黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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18章

夏至の子

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 温泉の地熱で他の大陸よりジワリと暑い夏至の頃。
冷や酒の頃だとルーファスやドラゴン達が言い、薄い徳利にお酒を入れて用意していた夕刻。
グリムレインが川魚を塩焼きにしてくれと台所に持ってきて、三つ子も一緒に行ったのかザリガニもどきのエビの様な物を一緒に焼いてと差し出し、朱里が顔を引きつらせていた。

「母上!母上!母上ーっ!!!」

 ドタドタと走って台所に駆け込んできたのは珍しくリュエールだった。
いつもは弟のシュトラールが母上連呼で来ることはあってもリュエールが母上連呼はかなり珍しい。

「どうしたのリューちゃん?もしかしてキリンちゃんが産気づいた?」
「そうだけど違う!」
「んんー?」
「子供、生まれた!」
「あらまっ、まぁまぁおめでとうリューちゃん。えーと、ルーファスー!!」

 ルーファスが耳を動かしながら「聞こえている」と台所にやって来て朱里に擦り寄る。
耳ざといドラゴン達も台所にやってきて、リュエールを囲んで「男?女?」「おめでとー」と言葉をかけながら揉みくちゃ状態にしていく。
それなりに広い台所もドラゴンが密集すれば狭いわけで、朱里に大広間で報告しなさい!と追い出される。
朱里も話は聞きたいが、とりあえずお祝いごとになるだろうとお酒の用意とグリムレインの持って帰って来た川魚を塩焼きにしてから、酒のつまみを大急ぎで作る。

「ははうえー、おとこのこ!」
「はーい。報告有り難うね」

 朱里への報告はお喋りな三つ子が台所まで持ってきてくれるので、その話を聞きながら、手を動かす。
料理を忙しく作り上げていき、お盆に乗せると大広間に持って行く。

「はーい。お祝いしたい人は飲んでくどうぞ。私は産院に行きたいので後は各自好きにおかずは持って行くのよー」
「えー!アカリもココでお祝いすれば良いじゃない」
「駄目よケルチャ。出産したキリンちゃんをまずは労わなきゃ、あと孫が見たい!」
「私も赤ん坊見たい!」
「アルビー、駄目よー。前に私の出産の時に押し掛けすぎて産院で怒られたでしょ?」
「我はココで飲んで祝う!」
「良い子ですよグリムレイン。じゃんじゃんお祝いして飲んでね!」

 ドラゴン達にお酒を与えて大人しく家で待機させると、リュエールとルーファスを連れて産院へと向かう。
三つ子は来たがったが、ミルア達にご飯を食べさせておくようにお願いして置いてきたのである。
連れて行こうかとも思ったが、流石にキリンの両親もリュエールが移動魔法で連れて来ているので産院に押し掛けすぎるのも不味いだろうという配慮である。

「あの小さかったリューちゃんももうお父さんなのねー」
「しかし、リュー、腕輪で連絡すればよかっただろうに」
「仕方ないじゃない・・・僕だって舞い上がり過ぎて、早く母上達に知らせたくて腕輪よりも先に足を動かしてたんだから」

 少し顔を赤くしながら目を逸らせるリュエールに朱里とルーファスが口元に笑みを浮かべて、キリンの病室の中へ入る。
病室ではキリンの両親のエルフ、ユークリッドとエリーゼナが『ゆりかご』魔法の中に居る赤ん坊に目尻を下げている。
 
「リュエールおかえりなさい。お義父さんとお義母さんいらっしゃい」
「キリン、ただいま」 
「大変だったろう。ゆっくり休んでくれ」
「キリンちゃんお疲れ様」
 
 出産後すぐにしては元気なキリンの様子に少し驚くものの、キリンに労いながらキリンの両親にも挨拶を交わし、ルーファスと朱里の初孫の赤ん坊を見せてもらう。
髪色は黒髪にうっすら金色が混じっている。そして小さな耳は獣人のものだった。
ほんの少しエルフの耳になるのかと思っていたので予想が外れて朱里としては少し残念でもある。

「綺麗なお顔してるねー」
「それにしても結構大きいな」
「普通の大きさだよ。母上が産むときはいつも双子だ三つ子だだから皆小さかっただけ」
「わたしのお父さんに顔が少し似てるかな?って話してたんですけど、どう思います?」

 赤ん坊とユークリッドの顔を見比べて「ああ、確かに似てる」と頷くとユークリッドが上を向いて涙を堪えている。エリーゼナに背中を摩られて「泣くから止めてくれ」と言ってしまうあたり正直な人物である。

「子供の名前は『レーネル』にしたんです。ネリリスお婆ちゃんから1文字貰ったんですよ」

 キリンが嬉しそうに子供の名前を言い、ルーファスと朱里が目線を少し合わせて未来から来たリルの言っていた通り17代目の名前と一致した事で未来は繋がって行っているのだと確信する。
一応、ゆっくりではあるが時間移動の機械も技術部署の担当とドワーフが手伝って進めている。
一歩ずつ未来を助ける為の【刻狼亭】がこの先のずっと先も繋がって行く為の戦いでもある。

「あまり長いするとキリンちゃんがゆっくり出来ないだろうから帰るわね」
「お2人はこっちに何日か泊まる様なら部屋を用意しますが?」

 リュエールがすでに【刻狼亭】に部屋を取っているらしく、道は一緒なのでキリンの両親と一緒に病室を出ると、リュエールはキリンと息子の側にもう少しいると言って残り、大人4人で戻る事になった。

「アカリさんは『異世界』から来たんですよね?」

 不意にそう聞かれて朱里が「そうですよ」と答え、エリーゼナが朱里の手を取る。

「ネリリスさんの予言に娘を手助けしてくれる『異世界の女性』というのがあって、キリンもリュエール君も貴女の事だと言っていました。どうか娘と孫をお願いします」
「ええ。予言に関してはピンときませんが、家族として助けられることは助けようと思っています」

 ギュッと掴んだ朱里の手にエリーゼナが祝詞を唱えるように「貴女に森と精霊の加護が降り注ぎます様に」と口にする。

「ネリリスさんの予言には続きがあります。キリンとリュエール君には言っていません」
「予言の続きですか?」

 エリーゼナが伏し目がちにして口を開く。

「『世界に過去の悪夢が蘇る。異世界の者だけが悪夢を再び終わらせる』よくは分りませんが、ネリリスさんの予言の能力は、予言の規模の大きさによって命が削られてしまうもので、これを予言した為に命を落としました。かなり危険なものです。どうか、気を付けて下さい」

 気をつけろと言われても何と答えれば良いやら?と、返事にも困りながら朱里が「はい」としか言うより他には無かった。
キリンの両親を旅館に送り届け、自分達の家に帰る道すがらルーファスが何度か口を開こうとして言葉を探して口を閉じる。朱里も自分の中で言葉を探しながら黙って2人で寄り添いながら歩いて家に戻っていく。
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