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19章
黒竜の鱗
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ダークエルフの家の中で寝かされていたカイナをギルが様子を見て、多少の怪我はしているが重症では無いと気つけ程度の回復魔法を唱える。
「【回復】……ふぅ、私一応聖属性の回復持ちなのに出番ないですよね」
「それは主の普段の行いがいけないからだ」
「ネルフィーム……私はいつだって品行方正でしょう?」
「主も冗談が言えるようになったのか?」
ハハハと二人が笑い手を取り合った……訳ではなく、手で力比べの様に押し合っている。
仲が良いのか悪いのか分からない二人にサザンは目を覚ましたカイナを介助する様に背中に手を回して起こす。
「やぁ、東国の【勇者】カイナ・ヒイロ・ツグモだね。私はギル・アーバント。冒険者であり、温泉大陸のトリニア家の親戚、まぁ当主の叔父と言った方が早いかな?こっちは従者のネルフィーム、私の恋人兼婚約者。それでこちらは魔獣の王を倒した新たな勇者サザン・エンパイトさ」
「誰が主の恋人で婚約者だ。嘘は良くない」
ネルフィームに頭を掴まれギルがニンマリと笑って投げキッスを贈ると半目でネルフィームに睨みつけられる。
カイナが手で顔を押さえながら目を何度か瞬きしてギルを見る。
「あなたは……いえ、名乗りは聞きました。ここは?」
「ううん?ここは雪樹の森のダークエルフの捨てられた小屋という所ですかね?私が聞きたいのはルーファスやアカリは何処に?という所なのですけど……」
「アカリ殿?そうだ……、私は【勇者】としての務めを果たしに……」
首を振るカイナにギルは肩をすくめてネルフィームと目を合わせる。
「君は【怨嗟】を止める事は出来なかった。そしてアカリに書簡で後を頼んだ……って、事でいいんですよね?」
「ええ。そう、私は確かに……どうして、私は、助かったんだろう……?」
考え込んだカイナとギルをよそにネルフィームは小屋の中を見て回る。
長い間使われていなかった事がわかる小屋。
小さな続きの部屋を見て薄暗い中でネルフィームの目にだけおかしなものが見える。
竜の目、竜眼にしか捉えられない黒く薄紫の発光。
小さなウロコを見つけて、ネルフィームがそのウロコを手に取る。
黒曜石を薄く切り取った様なウロコは自分の物で、それは確かだと触りながら考える。
ウロコの後ろに文字を見付けてネルフィームは全てを理解した。
『刻』の一文字。
(成程、これは私にだけ向けたメッセージか。私から私への、それならば先程のアカリも納得がいく)
「主、先程のアカリはただの幻だ。精霊の悪戯か何かだろう。【勇者】を助けたのも精霊だろう。気にせずに行こう。ルーファス達はまだこの雪樹の森には着ていない」
「そうですか?ネルフィーム私に隠し事とか誤魔化しはしてないですよね?」
「私を疑う時点で信頼関係は無いと見なすが?」
「いえいえ、私はネルフィームに全面的に信頼を寄せていますから、ネルフィームが言うならそういう事にしておきます」
両手を小さく前に上げてギルが目を細める。
こういう時のギルはとても察しが良く聞きわけがいいのはとても助かる所である。
恐らくギルも薄々は気付いて答えに辿り着きはするだろうが、関わって良い事と悪い事の判別はしている。
「さて、ルーファス達が居ないなら、先に魔石を見に行きますか?」
「主は言い出したら聞かないから止はしない」
「カイナ、君も来るかい?サザンは道案内役ですから逃がしませんよ?」
ギルがサザンの肩を掴み逃さないとばかりにしているのをネルフィームがやれやれと首を振る。
サザンも仕方がないと諦めたのか小屋に置き去りにされていた古い杖を手に取る。
流石に剣は錆びれて使い物にはならなかったので無いよりまし程度である。
「私の刀は……?」
「ああ、それならアカリ達異世界人が持っていますよ」
「なら、私が扱うより良いですね……」
「そうでもないと思いますよ。なんせ素人3人が振り回すんですから。指でも落とさなきゃ良いですけど」
縁起でもない事を言いながらギルが「まぁ私の大甥が居れば直ぐに指の1本や2本生えますけどね」とクスクス笑いながら、カイナに手を差し伸べる。
「さぁ、どうします?」
「行きます。無責任に自分の後を任せてしまった事の責任もありますから」
「冒険者はそうでなくてはね。うんうん」
カイナの手を取ってギルが「行きましょうか」と小屋を出ると頭上をグリムレインとローランドが旋回しながら飛んでいる。
「あっ、不味いですね。もう来ちゃってますよ!」
「主がぐずぐずしているからだ!」
「ネルフィーム、行きましょう!直ぐ!」
ネルフィームが竜化してギル達を連れて空に飛び上がり、サザンの案内する方向へ向かうと目指す場所から楕円形に爆風が広がり、ネルフィームは爆風で木をなぎ倒しながら森の中へ落ちていく。
「ネルフィーム大丈夫ですか!?」
「頭がガンガン回った。主達は大丈夫か?」
「私は平気です。カイナとサザンは無事ですか?」
「「なんとか」」
ネルフィームとギルが爆風のあった場所から飛び散った【怨嗟】が立ち上るのを眺めて朱里達の作戦が開始されたのだろうと出遅れた事に「チッ」と舌打ちをした。
「【回復】……ふぅ、私一応聖属性の回復持ちなのに出番ないですよね」
「それは主の普段の行いがいけないからだ」
「ネルフィーム……私はいつだって品行方正でしょう?」
「主も冗談が言えるようになったのか?」
ハハハと二人が笑い手を取り合った……訳ではなく、手で力比べの様に押し合っている。
仲が良いのか悪いのか分からない二人にサザンは目を覚ましたカイナを介助する様に背中に手を回して起こす。
「やぁ、東国の【勇者】カイナ・ヒイロ・ツグモだね。私はギル・アーバント。冒険者であり、温泉大陸のトリニア家の親戚、まぁ当主の叔父と言った方が早いかな?こっちは従者のネルフィーム、私の恋人兼婚約者。それでこちらは魔獣の王を倒した新たな勇者サザン・エンパイトさ」
「誰が主の恋人で婚約者だ。嘘は良くない」
ネルフィームに頭を掴まれギルがニンマリと笑って投げキッスを贈ると半目でネルフィームに睨みつけられる。
カイナが手で顔を押さえながら目を何度か瞬きしてギルを見る。
「あなたは……いえ、名乗りは聞きました。ここは?」
「ううん?ここは雪樹の森のダークエルフの捨てられた小屋という所ですかね?私が聞きたいのはルーファスやアカリは何処に?という所なのですけど……」
「アカリ殿?そうだ……、私は【勇者】としての務めを果たしに……」
首を振るカイナにギルは肩をすくめてネルフィームと目を合わせる。
「君は【怨嗟】を止める事は出来なかった。そしてアカリに書簡で後を頼んだ……って、事でいいんですよね?」
「ええ。そう、私は確かに……どうして、私は、助かったんだろう……?」
考え込んだカイナとギルをよそにネルフィームは小屋の中を見て回る。
長い間使われていなかった事がわかる小屋。
小さな続きの部屋を見て薄暗い中でネルフィームの目にだけおかしなものが見える。
竜の目、竜眼にしか捉えられない黒く薄紫の発光。
小さなウロコを見つけて、ネルフィームがそのウロコを手に取る。
黒曜石を薄く切り取った様なウロコは自分の物で、それは確かだと触りながら考える。
ウロコの後ろに文字を見付けてネルフィームは全てを理解した。
『刻』の一文字。
(成程、これは私にだけ向けたメッセージか。私から私への、それならば先程のアカリも納得がいく)
「主、先程のアカリはただの幻だ。精霊の悪戯か何かだろう。【勇者】を助けたのも精霊だろう。気にせずに行こう。ルーファス達はまだこの雪樹の森には着ていない」
「そうですか?ネルフィーム私に隠し事とか誤魔化しはしてないですよね?」
「私を疑う時点で信頼関係は無いと見なすが?」
「いえいえ、私はネルフィームに全面的に信頼を寄せていますから、ネルフィームが言うならそういう事にしておきます」
両手を小さく前に上げてギルが目を細める。
こういう時のギルはとても察しが良く聞きわけがいいのはとても助かる所である。
恐らくギルも薄々は気付いて答えに辿り着きはするだろうが、関わって良い事と悪い事の判別はしている。
「さて、ルーファス達が居ないなら、先に魔石を見に行きますか?」
「主は言い出したら聞かないから止はしない」
「カイナ、君も来るかい?サザンは道案内役ですから逃がしませんよ?」
ギルがサザンの肩を掴み逃さないとばかりにしているのをネルフィームがやれやれと首を振る。
サザンも仕方がないと諦めたのか小屋に置き去りにされていた古い杖を手に取る。
流石に剣は錆びれて使い物にはならなかったので無いよりまし程度である。
「私の刀は……?」
「ああ、それならアカリ達異世界人が持っていますよ」
「なら、私が扱うより良いですね……」
「そうでもないと思いますよ。なんせ素人3人が振り回すんですから。指でも落とさなきゃ良いですけど」
縁起でもない事を言いながらギルが「まぁ私の大甥が居れば直ぐに指の1本や2本生えますけどね」とクスクス笑いながら、カイナに手を差し伸べる。
「さぁ、どうします?」
「行きます。無責任に自分の後を任せてしまった事の責任もありますから」
「冒険者はそうでなくてはね。うんうん」
カイナの手を取ってギルが「行きましょうか」と小屋を出ると頭上をグリムレインとローランドが旋回しながら飛んでいる。
「あっ、不味いですね。もう来ちゃってますよ!」
「主がぐずぐずしているからだ!」
「ネルフィーム、行きましょう!直ぐ!」
ネルフィームが竜化してギル達を連れて空に飛び上がり、サザンの案内する方向へ向かうと目指す場所から楕円形に爆風が広がり、ネルフィームは爆風で木をなぎ倒しながら森の中へ落ちていく。
「ネルフィーム大丈夫ですか!?」
「頭がガンガン回った。主達は大丈夫か?」
「私は平気です。カイナとサザンは無事ですか?」
「「なんとか」」
ネルフィームとギルが爆風のあった場所から飛び散った【怨嗟】が立ち上るのを眺めて朱里達の作戦が開始されたのだろうと出遅れた事に「チッ」と舌打ちをした。
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