黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
608 / 960
19章

雪樹の森

しおりを挟む
 凍える様な寒さの中で雪樹の森では魔獣の声と叫び声が響き渡っていた。

「た、すけてぇ・・・」

 消え入りそうな声で朱里が木の上から声をあげる。

 雪樹の森に降り立ちそれぞれが配置に付き、始めに魔獣の王の魔石の周りを木竜ケルチャの魔法で木々で覆い、【怨嗟】で黒くなった魔獣達が入り込まない様にバリケードを張っていた。
そこまでは予定通りで、次に魔石にグリムレインが【聖域】と【聖女】の力の入った聖水を掛けて魔石から【怨嗟】を浮かび上がらせて、その隙に魔石を砕くはずが、聖水を掛けた瞬間、爆風がした。

 気付いたら朱里は木の上に引っ掛かっていて、全員バラバラに吹き飛ばされケルチャの木のバリケードも所々吹き飛ばされていたせいで【怨嗟】で黒くなった魔獣達がバリケードの中に入ってきていた。
それぞれが戦闘開始になり動き出して、ケルチャが木々でバリケードを再び作る間にも続々と魔獣は入り込んでいた。

「アカリ!どこだ!」

 ルーファスの声に朱里が木にしがみ付いてもう一度助けを呼び、ルーファスが上を見上げて朱里を確認した。
この中のメンバーで一番軽かったせいか、朱里だけが派手に飛んだという形だった。

「ううっ、下ろしてぇー」
「待ってろ!直ぐに下ろしてやるからじっとしてろ!」
 じっとして居ろと言うより、高所恐怖症で木にしがみ付いている他ない状態に朱里は身動き一つとれないでいる。
ルーファスが木を登る間に周りでは作戦がいきなりの総崩れ状態で混乱も起きていた。

「うわーっ!うわーっ!」
「アリス落ち着いて!刀は何処に⁉」
「わかんないっしょー!」

 吹き飛ばされた時に刀を手放してしまったありすがパニック混じりに大騒ぎしてリロノスが魔獣を倒す横で「マジヤバーい」と叫び声をあげた。
倫子は小刀を振り回しながら魔石を砕いている、それ程刃が滑らかに動かずのこぎりの様に扱っている。

「これ本当に刀なの!?切りにくい!三等分にしたら駄目になったりとか!?」
「リンコさんそれでも削れてるから大丈夫だよ!」

 シュトラールが倫子の周りの魔獣を倒して回復魔法をそれぞれに掛けて回る。
グリムレインが頭を振って起き上がるとドームを張って雪を止めて周りを見渡し、ルーファスと朱里を見つけて慌てて木の所まで駆け寄る。

「婿!嫁!我の背に乗り移れ!」
「アカリ、大丈夫か?動けるか?」
「うーっ、足に力入んない」

 ルーファスが朱里を抱き上げてグリムレインの背中に飛び乗ると状況を把握する為に魔石の周りをぐるっと旋回してそれぞれの位置を確認する。
ケルチャの周りを従業員が囲みながら魔獣を退治して守り、リロノスとありすは相変わらず騒ぎながら刀探しをしている。魔石を倫子が切りシュトラールもたまに拳で魔石を殴りつけて手を振りながら「無理かー」と声を出していた。

「まだ【怨嗟】は散ったままだな。アカリは小刀をちゃんと持っているか?」

 朱里が着物の懐から小刀の入った布袋を取り出してルーファスに見せてぎこちなく笑って見せると、小刀を持った手を包み込む様に片手で握られて頬にキスをされると心なしか震えが少し止まる。

「聖水は後1回分だ!我は聖水が終わり次第、魔石を砕くのに協力する!」
「でもまた爆発みたいのしたりしない?」
「言っていても仕方がないのだ!【怨嗟】で嫁やアリスが死んだら元も子もない!」
「次はアカリが吹き飛ばん様にオレが支える。だから安心しろ」
「うん。わかった」

 地上に降りて朱里も魔石砕きに布の中から小刀を取り出し、鞘から抜き取ると魔石に小刀を突き立てる。
ズブズブと小刀の刃が根元まで入り込み、朱里が慌てて引き抜く。

「なにこれ⁉ゼリーみたい!!」
「そうなのか?」

 ルーファスが魔石をコンコンと叩くがゼリー状の弾力というよりは硬い鉱物である。
首を捻ると、倫子からは「私には筋ばった肉を切ってる感じよ!」と声がする。
ありすはと言えば、まだ刀探し中である。

「アカリの刀が一番能力的には強い部分だからな……アカリ、どんどん削り取れ!」
「はい!頑張ります!」

 また小刀を魔石に刺してなるべく大きめに切り取り、朱里が切り取った魔石をポイポイ投げていくのをルーファスとグリムレインが後ろでキャッチしながら袋に詰めていく。
倫子の後ろではシュトラールが魔石を回収している。

「しかし、こんなに時間が掛かっていては【怨嗟】にもう一度聖水を掛けても間に合わんな」
「昔の【勇者】はどれだけ凄かったんだろうね?」

 ルーファスと朱里の会話に「死んでも生き返りながら手を休める事は無かったと聞きましたよ」と、聞いた覚えのある声が後ろからして、振り向くとギルが肩に乗るサイズのネルフィームと共に立っていた。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。