黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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18章

嫁と氷竜と婿

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 【刻狼亭】の新年会が差し迫り、温泉大陸へグリムレインが戻ってくる事になった。
記憶が怪しくなってから朱里が「腕輪がブルブルして気持ち悪い」と、腕輪をしないのでグリムレインからの連絡は朱里には届かず、グリムレインにはルーファスが連絡を入れていた。
朱里は腕輪を今していないだけだという説明で誤魔化していたので、朱里の記憶がない事を知ればグリムレインが騒ぎそうだと、帰って来るまでは少し憂鬱でもある。

「新年会の髪飾りはこっちとこっちどっちが良いと思います?」
「あとこっちのお化粧の口紅もどっちがいいと思います?」
「そうだな・・・髪飾りなら黄色が混ざっている方が良いだろうから、こっちの黄水晶を入れてある方が良いんじゃないか?口紅は強い色だと口だけ浮いてしまうから濃いのは止めておけ、でも薄すぎても問題があるからな・・・丁度この二つの中間地点が良いと思うから混ぜて使うのが良いんじゃないか?」

 新年会用の衣装は毎年、朱里が見立てている為に今回はそれが出来ないのでルーファスに頼るミルアとナルアだったのだが、チリチリとする視線に振り向けば、朱里が「お茶淹れました」と困った顔で笑っている。

「アカリは新年会どうするか決めたか?新しい着物を用意してあるが髪飾りや耳飾りを合わせるか?」
「あ、私は・・・よくわからないから、ルーファスにお任せで・・・」

 まるで一歩引いた様な態度の朱里に理由が判らず、ルーファスも少し困った顔をして朱里を見る。
出会ったばかりの頃の朱里は、ルーファスの過去を知らない状態で「父上」とミルア達に呼ばれ、ティルナール達にも「ちちえー」と呼ばれているルーファスは子沢山の人物にしか見えていない。

 そしてミルアやティルナール達が朱里を「母上」「ははえー」と呼ぶのは、記憶が抜けて無いが、きっと自分はルーファスの後妻に入り、子供達の継母になったのだと思っている。

 記憶の抜け落ちた朱里には、歪な家族環境に自分が居るとしか思えない。
ルーファスは自分を「番」だと言うが、ミルアやナルアの顔を見ると、前の奥さんに自分が似ているから自分を「番」等と言って引き留めているのではないかとすら思っている。
 
「アカリ、部屋で髪飾りを合わせるか?」
「はい」

 ルーファスに手を引かれてリビングを出て行く朱里を見ながらミルアとナルアは目を見合わせる。

「ナルちゃんどう思います?」
「ミル姉様、わたくし母上にあんなによそよそしくされると傷つきますわ」
「ですわよねー・・・」
「困ったのです・・・」

 ハァー・・・と、2人がため息を吐きながらお互いの頭をコツンとぶつけて椅子に座って朱里の淹れてくれたお茶を飲んで一息つく。

 
 ルーファスが朱里を連れて夫婦で使っている部屋で朱里の装飾品を探すが、何分ここ十何年朱里が管理していたので中々に難航している。着物だけは毎年作っているので直ぐに判るのだが、装飾品は用途によって置き場を変えてある為によく見ないと季節感のズレた物になってしまう。

「アカリも一緒に探してくれるか?」
「はい。どういう感じの物なんですか?」
「そうだな・・・風呂敷に包んであって木箱が中に入っていたと思う。引っ越した時にアカリがまとめていたからな」
「あらら、じゃあ記憶を私が失くしたから困った事になってるんですね」

 朱里が箪笥を開けながら「私ドジっちゃいましたねー」とアハハと小さく乾いた笑いをしてハァ・・・とため息を吐く。

 幾つか風呂敷に包まれた木箱が出てきたものの、内容の装飾品は色的に新年会には使わない物だと脇に避けられる。
1つ少し重たいものがあり、風呂敷を開けると紙の束が出て来る。

「『時間移動の機械タイムマシーン』・・・これって何ですか?」
「それは・・・少し見せてくれ」

 ルーファスに手渡し、朱里が手持ち無沙汰にまた箪笥を漁ると、一番下の段に下着の入った籠があり、少しばかり派手というかお色気ムンムンなセクシー下着に朱里が慌てて箪笥を閉める。
まさかとは思うが、記憶をなくす前の自分の持ち物だったらどうしよう?!と内心パニック状態である。

「アカリ」
「ひゃいっ!!」

 思わず噛んでしまい、朱里が顔を赤くしたままルーファスに振り返ると直ぐ近くにルーファスの顔があり、抱きしめられると目を丸くして体を硬直させる。

「全部の翻訳を終わらせてくれていたんだな。頑張ったなアカリ」
「はぁ・・・そうなの?」
「覚えていないだろうが、長い事かけてアカリに任せっきりにしていたからな。これでようやく未来へ繋げていける」
 よくは分らないが記憶をなくす前の自分は何か翻訳できるような事をしていたらしいと朱里は他人事のように思いながら頭を撫でてくるルーファスに少しだけ口元に笑みを浮かべる。

「そうだな。何かご褒美に欲しい物とかあるか?」
「欲しい物・・・?」
「ああ。何かないか?」
「それじゃあ・・・キス・・・が欲しいです」

 かぁぁと顔を赤くして朱里が「やっぱり何でもないです」と手をパタパタと振ると、顔が近付いたと思えば唇を塞がれて、口を少し開くと舌が入り込み唾液が混じり合うようなキスを繰り返されて、口の中に広がった甘さに、これは『番』の特別な味なのか、それとも自分は騙されているのか分からなくなる。

 もし、異世界から来た自分をルーファスが騙してただ自分を後妻にして子供達の継母にしているだけならどうしよう?という思いと、ルーファス以外の唇を知らないけれど、この胸のギュッとする想いは自分の物なのだから騙されていても良いじゃないかという思いが鬩ぎせめ合う。

「ルー、ファス・・・んっん」
 息苦しさに唇を離すとペロッと犬歯を舐めたルーファスと目が合う。
ゴクリと喉が鳴って、自然にベッドに押し倒されて着物の帯をルーファスが解き、その動作が手慣れた物で少し自分の中で何か答えが出た気がした。

 ルーファスに手を広げて抱き合った瞬間、バタン!と、大きな音がしてルーファスが振り返り、朱里が顔を上げるとグリムレインが部屋に入ってきて、ルーファスが怪訝な顔をし朱里が不法侵入してきた見知らぬ男に驚いて悲鳴を小さく上げると、そのままグリムレインが朱里を抱きしめて勢いで朱里がベッドヘッドに頭をゴンッとぶつける。

「嫁!記憶が無いのは本当か?!我の事も忘れたのか?!」
「きゅぅ・・・」
「キュウではない!起きろ嫁ー!!!」
 
 グリムレインの雄叫びが屋敷に響いた。 
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