黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
614 / 960
20章

黒狼亭①

しおりを挟む
 広大な森の中で私は自分の身に起きた事を理解できずに言葉を失っていた。
腕に付けている時間移動を表す腕輪はカラカラと回り、数値が下がっていっていた。
残金を表す数値もどんどん下がり、予想以上の時間移動のお金の無くなり具合に、もう一度時間移動をするにはお金が危なくなっていた。

「うそ……、嘘でしょ⁉」

 時間移動の魔道具は完成はしたけど……失敗した。
私は過去に飛ばされたけど、それは魔獣の【王】が出現した時では無かった。
時間移動の時代が判る腕輪は【一】を示していた。
この数値は【刻狼亭】の当主の代を表したもので、此処は【一】つまり当主初代の時代だった。

 ついさっきまで【刻狼亭】でルーファスに「直ぐにチャッと行ってチャッと帰って来るよ!」と元気に言っていたのに、時間移動の魔道具に時間設定をしてもらい、魔力を通した瞬間、時間移動の魔道具の魔石が砕け散って「しまった!」「失敗だ!」という叫ぶ魔道具を作っていた従業員とドワーフの声に「え?」と思いながら弾き飛ばされてこの時代へ来ていた。

「お金……【十五】まで帰るには足りない……」

 ルーファスの時代に帰れない……。
【十五】の[37]の[11]の数字に飛ばなくてはいけないのに、【十五】の[38][2]からの時間移動だからと所持金をそれ程入れていなかったのも問題だった。
今時間移動しても【五】くらいで所持金は尽きる。

「どうしよう……」

 カイナ君を看病する間の食糧や【怨嗟】対策に特殊ポーションや服などはいっぱい持たされているけど、全部売り払っても全然足りない……。
しかもそれを売れば私はカイナ君を助けられないで終わるし……本末転倒になる。

「でもネルフィームが時間移動した私を見たなら私はどうにか出来たって事だよね……」

 ああ、本当に時間移動したときの私なにかヒントや伝言を残して行こうよ!!
我ながら何してんのよ!!役に立たない大女将なんだから!

「……こんな事ならルーファスと未来なんか関係ないって突っぱねるべきだったのかな……」

 胸に手を当てると、胸にストンと穴が開いてしまった様な感じがする。
ルーファスと私を繋ぐ番の繋がりも時代が違うから、感じ取れずに喪失感が酷い。
番喪失……ロストの人達はこんな気持ちで生きて行かなきゃいけないのは辛いだろうな……。
ルーファスも私が居なくなってこんな気持ちなんだろうか?
何度か私は死にかけたり心臓が止まったりしてルーファスにこんな思いをさせてるから、酷い番だよね。

「……ルーファスの所に帰らなきゃ」

 ネリリスさんの魔法の知識があるし、色々出来るから考えるしかない。
取り敢えずは、初代の【刻狼亭】へ行って様子を見てこようかな?
ルーファスのご先祖様なら助けてもらえるかもしれない。
勿論、未来の事は言えないけど、私のエルフの魔法で【刻狼亭】の力になれたら少しはお金を融通してくれたりはしないかな?という打算もある。

「前向きに考えなきゃね」

 そう、私が未来でカイナ君を助けていたなら私はルーファスの居る時代に帰れるはず。希望は持たなきゃ。私は【刻狼亭】の大女将なんだからドーンと構えていかなきゃ。

 森の中をサクサク歩いているものの……温泉街に着かない……。
初代の温泉大陸って温泉街ないの?
それとも方向間違えたかな?太陽の位置からすると方角は合ってるんだけどなぁ……。
昔は太陽の位置が違ったりするのかな?
うーん……地図とか欲しい。

「なんか変な匂いがする……」

 腐った魚に似た臭い匂いが漂っていて口元押さえながら歩いて行くと海岸線に出た。
此処が海岸の浜辺だとすると、花魁通りの近くを通ったわけで……温泉街自体が、もしかして無い?

「にしても、本当に臭い……」

 浜辺に黒い毛の塊が落ちていて、においの原因はそれだった。
砂だらけで赤黒い内臓の様なものが出て腐っている……死骸かな?
にしても、大きい……バスくらいの大きさがあるかも?

「埋めるにしても大きすぎて私に出来るかなぁ……」

 ネリリスさんの魔法に良い物があったかな?
流石に埋めてあげないと可哀想だしね。それに臭い。

「『森のエルフの声を聞け 大地の子よ 闇の様に深く大地を穿て』」

 浜辺に穴がズモズモと開いていきゆっくりと黒い死骸が穴にずり落ちていく。
これで大丈夫かな?キチンと成仏してね。パンと手を合わせて拝む。

「う……、あ……」

 ん?
砂に沈んでいく黒い死骸から声が聞こえた?
あれかな?死んだ後も喉に空気が溜まって喉が振動で声が出ちゃうとかいうやつ?

「ヴヴヴ……ッ」

 ズバッと砂を掻き上げて黒い毛玉が唸り声をあげて穴から這い上がり、毛の間から金色の目が私を睨みつける。

「ひやぁぁああ!!ごめんなさい!!死んでると思ってたの!!悪気はなかったの!!」

 死んでなかったよ!でも怒らせちゃったよ!
あわわわっ!!ルーファス助けてぇぇぇ!!! 
涙目で脱兎のごとく砂浜を逃げ出した私を毛玉は追うことなく、その場でまた倒れ込んだ。
内臓出てるけど……大丈夫……じゃないよねぇ……?
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。