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18章
鳥と狼
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ルーファスが必死で探す中、朱里は小さな毛玉を追い駆けていた。
丸いコロコロした温泉鳥達が列をなして歩いているのを見掛け、朱里がそれについて歩いて間欠泉の森へ入っていく。
間欠泉の熱で地熱があり、温かさに朱里はホッとしながら木に下がっている紐を引っ張る。
「温泉卵出来てるかなー・・・んっ?何でこの紐で温泉卵があるって思ったんだっけ?あれ?温泉卵ってこういうものだったっけ?」
紐を引き上げて白い卵を3個程取り出し、くぅーとお腹が鳴るのを聞きながら少し冷ましてから殻を割り温泉卵を食べ始める。
「お塩とスプーン欲しい・・・」
木の枝を折って卵の中をかき混ぜながら口に入れて一息つくと、自分の周りに集まる鳥たちにヘラッと笑う。
「ブサ可愛い・・・ふふっ、鳥にこんなに懐かれたの初めてかも」
「アゴー」
「鳴き声もブサ可愛い」
「アゴゴ」
地面から上がる熱は温かいが、風はやはり冷たく風除けを求めて木の空洞になっている場所を見つけると体の小さな朱里に丁度良く、スポッと入り込むと温泉鳥達も朱里から暖を取ろうと集まって来る。
「温かい・・・ふぅ・・・何だか疲れちゃった・・・」
明るくなったらお家に帰る道を探さなきゃと思いながら、朱里が目を閉じると温泉鳥達の熱でそのまま寝入り、気温がグッと下がってから温泉鳥の熱でも我慢できなくなり朱里は目を覚ます。
「へっ、くっちゅん!」
朱里がくしゃみをすると温泉鳥達がコロコロと転がり、木の空洞から温泉鳥達はワラワラと逃げ出して行く。
すんっと鼻をすすって顔を上げるとガサガサと音が近付き、ビクッと朱里の体が揺れる。
木の空洞に身をかがめながらソッと覗くと、月明かりの中を大きな黒い狼が真っ直ぐ朱里の隠れている木の空洞まで近づいてきていた。
朱里が目を逸らす事も出来ずに見つめていると狼は朱里の所までやってきて「アカリ」と声を出す。
自分の名前が狼の口から出た事にも驚くが、狼の大きさに齧られたら絶対に死んでしまうと怖くて身を縮めてカタカタと震えている。
「アカリ、こんな場所にいるとは思わなかったぞ。温泉鳥の匂いと間欠泉の匂いで探すのが時間がかかって悪い。冷えただろ?」
安堵したような声と優しい声色に朱里の胸がドキリと動くが、それでも狼は怖い。
朱里の態度にルーファスもおかしいと気付き、朱里の顔に顔を近付けると「ヒィッ!」と小さく悲鳴が上がるのを聞く。
「やだ・・・、お、お母さん!お母さんっ!助けて、お母さん!」
「アカリ?どうしたんだアカリ?!」
母親に助けを求めて泣き出した朱里にルーファスが1歩下がる。
「アカリ、オレが判らないのか?」
「ひっく、うぇえ・・・ん。お母さんどこぉ、怖いよお母さん・・・ふぇっ」
ぐしぐしと泣いて幼子の様な朱里にルーファスが獣化を解いて、木の空洞から朱里を抱き上げて出すと、朱里が暴れて悲鳴を上げる。
「きゃああああ!!!ヤダぁあぁ!!放して!!誰か助けてー!!!」
暴れる朱里を宥めようと頭に手を伸ばすと、ガブッと朱里に噛みつかれてルーファスは困惑した表情のまま固まると、朱里と目が合う。
「アカリ、診療所で診てもらおうな。大丈夫だから怖がらなくていい」
エルシオンの言っていた「ゴッチンした」は、朱里が頭を打った事だったのかもしれないと、この状況からルーファスが判断してそう言うと、朱里から出た言葉にルーファスはますます混乱する事になる。
「おじさん、誰・・・?」
おじさん呼ばわりにルーファスが傷つきながら、確かに40は超えたが肉体的にはまだ30代でこれでも老けてはいない方だと思っていたのに、可愛い番からおじさんと呼ばれる日が来るとは思っていなかった。
朱里の目からは自分はおじさんにしか見えないのかとショックで少しルーファスも眉間にしわを寄せてしまう。
「おじさんは私の名前どうして知ってるの?」
「・・・アカリ、おじさん呼びはやめてくれ。ルーファスだ」
「るーふぁす?外国の人?・・・ああ、外人さんはコスプレ好きだもんね」
「こすぷれ?」
朱里がルーファスの頭の上を見て手を伸ばして耳を触るとフニフニと弄り回す。
耳をパタパタと動かすと朱里が「わぁ・・・」と声を上げる。
「お耳温かいね。どうなってるのコレ?すごいね。コスプレの最先端技術?」
「いや・・・普通にオレの耳だが・・・」
「目も金色で凄いね。コンタクトレンズ?」
「こんたくとれんず?」
朱里からポンポンと出て来る言葉に混乱はするが、先程の様に悲鳴を上げられる事はもうないのかと耳を下げつつも歩き始める。
「ルーファスさんは警察の人?探しに来てくれたの?噛んじゃってごめんね。痛い?」
「けいさつが何かは分らんが、探したし心配したぞ。アカリに噛まれたぐらいではどうということは無いから心配は要らない」
朱里が首をかしげて「警察じゃないの?誘拐犯?」と少し唇を尖らせて眉間にしわを寄せる。
「誘拐犯では無い。まったく、早く医者に診てもらわんとオレが傷つく・・・」
「お医者さん行ったらお家帰れる?」
「ああ、皆心配している。早く帰らないとな」
「うん!お家帰るー!!」
パァッと朱里の顔が笑顔になりニコニコと「お家に帰るー!」と弾んだ声を出して、ルーファスに抱き上げられたまま足をパタパタと動かしていた。
丸いコロコロした温泉鳥達が列をなして歩いているのを見掛け、朱里がそれについて歩いて間欠泉の森へ入っていく。
間欠泉の熱で地熱があり、温かさに朱里はホッとしながら木に下がっている紐を引っ張る。
「温泉卵出来てるかなー・・・んっ?何でこの紐で温泉卵があるって思ったんだっけ?あれ?温泉卵ってこういうものだったっけ?」
紐を引き上げて白い卵を3個程取り出し、くぅーとお腹が鳴るのを聞きながら少し冷ましてから殻を割り温泉卵を食べ始める。
「お塩とスプーン欲しい・・・」
木の枝を折って卵の中をかき混ぜながら口に入れて一息つくと、自分の周りに集まる鳥たちにヘラッと笑う。
「ブサ可愛い・・・ふふっ、鳥にこんなに懐かれたの初めてかも」
「アゴー」
「鳴き声もブサ可愛い」
「アゴゴ」
地面から上がる熱は温かいが、風はやはり冷たく風除けを求めて木の空洞になっている場所を見つけると体の小さな朱里に丁度良く、スポッと入り込むと温泉鳥達も朱里から暖を取ろうと集まって来る。
「温かい・・・ふぅ・・・何だか疲れちゃった・・・」
明るくなったらお家に帰る道を探さなきゃと思いながら、朱里が目を閉じると温泉鳥達の熱でそのまま寝入り、気温がグッと下がってから温泉鳥の熱でも我慢できなくなり朱里は目を覚ます。
「へっ、くっちゅん!」
朱里がくしゃみをすると温泉鳥達がコロコロと転がり、木の空洞から温泉鳥達はワラワラと逃げ出して行く。
すんっと鼻をすすって顔を上げるとガサガサと音が近付き、ビクッと朱里の体が揺れる。
木の空洞に身をかがめながらソッと覗くと、月明かりの中を大きな黒い狼が真っ直ぐ朱里の隠れている木の空洞まで近づいてきていた。
朱里が目を逸らす事も出来ずに見つめていると狼は朱里の所までやってきて「アカリ」と声を出す。
自分の名前が狼の口から出た事にも驚くが、狼の大きさに齧られたら絶対に死んでしまうと怖くて身を縮めてカタカタと震えている。
「アカリ、こんな場所にいるとは思わなかったぞ。温泉鳥の匂いと間欠泉の匂いで探すのが時間がかかって悪い。冷えただろ?」
安堵したような声と優しい声色に朱里の胸がドキリと動くが、それでも狼は怖い。
朱里の態度にルーファスもおかしいと気付き、朱里の顔に顔を近付けると「ヒィッ!」と小さく悲鳴が上がるのを聞く。
「やだ・・・、お、お母さん!お母さんっ!助けて、お母さん!」
「アカリ?どうしたんだアカリ?!」
母親に助けを求めて泣き出した朱里にルーファスが1歩下がる。
「アカリ、オレが判らないのか?」
「ひっく、うぇえ・・・ん。お母さんどこぉ、怖いよお母さん・・・ふぇっ」
ぐしぐしと泣いて幼子の様な朱里にルーファスが獣化を解いて、木の空洞から朱里を抱き上げて出すと、朱里が暴れて悲鳴を上げる。
「きゃああああ!!!ヤダぁあぁ!!放して!!誰か助けてー!!!」
暴れる朱里を宥めようと頭に手を伸ばすと、ガブッと朱里に噛みつかれてルーファスは困惑した表情のまま固まると、朱里と目が合う。
「アカリ、診療所で診てもらおうな。大丈夫だから怖がらなくていい」
エルシオンの言っていた「ゴッチンした」は、朱里が頭を打った事だったのかもしれないと、この状況からルーファスが判断してそう言うと、朱里から出た言葉にルーファスはますます混乱する事になる。
「おじさん、誰・・・?」
おじさん呼ばわりにルーファスが傷つきながら、確かに40は超えたが肉体的にはまだ30代でこれでも老けてはいない方だと思っていたのに、可愛い番からおじさんと呼ばれる日が来るとは思っていなかった。
朱里の目からは自分はおじさんにしか見えないのかとショックで少しルーファスも眉間にしわを寄せてしまう。
「おじさんは私の名前どうして知ってるの?」
「・・・アカリ、おじさん呼びはやめてくれ。ルーファスだ」
「るーふぁす?外国の人?・・・ああ、外人さんはコスプレ好きだもんね」
「こすぷれ?」
朱里がルーファスの頭の上を見て手を伸ばして耳を触るとフニフニと弄り回す。
耳をパタパタと動かすと朱里が「わぁ・・・」と声を上げる。
「お耳温かいね。どうなってるのコレ?すごいね。コスプレの最先端技術?」
「いや・・・普通にオレの耳だが・・・」
「目も金色で凄いね。コンタクトレンズ?」
「こんたくとれんず?」
朱里からポンポンと出て来る言葉に混乱はするが、先程の様に悲鳴を上げられる事はもうないのかと耳を下げつつも歩き始める。
「ルーファスさんは警察の人?探しに来てくれたの?噛んじゃってごめんね。痛い?」
「けいさつが何かは分らんが、探したし心配したぞ。アカリに噛まれたぐらいではどうということは無いから心配は要らない」
朱里が首をかしげて「警察じゃないの?誘拐犯?」と少し唇を尖らせて眉間にしわを寄せる。
「誘拐犯では無い。まったく、早く医者に診てもらわんとオレが傷つく・・・」
「お医者さん行ったらお家帰れる?」
「ああ、皆心配している。早く帰らないとな」
「うん!お家帰るー!!」
パァッと朱里の顔が笑顔になりニコニコと「お家に帰るー!」と弾んだ声を出して、ルーファスに抱き上げられたまま足をパタパタと動かしていた。
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