黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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17章

氷竜と恋の祭り

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 パァーンと音が響くと同じ様な音が続き、祭りの開催の合図がなる。
街の中には紙吹雪と花弁が舞い、音楽と同時に人々の歓声が上がって若い男女は手を取り合って花飾りを腕に付けて踊り始める。

 冬の恋の祭り『ラビーナフェースト』の開幕である。
雪に閉ざされる前に永遠のパートナーを探して一緒に冬を越す為の祭り。
両腕に花飾りを着け好きな人に1つ渡し、パートナーになれたのならば、花飾りを交換して片腕に二つの花飾りを着ける。

 この北の街サーシュトンの恋祭りにミルアとナルアが「このお祭り期間限定で出るココアが飲みたいのです!」と旅行にねじ込んだ物で、サーシュトンに付いた時に恋祭りだと知った時のルーファスの顔は少し表現しにくい物だった。

「花飾りはちゃんと2つしたな?」
 ルーファスがミルアとナルアに色の違う花飾りを片腕に2つずつさせて『パートナー在り』とさせて、誰かに花飾りを手渡されても『パートナーが居ます』と断れとしつこく言い聞かせている。

「わかってますの。わたくし達はハートのマシュマロとチェリーチップの入ったココアが飲みたいのです」
「早くしないと無くなってしまいますの!」

 ミルアとナルアはしつこいルーファスにうんざりした顔でサーシュトンの祭り用の衣装に着替えて宿を飛び出す。
ドイツのビールガーデンの衣装をスカート丈を長くした感じに似ている。この衣装で既にルーファスはギリギリしているが、女性陣の「可愛い衣装!着たい!」の声に逆らえなかったのである。
 一応、人が多いので迷子になったら宿に戻るなり腕輪を使って連絡する様には言っているが、若い娘の心配は父親としては絶えないのである。

「まぁまぁ、ルーファス。花より団子みたいな感じでしたから大丈夫ですよ」
「・・・グリムレイン、見張りを」
「婿は心配症だの。まぁ我もココアが飲みたいから行くかの」
「ティルもー」
「エルもー」
「ルーもぉぉ」
 ヒシッと三つ子にしがみ付かれてグリムレインが3人を肩に抱き上げて宿を出て行く。

「さて、オレ達も早く行かねばな」
「ええ。早くリューちゃんに連絡してお仕事終わらせちゃいましょう?」
 チュッとリップ音を立てて頬にキスをしてルーファスの横に朱里がチョコンと座る。
朱里にお返しに頬にキスをしてから腕輪に手を添えて魔力を通してリュエールに連絡を取る。

「リュエール、状況はどうなっている?」
『うん、ごめんね旅行中に。まぁ何とか収拾はついてきたよ』
「何がどうして営業が滞る状態になったんだ?」

 事の起こりはほんの30分前くらいだっただろうか?
恋祭りの前に衣装を用意していた時、ルーファスに「それは駄目だ。こっちのもう少し肌の見えない方だ」と衣装屋で言われて「こっちの方が可愛いのに」と、言ったら更衣室で指で服の胸元を下にさげられて簡単に胸がポロリとしてしまい、「人混みでぶつかっただけで胸を晒す事になる」と脅されていた時だった。
 
 ルーファスの腕輪が振動し、【刻狼亭】の総指揮をしている狐獣人のシュテンから『営業が滞っています』と何とも頭の痛い報告が届いた。

 リュエールの説明によると、貴族の護衛に腕利きの冒険者が一緒に温泉大陸へ来たらしいのだが、どうやら温泉大陸への入国審査の時はまだその冒険者達に不審な点は無かったらしい。
しかし、温泉大陸へ来る数日前に冒険者ギルドから目を付けられるような事をしでかしていたらしい。
人手不足から入国審査が甘くなっていた為に冒険者達が温泉大陸へ入ってしまい、それに気づいた小鬼が騒いだところ冒険者が隠し持っていたナイフで切り付けられて深手を負い、騒ぎを聞きつけてテンが駆け付けてからが修羅場と化したらしい。
テンを取り押さえるのにただでさえ人手不足だった従業員は駆り出され、シュトラールを自宅から引きずり出して小鬼を治療させるまでの十数分は大変だったらしい。
 ちなみにシュトラールは蜜籠りを理由に中々出てこなかった為にリュエールが「去勢するよ?」と脅しつけてようやく出て来たらしいが、そこまでは話さなくてもいいんだよ?と、両親は思ったりする。

 テンに必死過ぎて冒険者のうち3人は捕縛したものの、2人を取り逃がしてしまったらしい。
ちなみにテンは小鬼の治療が終わっても小鬼から離れないので仕事にならないらしく、事務が少し滞り始めているらしい。

 そして取り逃がした2人の冒険者の捜索に人手不足の従業員がまた駆り出されたらしいのだが、凄腕冒険者というだけはあってなかなかに手強かったらしいが、「ただでさえ忙しいのに、この野郎余計な手間かけさせやがって」とストレスと鬱憤の溜まった従業員に過剰攻撃をくらって温泉街を引きずりまわされながら捕縛されたらしい。

 冒険者ギルドの職員に引き渡したして一件落着・・・と、行きたかったが、貴族が「護衛が居なくなるから従業員を貸し出せ」と言ってきたのである。

「それは無理です。こちらは護衛の人間ではありません」とハッキリ言ってあるのだが、戦闘狂の巣窟が何言ってんだ?という感じのニュアンスで貴族に言われて、少しブチ切れながら「冒険者ギルドにご依頼を」という話になったら、「お前の所の従業員が護衛を解雇した様なものなんだから護衛を用意するのはそっちの仕事だ」と言われて・・・。

『まぁ、そんな感じで貴族とモメちゃってね。あはは』
「・・・笑いごとで済ませるな。まったく、仕方がないな。で、結局手配はしてやったのか?」
『イルとダリドアさんとエスタークさんが引き受けてくれたよ。まぁ、イルを借りるって言ったらリリにど突かれたけどね』
「依頼料はどうした?」
『よくよく聞いたら貴族のお客さん護衛料を半額しか払ってなかったらしくて、無事に家に着いたら残り半分を払う事にしてたって言うから、その半額分を貰う事にしたよ。まぁ冒険者の人達は全額早く支払って欲しかったらしいけど、融通が利かない貴族だったから、お金が欲しかった為に違法な密輸をしてギルドに目を付けられたみたい。ギルド拠点を直ぐに手に入れないと他の冒険者に取られるとかで焦ってたみたい』

 ギルド拠点ホームという物は固定パーティを組む人々が『ギルド』というチームを作る感じの物で、共同生活場の様な物である。
 ちなみに【刻狼亭】も従業員の中で冒険者登録している者は【刻狼亭】と冒険者カードにギルド名が入っている。【刻狼亭】のギルド拠点は従業員宿舎が登録されている。
ギルド拠点を他のギルドに制圧されるとギルド経験値がごっそり無くなるらしい。
 今の所、宿舎を襲うようなバカは火を放ったハガネくらいなので身内という事もあってギルドポイントは減ったことは無いらしい。

「ギルドに捕まればギルド拠点も何も無いのにバカな奴らだな」
『だよね。まぁ、そんな感じでそこら辺は何とかなったよ。ただ、従業員がテンとやり合って疲弊したのと、冒険者捕まえるのに疲弊したのもあって、疲れ切ってて営業が滞ってる感じ』
「仕方がないな。テンにはオレから仕事をする様に連絡をしておく。他の従業員には製薬部隊から疲労回復ポーションを配らせておけ。オレが帰り次第、特別手当を出すと言って少しやる気を出させるしか無いな」
『了解。事務の方は本当にテンが動かないと大変だからシューにも手伝わせてるけど隙さえあれば逃げるからシューにもガツンと言っておいて、僕じゃ言う事聞かないから』
「ああ。わかった」

 リュエールとの会話を終えて、ルーファスが残る頭痛の種を解消すべく、テンの腕輪に連絡を入れると暗い声がボソボソと返って来る。
これは重症だなと、苦笑いを浮かべる。

「そういえばそろそろ小鬼達の社員旅行の季節では無かったか?」
『・・・そうですね』
「ならば小鬼の働いている場所を自慢できるようにしてやらねばな」
『・・・ハァ・・・つまりさっさと働けって事ですね』
「そういう事だ。小鬼もいつまでもショゲたテンを見ているとショゲるだろ」
『はい。わかりました・・・』
「小鬼の土産に冬リンゴのジュースと樽酒のチョコを買ってあるぞ。小鬼に今回はよくやったと伝えてくれ」
『ええ。頑張ったんです、無茶して・・・』
「帰ったら小鬼に褒美を出そう」
『はい!僕は金貨が良いです!!…『こら!小鬼寝てなさい!』僕平気です!!』
「ククッ、小鬼も元気そうで何よりだ。土産を楽しみにしておけ」
『はーい!僕は甘い物が好きです!!『小鬼・・・まったく』テンさん心配し過ぎです』

 何とか浮上し始めたテンに事務仕事を頼み、次はシュトラールに連絡を入れる。
なかなか出ようとしないシュトラールに朱里がフィリアの腕輪に掛ける。

「フィリアちゃん、シューちゃんそこに居るかな?」
『あ・・・はいっ、いま、す・・・・んっ』
 腕輪越しに婀娜っぽい声で返事をされて、朱里も察して眉間を指で押さえる。
「シューちゃんお仕事サボったらシューちゃんの子供の頃の失敗談をフィリアちゃんに写真付きでバラします。お仕事おサボりしない事!わかりましたね?!」
『えっ!!母上酷いっ!!』
『お義母様、それ是非今度女子会で!!』
 ブツンと腕輪を切ると、朱里が顔を赤くして「まったくもう!」と眉根をひそめてルーファスのお腹に顔を埋める。

「初めての蜜籠りで抑えが利かないんだろう」
「ルーファスは初めての蜜籠りはお仕事おサボりなんて・・・って、ギルさんに押し付けてギルさんのお屋敷で蜜籠りしましたね・・・そういえば・・・」
 朱里が遠い目をすると、ルーファスが少しばかり目線を逸らす。
盛大なおサボりを両親がしている時点で息子に偉そうには言えない物もあるが、一応代理人は立ててのサボりなのでそこは考慮してもらいたい。
それにその初めての蜜籠りでリュエールとシュトラールが出来たので、サボってまで蜜籠りをしようというシュトラールは意外と早く両親に孫の顔を見せるかもしれないと、少し頭を過る。

「ルーファス、そろそろお祭り行きましょうか・・・」
「・・・そうだな」

 2人は考えるのを放棄して片腕に花飾りを二つ付けて手を繋いで部屋を出る。
宿の外は花飾りをした人々と、冬なのに色とりどりの花が飾りつけてある街中に、人々の声と楽器の音が祭りを盛り上げていた。
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