黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
537 / 960
17章

氷竜と遊園地3

しおりを挟む
 一面鏡だらけで上も下も左も右も鏡、鏡、鏡。
出入口は一つしかなかったはずなのに、一体全体、外がいつの間に鏡の部屋になったのか?

「もしかして、部屋自体が回転して鏡の部屋に連れてこられたのかな?」
「そうかもしれん。もう一度小屋に戻るか」
 小屋のドアを開けるとそこも一面鏡の世界が広がっていた。
『鏡の国のメノン』が朱里の頭の中を過り、ミルアとナルアが言っていた移動遊園地の鏡のアトラクションはココの事だろうかと頭を捻る。

「どうしましょうルーファス・・・」
「いざとなれば鏡を割って出るしかないだろうな」

『プーッ、あははは。『僕』を探してごらん探せるものなら』

 豚の笑い声が響き、小屋のドアがスーッと消えていく。残った物は鏡に赤いペンキで描かれた3匹の嫌味ったらしい豚の似顔絵だけだった。

「僕・・・僕らじゃなくて僕?」
「さっき『僕』の前に現れるなと言っていたのは『あざけり』だったか?アイツを探せという事か?」
「でも3匹とも同じような顔だからどれでも一緒に見えちゃうね」
「ったく、妙なアトラクションだ」
「アトラクションなのかな?」
「まぁ、アトラクションにしては大掛かりな気もするが・・・もしあるとすれば幻惑魔法くらいか」
 異世界の遊園地だから魔法仕掛けなのは分かってはいるけど、せめて小屋の前に説明なり魔法を掛けるという注意書きをすべきではないだろうか?と、朱里は少し思う。
ルーファスが獣化を解けないのも幻惑に掛かっているからだろうか?
チャッチャッと爪の音を立てながらルーファスが鏡の中を歩いて行く。

「ふむ。しかし何所に道があるかも分り辛いな」
「ねぇ、ルーファスこの鏡、最初の小屋が消えた鏡じゃない?」
 しばらく歩くと赤いペンキで描かれた3匹の豚の絵の鏡が目の前に現れる。

「結構歩いたつもりで振り出しに戻されたか?」
「ちょっと待ってね・・・よし」
 ポーチの中から口紅を出して赤い豚の絵の下に『あ』と文字を入れる。
「これで本当にココがさっきと同じ場所か目印を付けたからもう1回歩こう」
 またしばらく歩くと豚の絵が出て来る。

「これは・・・同じだが、逆向きだな」
「ほんとだ。私が書いた『あ』が鏡文字・・・って事はこれは鏡の裏側?」

『プーッ、くすくすくす。裏は表で表は裏!迷え迷え迷子の迷子の子犬ちゃぁーん』

 また豚の嫌味ったらしい笑い声が響き渡り、カツカツカツカツと何か蹄の様な足音が遠ざかっていく。

「こっちだな」
「え?ルーファス!?」
 蹄の遠ざかる音を追い駆けてルーファスが走り朱里がその後を追うが手に持っていたアップルティーが揺れて零れたのを気にしている間に目の前からルーファスが消えていた。
ただ、鏡の中には走っているルーファスが居る。
追う事に夢中になってしまっているのかな?と少し肩を落としながら、ルーファスを追い駆ける。

「アカリ?アカリ何処だ?!」
「私は後ろー!」
 ようやく気付いたのかと立ち止まっているルーファスに手を伸ばす。
ペシペシと軽く叩いて「置いて行かないで。迷子になるじゃないですか」と言いながら違和感に気付く。

 真っ白い犬・・・狼?あれ?と、思った時には白い犬に押し倒されて唸られていた。
「ガルルルル」
「ひゃぁっ!!」
 バシャッ・・・カコン・・・コロコロ。
朱里の手に持っていたアップルティーが白い犬に掛かり、床に音を立てて転がっていく。
ルーファスが獣化を解くのと同じ様に目の前の白い犬の形が水色の目をした白い髪の青年に変わっていった。

「お前もあの豚の仲間か?!」
「はぅっ!違います!」
 マジマジと朱里を見た後、青年は朱里の頭をガサガサと触り、手をピタッと止めて自分の手をマジマジと見ながら目を丸くする。

「僕の手だ・・・」
「・・・?」
 朱里の上から退くと青年は鏡を見ながら自分の姿を見ている。
背中は朱里の零したアップルティーが染みついて白いコートを茶色くしているが、青年は気にした様子もなく自分の姿を見るのに夢中になっている。

「ところでお前は人族の様だけど何なんだ?」
「えと、連れとはぐれました・・・多分この先に居るはずです」
「ふぅーん。僕も連れとはぐれた。似た者同士か」
 青年が振り返り「一緒に探しに行くか?」と朱里に手を差し伸べる。
青年の手を掴んで起き上がり鏡を見るが、ルーファスの姿が鏡から消えている。
少し離れてしまったのだろうか?と首を傾げて早く探しに行かなきゃと眉を下げる。

「僕は『クリュスターシ』。長いからクリスで良いよ」
「えっ?!絵本のクリュスターシ?」
 青年は目を丸くした後で少し目を細めて笑う。

「そっ。僕はメノンの相棒クリュスターシ。今回はメノンも僕もドジって豚たちに閉じ込められちゃったんだけどね」
「あらら、噂の『鏡の国のメノン』はココで合ってるんだ」
「『編集長』だな。僕らがドジったのを言い触れ回ってるのは・・・まったく」
 クリュスターシは少しバツの悪そうな顔をした後で朱里の手を握って歩き出す。

「それにしても、なんか甘い香りがしない?」
 鼻をヒクつかせるクリュスターシに朱里もバツの悪そうな顔で答える。

「アップルティーが背中に掛かってるからだと思います・・・」
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。