黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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17章

氷竜と恋の祭り2

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 恋祭りの『ラビーナフェースト』で盛り上がる中央広場では無料で果実水が配られ、花の匂いがする事から花も入っているのだろうと匂いを楽しみながら飲んでいると、隣りで同じ様に果実水を飲んでいたルーファスが口を手でバッ押さえた。

「アカリ、飲むな!」
「え?」
 パシャンとコップが床に転がり、驚いてルーファスを見上げると顔を真っ赤にしたルーファスと目が合う。
何かヤバい物でも入っていたのだろうか?首を傾げて転げたコップを拾い上げると腰をヒョイと抱き上げられて少し暗がりの路地裏へ連れて行かれる。

「どうしたの?大丈夫ルーファス?」
 ガブッと首元を噛まれて「ピャッ!!」と変な声を出すと首を噛まれながら舌で舐められて吸いつかれる。
何だろうこの状態は?
吸血鬼にでもなる果実水とか?流石異世界・・・いやいや、流石にそんな事になってたら恋祭りじゃなくて血祭りではないだろうか?

「っ、ルーファス、痛いよ・・・くぅ」
 ジュッと音を立てて吸いつかれて痛さに顔を歪めながらテシテシとルーファスの腕を叩くとようやく喉から口が離れて丁寧に舌でサリサリ舐められる。

「今度はくすぐったいですよ・・・どうしたの?」
「さっきの、果実水だ・・・ん」
「果実水に何か危ないものでも入ってたの?」
「『兎尾うさぎお』の花が入っていた」
 ウサギノオなら聞いた事はあるけど、あれは猫じゃらしみたいなふわふわした稲みたいな草だったし、花は聞いた事ないなぁ・・・この世界の花なのかな?

「フェロモンを強く引き出す花で匂いを嗅いだだけじゃ兎尾とは思わなかったが、口に含んで気付いた。この恋祭りで番を見つけやすくするように兎尾の花が入れられているみたいだ・・・」
「でも私とルーファスは番なんだから大丈夫でしょ?」
「番の匂いが近くでし過ぎて興奮状態になるのと、この甘い香りに誘われてくる奴が居るんじゃないかと不安になる」
 また首をジュウジュウ吸われて、これは首筋にキスマークが付いたなぁと思いながらルーファスの髪を弄りながら少し諦めてなすがままにされる。
番同士になった時点で安心するというものでもなく、何故か番同士になった時から独占欲の様な物が激しくなる様で同時にこういう風に他人にちょっかいを掛けられるんじゃないかと不安にもなるらしい。

 かなり長い事吸いつかれていたような気もするけれど、首筋が熱を持って腫れぼったくなってからルーファスが少し落ち着いてきた。

「ルーファス、大丈夫?落ち着いた?」
「はぁ、すまんアカリ・・・」
「いえいえ。もう大丈夫?」
「ああ。少しクラっとくるがアカリが側にいれば平気だ」
「んー・・・なら、抱っこ・・・なんてぇええっ!!」

 冗談のつもりで手を伸ばしたら、抱き上げられていつもの定位置と言わんばかりに腕の中に納まってしまった。
流石に温泉大陸以外だと恥ずかしい物があるけど、恋の祭りなら少しくらい羽目を外しても良いんだろうか?
ぐるぐると考えているとルーファスにチュッと唇にキスをされて笑われる。

「アカリ、祭りを楽しむか」
「はい・・・」
 このイケメンめ!イケメンめーっ!!!
騒がしくなる胸の中に私も少しルーファスのフェロモンにやられたのかな?とルーファスの首元に顔を埋めつつ、元の恋祭り広場へ戻っていく。

 恋祭りというだけあって早速カップルになった若者たちがはしゃいでいるのを目にする。
あっちでもこっちでもイチャイチャしているのを見ると何て目の毒なんだろう?と、思うけれど、すれ違った親子連れに「あの人抱っこしてもらってるー」と指をさされ「片腕に2つ花飾りをしているから恋人なのよ」と言われ、傍から見たら私達もイチャついているカップルと変わらない事に気付く。

「あっ、父上ー!」
「母上ー!こっちですのー!」

 ミルアとナルアが腕に一杯花飾りを着けて手を振っているのを見てルーファスが眉間にしわを寄せる。

「あらあら、その花飾りどうしたの?」
「何でも花飾りは1度人に渡すと2度目の告白には使えないそうで、わたくし達が自分の花飾りを渡さなければカップルになりませんし、まぁ戦利品ですわね」
「1度きりの告白ってロマンチックですの。たった1度に想いを込めますのね」

 1回だけの告白の花飾りを戦利品とは・・・我が娘ながら末恐ろしい・・・っ!!
ルーファスが複雑な顔をして花飾りを奪おうとしているけれど、笑顔でミルアとナルアに手をペシペシ叩かれて叩き落とされているのは見なかったことにしてあげましょう。

「ココアは買えたの?」
「はい!甘くて少しチェリーの甘酸っぱさが良いアクセントで美味しかったのですわ!」
「美味しかったのですわ!マシュマロがとろとろに溶けて甘さましましでしたの!」
 目的が果たせて満足そうなミルアとナルアは嬉しそうに尻尾を左右に振ってルーファスの左右に分れてくっついて歩く。
ルーファスもその様子に少しホッとしたような顔をしている。

「だから、花より団子って言ったのに」
「オレにとっては両手に花に、極上の花がこんなに近くに居るからな」
「~っ、ルーファスのイケメンッ!」
「それは悪口なのか褒められてるのか分らんな」
 ククッと喉を鳴らして笑いながらミルアとナルアに「あそこの屋台に行くのです!」と連れて行かれてハートの形のプレッツェルに似たお菓子を食べながら歩いていると、何やら人だかりが出来ている場所があり、避けて通るのかと思えばルーファスがズンズン騒ぎの場所へ足を進めていくので何事かと思えば、道の中心に氷漬けの男が3人居た。
そしてその前でうちの三つ子が泣いているのをあやしているグリムレインの姿があった。

「グリムレイン!何があった?!」
「おお、婿に嫁良い所に来た。チビッ子達が泣き止まんのだ」
 少し困った顔でグリムレインが三人を私達の前に押しやると、三人がぴゃああんと泣きながらしがみ付いてきたのでルーファスに下ろしてもらって、三人を抱きしめて泣き止ませていると祭りの警備がやってきて事情聴取に一旦、ギルド支部へ連れて行かれることになった。

「氷漬けにした者達は人攫いだ。我は悪くないぞ」
 
 警備の人間を見下ろしてグリムレインがムッとしながら答えると、警備の人に身分証を出す様に言われ益々グリムレインの機嫌が悪くなる。

「我に身分など必要はない。我は我なのだからな」
「調書を書かねばいけないのです。貴方の身分や出身地などが必要になります」
「我は氷竜グリムレイン、出身はドラゴンの谷だ。ほら、これでよかろう?」
「ふざけてないでちゃんと答えてくださいね」
 
 本人真面目に答えていますよー・・・と言う前に調書を作っている机がピシピシと凍り付き始める。

「グリムレイン、落ち着いて。ほらドラゴンの姿に戻れば話は直ぐに通じますから」
「ムッ、嫁が言うなら、ほれどうだ?」
 グリムレインがドラゴンの姿になり2メートル程の大きさになるとギルド内がザワつくが調書を作っている警備の人は微動だにしない。
さすが警備の人だけあって動じないものなのだなぁと、感心しているとグリムレインとルーファスが「目を開けたまま気絶とは器用な奴だ」と呆れた声を出した。

 再び事情聴取が始まり、ルーファスが代わりに身分提供をしてサクサクと話が進んでいく。
流石、温泉大陸のトリニア家当主の身分証は伊達では無いという感じで、少しいいお部屋に通されて事情聴取になった。

「うちのチビッ子をあやつらが後ろから連れ去ろうとしたのだ。流石に3人を1人ずつ捕まえるのは面倒だった。だから手っ取り早く凍らせた。それだけだ」
「誘拐じゃないですか?!」
「だから初めから人攫いだと言っておる。嫁は我の話を聞いていなかったのか?」
「いえ、グリムレインを攫おうとしたのかと・・・なんて勇気のある人攫いだと思ってました」
「・・・嫁は我を何だと思っておるんだ・・・」
「だって、ドラゴンって貴重種ですし・・・ね?」

 ふーっと、隣りでルーファスも深く息を吐いて拳を握る手に力が入っているのが判る。そっと拳の上に手を乗せるとギュッと握り返され、その手が少し震えている。

 犯人側の事情聴取も終わり、黒狼族で金目は温泉大陸のトリニア一族に違いないとアタリを付けての誘拐だったらしい。突発的な物で偶然だったらしいが、もし誘拐が成功して居たらと思うと心臓が凍りそうになる。
まだ小さいから黒狼族とは判別が付き辛いけれど、狼族だと判る人が見れば黒狼で金目は温泉大陸のトリニア一族だとすぐにバレてしまうのは考えれば当然の事だ。

 犯人たちは地元のごろつきで祭りで酒に酔って気が大きくなっての犯行だったらしいが、そんな酒に酔って誘拐しようと考える思考が怖い。
未遂という事で相手は酒に酔っていた事もあり、酔いが冷めてもそれ程大袈裟な事では無いと思っているらしく、反省の色が余りないらしい。

 旅行計画はまだあったものの、誘拐事件が起きてしまった事で残念ながら中止となり、ルーファスが数日忙しそうにギルドにいったり来たりしていた。
その間、宿屋で子供達とグリムレインと一緒に過ごして、夕飯は街の有名なレストランに行ったりして楽しいと言えば楽しい数日ではあったかもしれない。


 ルーファスがギルド本部に掛け合い、犯人3人は脱獄不可能の監獄島へ収容する事が決まった。
刑期は15年。未遂とはいえ3人の子供の誘拐なので1人5年分ずつ換算しての刑になった。
これに関してはルーファスの圧力がかなりかかっていると言って良い。普通の誘拐未遂でも15年は有り得ない上に、監獄島はかなり厳しい収容所で凶悪犯罪者が多い場所でもある。
ただの街のごろつきには厳しい場所ではあるだろうけれど、トリニア一族に手を出したという見せしめでもある為にこうなった。


「さーて、温泉大陸に帰るかの」
 グリムレインの背中に乗り、温泉大陸へ帰る事になった。
行きの元気の良さはどこへやらで子供達は毛布にくるまって皆寝てしまっている。

「帰ったら年末の『堕とし札』に忙しくなるな」
「そんな時期なんですね。今年はリューちゃんとキリンちゃんにしてもらう?」
「おそらくオレ達が戻った瞬間、リューは蜜籠りに入るぞ?」
「ですよねー。私達はまだまだ頑張らなきゃね」
 お互いに顔を見合わせて苦笑いで空の景色を眺める。

「あ、あああああ!!!!」
「どうした?!」
「カメラ・・・カメラで写真撮るの忘れてたぁ・・・」
「あ・・・そういえばそうだな」
 折角カメラという素敵アイテムがあったというのに存在を忘れていました。
携帯は家に置いてきているけど、カメラはカバンに入れていたのに、忘れるという失態・・・。

「嫁は抜けておるのう。また今度旅行する時に忘れん事だな」
「そうですね。今度またリベンジしましょう!」 
「次は嫁も婿も一緒に旅行計画に初めから参加だからの」
「わかった。次行く時はそうしよう」
「私はまた冬リンゴ狩りしたいです!」
「次はエルシオンにも行ける様に時期を遅らせて予定せなばの」
「オレは有名な宿を少し泊まり歩いてみたいものだな」

 次の旅行の計画を話しながら温泉大陸へ私達は帰っていく。
とりあえず、次の旅行には絶対カメラの存在を忘れない様にしたいと思いつつ空からの景色を一応カメラに収めて寝ている子供達も撮って記念には残しておいた。
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