黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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Xmas 記念話

プレゼントは家族

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 12月の後半になると街並みはクリスマス一色になる。
コンビニのバイト中に、店長に手渡されたクリスマスリースの簡単キットをチマチマ作る。
緑と赤と白に金色・・・クリスマスリースの緑色にクリスマスカラーのリボンを巻いて金色のベルを付けて赤い実をリースに付ける。
少し小洒落たコンビニスイーツのコーナーに出来上がったクリスマスリースを付ける。
ポップに『メリークリスマス!ボッチの食べ切りサイズのケーキ』と、何とも言えない文字が書かれている。
店長、流石にこれは喧嘩売って無いでしょうか?と、思いつつも黙ってケーキが全部売れる事を祈る。

「三野宮さん、24日はバイト入れるんだよね?」
「・・・はい。シフト表にはそうありますね」

 40代くらいのくたびれた感じの店長はいつも迷惑そうな顔をしているから、会話が投げかけられるといつも嫌な感じがしてしまう。

「当日いきなり休んだりしないでよ?若い子はドタキャンとか平気でするからさ」
「・・・はい」

 やはりこの店長はこうした嫌味な事を言ってくる。
一度でもズル休みした事が私ありましたか?ちゃんとシフト通りに来てますよね?と言いたいけれど、今は会話を人とするのも凄く疲れてしまう。

 家族を失って2年。
クリスマスは家族で過ごす事はもう無い、無縁のものになってしまった。

「三野宮さんって暗いねぇ、ちゃんと接客出来てんの?」
「・・・一応」

 ハァーと、少し口臭のするため息をつかれて店長がバックヤードに下がっていく。
本当に嫌味しか言わない店長だ・・・。接客で受け答えするのと、お喋りは意味合いが違う。
今の私には接客の受け答えは出来ても、お喋り出来る心のゆとりなんてない。

「店長、上りなのでお先に失礼します」
「え?三野宮さん、来たばかりじゃないっけ?」
「・・・ちゃんとシフト表見てください」
「えー、ああ、来てないの神田さんかぁ」

 ズル休みの神田さんの代わりにこのままバイトをしろと言われそうだったので、そそくさと店を出る。
後ろから店長が「あー、ったく、逃げやがった」と声が聞こえたけど、店長とあのまま一緒に居たら胃に穴が開いてしまう。

「はぁ・・・」

 息を吐いて白く出る吐息に冬の寒さを感じながらトートバッグを握りしめて、クリスマスカラーに彩られた街並みを歩く。
もう冬休みなのか子供が街に多い気がする。
自分と同じような年齢の子を見ると少し胸が痛くなる。
あんな事が無ければ、私も今頃、高校生をしていて友達とか恋人なんかとクリスマスの話で盛り上がっていただろうか?
それとも例年通り、家族とクリスマスを過ごしていただろうか?

 ぽろりと涙が溢れて鼻がツーンとしてくる。
こういうイベントのある時は家族を思い出してしまって、どうしても寂しくて仕方がなくなってしまう。
トートバッグからティッシュをとりだして、涙と鼻をかみながら、近所のスーパーに寄る。

 いつも通りのお値段の46円のおにぎりと68円の1リットル麦茶。
お惣菜はクリスマス商品が多いせいでチキンや唐揚げが多いけど、油物は食べたい気分じゃないから高野豆腐の煮物128円が今日の私の夕飯。

 店の中にクリスマスツリーが飾って合って、その前に『サンタさんにプレゼントを書いてね』というテーブルと箱が用意されている。

 何気なしにペンをとって紙に自分の欲しい物を書いてみる。
叶わない願いを一文字一文字書いていき、書き終わって少し自嘲気味に笑って箱に折りたたんで入れた。

 『家族』

 サンタさん、私はバイトに無遅刻無欠席で良い子にしてたよ?
我が儘1つも言わずに頑張ったよ?夢で良いから家族とクリスマスが過ごしたい。私にプレゼントを下さい。

 叶わない事は解っているけど、もう一度家族の笑顔が見たい。

 ボロアパートに帰って来て、買ってきたお夕飯を食べて、隙間風の入るアパートでガクガク震えながらシャワーを浴びる。このアパートは湯船が無い。トイレとシャワーが同じ所にあるだけ、でも銭湯とかは無駄な出費になるからシャワーだけでもありがたいと言えばありがたいけど、体が温まる時間はほぼない。

 部屋の中なのに、吐く息が白い・・・なけなしのお金で買った布団に包まって目を閉じて睡魔が来るのをただひたすら待つ。


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・

 
「三野宮さん、イブなのにバイトとか彼氏とか居ないの?」
「・・・そういう暇ないので」

 相変わらず嫌な店長に絡まれつつ、冷凍のフライドチキンをフライヤーに入れて揚げていく。
コンビニのチキンを買っていく人は気分だけでもクリスマスを味わいたいのかな?
買う人は大抵、お仕事中という感じで忙しそうなサラリーマンやOLさん達だ。
まだお仕事終わりじゃない人達は大変そうだ。

「旦那様、お肉!お肉売ってます!」
「ん?ああ、食べさせてやりたいが、これからパーティーがあるからな我慢してくれ」
「残念なのです。良い匂いなのに・・・」
「飲み物を選んでおいで」
「はーい」

 背の高いサングラスの男性と小柄なフードを頭から被った女性がコンビニに入ってきて、これからパーティーという会話を聞いて、クリスマスを楽しめる人達はいいなぁと少し思う。
男性がレジに来て商品を1つ出す。
・・・家族計画の箱にサッとバーコードを読み取って紙袋に入れて、「お会計1048円です」と言って会計を済ませると男性はコートのポケットに入れて、一緒に来た女性がレジにペットボトルのジュースと缶のコーヒーを持ってくる。

「お待たせしました。いっぱい種類があって迷っちゃいました」
「それなりに遠出になるから何本か買っても良いんだぞ?」
「・・・お手洗いが近くなるから1本でいいのです」
「そうか。さて会計を済ませような」

 女性からペットボトルとコーヒー缶を受け取ってお会計を済ませてビニール袋に入れて渡すと、2人は手を繋いでコンビニを出て行った。
2人の指にお揃いのペアリングが光っているのを見て、きっと楽しいクリスマスを過ごすのだろうと見送る。
しばらくして駐車場掃除をしていた店長が不機嫌そうに足音をズダンズダンいわせて戻って来る。

 私の顔を見て「ああ?」と言った後で、また駐車場の方へ行きそのまま戻らず、何をしているんだろう?と、思いつつも店長に関わるのが面倒だったので、そのまま放置してシフト時間が終わるまで後30分だと商品の補充をしながら時間を潰していった。

「三野宮さんお疲れ様っす!テンチョーどうしたんすっか?」
「店長何かあったんですか?」
「え?三野宮さん知らねぇんっすか?今、駐車場にパトカーが来てテンチョー連れて行ったすっよ?」
「へぇー・・・全然気付きませんでした」

 あの店長・・・何してたんだろう?と首を傾げながら、バイトの終わり時間になったので「お疲れさまーお先です」と言ってコンビニを出た。

 駐車場にコンビニに少し不似合いな高級車があって、さっきのお客さん2人がその車に乗り込んで出て行った。
あれが勝ち組というヤツなのかなぁ?と、思いつつ、いつも通りのスーパーに寄っておにぎりとお惣菜を物色したら、今日が本番とあってクリスマスのチキンだらけの総菜コーナーに、たまにはいいかな?とフライドチキンを1個買って小さなレアチーズケーキを買った。
何でレアチーズケーキなのかと言えば、ショートケーキはお一人様用が無かったから・・・。

 家に帰っておにぎりとチキンを食べて、思ったことは・・・冷めたチキンはお肉が硬くて美味しくない。
レアチーズケーキを食べて満足するといつもの様にシャワーを浴びて布団に包まって私のクリスマスは終わった。


 夢の中で誰かが私に「くりすます?どんなやつなんだ?」と聞いてきた。

 心地良い優しい声に私はクリスマスの説明をするけれど、上手に説明出来なくて、実際、私もクリスマスはプレゼントを貰ってケーキ食べて、家族で過ごすぐらいの認識だったりした。

 それでもその声の主は「楽しく過ごせるようにしないとな」と笑ってくれた。
一緒にクリスマスをしてくれるの?と聞いたら、その人は「家族で過ごす日なら、オレ達は家族だろ?」と言って手を握ってくれた。

 目が覚めて内容はほとんど忘れてしまったけれど、ほんの少し心が温かかった。


 バイトに行くと、店長が休みで本店の社員の人が店長の代わりに手伝いに来ていた。
そして、1週間後に店長はクビになったとかで新しい店長が派遣されて、前の店長よりも性格が良い穏やかな人になったのがとても有難かった。

 なんでも店長はお客さんに難癖を付けた上にお客さんの車を蹴飛ばしたのだとか。
多分あの勝ち組の人達の高級車なのだろうと予想はつく・・・店長クリスマスとか小馬鹿にしてたから、いつもの様に突っかかって行ったんだろうなぁ・・・。
想像が出来るだけに、店長、いや、元店長に同情はしないけど。
 


・・・・・・
・・・・
・・・

「アカリ、まだボーッとしてるのか?」
「ん・・・っ、ルーファスが、もう無理って言っても止めないから・・・」

 体が怠いのを起こしてルーファスの胸に頭を乗せる。
昨日の夜【刻狼亭】の旅館に部屋を取ってルーファスの仕事が終わるのを待っていたら眠ってしまい、寝ている私をルーファスが抱いていて起きた後、抱き潰されたような感じだった。

「アカリが可愛いのが悪い」
「私は声の出し過ぎでノドが痛いです・・・」
「何か飲むか?」
「飲みます・・・」

 なんだか懐かしい夢を見たけど、ここに来る前の出来事と夢が少しゴッチャになってた感じだったなぁ。
ルーファスが淹れてくれたお茶を飲みながら、そういえば今日クリスマスイブだ・・・と、カレンダーを見る。

「クリスマスかぁ・・・」
「くりすます?どんなやつなんだ?」
「えと、私の世界であったイベントで、生誕祭みたいなものかな?星降り祭りを家族だけで家の中で祝う小さなパーティーみたいな物に近いかな?子供はプレゼントを貰えてケーキとかご馳走が食べれる日で、親は子供にクリスマスまでにプレゼントを用意してご馳走を用意する日、恋人たちにとってはその日は盛り上がっちゃう日かな?クリスマスにプロポーズとかよく聞くよ。でも一番はやっぱり家族で楽しく過ごす日って感じかな?」

 ルーファスが「ふむ」と言って私を後ろから抱きしめると首筋にキスをしてくる。

「くりすますを一緒にやってみよう」
「良いの?ツリーとか飾り付けとか準備色々あるよ?ケーキも鶏肉も用意しないといけないんだよ?」
「楽しく過ごせるようにしないとな」
「一緒にクリスマスをしてくれるの?良いの?」
「家族で過ごす日なら、オレ達は家族だろ?」

 ルーファスが私の手を握ってチュッと首筋にまたキスを落としてくる。
私がクリスマスに用意する物をルーファスに話しながら、ルーファスは準備出来る物をピックアップしていき、従業員をこの後巻き込んでのクリスマス騒動になるとは思ってなかったけど、楽しいクリスマスになった。

 来年もクリスマスをしようと約束をしたけれど、次の年にリュエールとシュトラールが生まれ、リリスちゃんも生まれて3人の子育ての忙しさにクリスマスは出来ず、ケーキとチキンを用意したぐらいで終わった気がする。

 それでも『家族』と過ごすクリスマスは私の大事なイベントの1つ。

 元の世界ではサンタさんは私にプレゼントは用意出来なかったけど、こっちの世界に用意してくれた様です。
とびきりのイケメンの旦那様をありがとうございます。『家族』なんて私が書いたせいか・・・気付けば7人のお母さん。そして息子達にも家族が出来て孫まで出来たわけです。
クロやハガネやドラゴン達を含めると私の『家族』は大家族。
サンタさん太っ腹・・・来年も良い子にしておきましょう。
もちろんプレゼントは『家族の笑顔』にします。



※6章の【冬の別館】辺りの話です。

少しだけ『黒猫のカッコいいお婿さま』が出ていますがあくまでオマケコラボです。
朱里の性格の違いなどはアレなので好き嫌いのある感じにあちらはなっているかも?
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