黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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18章

焼肉

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 『堕とし札』の作業を3人で分担した為に半日で終わり、シュトラールとハガネが朱里の手を繋ぎながら料亭のロビーでルーファスとリュエールが終わるのを待っていると、冬の露店市場へ行っていたキリンとフィリア、そして三つ子も合流する。

「フィリア!おかえり!」
 朱里から手を離してシュトラールがフィリアに抱きつきに行くと、朱里が離された手をじっと見つめると小さな手が朱里の着物の裾を引っ張る。

「あい!」
 エルシオンが手を出すと朱里が「握ってくれるの?」と聞けば「あい!」と答えて、朱里と手を繋ぐ。
えへーっとエルシオンが笑うと朱里も笑顔を零す。
それを見たティルナールも「ティルもー!」と手を出してきてハガネがティルナールに朱里の手を任せて手を離し、ルーシーに「俺と手ぇ繋ぐか?」と聞いて「やだ」と言われて少し眉間にしわを寄せる。

「母上~、お仕事終わりましたわ」
「シュー兄様お仕事は終わったのですか?おサボりしてませんか?」
「お疲れ様。ミルちゃんもナルちゃんも偉いねぇ」
「ミル、ナル、お疲れ様。ナルはオレに対して辛辣過ぎない?!」
 ミルアとナルアも料亭の仕事を終えて合流すると2人は嬉しそうに尻尾を振って朱里の元へやってきて、フィリアに抱きついているシュトラールを見ると胡散臭い物を見る様に片眉を上げる。
最近少しだけ仕事に関しては信用の無い兄のシュトラールだったりする。

「皆集まったようだな」
「お待たせ。僕等も仕事が終わったよ」

 ルーファスとリュエールも合流し、ルーシーが待ってましたと言わんばかりにルーファスに飛びつくと、ルーファスがルーシーを抱き上げてお互いに顔を摺り寄せる。
朱里の手が三つ子の兄二人に取られた分、ルーシーはルーファスを独り占めに走ったが、姉2人はそれを「あっ!ルーシーズルいんですの!」と口をそろえて言うので困った物である。

「アカリ、何も変わったことは無かったか?」
「何も無いよ。ハガネに魔法教えてもらってね、水玉とお湯玉と乾燥魔法出来る様になったよ。あとねー、小鬼ちゃんからクッキー貰った!」
「そうか、良かったな」
 頭を撫でてくすぐったそうに笑う朱里にルーファスが「変わりのない事」に安心もするが変化もあればと思いながら少しだけ複雑な気持ちで笑ってみせる。

「さて、皆揃った事だし、飯を食いに行くか。行きたい場所の希望はあるか?」
「焼肉屋さん一択ですわ!!」
「オレも焼肉!!」
「僕も魔牛の美味しい所が良い」
「なら『ぎゅっと』が良いんじゃない?」

 焼肉屋を連呼するトリニア家の子供達に朱里が焼き肉屋『ぎゅっと』を提案すると子供達の目が朱里に集まる。

「母上思い出したの?!」
「お店の名前今言いましたわよね?」
「母上、わたくしの事分かりますか?!」
「頭大丈夫?痛くない?」

 バッと子供達に詰め寄られ朱里が困惑した顔で助けを求める様にルーファスを見上げると、困り顔でルーファスが子供達を朱里から離す。

「記憶が少し出ただけだ。アカリを焦らせるんじゃない。ほら、『ぎゅっと』に行くぞ」
 ガクッと項垂れて子供達がすごすごと歩き始める。
ルーファスに背中を押されて朱里もティルナールとエルシオンと手を繋ぎながら歩き始める。
たまにポンッと記憶が出る事はあっても、しっかりと成長した朱里の記憶には結びつかないので喜んだあとの反動も大きく子供達の耳が少し下がって尻尾も項垂れている。
何だかんだでリュエール達上の子供もまだ10代で朱里の手を離れたばかりの雛の様な物なのだ。

 焼肉屋『ぎゅっと』に着くと三つ子と一緒に朱里が並んで座り、朱里の目の前にルーファスとハガネが座る。
リュエール達は6人席で座ると元気よく魔牛肉を注文し始める。
ルーファスが注文をして朱里と三つ子はご飯とジュースも付けてもらい「お肉ー」と言いながら上機嫌で肉が焼けるのを待つ。

「オレ肉は少し生の方が好き」
「あっ、シュー兄様そのお肉はわたくしが育ててましたのに!」
「肉を育てるって何それ・・・」
「お肉は育てるものですわ!良い焦げ目まで育てるのです!」
「でも少し生のところ残した方が美味しいよ?キリンさんとフィリアも食べてみて」

 そんな会話を後ろのテーブルでしている子供達に朱里がスクッと立ち上がり、スパンとシュトラールの頭を叩く。

「痛っ!母上なに?!」
「お肉はちゃんと焼かないと赤ちゃんが病気になるの!食べるなら自分だけにしなさい!」
「え?母上・・・?」
「妊婦さんは妊娠初期は気を付けないといけないの!」

 言うだけ言って朱里が席に戻ると「いただきまーす」と、ニコッとして焼肉を網から取るとフーッと息を吐いて冷ますとティルナールの口に入れる。

「ティル美味しい?」
「おいちー」
「じゃあ次はエルねー。ルーシーにはルーファスがあげてね」
「・・・アカリ?」
 自然に自分の名を「さん付け」せずに呼んだ朱里にルーファスが驚くと、朱里が「ん?はい。あーん」とルーファスに焼肉を差し出し、ルーファスが食べると次の焼けた肉に箸を伸ばし、フーッと息を吐いて冷ましてエルシオンの口に入れる。

「エルも美味しい?」
「んっ!」
「なら、私も食べよ」

 新しく肉を網にトングで追加して朱里が「お肉の良い香りがたまらないね」とハガネに同意を求める。

「アカリ、良い匂いなのは否定しねぇけど、後ろと俺の横がすげぇ顔してんだけど」
 ハガネが朱里の後ろの席でリュエールとシュトラールが「母上?!」とワタワタしているのと、自分の横でルーファスが朱里に対してワタワタしているのを見て、糸目をさらに細める。

「アカリ?!」
「はい?どうかしたのルーファス」

 いつもの朱里の柔らかい表情に大人びた微笑みは、先程までの子供の様な笑顔には無かった物で声の落ち着きもいつもの朱里だった。

「母上!ねえ、妊婦がどうとか何?!」
「母上!どっちに言ったの、さっきの言葉!」
「こら!お店で大きな声を出すんじゃありません!まったくリューちゃんもシューちゃんもまだまだ子供なんだから」

 リュエールとシュトラールに「メッ!」と言って朱里が「あっ、お肉裏返さなきゃ」と楽しそうに肉を裏返す。

「「母上?!」」
「アカリ?!」

 店に3人の声が大きく響いた。
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