黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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18章

迷子の朱里

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 街の明かりのある方へ必死に走って辿り着き、自分が居る場所がますます判らなくなる。
街灯ではあるけれど、電柱も無い、提灯の様な物が空に浮かび上がっていて糸や紐も見えない。
そして道路は補整されておらず、でも道路の側溝にはお湯が流れていて、行き交う人は着物を着ているけれど、どことなく着物に似ているという感じで見慣れた着物ではない気がする。

 それに人々の髪の色や目の色がコスプレのお祭りか何かかと思うような色ばかりで、映画のファンタジー物の鎧みたいな物を着ている人や、肌に岩や鱗がついている人、動物の耳が生えている人も居る。

「映画の撮影所・・・?」

 建物は古い日本の家屋にも似ているが、やはりどこか違っている。
人に声を掛けようにも、どう説明すれば良いのかわからない。

「あ、あの!すいません!」
「はい?」
 勇気を振り絞って冒険者風のコスプレ女性に話し掛けてみる。

「警察はありませんか?それか携帯電話を貸していただけませんか?」

 女性が怪訝な顔をして仲間のコスプレの人に目線を合わせて肩をすくめる。

「悪いけど『ケイサツ』が何かわからないわ。『ケイタイデンワ』もわからないし」
「・・・そう、ですか。すいません」
「ごめんなさいね。力になれなくて」

 厄介ごとは御免だという様に朱里から女性たちが離れて行く。
どうしよう・・・警察って警察だよね?あれ・・・そもそも警察って何処にあったっけ・・・?

 頭の中の記憶が写真の様にカシャカシャと回り、すごく嫌な物が頭を過る。
警察・・・パトカー・・・赤い血・・・ゾワッとして、頭を横に振る。
ハァハァと息が荒くなり、これ以上は思い出しちゃいけないと警察の事は頭の片隅に追いやる。 

 こんなに人がいっぱい居るのに、誰を頼れば良いのか分からない。

「お・・・、お母さん・・・っ、ぐすっ、おかぁ・・・さん」

 鼻の奥がツーンとして涙をボロボロ零しながら、母親を求めて泣きながら歩く。
朱里にもよくわからないが、母親を思い出すたびに涙が次々溢れていく。
家に帰りたい。早くお母さんに会いたい。そればかりが頭を過り、母親が朱里を呼ぶ声を思い出すたびに声を上げて泣くことを我慢できずにいた。

 ドンッと人にぶつかり、地面に尻もちをつくと上から怒鳴られる。

「よそ見してんじゃねえよ!このガキ!」
「ヒッ!ご、ごめなさ・・・っ、ふぇっ・・・」

 ぼろぼろ泣き出した朱里にぶつかった冒険者の男もたじろぐ、黒髪で黒目の温泉街に居る人物は2人しかおらず、そのうちの一人は背が低く小さい、そして子供の様な外見でありながら胸が大きければ【刻狼亭】の女将だと。
目の前に該当する人物が泣いている為に冒険者の男も青ざめていく。

「オレも悪かった!謝るから、許してくれ!!」
「うっ、ヒック、ぐすっ・・・ぐすっ」
「ああ、よく見たらアンタ、何かベタベタじゃねぇか!【清浄クリーン】【乾燥ドライ】これで勘弁してくれ!」
 男は一目散に逃げていくのを涙で滲む目で見つめながら、ぐしぐしと服の裾で目をこすり、朱里はまた街を彷徨う。

 美味しそうな匂いが鼻をくすぐり、くぅーっと小さくお腹が鳴る。
お母さんが今頃心配してる・・・お婆ちゃんがご飯を作って待ってくれているかもしれない。
早く帰らなきゃ・・・でも、ここが何所だか判らない。

 すでに陽が落ちて辺りは暗くなっている。明るい方へ明るい方へと街灯を頼りに足を進めていくと、シャァンと鈴の鳴る綺麗な音と人の声が賑わう。

「『花魁道中』だ!今日は公開練習だってよ!」
「おっ、それは見に行かなきゃだな!」
 人々がそう言って明るく人が集まる方向へ向かっていく。

 花魁道中・・・?
江戸時代か何かにまさかのタイムスリップ・・・な訳はないよね。
やっぱり撮影所なのかな?そう思いながら朱里が人混みの多い花魁道中の人混みに紛れる。

 ガラス細工で出来た様な滑らかな質感の肌と吸い寄せられるような綺麗な人達が綺麗な金髪の男の人にしなだれかかりながら歩いている。
その男の人には丸い白い耳が生えていて、ああ、これもコスプレのお祭りの一種なのかと思い至る。
 不意にその男の人と目が合い、ニッコリ微笑まれると「おや?女将さんじゃないですか。どうしたんですかこんな場所で?」と言われたけれど、誰に呼びかけているのだろう?と辺りを見回し、場違いな自分に気付いて人混みに紛れていく。

 綺麗なのにコスプレの人なんだなぁと思いつつも、綺麗だからコスプレしているのかな?と、首を左右に傾げながら、また歩いていたら、波の音が聞こえて来た。

 潮の香りに海が近い事を知る。
自分の住んでいた所に海はあるにはあったが、相当離れていたのでやはり自分の居る場所は分らない。

「歩き疲れちゃった・・・お腹空いたな・・・お家帰りたい、っ、ぐすっ、お母さんお父さん帰りたいよぉ・・・」
 港近くの木箱の上に腰を下ろして足を休めながら、やはり頭にあるのは家族の事で家族が恋しくてたまらなくなる。
毎日一緒に居たはずなのに、どうしてこんなに会っていない気がするのかがわからない。
こんなに夜遅くに歩き回ってたら怒られちゃうのに、どうして自分は帰れないんだろう?こんなに帰りたいのに。
止めどなく溢れる涙の温かさは直ぐに風で冷たくなり、小さく歯が震えてくる。

 ブルブルと震えていると、腕がぶるぶる震えている事に気付く。
自分の腕に見知らぬ腕輪が着いていて、何だかとても綺麗だったけれど、振動するのが気持ち悪くて腕から外して木箱の上に置く。
木箱に置いて、ようやく振動が止まり、ホッと息をつく。

「何だろう?玩具かな?」

 でも、こんなのは知らない。
木箱の下にそっと隠す様に置いて、朱里は風の当たらない場所を探してまた歩き始める。 
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