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18章
幼子
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ホビー医師の診察所に朱里を連れて診察を受けさせ、朱里の後ろでルーファスが心配そうな顔で診察椅子の上で足をプラプラさせている朱里を見つめる。
「お名前は言えますか?」
「うん。三野宮朱里です」
ボビー医師も朱里の言動に少し眉を下げて、朱里の後ろに居るルーファスをチラッと見上げる。
「ミノミヤはアカリの結婚前のファミリーネームだ」
「結婚前・・・アカリさん、今の年齢は幾つですか?言えますか?」
朱里は片方の手を広げ、もう片方の手で指を2本立てる。
その行動にルーファスは軽い眩暈を覚えて眉間に手をあてて小さく息を吐く。
「7歳・・・あれ?8歳・・・?あれれ?よくわかんなくなっちゃった」
首を傾げて「あれー?」と朱里が声を出しながら「わかんない時はお婆ちゃんが鉛筆に糸をぐるぐる巻きなさいって言ってたんだよ」と、よくわからない事をボビー医師に必死に訴えている。
「焦って思い出さなくても大丈夫ですよ。なら家族は何人ですか?」
「4人!お婆ちゃんとお父さんとお母さんと私!でもね、お母さんのお腹に赤ちゃんが居るから5人になるの!」
「そうですか。それは楽しみですね」
「うん。お母さんいつもお仕事で家に居なかったけどね、赤ちゃんが居るからお家に毎日いるの!毎日だよ!」
家に母親が居る事が嬉しいのか朱里がニコニコと手を広げて説明する。
ボビー医師も笑顔で頷きながら「少し待っていてねー」と、言ってルーファスと診察室を出て廊下で話を始める。
「後頭部に大きなコブが出来ていますから、頭を打って記憶が飛んだんでしょうね」
「それしか無いよな・・・治りそうか?」
「そればかりは分りませんが、記憶が子供の頃まで戻っているのは困りましたね」
「言動が幼くて話がポンポン飛ぶと思ってはいたんだが・・・子供達にどう説明すれば良いやら、参ったな」
「あまり女将を混乱させない様に、焦らせずに記憶が戻るのを手伝ってあげてください」
「ああ。こればかりはどうにもならないか・・・」
診察室の扉を開けると朱里が顔を上げて「もうお家帰れる?」と聞いてきて「ああ。帰ろう」そう言って手を伸ばすと嬉しそうに朱里がルーファスの手を握って来る。
ホビー医師に礼を言ってから診療所を出ると、すっかり夜も更けた温泉街はゴミ拾いをする温泉鳥が歩き回るだけになっていた。
「あっ、コロコロ鳥だ」
「コロコロ?あれは温泉鳥だ」
「温泉鳥?何だか頭にタオル乗せてそうだねぇ」
フフッと笑いながら朱里が嬉しそうに温泉鳥を眺めてルーファスと繋いだ手をブンブン振っている。
元々小柄で子供の様な朱里が子供の様な言動をとると子供にしか見えないのは複雑な感じもすると、ルーファスは眉を下げながら、これからどうしたものかと考えあぐねる。
「ルーファスさん?どうしたの?疲れちゃったの?」
「いや、大丈夫だ。今日は遅いから【刻狼亭】の方に泊まるか」
「お家じゃないの?」
「ああ、アカリの家はここからずっとずっと遠い場所だからな。直ぐには帰れない」
「そっか・・・お母さんに会いたいな・・・」
少ししょんぼりとした朱里が口をへの字にして俯きながら、静かにポロポロ涙を零し始める。
もう朱里の家族は居ないのだと言えず、自分達が朱里の家族だと言ってしまいたいが、それは7歳頃の記憶に戻っている朱里にとって混乱をさせるだけだと分かっている。それが歯がゆくて泣いている朱里を抱きしめる事しか出来ずにいた。
【刻狼亭】の元ルーファスの部屋に入ると、くぅーと朱里のお腹が鳴りルーファスもつられてぐぅーと腹の虫を鳴らせると、朱里が「えへへお腹空いたねー」と笑って部屋にある小さな給湯室に入って氷室から、小腹が空いた時用に朱里がたまに入れていっているおにぎりの具材のしぐれ煮とほぐし鮭の瓶を取り出す。
その自然な動きに、ルーファスが少し驚くと朱里が「ご飯もらってこよう?」とルーファスの着物の袖を引っ張る。
具材を持って厨房に行き、朱里と一緒におにぎりを握ると手慣れた様子で朱里の手がおにぎりを握っていく。
「アカリは小さな手なのに器用だな」
「えへへ。お婆ちゃんに教えてもらったんだよ。ルーファスさんは外国人だからおにぎり握るのへたっぴだね」
三角に上手く握れずに丸になったおにぎりを朱里が厨房の氷室から海苔を出して握って形を整え、明日の仕込み用に切った具材を小さな小鍋に入れて味噌汁をササッと作って、朱里がブイサインをする。
「こういう事は記憶がなくても覚えているんだな」
「?お味噌汁嫌い?」
「いや、アカリの作る味噌汁は好きだぞ」
「ふふっ、ご飯食べよ」
「ああ。部屋に持って行って食べるか」
「はーい。お腹ぺこぺこだね」
ルーファスがお盆の上に味噌汁とおにぎりを置いて運び、朱里がルーファスの前を歩きながら扉を開ける。
部屋に着くと机の上に味噌汁とおにぎりを置いてルーファスがお茶を淹れると、ルーファスの握ったおにぎりを朱里が食べて、朱里の握ったおにぎりをルーファスが食べる。
「何だか優しい味がするね」
「番同士だからな味にも多少は影響するんだろうな。アカリのは相変わらずいい味だ」
「ふぅーん?」
少しだけ首を傾げる朱里の口元に付いた米粒をルーファスが舐めとると、朱里が目をパチパチさせながらルーファスを見上げる。
やってからルーファスが「しまった」と、思ったがいつもの癖で自然に体が動いていた。
朱里がルーファスの手を取ると指に付いた米粒を口に含んで取ってニコッと笑う。
「お返しだよ。ふふっ」
「・・・アカリが可愛すぎて、オレが辛い・・・っ」
これが朱里の7歳児の破壊力かと謎の言葉を呟きながらルーファスが身悶えするのは直ぐの事だった。
「お名前は言えますか?」
「うん。三野宮朱里です」
ボビー医師も朱里の言動に少し眉を下げて、朱里の後ろに居るルーファスをチラッと見上げる。
「ミノミヤはアカリの結婚前のファミリーネームだ」
「結婚前・・・アカリさん、今の年齢は幾つですか?言えますか?」
朱里は片方の手を広げ、もう片方の手で指を2本立てる。
その行動にルーファスは軽い眩暈を覚えて眉間に手をあてて小さく息を吐く。
「7歳・・・あれ?8歳・・・?あれれ?よくわかんなくなっちゃった」
首を傾げて「あれー?」と朱里が声を出しながら「わかんない時はお婆ちゃんが鉛筆に糸をぐるぐる巻きなさいって言ってたんだよ」と、よくわからない事をボビー医師に必死に訴えている。
「焦って思い出さなくても大丈夫ですよ。なら家族は何人ですか?」
「4人!お婆ちゃんとお父さんとお母さんと私!でもね、お母さんのお腹に赤ちゃんが居るから5人になるの!」
「そうですか。それは楽しみですね」
「うん。お母さんいつもお仕事で家に居なかったけどね、赤ちゃんが居るからお家に毎日いるの!毎日だよ!」
家に母親が居る事が嬉しいのか朱里がニコニコと手を広げて説明する。
ボビー医師も笑顔で頷きながら「少し待っていてねー」と、言ってルーファスと診察室を出て廊下で話を始める。
「後頭部に大きなコブが出来ていますから、頭を打って記憶が飛んだんでしょうね」
「それしか無いよな・・・治りそうか?」
「そればかりは分りませんが、記憶が子供の頃まで戻っているのは困りましたね」
「言動が幼くて話がポンポン飛ぶと思ってはいたんだが・・・子供達にどう説明すれば良いやら、参ったな」
「あまり女将を混乱させない様に、焦らせずに記憶が戻るのを手伝ってあげてください」
「ああ。こればかりはどうにもならないか・・・」
診察室の扉を開けると朱里が顔を上げて「もうお家帰れる?」と聞いてきて「ああ。帰ろう」そう言って手を伸ばすと嬉しそうに朱里がルーファスの手を握って来る。
ホビー医師に礼を言ってから診療所を出ると、すっかり夜も更けた温泉街はゴミ拾いをする温泉鳥が歩き回るだけになっていた。
「あっ、コロコロ鳥だ」
「コロコロ?あれは温泉鳥だ」
「温泉鳥?何だか頭にタオル乗せてそうだねぇ」
フフッと笑いながら朱里が嬉しそうに温泉鳥を眺めてルーファスと繋いだ手をブンブン振っている。
元々小柄で子供の様な朱里が子供の様な言動をとると子供にしか見えないのは複雑な感じもすると、ルーファスは眉を下げながら、これからどうしたものかと考えあぐねる。
「ルーファスさん?どうしたの?疲れちゃったの?」
「いや、大丈夫だ。今日は遅いから【刻狼亭】の方に泊まるか」
「お家じゃないの?」
「ああ、アカリの家はここからずっとずっと遠い場所だからな。直ぐには帰れない」
「そっか・・・お母さんに会いたいな・・・」
少ししょんぼりとした朱里が口をへの字にして俯きながら、静かにポロポロ涙を零し始める。
もう朱里の家族は居ないのだと言えず、自分達が朱里の家族だと言ってしまいたいが、それは7歳頃の記憶に戻っている朱里にとって混乱をさせるだけだと分かっている。それが歯がゆくて泣いている朱里を抱きしめる事しか出来ずにいた。
【刻狼亭】の元ルーファスの部屋に入ると、くぅーと朱里のお腹が鳴りルーファスもつられてぐぅーと腹の虫を鳴らせると、朱里が「えへへお腹空いたねー」と笑って部屋にある小さな給湯室に入って氷室から、小腹が空いた時用に朱里がたまに入れていっているおにぎりの具材のしぐれ煮とほぐし鮭の瓶を取り出す。
その自然な動きに、ルーファスが少し驚くと朱里が「ご飯もらってこよう?」とルーファスの着物の袖を引っ張る。
具材を持って厨房に行き、朱里と一緒におにぎりを握ると手慣れた様子で朱里の手がおにぎりを握っていく。
「アカリは小さな手なのに器用だな」
「えへへ。お婆ちゃんに教えてもらったんだよ。ルーファスさんは外国人だからおにぎり握るのへたっぴだね」
三角に上手く握れずに丸になったおにぎりを朱里が厨房の氷室から海苔を出して握って形を整え、明日の仕込み用に切った具材を小さな小鍋に入れて味噌汁をササッと作って、朱里がブイサインをする。
「こういう事は記憶がなくても覚えているんだな」
「?お味噌汁嫌い?」
「いや、アカリの作る味噌汁は好きだぞ」
「ふふっ、ご飯食べよ」
「ああ。部屋に持って行って食べるか」
「はーい。お腹ぺこぺこだね」
ルーファスがお盆の上に味噌汁とおにぎりを置いて運び、朱里がルーファスの前を歩きながら扉を開ける。
部屋に着くと机の上に味噌汁とおにぎりを置いてルーファスがお茶を淹れると、ルーファスの握ったおにぎりを朱里が食べて、朱里の握ったおにぎりをルーファスが食べる。
「何だか優しい味がするね」
「番同士だからな味にも多少は影響するんだろうな。アカリのは相変わらずいい味だ」
「ふぅーん?」
少しだけ首を傾げる朱里の口元に付いた米粒をルーファスが舐めとると、朱里が目をパチパチさせながらルーファスを見上げる。
やってからルーファスが「しまった」と、思ったがいつもの癖で自然に体が動いていた。
朱里がルーファスの手を取ると指に付いた米粒を口に含んで取ってニコッと笑う。
「お返しだよ。ふふっ」
「・・・アカリが可愛すぎて、オレが辛い・・・っ」
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