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17章
氷竜と遊園地3
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一面鏡だらけで上も下も左も右も鏡、鏡、鏡。
出入口は一つしかなかったはずなのに、一体全体、外がいつの間に鏡の部屋になったのか?
「もしかして、部屋自体が回転して鏡の部屋に連れてこられたのかな?」
「そうかもしれん。もう一度小屋に戻るか」
小屋のドアを開けるとそこも一面鏡の世界が広がっていた。
『鏡の国のメノン』が朱里の頭の中を過り、ミルアとナルアが言っていた移動遊園地の鏡のアトラクションはココの事だろうかと頭を捻る。
「どうしましょうルーファス・・・」
「いざとなれば鏡を割って出るしかないだろうな」
『プーッ、あははは。『僕』を探してごらん探せるものなら』
豚の笑い声が響き、小屋のドアがスーッと消えていく。残った物は鏡に赤いペンキで描かれた3匹の嫌味ったらしい豚の似顔絵だけだった。
「僕・・・僕らじゃなくて僕?」
「さっき『僕』の前に現れるなと言っていたのは『あざけり』だったか?アイツを探せという事か?」
「でも3匹とも同じような顔だからどれでも一緒に見えちゃうね」
「ったく、妙なアトラクションだ」
「アトラクションなのかな?」
「まぁ、アトラクションにしては大掛かりな気もするが・・・もしあるとすれば幻惑魔法くらいか」
異世界の遊園地だから魔法仕掛けなのは分かってはいるけど、せめて小屋の前に説明なり魔法を掛けるという注意書きをすべきではないだろうか?と、朱里は少し思う。
ルーファスが獣化を解けないのも幻惑に掛かっているからだろうか?
チャッチャッと爪の音を立てながらルーファスが鏡の中を歩いて行く。
「ふむ。しかし何所に道があるかも分り辛いな」
「ねぇ、ルーファスこの鏡、最初の小屋が消えた鏡じゃない?」
しばらく歩くと赤いペンキで描かれた3匹の豚の絵の鏡が目の前に現れる。
「結構歩いたつもりで振り出しに戻されたか?」
「ちょっと待ってね・・・よし」
ポーチの中から口紅を出して赤い豚の絵の下に『あ』と文字を入れる。
「これで本当にココがさっきと同じ場所か目印を付けたからもう1回歩こう」
またしばらく歩くと豚の絵が出て来る。
「これは・・・同じだが、逆向きだな」
「ほんとだ。私が書いた『あ』が鏡文字・・・って事はこれは鏡の裏側?」
『プーッ、くすくすくす。裏は表で表は裏!迷え迷え迷子の迷子の子犬ちゃぁーん』
また豚の嫌味ったらしい笑い声が響き渡り、カツカツカツカツと何か蹄の様な足音が遠ざかっていく。
「こっちだな」
「え?ルーファス!?」
蹄の遠ざかる音を追い駆けてルーファスが走り朱里がその後を追うが手に持っていたアップルティーが揺れて零れたのを気にしている間に目の前からルーファスが消えていた。
ただ、鏡の中には走っているルーファスが居る。
追う事に夢中になってしまっているのかな?と少し肩を落としながら、ルーファスを追い駆ける。
「アカリ?アカリ何処だ?!」
「私は後ろー!」
ようやく気付いたのかと立ち止まっているルーファスに手を伸ばす。
ペシペシと軽く叩いて「置いて行かないで。迷子になるじゃないですか」と言いながら違和感に気付く。
真っ白い犬・・・狼?あれ?と、思った時には白い犬に押し倒されて唸られていた。
「ガルルルル」
「ひゃぁっ!!」
バシャッ・・・カコン・・・コロコロ。
朱里の手に持っていたアップルティーが白い犬に掛かり、床に音を立てて転がっていく。
ルーファスが獣化を解くのと同じ様に目の前の白い犬の形が水色の目をした白い髪の青年に変わっていった。
「お前もあの豚の仲間か?!」
「はぅっ!違います!」
マジマジと朱里を見た後、青年は朱里の頭をガサガサと触り、手をピタッと止めて自分の手をマジマジと見ながら目を丸くする。
「僕の手だ・・・」
「・・・?」
朱里の上から退くと青年は鏡を見ながら自分の姿を見ている。
背中は朱里の零したアップルティーが染みついて白いコートを茶色くしているが、青年は気にした様子もなく自分の姿を見るのに夢中になっている。
「ところでお前は人族の様だけど何なんだ?」
「えと、連れとはぐれました・・・多分この先に居るはずです」
「ふぅーん。僕も連れとはぐれた。似た者同士か」
青年が振り返り「一緒に探しに行くか?」と朱里に手を差し伸べる。
青年の手を掴んで起き上がり鏡を見るが、ルーファスの姿が鏡から消えている。
少し離れてしまったのだろうか?と首を傾げて早く探しに行かなきゃと眉を下げる。
「僕は『クリュスターシ』。長いからクリスで良いよ」
「えっ?!絵本のクリュスターシ?」
青年は目を丸くした後で少し目を細めて笑う。
「そっ。僕はメノンの相棒クリュスターシ。今回はメノンも僕もドジって豚たちに閉じ込められちゃったんだけどね」
「あらら、噂の『鏡の国のメノン』はココで合ってるんだ」
「『編集長』だな。僕らがドジったのを言い触れ回ってるのは・・・まったく」
クリュスターシは少しバツの悪そうな顔をした後で朱里の手を握って歩き出す。
「それにしても、なんか甘い香りがしない?」
鼻をヒクつかせるクリュスターシに朱里もバツの悪そうな顔で答える。
「アップルティーが背中に掛かってるからだと思います・・・」
出入口は一つしかなかったはずなのに、一体全体、外がいつの間に鏡の部屋になったのか?
「もしかして、部屋自体が回転して鏡の部屋に連れてこられたのかな?」
「そうかもしれん。もう一度小屋に戻るか」
小屋のドアを開けるとそこも一面鏡の世界が広がっていた。
『鏡の国のメノン』が朱里の頭の中を過り、ミルアとナルアが言っていた移動遊園地の鏡のアトラクションはココの事だろうかと頭を捻る。
「どうしましょうルーファス・・・」
「いざとなれば鏡を割って出るしかないだろうな」
『プーッ、あははは。『僕』を探してごらん探せるものなら』
豚の笑い声が響き、小屋のドアがスーッと消えていく。残った物は鏡に赤いペンキで描かれた3匹の嫌味ったらしい豚の似顔絵だけだった。
「僕・・・僕らじゃなくて僕?」
「さっき『僕』の前に現れるなと言っていたのは『あざけり』だったか?アイツを探せという事か?」
「でも3匹とも同じような顔だからどれでも一緒に見えちゃうね」
「ったく、妙なアトラクションだ」
「アトラクションなのかな?」
「まぁ、アトラクションにしては大掛かりな気もするが・・・もしあるとすれば幻惑魔法くらいか」
異世界の遊園地だから魔法仕掛けなのは分かってはいるけど、せめて小屋の前に説明なり魔法を掛けるという注意書きをすべきではないだろうか?と、朱里は少し思う。
ルーファスが獣化を解けないのも幻惑に掛かっているからだろうか?
チャッチャッと爪の音を立てながらルーファスが鏡の中を歩いて行く。
「ふむ。しかし何所に道があるかも分り辛いな」
「ねぇ、ルーファスこの鏡、最初の小屋が消えた鏡じゃない?」
しばらく歩くと赤いペンキで描かれた3匹の豚の絵の鏡が目の前に現れる。
「結構歩いたつもりで振り出しに戻されたか?」
「ちょっと待ってね・・・よし」
ポーチの中から口紅を出して赤い豚の絵の下に『あ』と文字を入れる。
「これで本当にココがさっきと同じ場所か目印を付けたからもう1回歩こう」
またしばらく歩くと豚の絵が出て来る。
「これは・・・同じだが、逆向きだな」
「ほんとだ。私が書いた『あ』が鏡文字・・・って事はこれは鏡の裏側?」
『プーッ、くすくすくす。裏は表で表は裏!迷え迷え迷子の迷子の子犬ちゃぁーん』
また豚の嫌味ったらしい笑い声が響き渡り、カツカツカツカツと何か蹄の様な足音が遠ざかっていく。
「こっちだな」
「え?ルーファス!?」
蹄の遠ざかる音を追い駆けてルーファスが走り朱里がその後を追うが手に持っていたアップルティーが揺れて零れたのを気にしている間に目の前からルーファスが消えていた。
ただ、鏡の中には走っているルーファスが居る。
追う事に夢中になってしまっているのかな?と少し肩を落としながら、ルーファスを追い駆ける。
「アカリ?アカリ何処だ?!」
「私は後ろー!」
ようやく気付いたのかと立ち止まっているルーファスに手を伸ばす。
ペシペシと軽く叩いて「置いて行かないで。迷子になるじゃないですか」と言いながら違和感に気付く。
真っ白い犬・・・狼?あれ?と、思った時には白い犬に押し倒されて唸られていた。
「ガルルルル」
「ひゃぁっ!!」
バシャッ・・・カコン・・・コロコロ。
朱里の手に持っていたアップルティーが白い犬に掛かり、床に音を立てて転がっていく。
ルーファスが獣化を解くのと同じ様に目の前の白い犬の形が水色の目をした白い髪の青年に変わっていった。
「お前もあの豚の仲間か?!」
「はぅっ!違います!」
マジマジと朱里を見た後、青年は朱里の頭をガサガサと触り、手をピタッと止めて自分の手をマジマジと見ながら目を丸くする。
「僕の手だ・・・」
「・・・?」
朱里の上から退くと青年は鏡を見ながら自分の姿を見ている。
背中は朱里の零したアップルティーが染みついて白いコートを茶色くしているが、青年は気にした様子もなく自分の姿を見るのに夢中になっている。
「ところでお前は人族の様だけど何なんだ?」
「えと、連れとはぐれました・・・多分この先に居るはずです」
「ふぅーん。僕も連れとはぐれた。似た者同士か」
青年が振り返り「一緒に探しに行くか?」と朱里に手を差し伸べる。
青年の手を掴んで起き上がり鏡を見るが、ルーファスの姿が鏡から消えている。
少し離れてしまったのだろうか?と首を傾げて早く探しに行かなきゃと眉を下げる。
「僕は『クリュスターシ』。長いからクリスで良いよ」
「えっ?!絵本のクリュスターシ?」
青年は目を丸くした後で少し目を細めて笑う。
「そっ。僕はメノンの相棒クリュスターシ。今回はメノンも僕もドジって豚たちに閉じ込められちゃったんだけどね」
「あらら、噂の『鏡の国のメノン』はココで合ってるんだ」
「『編集長』だな。僕らがドジったのを言い触れ回ってるのは・・・まったく」
クリュスターシは少しバツの悪そうな顔をした後で朱里の手を握って歩き出す。
「それにしても、なんか甘い香りがしない?」
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