
もし、あちらが【刻狼亭】初代なら尚更、私は関わるとルーファス達にも影響があるから言えない。
「私の名は、ルーディクス・トリニア。黒天狼族だ」
はい。トリニア家!私は完全に名乗れない!
ううん……でも黒天狼族とは一体全体?黒狼族じゃないのかな?
「……早くしろ」
「何がですか?」
首を傾げるとルーディクスさんはイラッとした表情で眉を顰めている。
「だから、こっちが名乗ったのだから、お前も名乗れ!」
「ああ、はい。すいません!ミヤです!」
冒険者カードのミヤの物をじゃーんっと手に持って、ルーディクスさんに見えるようにする。
これは偽造が出来ない物だから持ってて良かったミヤカード!
色々と試験官とかさせられたけど、こうした時に役に立つので全部が全部悪かったわけではないミヤカードだったりする。
「嘘では無いようだな」
「嘘をつく理由が無いですから」
「冒険者にしては……弱そうだが……」
「うぐっ……パートナーが強いんです。私はそのおこぼれに預かっていたので、実力的にはCより下の一般市民以下だと思ってください。だから、攻撃されると死んじゃうので、攻撃は止めてくださいね?」
的確なご指摘ありがとうございます……なんだけど、私はとても弱い事は自覚しているので、ルーファスに頼れない今は虚勢だろうと何だろうと張らなきゃいけない。
キャンキャン吠える犬ほど弱いですが、弱いのだから声を大にして攻撃しないでほしいとアピールするしかないのだ。
バサッと羽を動かしてルーディクスさんは、私に近寄ると私を見下ろしてジロジロと見て来る。
うーん……流石ルーファスのご先祖様なだけあって背が高いし、圧迫感と言うか迫力が違う。
私はルーファスの事は怖くないけど、他の人はルーファスに睨まれると怖いって言ってたけど、こういう感じなんだろうか?
「ミヤ、お前は手違いで来たなら、此処には何もない早く帰れ」
「何もないんですか?」
「見ればわかるだろう?ただのデカいだけの大陸だ。こんな所、どうする事も出来やしない」
「ええ?温泉は?温泉があるじゃないですか?」
ルーディクスさんは片眉を上げて私を掴み上げると、羽を広げて空へ飛ぶ。
「うにゃぁあああああ!!!!」
「暴れるな。落とすぞ?」
「腕、痛い!片腕もげるぅうう!!」
この人、私の右手首だけ持って飛び立ったんだけど、私の扱いが酷い。
ルーファスのご先祖様じゃなかったら、お説教を懇々としてやりたい所ですよ!
しかも、「この女うるさいなぁ」みたいな顔で嫌そうに私の腕を持ち上げて抱き上げる形にしてくれたけど、ありがとうとは思えない……。
「あの、なんで上空なんですか?」
「下を見ればわかるだろう?この大陸の何も無さが。温泉なんてあると思うか?」
下を見れば、森だらけで私の知っている温泉のあった場所も、薄気味悪い森にモヤが掛かっているだけだし、間欠泉の森も岩肌だらけで森ではない。
でも、ここは確かに温泉大陸だとは確認できた。
「絶対、ここに温泉はあります!」
「随分な自信だな……魔獣の【王】の魔石すら、この大陸には飛んでこなかったのに」
「え……?」
そんなハズはないと思う。
だって、温泉大陸には魔獣の【王】の魔石が落ちて、恩恵が得られた土地じゃなかったっけ?
毎年、『星降り祭り』をするぐらいには魔石の恩恵を有難がっていたいたと思うけど‥‥…もしかして、魔獣の【王】は【刻狼亭】の初代からルーファスの代までに何回か出現したんだろうか?
「あの、ルーディクスさん。魔獣の【王】は、東国の【勇者】が倒したんですか?」
「ああ、あの忌々しい異世界人の手柄……という事にはなっているな」
「……違うん、ですか?」
「魔獣の【王】は我々、黒天狼族が追い詰めた。奴はそれを横から奪っていった……同朋の叫び声が未だに耳から離れない……っ!」
ギリッと歯が軋む様な音がして、ルーディクスさんは東国の方向を向いて低く唸り声をあげていた。
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