黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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19章

精霊族

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 何処か夢心地の様に耳に聞こえる幼子の声と賑やかな大人の笑い声に自分の故郷を思い出し、目を開けると暗闇が目の前にあった。
また魔獣の中なのかと思ったが、よく見ればそれは黒い髪の獣人の男と黒髪の女性だった。

「ここは・・・・・・?」
「ここは温泉大陸だ」
「あっ、気が付きましたか?ここは私達の自宅です」


 ああ、自分は目的地に着いたのかとホッとした後で目的を果たさなくてはと手を伸ばすと腕が重く、目の端で銀糸の髪に薄い紫色が光る。
自分の腕を握っている少女の顔に懐かしい女性を思い出す。

「レーダンス・・・・・・君なのかい?」
フルフルと左右に少女が首を振る。
「私はフィリア、貴方は空の国の精霊族ですよね・・・・・・?」
シャランと羽音がして彼女もまた空の国の精霊族だと気付く。

「ワタシはワヴィナス、空の国の精霊、君と同じ」
「貴方は私のお父様なのでしょうか?」
「ワタシには妻も子も居ません」
「そう、ですか・・・・・・」

 少し寂しそうな顔でフィリアは笑い、シャランと羽音が寂しそうに鳴って背中に仕舞われる。
空の国の精霊族は数が少なく、もうお互いに会う事は出来ない程に。
レーダンスに似たこのフィリアという少女はレーダンスの子供なのだろうと理解する。
彼女はどこかの国の王に捕らわれてしまったと風の噂で聞いたが、人間には無い他種族の精霊混じりのこの少女を見る限り、レーダンスは少なくとも不幸だけで終わったわけでは無さそうだとわかる。

「レーダンスと言うのは誰なんだ?」
 反対側に居た黒髪の獣人の男が問いかけ、隣りの黒髪の女性が首を傾げている。
「レーダンスは同朋だ。おそらく、彼女の母親だ。何処かの王に捕らわれたと聞く」
「お前とは関係のない女性か?」
「知り合いではあるがそれ以上でもそれ以下でもない。父親と思っているのならばそれは違う。レーダンスの髪は銀糸でワタシと同じだ。フィリアの髪には薄紫色が混じっている。別の精霊族の物だ」
「なるほど。では、ワヴィナスお前はココに何をしに来た?」

 何をしに?
ああ、そうだ。フィリアの存在に驚いて当初の目的を忘れてはいけなかった。

「ワタシが持っていた書簡は・・・・・・」
 手を伸ばすと黒髪の女性が「はい、どうぞ」と書簡を手渡してくれる。
ワタシがカイナから預かった大事な書簡。この為だけにこの大陸を目指した。

「その書簡は一体何なんだ?」
「この書簡は東国の王カイナから温泉大陸の『アカリ』という者への書簡だ」
「カイナか・・・・・・あいつは今、行方不明だと新聞に載っていたな。あいつはどうした?」
「カイナは魔獣に敗れ去った」
「そうか・・・・・・その書簡は預かろう。アカリはこの横に居るオレの番だ」
 
 黒い獣人の男が横に居る黒髪の女性を『アカリ』だという。
カイナに聞いた黒髪で黒目。間違いは無いのだろう。カイナの最後の願いはこれで果たされる。
書簡を女性、アカリの方へ向けて出すとアカリが少しだけ眉間にしわを寄せて目を伏せると、ポロリと涙が零れ落ち書簡を大事そうに手で撫でる。

「それ程、関わり合いがあったわけじゃないけど・・・・・・こんな風に別れがいきなりなのは、悲しいね」
「アカリ、アカリが気に病む必要はない」
 アカリの肩を抱き寄せて黒い獣人が頬を摺り寄せながら手から書簡をスルッと取り、書簡の封を爪で弾いて解き開く。

「あ、ルーファス・・・・・・」
「魔獣の群れから狙われるようにして届けられた書簡だ。悪いが読ませてもらう」
 ルーファスと呼ばれた黒い獣人が書簡に目を通し、金色の目が所管の文字を読み進めていく都度に眉間のしわが深くなっていく。
何が書かれているかは予想はつく。

 グシャッと書簡がルーファスに握りしめられ形を変えると、アカリが驚いた顔で自身の夫を見つめ、形を変えた書簡を夫から取り上げると手で伸ばして文字を読む。
アカリもまた眉間にしわを寄せていく。

「『世界に過去の悪夢が蘇る。異世界の者だけが悪夢を再び終わらせる』・・・・・・これが、予言の言っていた事の答えだったんですね・・・・・・」

 アカリの声が少し震えて部屋に静かに響いた。
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