黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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19章

ネリリスと朱里とルーファス

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 温泉大陸に帰って来るとそれぞれが自分の居場所に帰っていく。
シュトラールはフィリアの元へ矢の様な速さで帰って行ったのは言うまでもなく、ありすとリロノスはゆっくり休みたいと自分達の家に足早に帰って行った。
従業員達もルーファスから労いの言葉を貰って従業員宿舎へ戻って行った。

「父上、母上、おかえりなさーい!」
「皆ただいま!」
「良い子にしていたか?」

 朱里が三つ子を抱きしめて、ルーファスが三つ子の頭を順番に撫でていく。
ハガネが「飯なら出来てんぞ」とドラゴン達を引き連れて大広間へ向かい、大広間では残り組のドラゴン達が宴会の準備をして酒樽が大量に部屋に置かれていた。

「アカリおかえりー!」
「はい。ただいま!皆お酒すごいね?」
「ルーなら許してくれると思って酒造から大量に持って来たの!」
「おいおい。酒造の方から文句言われないだろうな?」
「大丈夫だよルーファス!全部【刻狼亭】につけておいてって言ってあるから」
「……リューから文句を言われるパターンか」

 ルーファスが「仕方がないか」とハァと溜め息を吐いて、ドラゴン達は笑いながら「大丈夫だよー」と早速お酒を注いで回っている。
ハガネが料理をどんどん台所から運んできて、ミルアとナルアがリュエールとキリンとレーネルを呼んできて大広間に座り込む。

「「父上、母上おかえりなさいまし!」」
「はい。ミルアもナルアもお留守番ありがとうね」
「二人にティル達を任せてすまなかったな」
「気にしないで下さいまし」
「家族ですもの、大丈夫ですわ」

 ミルアもナルアもすっかりお姉さんになった物だとルーファスと朱里が目を細める。
尻尾を振りながら二人が「ねー」と顔を合わせて双子らしい鏡の様な動きを見せる。
 リュエールが酒樽をチラッと見て片眉を上げると「まったく」と溜め息を吐く。
察しのいい長男にルーファスが肩をすくめてみせてリュエールが「別にいいけどね」とメモ用紙を取り出して酒樽の数を記帳していく。

「お義父さん、お義母さんお疲れ様でした。これで予言も全て終わりましたね。ゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうキリンちゃん」
「これでネリリスの予言が全部なら良いんだがな」
「もう、ルーファス、不吉な事言わないで下さい」

 予言としては『過去の悪夢が蘇る、異世界の者だけが悪夢を再び終わらせる』というモノなので、魔獣の【王】だとハッキリ示唆しているわけではない。
朱里がルーファスの耳を引っ張りながら「メッ」と怒ってルーファスが朱里の鼻に自分の鼻をツンとくっつけると、「仕方がないですね」と朱里がルーファスに絆されている。
長い事一緒に居るので小さな意思表示でもちゃんと判る夫婦ではあるのだ。

「さーて、今回も無事に乗り切った!と、いう訳で宴会だー!!」

 ローランドがお酒の入ったグラスを掲げると「「「おーっ!」」」と声が上がり、それぞれがグラスを掲げて中身を飲み干すと宴会が開始された。
ちゃんとした宴会も後に用意するつもりではあったが、家族だけで騒ぐのも良いかとルーファスもグラスの酒を飲み干すと、隣りでにこにこしていた朱里がウトウトと目を閉じたり開けたりしている。

「アカリ疲れたなら休んでおくか?」
「んーん。大丈夫……」

 目を閉じて朱里がルーファスに寄り掛かるとすぅすぅと寝息を立て始める。
小さな子供が突然電池が切れた様に寝てしまうのと同じ様に寝てしまった朱里を抱き上げて「寝かせて来る」と言ってルーファスが大広間から出て行く。

「アカリ、お疲れ様」

 今回は朱里もありすも倫子も巻き込んでの世界規模の【怨嗟】騒ぎで随分バタバタしていたものだと思う。
しかし、魔石が世界へ飛び散ったおかげで世界はまた魔力の満ちた世界に代わるのだろう。
魔法が主体のこの世界は魔力がある事が必要不可欠なのだから、良い方向へ向かって行く事を願うばかりだ。
自分達の時代は丁度分岐点の様な物なのだろう。
子供達や孫たちがこれからの時代で苦労しない様に手伝えた事を誇りに出来ればと思う。
一番はこの腕の中の自分の番を誇りに思っている。
ルーファスとしては朱里と過ごす、この世界、この時代、この時間こそが一番大切で、先の事はこの先を生きる自分の子供達へ託すのみだ。

 朱里を寝室に寝かせて自分も横になると朱里が胸に頭を擦りつけて来る。
抱きしめると朱里の温かい体温に甘い香りが心地よい。
朱里の眠りに引きずられる様にルーファスもそのまま眠ると、夢の中で朱里がエルフの少女と歩いていた。

「アカリ、誰だそいつは?」
「あっ、ルーファス。この子はネリリスさんだよ」
「老婆ではなかったか?」
「これは夢だもの。年齢は関係ないと思う」

 朱里よりも小さなエルフの少女ネリリスにルーファスは「夢……か?」と眉間にしわを寄せる。
夢にしては夢らしくない違和感のある空間にルーファスの尻尾はピリピリと毛が逆立っている。

『私の予言は役に立ったかい?』

「はい。結構曖昧な感じでしたけど」
「最後の異世界人や悪夢がどうのというのは終わったという事で良いのか?」

 エルフの少女から出る言葉は老人の声でそれが非常に朱里とルーファスを混乱させる物ではあるが、そこを突っ込んではいけないとお互いにそのことには触れずに話を続けている。

『今回は終わりだね。お前達は時間を移動する魔道具を作っているだろう?それで今回死んだ者を救い、未来を変えなければ、東の国が1つ滅びる』

「カイナくん……ですか?」
「あいつなら生きていただろう?」 
「えっと、実は私が時間移動して助けたらしいってネルフィームが言ってたよ」
「なんだと?アカリにそんな事をオレがさせるとは思えないが……」

 時間移動は未来の子孫の為に用意していると言って良い物でルーファスとしては扱う気はあまりない物だったりしたが、朱里の言葉は自分が思って居た事とは裏腹な行動をしているというモノだった。

『救わなければ、お前達の子孫と救われた者の子孫が結ばれずに、未来の子孫達に支障が出ていき、やがてまた悪夢が蘇った時、お前達の子孫が1人も残らず世界が終わる』

「子孫ですか……」
「それは子孫に時間移動させることで解決は出来ないのか?」

『すでに時間移動した者と関わった者でなければ、時間の狭間に飛ばされる。異世界人ならば多少飛ばされても無事に元の場所へ戻れる。だからこそ、女、お前が動くしかない』

 ルーファスがヴヴヴと唸り声をあげて毛を逆立てているが、しなければならない事なら自分のとる行動は一つしかない。

「オレも行く!アカリに一人でそんな危ない行動を取らせるわけにはいかない!」
「ルーファス……」

 ネリリスは首を振る。
そして光る玉をルーファスに投げると、ルーファスの体の中にその光は消えていく。

『これで女はどの時代へ飛ばされてもお前の元へ帰って来れる。お前が時間移動すれば、女は時間に弾かれて帰る事が出来なくなる』

「ふざけるな!今すぐ取れ!オレはアカリから離れん!」
「ルーファス、帰って来れるんだから、大丈夫だよ」
「帰れてもそれが年単位で違えば、アカリは老人のオレの所に帰って来る可能性だってあるんだぞ!」  

『まぁ、そういう事もあるかもしれん。だから女にはこれをやろう』

 ネリリスの手からまた光が出て朱里の中へ吸い込まれていく。

「これ、何ですか?」

『私の覚えた魔法の全てだよ。上手に使うが良いさ』

 周りが白く輝くと弾かれる様に二人は夢からはじき出された。
目を開けて朱里がルーファスを見上げると、ルーファスが「あの老人め!」と唸り声をあげていた。
夢では無いらしいと朱里が小さく溜め息を吐いて、「困ったね」と呟いた。
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