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18章
行方知れず
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冬眠期間と蜜籠り期間そして年末の忙しさは毎年の事ながら、人手不足は否めない。
今年はリュエールが蜜籠りで戦線離脱してしまった為に戦力がガクッと落ちたが、元々はルーファスが回していたので少し前の状態に戻ったともいえる。
「父上~、こちらはどうすれば?」
「父上、次はどうしましょう?」
その代わりと言っては何だが、ミルアとナルアが手伝いに走り回ってくれているおかげで少しは助かってはいるが、忙しさには変わりない。
「そろそろ陽が落ちる頃だ危ないから屋敷に帰る準備をしておけ」
「大丈夫ですわよ」
「父上と帰りますわ。安全ですし」
「ふむ。なら仕方がないな。オレも今日は早めに切り上げるか」
「ふふっ、父上ならば急いで帰りましょう!」
「今日のお夕飯が気になりますわね!」
2人がルーファスの左右に分れて腕をとるとニコッと笑って問答無用で「帰るのですー!」と引きずっていく。
仕方がないとばかりに従業員達に「今日はこの辺で先に上がる」と言って【刻狼亭】を出て空を見上げれば、既に日は落ちて夜空には星が綺麗に見えていた。
「寒いのですわ」
「今日のお夕飯温かい物が良いのですわ」
「そうだな。きっとアカリが美味い物を作って待ってくれているだろうさ」
ギュウギュウとルーファスにくっついて2人が熱の奪い合いをしながら屋敷へと帰っていく。
屋敷の門に手を掛けるとヌルヌルとしていて匂いを嗅げばオリーブオイルの匂いと微かに朱里の匂いがしていた。
何かあったのだろうか?そう思いながら庭園を歩いて行くと、屋敷の灯りが灯っておらず屋敷の扉にもオリーブオイルが着いていた。
屋敷の中も暗く灯りを付けると廊下の絨毯にもオリーブオイルが染み込んでいた。
辿っていくとそれはキッチンの床に零れたオリーブオイルの瓶が原因だというのは解ったが、キッチンには食事が用意された形跡がない。
冷え切った屋敷の中を朱里を探して見回っていくと、ダイニングルームのソファの上でティルナール達がブルブルと震えながら獣化して3人で丸まっていた。
「ティル、エル、ルーシー、大丈夫か?」
「キュー・・・」
ブルブル震える3人はやはりオリーブオイルに塗れていて、清浄魔法を掛けてからお湯玉で温め、乾燥魔法で温めてようやく震えが止まった。
「父上、母上が居ませんの!」
「お部屋の何処にも居ないのです!」
ミルアとナルアが少し焦った声を出してルーファスに縋るような目をして「どうしましょう?」と口にする。
「腕輪で連絡してみよう」
ハッと2人が腕輪の存在に気付き、「早く早く!」とルーファスを急かす。
ルーファスが腕輪に魔力を通して朱里を思い浮かべると一瞬、腕輪に反応があったが、すぐさま反応を見せなくなり、腕輪が通じなくなる。
「腕輪が通じない・・・」
「え?壊れちゃったのです?」
「父上のが?母上のが?」
ルーファスがグリムレインの腕輪に連絡を入れるとグリムレインは冬を降り巻きに他の大陸へ行っているらしく、朱里の事は分らないという。
「お前達、母上は何所に行ったかわかるか?」
「ははえー、あっちー」
「ははえーゴッチンしたー」
「ははえーいないー・・・」
ティルナールがキッチンを指さし、エルシオンがゴッチンと説明して居る事とキッチンのオリーブオイルから朱里が滑ったのだろうか?と思い、ルーシーの居ないという言葉で、大きな怪我でもして診察所に行ったのか?と、考えが行きつく。
「ミルア、ナルア。ティル達を頼む。アカリを探してくる!」
「はいですの」
「何かあれば連絡してくださいませ」
屋敷を飛び出すと獣化して温泉街へ向かい、診療所のドアを叩く。
すでに診療所は閉まっていたが、ボビー医師がのんびりと出てきて「アカリは?!」というルーファスの問いに首をかしげる。
「女将は来てないよ」
「そうなのか?今日アカリを見ていないか?」
「見てないねぇ。テルトワイトくんは今日は花魁道中の練習で休みだしねぇ」
「そうか・・・すまない。もし見掛けたら早めに家に帰る様に伝えてくれ」
「女将居ないのかい?」
「ああ。何処へ行ったのかがわからない」
「もし見掛けたら連絡するよ」
「頼む」
診療所を出て鼻を動かしながら朱里の匂いを辿り、オリーブオイルの匂いが点々としている所と朱里の匂いが同じ様にあることから、朱里はオリーブオイル塗れで外に出たのか?と疑問が湧く。
途中でオリーブオイルの匂いが消え、花魁道中の公開練習で人が多くなり匂いがよくわからなくなって人型に戻ると、テルトワイトが「旦那様こんばんは」と声を掛けて来た。
「ああ、夜遅くまでご苦労だな」
「まぁこの時期は好きでやってますから、気にしないで下さい。それよりどうしたんです?」
「アカリが居ないんだ。見掛けたりしなかったか?」
「見ましたよ。花魁道中を見に来ていたので話し掛けたんですが・・・そういえば様子がおかしかったですね」
「本当か?!どんな感じだったんだ?!」
「それが説明し辛いですが、迷子みたいな感じに似てましたね」
「よくわからんな・・・何所に行ったかわかるか?」
「港の方へ歩いて行きましたよ」
「わかった。じゃあな」
人混みを掻き分けながら港の方へ歩いて行くと微かに朱里の匂いがしている事に気付き木箱の下に朱里の腕輪を見付ける。それはまるで隠す様に置いてある事から落ちたとは考えにくかった。
「アカリ・・・どこへ行ったんだ?」
今年はリュエールが蜜籠りで戦線離脱してしまった為に戦力がガクッと落ちたが、元々はルーファスが回していたので少し前の状態に戻ったともいえる。
「父上~、こちらはどうすれば?」
「父上、次はどうしましょう?」
その代わりと言っては何だが、ミルアとナルアが手伝いに走り回ってくれているおかげで少しは助かってはいるが、忙しさには変わりない。
「そろそろ陽が落ちる頃だ危ないから屋敷に帰る準備をしておけ」
「大丈夫ですわよ」
「父上と帰りますわ。安全ですし」
「ふむ。なら仕方がないな。オレも今日は早めに切り上げるか」
「ふふっ、父上ならば急いで帰りましょう!」
「今日のお夕飯が気になりますわね!」
2人がルーファスの左右に分れて腕をとるとニコッと笑って問答無用で「帰るのですー!」と引きずっていく。
仕方がないとばかりに従業員達に「今日はこの辺で先に上がる」と言って【刻狼亭】を出て空を見上げれば、既に日は落ちて夜空には星が綺麗に見えていた。
「寒いのですわ」
「今日のお夕飯温かい物が良いのですわ」
「そうだな。きっとアカリが美味い物を作って待ってくれているだろうさ」
ギュウギュウとルーファスにくっついて2人が熱の奪い合いをしながら屋敷へと帰っていく。
屋敷の門に手を掛けるとヌルヌルとしていて匂いを嗅げばオリーブオイルの匂いと微かに朱里の匂いがしていた。
何かあったのだろうか?そう思いながら庭園を歩いて行くと、屋敷の灯りが灯っておらず屋敷の扉にもオリーブオイルが着いていた。
屋敷の中も暗く灯りを付けると廊下の絨毯にもオリーブオイルが染み込んでいた。
辿っていくとそれはキッチンの床に零れたオリーブオイルの瓶が原因だというのは解ったが、キッチンには食事が用意された形跡がない。
冷え切った屋敷の中を朱里を探して見回っていくと、ダイニングルームのソファの上でティルナール達がブルブルと震えながら獣化して3人で丸まっていた。
「ティル、エル、ルーシー、大丈夫か?」
「キュー・・・」
ブルブル震える3人はやはりオリーブオイルに塗れていて、清浄魔法を掛けてからお湯玉で温め、乾燥魔法で温めてようやく震えが止まった。
「父上、母上が居ませんの!」
「お部屋の何処にも居ないのです!」
ミルアとナルアが少し焦った声を出してルーファスに縋るような目をして「どうしましょう?」と口にする。
「腕輪で連絡してみよう」
ハッと2人が腕輪の存在に気付き、「早く早く!」とルーファスを急かす。
ルーファスが腕輪に魔力を通して朱里を思い浮かべると一瞬、腕輪に反応があったが、すぐさま反応を見せなくなり、腕輪が通じなくなる。
「腕輪が通じない・・・」
「え?壊れちゃったのです?」
「父上のが?母上のが?」
ルーファスがグリムレインの腕輪に連絡を入れるとグリムレインは冬を降り巻きに他の大陸へ行っているらしく、朱里の事は分らないという。
「お前達、母上は何所に行ったかわかるか?」
「ははえー、あっちー」
「ははえーゴッチンしたー」
「ははえーいないー・・・」
ティルナールがキッチンを指さし、エルシオンがゴッチンと説明して居る事とキッチンのオリーブオイルから朱里が滑ったのだろうか?と思い、ルーシーの居ないという言葉で、大きな怪我でもして診察所に行ったのか?と、考えが行きつく。
「ミルア、ナルア。ティル達を頼む。アカリを探してくる!」
「はいですの」
「何かあれば連絡してくださいませ」
屋敷を飛び出すと獣化して温泉街へ向かい、診療所のドアを叩く。
すでに診療所は閉まっていたが、ボビー医師がのんびりと出てきて「アカリは?!」というルーファスの問いに首をかしげる。
「女将は来てないよ」
「そうなのか?今日アカリを見ていないか?」
「見てないねぇ。テルトワイトくんは今日は花魁道中の練習で休みだしねぇ」
「そうか・・・すまない。もし見掛けたら早めに家に帰る様に伝えてくれ」
「女将居ないのかい?」
「ああ。何処へ行ったのかがわからない」
「もし見掛けたら連絡するよ」
「頼む」
診療所を出て鼻を動かしながら朱里の匂いを辿り、オリーブオイルの匂いが点々としている所と朱里の匂いが同じ様にあることから、朱里はオリーブオイル塗れで外に出たのか?と疑問が湧く。
途中でオリーブオイルの匂いが消え、花魁道中の公開練習で人が多くなり匂いがよくわからなくなって人型に戻ると、テルトワイトが「旦那様こんばんは」と声を掛けて来た。
「ああ、夜遅くまでご苦労だな」
「まぁこの時期は好きでやってますから、気にしないで下さい。それよりどうしたんです?」
「アカリが居ないんだ。見掛けたりしなかったか?」
「見ましたよ。花魁道中を見に来ていたので話し掛けたんですが・・・そういえば様子がおかしかったですね」
「本当か?!どんな感じだったんだ?!」
「それが説明し辛いですが、迷子みたいな感じに似てましたね」
「よくわからんな・・・何所に行ったかわかるか?」
「港の方へ歩いて行きましたよ」
「わかった。じゃあな」
人混みを掻き分けながら港の方へ歩いて行くと微かに朱里の匂いがしている事に気付き木箱の下に朱里の腕輪を見付ける。それはまるで隠す様に置いてある事から落ちたとは考えにくかった。
「アカリ・・・どこへ行ったんだ?」
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