黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
540 / 960
17章

氷竜と遊園地6

しおりを挟む
 鏡の階段の部屋から次に現れた扉を開くと、そこは元の遊園地の様に見えたが、よくよく見ると全ての遊具に豚の絵があり、メリーゴーラウンドのペガサスも豚に羽が生えている物に変わっていた。

『ご来場の皆様~本遊園地は可愛い可愛い『僕』の為の遊園地でございまぁす!』

 豚の声が笑い混じりに園内へ響き渡り、それと同時にパレードが始まる。
大きな豚の乗り物の前で小さな豚たちが楽器を鳴らしながら行進を始め、大きな豚の乗り物の上にある玉座には『ひがみ』が赤いマントを羽織り王冠を頭に乗せて偉そうに座っていた。

「あの豚捕まえてとっととこんな場所出よう!」
「メノンが遊園地に行こうなんて言わなきゃこうはならなかったけどね」
「うるさいなークリスだって『絵本の続きが出来ると良いね』って言ってただろ?」
「まさかこんなにイラつく豚に振り回されるとは思わなかったんだよ」
 メノンとクリュスターシが言い合いながらジリジリとパレードに近付いていく。
朱里とルーファスも近付いてはいるが、メノン達とは逆方向から追い込もうとしてパレードを大回りで動いている為に速さが要求され、朱里はルーファスにおんぶしてもらっている状態で移動している。

「ふぇぇ~恥ずかしいよぅ」
「あと少し我慢していろ」
「はい・・・ううっ、この年齢でおんぶはキツいです」
「ククッ、気にするな。アカリは気にし過ぎだ」
 いつもの様に抱き上げての移動は豚を捕まえる時に朱里が邪魔になるかもしれないからとおんぶになったのだが、初めから自分が邪魔なのでは?と、口にも出したが残していくと豚に何かされかねないからと言われこの状態である。

『プーッ、くすくす。『僕』を捕まえる気かな?可愛いワンコロ達め』

 両手で口を押えながら豚は笑い、楽器を鳴らす豚たちが一斉に音を高くして奏でると玉座の上で『ひがみ』はお尻を振りながら踊る。

『見つけて探して追い駆けて!可愛い僕を!そしてギュッとハグしておくれぇ~』

 パンパカパーンとラッパが鳴り響きリボンと紙吹雪がバッと『ひがみ』の周りに飛び交うと『ひがみ』の姿は玉座から消えている。

「チッあいつ何所に行った!」
「素早い豚だな!」
 メノンとクリュスターシが周りを見渡し、ルーファスと朱里も『ひがみ』の姿を探して辺りを見まわす。
カサカサカツカツ音はするが、姿が見えない。そして、遊具が音を鳴らして動き始める。

『楽しい楽しい遊園地!遊んで遊んで遊園地!捕まえて僕を!』

 明らかに挑発する声が響き、クリュスターシが「あそこだ!」と声を上げると観覧車によじ登る『ひがみ』の姿があった。気付かれた事に気付いた『ひがみ』が観覧車の中に入り込むと両頬を両手で押して『プヒィー』と声を出して笑う。

『捕まえられるものなら、捕まえに来てぇ~プーッ、ぷひゃひゃひゃ』

 お尻をぺんぺんと叩いて観覧車の中から『ひがみ』は余裕の態度で挑発を繰り返す。
メノンは一番下の観覧車に乗り込んでいるが、クリュスターシが「それ意味ないだろ?!」とメノンを止める。
観覧車に乗り込んだところで『ひがみ』は結局のところ下まで降りて来るのは確実なので降りてきたところを捕まえればいいだけの話なのである。

「早く降りて来い!捕まえてギッタンギッタンにしてやる!」
「メノンは乱暴なんだから」
 可愛い顔の少女メノンは絵本では元気ハツラツの少女として書かれているが、本物は中々にパワフルである。
メノンの相棒クリュスターシは絵本ではヒーローとして書かれているが、本物はメノンのしりぬぐい役の様な感じがする。

「そういえば、ルーファスが呪いに掛けられていたなら私も呪いに掛けられてるのかな?」
「どこかおかしい所はあるか?」
「うーん・・・特には」
 ルーファスにおんぶから地面に下ろしてもらいくるくると回りながら自分を見下ろして体におかしな所がないか調べる物の特に変なところとは無い。

「ルーファス・・・で良いんだっけ?」
「ああ。お前はクリュスターシで良いんだろう?」
「そそ。僕はクリュスターシ。クリスで良いよ」
 クリュスターシがルーファスに手を差し出すとルーファスも軽く握り返す。
メノンと朱里も自己紹介をしたが、メノンに両手を握られブンブンと勢い良く振られた。
ルーファスがそれを見て朱里を自分の後ろに隠して服を着る様に言ったのでセーターとコートを着込んで大人しくしている。

「ルーファスはケチくさいなぁ」
「黙れクソガキ。人の番に余計な真似をするな」
「呪いさえかかってなきゃモテモテなんだけどなぁ」
「ハッ、そんな事だから呪いに掛かるんじゃないのか?」
 メノンとルーファスはそんなやり取りをして朱里は首を傾げる。
仲が良いのか打ち解けているのか、ルーファスの態度は砕けた物である。

「アカリ、体力は戻ってきたかい?」
「うん。少し休んだから平気だよ。クリュスターシ達は大丈夫?」
「クリスで良いってば」
「それがね、クリュスターシって言いたいのにクリュスターシとしか言えないの」
「アカリ、もしかしてそれ・・・呪いじゃない?」
 朱里が口元を押さえると自分のポーチの中から1本ポーションを取り出して瓶を開けると口を付ける。
今回はリュエールに【刻狼亭】の鍵を渡しているので特殊ポーションのみ取り出して朱里が3本残りをルーファスが持ち歩いている。

「クリス・・・わっ、本当に呪いだった!」
「え?!アカリ、今のポーション何?!」
「えと、呪いとか色々解く特製ポーションです」
「えええ?!僕達の旅が無駄に終わったりしてる?もしかして僕の呪いを解いたのはソレ?」
「えーと、まぁそんな感じです」
 クリュスターシが朱里の手を握って「うわぁー!ありがとう!」と手をブンブンと振ると朱里の胸がふるんふるん揺れて気付いたクリュスターシが顔を赤くして手を離す。

「わっ、アカリ、ごめん!」
「いえいえ?」
「あのさ、それメノンにも1本分けてあげてくれないかな?」
「いいですよ。どうぞ」
 朱里がポーチから1本ポーションを取り出してクリュスターシに渡すと嬉しそうに受け取ってメノンにポーションを見せる。

「メノン!コレがあれば呪いが解けるよ!」
「へぇー本当に?」
「アカリに貰ったんだ!」
 メノンが笑顔でポーションを受け取り、朱里の方へ歩いてくる。
朱里に笑顔を向けるとメノンの口元が歪んでいく。

『駄目じゃないか。例外イレギュラーは駄目だよ駄目だーめ』

 メノンの口から豚の声が出て、メノンの口が大きく開くとパクンと可愛い音を立てて朱里を飲み込む。
クリュスターシとルーファスが唖然として何が起きたかを理解した時にはメノンの姿は大きな豚の姿に変わっていた。

『やぁ、本物の『僕』だよ!』

 ピョンと小さくジャンプしてくるくると足で回転しながら豚は『プヒーッ』と笑う。
ルーファスが地面を蹴って飛び掛かるのと同時にクリュスターシも豚に飛び掛かるが、豚はポーンとボールの様にポンポンと弾んで移動していく。

「アカリを何処にやった?!」
「アカリとメノンを返せ!!」

『プーッ、どこだろう?どこかな?忘れちゃったよ!プヒャヒャ』

 2人が豚を追い駆けて行くと豚は大きな豚がフォークとナイフを持ったレストランに入っていく。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。