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19章
刀
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家のベランダで大きなニクストローブの卵をハンモックの中に入れてケイトとエデンがその上で跳ねて遊んでいる。
朱里が洗濯物を干しながらハンモックから聞こえるキャラキャラした笑い声に微笑んで背中におんぶしている孫のレーネルがずり落ちない様にレーネルのお尻を少し上に持ち上げる。
「あーあー」
「はーい。お祖母ちゃんですよー」
「あー」
「ふふっ、可愛いなぁ」
今日はキリンがリュエールと共に次期当主としてお世話になる客人へ挨拶をする為にレーネルは朱里が面倒を見る事になっている。
ルーファスも現当主として橋渡しをしに一緒に行っているので、この広い家には朱里とドラゴン達しか居ない。
もうしばらくしたらフィリアがルビスを連れて訪ねて来るのでそれまでに洗濯物を終わらせてしまいたい所である。
「もうひと踏ん張り頑張らなきゃねー」
大家族の洗濯物は多いとは言っても、最近は孫達の為の布巾が多いだけで基本洗濯物は下着と着物の下の肌着にティルナール達の子供服くらいである。
着物は専門業者に洗うのを頼んでいるので着物での洗濯はない。
洋服の時は洗濯物は多くはなるが、時期的に洋服は夏時期くらいしか出番は無いので秋口のこの時期は着物が多い。
最後の1枚と、パンッと勢いよく音を立てて布巾をピンチで止めると、丁度フィリアが通りを歩いているのを見つけて、朱里がベランダから手を振る。
「フィリアちゃーん!いらっしゃーい!」
「あっ、お義母様。おはようございますー」
フィリアも朱里に手を振りながらベビーカーを押して家の玄関の中へ入って来る。
ベビーカーは【風雷商】に頼んで試行錯誤の元ようやく形になった物で、乳母車よりすこしコンパクトで折りたためる物が完成した。
これに関しては小さな弟や妹が使っていたベビーカーの記憶を思い出しながら細かく注文を付けて作ってもらたので試作品が大量に出来上がったりしていた。
本当はティルナール達の時に出来上がっていればよかったのだが、三つ子用ベビーカーは難しく、旧式の大きな乳母車を使った苦い思い出もある。おかげで朱里の腕は乳母車で筋肉が付いたのでは?と、思わなくもない朱里だったりする。
「エデン、ケイト。ニクストローブの面倒をお願いねー」
「はーい!」
「わかったのー」
幼竜達はキャッキャッと声を上げてハンモックで遊んでいるのでそのままお昼寝になだれ込むだろうなと思いつつベランダから室内に入り、フィリアを出迎えに行く。
トントントンと軽い足取りで階段を下りると玄関にベビーカーを置いたフィリアがルビスを抱いて家に上がり手に持った茶色い紙袋を朱里に差し出す。
「お義母様、お土産のワッフルです」
「わぁ!リリスちゃんの所のお店ね。これでお茶にしましょうか」
最近、リリスがイルマールが居ない間も何かお金になる事が出来ないかと考えて、たどり着いたのが母親のありすから教えてもらったワッフル作りで、新しい『女将亭』で『リリワッフル』という名前で店を出している。
柔らかなワッフル生地にカスタードの入った物、ホイップにミッカジャムの入った物や、チョコ味に抹茶味と種類も豊富で人気が出ている。
ワッフルをお皿に乗せてお茶の準備をすると大広間に置いてあるベビーベッドにレーネルとルビスを寝かせて、フィリアと一緒にゆっくりとお茶を始める。
「そろそろシューちゃん達が帰って来る頃ね」
「ええ。シューたら連絡はマメにしてねって言ったのに全然連絡くれないんですもの」
「グリムレインも連絡は難しいって言っていたから何かあったのかもしれないね」
「そうでしょうか……?」
少しむくれた顔のフィリアに朱里が苦笑いしてワッフルに手を伸ばしたところで、庭にズダーンと大きな音と地響きがして庭の方へ目を向ければ、グリムレインが庭へ降り立ち背中からシュトラールとワヴィナスを下ろしていた。
「グリムレイン!シューちゃんおかえりなさい!」
朱里が縁側から庭に出て両手を広げるとグリムレインが朱里に抱きついてスリスリと頬ずりをする。
シュトラールは真っ直ぐフィリアの元へ走って行く辺りは愛妻家の見本のような息子である。
「嫁~我は疲れたぞー」
「お疲れ様です。ゆっくり休んでね」
グリムレインが首からカバンを下ろすと体の大きさを変えて30cm程の小ささになり朱里の頭の上に乗って定位置に着く。
「刀は手に入りましたか?」
「手には入ったが、小うるさいから氷漬けにした」
「えええ?それ大丈夫なの?」
「キィキィうるさい刀だったのだ。我の耳が痛くなる」
「あらら」
グリムレインがカバンの中から2メートル程の長い氷の塊を出し、氷を消し去ると風呂敷を解いて木箱から刀を取り出すとバチンと刀に弾かれてグリムレインが手を離す。
グリムレインが手を振ると指先が無く、血がぼたぼたと流れ出し朱里が悲鳴を上げる。
「この刀は我には扱えん。ったく」
「グリムレイン大丈夫⁉シューちゃん!!シューちゃん!!回復魔法!!早く!!」
「そんなに大騒ぎせんでも大丈夫だ」
「指、指が切れてるのは大丈夫じゃないの!!シューちゃん、早くしなさい!!」
朱里に急かされてシュトラールが急いでフィリアの元からグリムレインの所へ戻り回復魔法で指をくっつけると、刀を手に力を籠める。
「この刀、オレも力入れないとガタガタ揺れるから気を付けないと危ないんだよね」
「こんな刀本当に使えるの?」
「わかんないけど、母上なら扱えるかもよ?異世界人だし。オレは半分は異世界人の血が入ってるから握れてるだけだし、グリムレインやワヴィナスさんには無理だったよ」
シュトラールが刀を朱里の前に差し出すと、フラッシュバックの様に過去に腕を掴まれて大きな剣で腕を切り裂かれた痛みが腕に蘇り、朱里が悲鳴を上げて地面に尻もちをついて倒れる。
「嫌ぁぁぁっ!!!やめて!痛い……っ」
腕を押さえて泣き出した朱里にシュトラールが慌てて刀を木箱に戻すと、グリムレインが人型に変化して朱里を抱きしめると、刀は木箱の中でキィィンと刀鳴りを始めガタガタと暴れ、グリムレインが再び氷漬けにして身動きを止めると刀はようやく静かになった。
朱里が洗濯物を干しながらハンモックから聞こえるキャラキャラした笑い声に微笑んで背中におんぶしている孫のレーネルがずり落ちない様にレーネルのお尻を少し上に持ち上げる。
「あーあー」
「はーい。お祖母ちゃんですよー」
「あー」
「ふふっ、可愛いなぁ」
今日はキリンがリュエールと共に次期当主としてお世話になる客人へ挨拶をする為にレーネルは朱里が面倒を見る事になっている。
ルーファスも現当主として橋渡しをしに一緒に行っているので、この広い家には朱里とドラゴン達しか居ない。
もうしばらくしたらフィリアがルビスを連れて訪ねて来るのでそれまでに洗濯物を終わらせてしまいたい所である。
「もうひと踏ん張り頑張らなきゃねー」
大家族の洗濯物は多いとは言っても、最近は孫達の為の布巾が多いだけで基本洗濯物は下着と着物の下の肌着にティルナール達の子供服くらいである。
着物は専門業者に洗うのを頼んでいるので着物での洗濯はない。
洋服の時は洗濯物は多くはなるが、時期的に洋服は夏時期くらいしか出番は無いので秋口のこの時期は着物が多い。
最後の1枚と、パンッと勢いよく音を立てて布巾をピンチで止めると、丁度フィリアが通りを歩いているのを見つけて、朱里がベランダから手を振る。
「フィリアちゃーん!いらっしゃーい!」
「あっ、お義母様。おはようございますー」
フィリアも朱里に手を振りながらベビーカーを押して家の玄関の中へ入って来る。
ベビーカーは【風雷商】に頼んで試行錯誤の元ようやく形になった物で、乳母車よりすこしコンパクトで折りたためる物が完成した。
これに関しては小さな弟や妹が使っていたベビーカーの記憶を思い出しながら細かく注文を付けて作ってもらたので試作品が大量に出来上がったりしていた。
本当はティルナール達の時に出来上がっていればよかったのだが、三つ子用ベビーカーは難しく、旧式の大きな乳母車を使った苦い思い出もある。おかげで朱里の腕は乳母車で筋肉が付いたのでは?と、思わなくもない朱里だったりする。
「エデン、ケイト。ニクストローブの面倒をお願いねー」
「はーい!」
「わかったのー」
幼竜達はキャッキャッと声を上げてハンモックで遊んでいるのでそのままお昼寝になだれ込むだろうなと思いつつベランダから室内に入り、フィリアを出迎えに行く。
トントントンと軽い足取りで階段を下りると玄関にベビーカーを置いたフィリアがルビスを抱いて家に上がり手に持った茶色い紙袋を朱里に差し出す。
「お義母様、お土産のワッフルです」
「わぁ!リリスちゃんの所のお店ね。これでお茶にしましょうか」
最近、リリスがイルマールが居ない間も何かお金になる事が出来ないかと考えて、たどり着いたのが母親のありすから教えてもらったワッフル作りで、新しい『女将亭』で『リリワッフル』という名前で店を出している。
柔らかなワッフル生地にカスタードの入った物、ホイップにミッカジャムの入った物や、チョコ味に抹茶味と種類も豊富で人気が出ている。
ワッフルをお皿に乗せてお茶の準備をすると大広間に置いてあるベビーベッドにレーネルとルビスを寝かせて、フィリアと一緒にゆっくりとお茶を始める。
「そろそろシューちゃん達が帰って来る頃ね」
「ええ。シューたら連絡はマメにしてねって言ったのに全然連絡くれないんですもの」
「グリムレインも連絡は難しいって言っていたから何かあったのかもしれないね」
「そうでしょうか……?」
少しむくれた顔のフィリアに朱里が苦笑いしてワッフルに手を伸ばしたところで、庭にズダーンと大きな音と地響きがして庭の方へ目を向ければ、グリムレインが庭へ降り立ち背中からシュトラールとワヴィナスを下ろしていた。
「グリムレイン!シューちゃんおかえりなさい!」
朱里が縁側から庭に出て両手を広げるとグリムレインが朱里に抱きついてスリスリと頬ずりをする。
シュトラールは真っ直ぐフィリアの元へ走って行く辺りは愛妻家の見本のような息子である。
「嫁~我は疲れたぞー」
「お疲れ様です。ゆっくり休んでね」
グリムレインが首からカバンを下ろすと体の大きさを変えて30cm程の小ささになり朱里の頭の上に乗って定位置に着く。
「刀は手に入りましたか?」
「手には入ったが、小うるさいから氷漬けにした」
「えええ?それ大丈夫なの?」
「キィキィうるさい刀だったのだ。我の耳が痛くなる」
「あらら」
グリムレインがカバンの中から2メートル程の長い氷の塊を出し、氷を消し去ると風呂敷を解いて木箱から刀を取り出すとバチンと刀に弾かれてグリムレインが手を離す。
グリムレインが手を振ると指先が無く、血がぼたぼたと流れ出し朱里が悲鳴を上げる。
「この刀は我には扱えん。ったく」
「グリムレイン大丈夫⁉シューちゃん!!シューちゃん!!回復魔法!!早く!!」
「そんなに大騒ぎせんでも大丈夫だ」
「指、指が切れてるのは大丈夫じゃないの!!シューちゃん、早くしなさい!!」
朱里に急かされてシュトラールが急いでフィリアの元からグリムレインの所へ戻り回復魔法で指をくっつけると、刀を手に力を籠める。
「この刀、オレも力入れないとガタガタ揺れるから気を付けないと危ないんだよね」
「こんな刀本当に使えるの?」
「わかんないけど、母上なら扱えるかもよ?異世界人だし。オレは半分は異世界人の血が入ってるから握れてるだけだし、グリムレインやワヴィナスさんには無理だったよ」
シュトラールが刀を朱里の前に差し出すと、フラッシュバックの様に過去に腕を掴まれて大きな剣で腕を切り裂かれた痛みが腕に蘇り、朱里が悲鳴を上げて地面に尻もちをついて倒れる。
「嫌ぁぁぁっ!!!やめて!痛い……っ」
腕を押さえて泣き出した朱里にシュトラールが慌てて刀を木箱に戻すと、グリムレインが人型に変化して朱里を抱きしめると、刀は木箱の中でキィィンと刀鳴りを始めガタガタと暴れ、グリムレインが再び氷漬けにして身動きを止めると刀はようやく静かになった。
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